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『秋を彩る お・ち・ば・た・き 』
九 四郎jb4076

1.
 天高く 馬肥ゆる秋
 見上げた空の高さに、九 四郎(jb4076)は目を細めた。
 この空の高さは自分の背が高いからじゃないっす。全ての人に平等に高いっす。
 そんな四郎は空の高さに感動しながらも、自らの腹をさすった。
「腹いっぱいッす」
 今日の学食は焼きさんまに栗ごはんという素晴らしく秋を感じさせるメニューだった。もちろん、美味しくいただいた。
 だが…秋は食欲の秋。少し校内を歩けばどこからともなくいい匂いがして、いつの間にかぐぅ〜っとお腹が鳴る。
「秋ッすね」
「何が秋なのだ?」
 突然降ってきた声に、四郎は辺りを見回した。聞き慣れた声だ。
「イチジク〜!」
 とりゃっとなぜか木の上から飛び降りてきたフラッペ・ブルーハワイ(ja0022)。お世話になっている小隊の隊長だ。
「な、何してたッすか?」
「うん? なにって…木登り?」
「いやいや、それはわかるッすよ。自分が訊きたいのは、なんで木に登ってたかってことで…」
 四郎がそう訊ねるとフラッペは左手で帽子を押さえながら空を指差した。
「綺麗なBlue Skyだったから、もっと近くで見たかったのだ」
 感性は人それぞれ。空が高くて気持ちよく感じた四郎とその空をもっと近くで見たいというフラッペ。
 けれど、空が綺麗だと思うのは同じだ。
「あぁ、そうだ。イチジク。さっき通りかかった女の子たちが空を見て『イワシ』がどーのこーのと言ってたんだけど、何のことだろう? Japanのイワシは空を飛ぶのだ?」
 空を見てイワシ? 四郎は空を見た。青い空の片隅に、白い雲が模様のように浮かんでいる。
「あぁ、イワシ雲ッすね。鱗雲とか、羊雲とかも言うッす」
「雲? …どの辺がイワシなのだ??」
「う〜ん…秋だから…ッすかね?」
 2人で空を見上げると、なんだか雲がそれらしくイワシに見えてくる。…急激にお腹が空いた。
 その時、風が吹いた。少し寒い、木枯らしと呼ばれるような冷たい風だ。
 風に乗って、落ち葉がひらひらと四郎とフラッペの前に舞い降りた。
「…落ち葉ッすね」
「落ち葉っていったら、Japanではヤキイモじゃないのだ!?」
「ヤキイモ…ッすか?」
 落ち葉…焼き芋…秋…秋の味覚…デザートは別腹ッす!
「ちょうど腹も減ってたッすし、いっちょやるッすかね!」
「Let's do this!」
 ガシッとタッグを組んだ2人。いざ、ゆか…否! 焼かん! 焼き芋!!


2.
「イチジク、イモ買ってきて欲しいのだ! ボク、落ち葉集めてくるのだ!」
「了解ッす!」
 もとよりそのつもりで、駆け出した四郎。目指すは学校の購買である。
「…購買に売ってるんすかね?」
 そんな不安はあれど、そこは購買。なぜか生のサツマイモが売っていたりする不思議。さすがは久遠ヶ原である。
「奮発していい芋を買うッすかね。…量も多めに買ってくッすかね」
 自分の腹に入る分と、女の子の芋好きって定番ということを考慮する。
 女の子…となると、フラッペさんもきっと例外ではないはずッす。一人称が『ボク』であろうが、れっきとした『女の子』ッす!
 妙な確信を持ちながら、大量の生サツマイモを買い占めて四郎は走る。フラッペの元へ。
「買ってきたッす! 大量ゲットしたッす!」
「でかしたのだー、イチジク!」
 ぱぁぁっとキラキラした瞳を輝かせ、フラッペは両手を広げて四郎を出迎え…たと思ったが、その片方にはいつの間にか竹箒が握られていた。
「2人でやれば、もっと早く集まるのだ。さぁ、ヤキイモのためにガンバロー!」
「そうッすね! 一緒にやれば早く焼き芋できるッすね!」
 竹箒を受け取り、四郎は頷く。至極もっともな意見だ。
 だが、そこは『最速』を信条とするフラッペ・ブルーハワイ。
 アウルの力で蒼い光のボードを足に出現させ、滑るように地面の落ち葉を掻き集めながら素早く動く。
「Yeah!」
 風のように走り抜け、あっという間に集まる落ち葉たち。
 あれ? 2人で一緒にやったら早くなるんじゃ…?
「やっぱり2人でやると早いのだー!」
 にこにこ笑顔のフラッペに、四郎は「は、早いッすね…」と頷いた。
「…ここからどうすればいいのだ? 後はよくわかんないから、イチジクに任せていいのだ?」
 落ち葉の山を目の前に、フラッペは小首を傾げてそう言った。
「任せてくださいッす! 自分、全力でやらせてもらうッす!」
 四郎はその場にフラッペを残し、全速力である場所に向かう。
「イチジク―――――!?」
 フラッペの声が聞こえたが、それもこれもすべて焼き芋のため!
 だーーーっと行って、だーーーーっと戻る。
「お待たせしたッす!」
 手にはバケツに入った水と、職員室で借りてきたライター。
「たき火の許可を先生にもらってきたッす! あと、火事にならないように水の準備もオッケーッす!」
「! でかしたのだ! イチジク!」
 飛び跳ねて喜ぶフラッペと四郎。これで準備は整った!
「ヤキイモ〜♪ ヤキイモ〜♪」
 期待で目が輝くフラッペを横に、落ち葉に火をつける。
 落ち葉はほどなく燃え上がる。その火を四郎はじーっと見つめる。
「…まだいれないのだ?」
 フラッペが少しじれったそうに訊いてきたので、四郎は笑った。
「火がついているうちは入れないッすよ。まっ黒こげになっちゃうッす」
「まっ…!? そ、それはダメなのだ…」
 フラッペもじーっと火を見つめる。その顔には『まだー? 待ちきれないよー!』と書いてある。
「果報は寝て待てッすよ」
 そう言った四郎に、フラッペはぷぅっと頬を膨らませたのだった。
「フラッペさん。進級試験はありがとうございましたッす」
 こんな機会でもないと、改めてお礼など言う時もないッすね。
 そう思った四郎は、そう言葉にした。
「ん? 温泉のことなのだ? あれは楽しかったのだー。Chanceがあればまた行きたいのだ」
 試験後に行った巨大温泉のことを思い出したのか、フラッペは楽しそうに笑う。
「そうッすね。また行きたいッすね」
 四郎もつられて笑う。学園での足しい思い出が少しずつ増えていく。
 天魔との戦いの合間に訪れる学生としての時間。それは嬉しいことだ。
 そう、こんな何気ない日常でも…。


3.
 ようやくたき火は下火になり、四郎はサツマイモを灰の中に潜らせた。
「いよいよなのだ!?」
「ここからジワジワ焼いていくのでまだまだッすね。焦ると美味しい焼き芋が出来ないんすよね」
「………」
 フラッペは無言で地面に『のの字』を書きだした。申し訳ない気もしたが、生焼けを食べる訳にもいかない。
 ふと見た足元にできた影が、だいぶ長い。日が落ちるのが早くなった証拠だ。
「京都もお疲れさまッす。…取り戻せてよかったッす」
「うん。元に戻すのが大変かもしれないけど、取り戻せたことの方が嬉しいのだ」
 四郎の言葉にフラッペは少し目を細めて、そう言った。様々な犠牲があったことに心を痛めているのかもしれない。
「人は強いッす。みんな、頑張るッすよ。もちろん自分たちも頑張るッす」
「…そうだな。みんな頑張って生きているのだ」
 ふんわりと風が吹く。少し冷たい風が。
 その風に乗って、芋の焼ける匂いが漂う。
「…そろそろいいんじゃないのだ?」
 フラッペが四郎とたき火を交互に見比べる。
「まだまだッすね」
「…も、もう大丈夫なんじゃ…」
「いやぁ、もうちょっと…」
「…うっ、イチジクは厳しいのだ…」
 半泣きなフラッペに苦笑しつつ、四郎は大きめのサツマイモを1つ取り出す。
 アツアツのそれを半分に割ってみる。ふわっといい匂いがして、ほどほどに柔らかく火が通った美味しそうなヤキイモの出来上がりだ。
「完成したみたいッすね。…綺麗な黄色の甘い焼き芋の完成ッす」
「やったのだ! 食べるのだー!」
 四郎の手から早速焼き芋を受け取ったフラッペは途端に「熱っ!」と小さな悲鳴を上げた。
「熱いから気を付けるッすよ…って遅かったっすね」
「そういうことは早く言うのだ!」
「いや、焼き立てなんだからわかるかなって思ってたッすけど…」
 不満顔のフラッペに四郎は「すいませんッす」と謝った。
「でも、焼き立ての熱いうちが美味しいッすからね」
 ハンカチを取り出してフラッペに渡すと、フラッペはきょとんとした後でそれを笑顔で受け取った。
「ありがとうなのだ。洗って返すのだ」
 ハンカチを器用に使い、フラッペは焼き立ての焼き芋を頬張る。
「はふはふ…もぐもぐ…う〜…んまい!」
 感動したように大きな声をあげるフラッペに、四郎もひとつ焼き芋をほじくりだして火傷しないように慎重にパカッと2つに割って食べる。
「…美味しいッすね〜! 奮発していい芋を買ってきたかいがあるッす!」
 砂糖の甘さではない優しい美味しさが口の中に広がる。まさに秋の旬が口の中に広がるワンダーランド!
「秋っていいッすね!」
「美味しいのだ〜! 幸せなのだ〜!」
 ほんのり温かいたき火の傍で、四郎とフラッペは焼き芋の秋に舌鼓を打つ。
 冷たい風もなんのその。焼き芋もたき火も温かい。落ち葉のたき火で作った焼き芋のなんて美味しいこと。
 やっぱり落ち葉でやると美味しさが倍増する気がするッすね。
 秋って…幸せな季節ッすねぇ…。
「来年もこーいうことしたいな」
 フラッペの幸せそうな笑顔を見て、四郎も微笑んだ。


4.
「ふ〜! 秋を満喫したのだ!」
 たくさん買ってきたはずのサツマイモの山は、すっかりなくなった。
「はぁ〜、よく食べたッす」
 満足、満足と思いつつ、フラッペを見ると満喫したと言いながらもまだたき火の中に芋が残っていないか、枝でつついて探している。
「食べ足りないっすか?」
 どっ直球にそう訊くと、フラッペは素直に頷いた。
「もうちょっと食べたいのだ…って、あれ? もうイモがないのだ?」
 残念そうに芋の山があった場所を見つめるフラッペに、四郎は笑う。
 女の子の芋好きはやはり定番ッすね。
「ん? なんで笑うのだ??」
「いや、フラッペさんも女の子だなぁっと思ったッす」
 …………
 奇妙な間が2人の間に流れて、ハッとフラッペが胸を張った。
「そ、そうなのだ! ボクもこう見えて女の子なのだ!」
「なんで焦ってるんすか??」
 そんな不思議なやり取りの後、フラッペはたき火の中の芋探しを諦めた。
「しょうがないのだ。じゃあ、ボクが最速で買ってくるのだ! Stride…Goッ!」
 蒼いボードがフラッペの足に現れて、すごい速さで購買の方へと突っ走っていく。
 後に残るは青い光の尾。いつの間にか、辺りは黄昏色だった。
 たき火の燻った火を絶やさぬように、少し遠くから落ち葉を拾ってきて補充する。
 今日の夕ご飯は食べなくてもよさそうッす。
 落ちて行こうとする夕陽を見ながら、フラッペの帰りを待つ。

 来年…来年ッすか。
 来年の今がどんな未来なのか、想像もできなかった。
 けれど、少なくとも大切な友人たちとまたこうしていられたらいいッすね…。
 …できれば、彼女とかできてたらさらにいいッすね…。
 秋の日はつるべ落とし。
 フラッペが戻ってくるころには、すっかり日は落ちていた。

「イチジク! 買ってきたのだ! さぁ、ヤキイモを再開するのだー!」
「はいッす!」


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 jb4076 / 九 四郎  / 18 / 男性 / 陰陽師

 ja0022 / フラッペ・ブルーハワイ  / 16 / 女性 / 阿修羅


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 九 四郎  様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度は、魔法のハッピーノベルをご依頼ありがとうございました!
 黄昏時は魔法の時間。日常をちょっとだけ切り取らせていただきました。
 …まぁ、確かにたき火で焼き芋って今はあまりないですね。
 キラキラとした学園生活、少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
魔法のハッピーノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年10月28日

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