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『ひとあしもふた足も早く――白 』
百々 清世ja3082

 ――もう十月も終わりを迎えようとしている。
 街はハロウィンらしい黒やオレンジでいっぱいになっているが、
「……へ? クリスマスプレゼントの下見?」
 百々 清世が友人から受けた電話は思いもよらないものだった。
 クリスマスまでまだふた月近くある。それでもクリスマスプレゼントの下見だというのだから、随分と気のせいた話だ。
 何でもその友人の友人に当たる少女が、男性へ送るプレゼントを下見したい――ということで、清世に白羽の矢が立ったのだという。そして相手の学年を聞いてまたも驚いた。小学生だという。
「なんかフツーの買い物って感じになりそうだなー、でも女の子はやっぱりいっぱい甘やかしてやりたいよねー」
 そうやって、普段の遅刻癖もどこへやら。
 只野黒子との待ち合わせの場所にいそいそと向かったのであった。


「ええと……只野ちゃん?」
 その声は頭上から降ってきて、思わず黒子は顔をあげた。前髪で覆われた顔の変化は清世にもわからないが、それでもその反応から本人だと確信したのだろう、清世は笑顔を浮かべる。
 黒子の姿は黒地の布に薄茶のフラワーレースを重ねた、シックだが柔らかな感じのワンピースと、ベージュのショートブーツ。子供らしいか否かというと、やや大人びた服装かもしれない。
 時計を確認すれば待ち合わせの約束時間よりわずかに前。
「はい、只野黒子、と申します。よろしくお願いしますね」
 黒子は口角をわずかに上げて笑顔を作った。前髪で顔のほとんどが覆われていても、口元の僅かな動きや変化で必要最低限以上の表情は読み取れるものなのである。
「おにーさんは百々清世っていーます。今日はよろしくねー」
 こちらは若干ゆるい感じのカラーシャツにベスト、それにチノパン。ゆるくしめたネクタイが、本人のゆるさも物語る。普段なら遅刻の常習犯の彼がこうやって待ち合わせに間に合わせたのも、相手が初見ということもあってだ。
「ええと、只野ちゃんはいくつなんだっけ」
 年齢を一応確認するのは、久遠ヶ原という場所にはときどき年齢も性別も超越したような存在がいるからである。
「小学生ですよ、普通に。百々さんは?」
 黒子も質問の意図がわかったのだろう、さらりと答える。
「んー、俺? おにーさんはだいがくせー」
 反対に黒子に問われ、清世はきゃぴっと応じた。
(小学生には手は出さねぇけど、将来美人ちゃんになるよなーこの子……ちょっとクセありそうだけど、まあいいや)
 清世の発想もさすが女の子が好きと言ってはばからないがゆえのブレのない発想である。一方の黒子はといえば、
(明るくて社交的な……そう、世渡り上手そうな方ですね)
 いい意味での『根無し草』という言葉が似合う人だなと、そんなことを考える。
 ちょっと挨拶と言葉を交わしたのみだが、腹の探り合いのうまい二人、そう言う意味では結構似たもの同士なのかもしれない。
「そういえばクリスマスプレゼントの下見、って話だけど。只野ちゃん、何かお目当てでもあるん?」
 清世が笑うと、ああ、と黒子は頷く。
「いつもお世話になっている友人各位にと思って。女性向けは自分でも選べますけれど、やはり男性にあげるものは男性の視点も知りたいですから」
 無邪気そうに振る舞うが、そのくせ隙はない。と言っても、相手が悪人であるという認識からではなく、単純に清世とこうやって一緒に何かをするというのが初めてだから――という、一種の緊張感のあらわれである。
「でもこれといったものも思い浮かばないので、とりあえず下見なんです」
 なるほどね、と清世が頷いた。
「それならそっちの、なんでも揃うモールがいいんじゃねえかな。店も多いし」
「ですね。きっと今はハロウィンの飾り付けで賑やかなんでしょうけれど」
 黒子はわずかに口元をほころばせた。


 ショッピングモールの中は、予想以上にハロウィン一色だった。
 天井からぶら下がるこうもりやジャック・オ・ランタンのオーナメントに、思わず目が留まってしまう。怖い中にも可愛らしさがあって、なんだか見ているだけでどこかのテーマパークに紛れ込んでしまったかのような錯覚を覚える。
「おー、これはなかなかすごいなー」
 清世は思わず声を上げて笑う。黒子も周囲をキョロキョロしているのは、それなりに好奇心もあるからだろう。
「あ、あそこのカフェ。ハロウィンの期間限定パフェですね」
 黒子が指差す先にはたしかにそんな文字が。
「おー。あとで行こっか。とりあえずは下見を適度に終わらせてからねー」
「はい」
 清世の提案に、黒子も頷いた。心なしか嬉しそうな声で。

 ショッピングモールは、本当に様々な店がある。
 レディースファッションはもちろん、アクセサリー、雑貨、文具、ホビー……さまざまなジャンルの店舗が軒を連ね、そしてモールの中もどこかきらびやかな雰囲気が漂っているのだ。
「うーん、只野ちゃんは予算とか考えてるの?」
 店とちらちらと流し見しながら、清世は尋ねた。
「そうですね……でも特別高くも安くもなく、年齢相応のものが一番喜ばれやすいかな、とは思います」
 確かに。あまり背伸びをしても仕方がないし、かと言ってあめ玉ひとつ程度ではプレゼントをしたという気分にもなれない。
「そっか。学園の支給品とかも色々あるけど、プレゼントっつーんで無難なところだとハンカチやピンバッチとかかね」
 実用性や華美になり過ぎないものを提案してみる清世。黒子は口元に指を当て、ふむふむと頷いた。
「なるほど。ちなみに百々さんは贈られて嬉しいものとか、ありますか?」
「俺? 俺はねー、可愛い女の子からもらえるなら結構なんでも大歓迎よ」
 ……。
 清世はそういう奴なのだなと黒子はあらためて認識する。そして女性はこういった、ちょっとだらしない男性に何故か弱いものなのだ。母性本能をくすぐられる、というやつだろうか。
 黒子は胸の内でひとつ息をつく。精神的には見た目のそれよりもうんと大人な黒子としては、そう言う男性といわゆる男女の付き合いでない友人づきあいができるのは楽しいのだ。
 しかも向こうは、女性の扱いをきちんと心得ていて、たとえまだ小学生の黒子にさえ、女性としての扱いをしている。もっとも、清世の性格がこのとおりゆるいせいか、余りそう言うふうに見えないのがネックなのかもしれないけれど。黒子は人を見る目は幼いながらもかなり確かなのだ。
「あ、この店」
 黒子の目に入ったのは、いわゆるファミリーファッションのブランドショップ。ブランドと言っても比較的安価で、それこそさっき清世が提案したようなハンカチやピンバッチなどはもちろんのこと、ユニセックスな印象のシルバーアクセサリやこれからの時期に活躍しそうな暖かそうな帽子やマフラーなども飾られていた。
 コマーシャルなどでも馴染みのあるブランドだけに、色とりどりのマフラーや使い勝手の良さそうなアクセサリが並んでいる。
「へー、これならいろいろカバーできそうだな」
 清世も笑っているのは、きっと黒子の審美眼がしっかりしていることを物語っている。
「ですね。安物というわけでもないし、品質もしっかりしていそうですし。これなら、いろんな人に喜ばれそうです」
 そう言いながら黒子が手にしているのはノルディックなモチーフが編み込まれているマフラー。
「でもこっちのピンブローチも悪く無いですね……うーん」
 黒子はそう言いながらいろいろと悩んでいた。


 結局店ではちょっとした小物を入手することに成功した。お金はいくらかかかったが、久遠ヶ原の学生は依頼の報酬などでの収入が時折あるため、案外手持ちの金が多かったりはするのでまあなんとかなるだろう。
 とりあえずお目当てを買い終えてから、二人は先に見つけていたカフェで軽食をとることにした。黒子はハロウィン限定パフェを迷うことなく頼み、清世も同じものを選ぶ。
 やがてやってきたパフェは紫いもとかぼちゃのアイスやプリンなどがふんだんに使われている、かなりボリューム満点のものだった。二人は言葉少なに食べ始める。そのうちふと言葉を口にしたのは、清世だった。
「そういえば……何でクリスマスなの? まだ早くない?」
 スプーンを軽く振って、黒子に尋ねる。確かに世間はまだハロウィンの色に包まれている中でクリスマスというのは気が早いといえるだろう。しかし少女はかすかに笑った。
「いえ……おそらく、その頃は大規模な抗争があるでしょうから、今のうちに、と思いまして」
 大規模な抗争――それはつまり天魔との戦いということだろう。そういえば昨年の冬も、やはり聖槍をめぐる争いがあったなと、清世も遅ればせながら思い出した。
「……今年もあるかねー、あんなこと」
 年長者である清世に尋ねられて、黒子はわずかに首を傾げる。
「けれど、絶対にないとも言い切れません。この頃、きな臭い動きが各地でみられているみたいですしね」
 四国や種子島、そして東北などの不穏な動き。依頼斡旋所にはいつもどこかしらで事件が起きていることを示す案内が掲示されている。
「……そっか。只野ちゃんはよく考えてるんだなー。おにーさん見なおしたわ」
 そう言いながら、清世はほら、と自分のパフェについていたチョコレートのこうもりを、黒子のパフェに突き刺してやった。


「今日は本当にありがとうございました」
 黒子は清世に深々と礼をする。
「いーのいーの。おにーさんも楽しかったし」
 清世はまたゆるい笑みを浮かべる。
「そうだ、ちょっと目ぇ閉じてくれる?」
 清世は黒子にそう言うと、何やらゴソゴソと取り出す。
「ん、もう目を開けていーよー」
 そう言われて黒子が目を開けると、髪にちょっと違和感があった。違和感のあるところに軽く触れると、そこには可愛らしいリボンの髪留めがある。これからの季節によく使えそうなタータンチェックで、黒子の髪によく映えた。
「これは?」
 黒子が尋ねると、清世はいたずらっぽく笑う。
「今日一緒に遊んでくれたお礼。只野ちゃんが品定めしてる間に、ね。実用的なののほうが喜ぶかもとは思ったんだけど、他に思いつかなくてねー」
 そう言う清世はなんとなく苦笑気味だ。女性とのつきあいかたに慣れているとはいえ、照れ隠しもあるのだろう。
「気に入ったら使ってくれると嬉しいけどさー」
「いえ、あの。ありがとうございます。こちらからも、これを、」
 黒子は深々と礼をしながら、そう言って差し出したのは先ほどのブランドの名前の入った包みだった。
「ハンカチですけれど、喜んでくださるといいな、と」
 黒子もはにかむように微笑む。
「おお、只野ちゃんありがとね! 大事にさせてもらうわー」
 清世もまんざらでもなさそうに笑った。もちろん年齢が離れているし、恋愛関係というものではないけれど。
 それでも、女の子から物をもらうというのはやはり特別なことのひとつなのだ。
「それじゃ、寮住まいだっけ? 近くまで送るー」
 清世はそう言うと、黒子の手をそっととった。
 こういうのも案外悪くないな、そう思いながら。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0049 / 只野黒子 / 女性 / 11歳 / ルインズブレイド】
【ja3082 / 百々 清世 / 男性 / 21歳 / インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました。遅くなりまして申し訳ありません。
どうやらエリュシオンの方では学年も変わっているようで……
登場人物一覧、エリュシオンの場合は普段は学年を記させてもらうのですが、今回はジョブを書かせてもらいます。
少女とお兄さんのお買い物、楽しんでもらえたなら幸いです。
こちらも何だか楽しく書かせてもらいました。
ハロウィンが終わればもうすぐクリスマス、それも楽しみですね。
実際どのような未来が待っているかはわかりませんが……
では、今回はどうもありがとうございました。
魔法のハッピーノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年10月30日

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