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『Mysterious Masquerade 〜朧車 輪〜 』
朧車 輪(ib7875)

 今日はハロウィン。
 子供たちがお菓子を強請って家々を巡り、大人たちもそれに便乗して羽目を外す。
日頃真面目にお仕事に励む人たちもこの日ばかりは子供に戻って一緒に遊ぶ。
 さあ、ハロウィンを楽しむ合言葉を一緒に――

   ***

 白亜の通りに並べられた色とりどりのランタンを眺めながら、朧車 輪(ib7875)が楽しげにジョハル(ib9784)を振り返る。
「お父さん、これをかぼちゃで作ったの?」
「そうだよ。ほら、このランタンを見てごらん」
 そう言って足を止めたジョハルの傍で輪も足を止める。そうして腰を曲げた彼に続いて、輪もその場にしゃがみ込むと、ジョハルの手が1つのランタンを指差した。
「ハロウィンはこうして南瓜で作った灯篭のようなものを飾るんだ。ほら、良く見ると南瓜がくり抜かれているのがわかるだろう?」
 南瓜のお化けを具現化したランタンは、作る人で顔が変わるのだろう。
 どれを見ても同じ顔が1つもないそれを見て、輪が「ほんとうだ」と目を輝かせる。
 ここはジルベリアにある街の1つ。
 ジョハルの提案でハロウィンに賑わう街を訪れようと言ってくれたのがそもそもの始まりだ。
 緑や黄色、橙色のランタンに灯りが灯るのはもう少し後のこと。輪はそれまでジョハルと共にハロウィンを楽しむのだが、知識こそあれ実際に遊んでみたことはない。
「輪はハロウィンの経験あるのかな?」
 この口振りから察するに、ジョハルはハロウィンの経験があるのだろう。
 伺うように向けられる視線が答えを待っている。それを見詰め返しながら輪は呟く。
「ハロウィンは知ってるけど……やった事はない、かな」
 小さく首を傾げる姿にジョハルの頬が緩んだ。
「そうか。輪はハロウィンをやってみたいかい?」
「え?」
 問いかけと同時に動いたジョハルの視線を追う。其処にはハロウィンの仮装をした人々がいて、みんな楽しそうにハロウィンに彩られた街を歩いている。
 勿論、先程からこうした人の姿は見えていたし、気になっていた。けれどそれを口にすれば、ジョハルが気を使うかもしれない。
 そう思って黙っていたのだが、どうやらジョハルにはお見通しだったようだ。
「輪、皆仮装しているから俺達もやろうか」
「!」
 穏やかに問い掛けたその声に、輪の目が見開かれる。そして頬を紅潮させると真っ直ぐにジョハルを見詰めた。
「どうする?」
 やりたい。そんな言葉が口から飛び出そうになる。
 普段ならここで「大丈夫」と言えるのに、ジョハル相手だと言えなくなるのは、彼には我がままを言っても大丈夫と思っているから。
 それはつまり、彼に心を許している証拠でもある。
 ジョハルは問い詰める訳ではなく、ただ優しく問い掛ける。これに輪の唇が戸惑うように動いた。
「お父さんがするなら、私も……」
「ああ。もちろん俺もするよ――ほら」
 言って広げられたマントに輪の目が瞬かれる。そしてマントがジョハルを覆い隠すと、次の瞬間には大きな角を携えたジョハルが現れた。
「わあ……!」
 まるで魔法のような替えに、輪の目が際限なく輝く。そして彼女の頭に三角帽子が被せられると、輪は嬉しそうに笑ってジョハルと同じマントを羽織った。
「私は魔女さん」
 ヒラリとマントを反す姿に、ジョハルが微笑む。
「やっぱり輪は何を着ても可愛いね」
 お世辞ではなく本当のことだ。
 輪の仮装は可愛い魔女さん。そしてジョハルは――
「お父さんは、何の仮装……?」
 パッと見は怪しい男爵か何かだが、それでは仮装に成りきらない。
 問いかける輪にフッと笑むと、ジョハルは禍々しい杖を取り出して構えて見せた。
 この際、マントや角や杖など、どこから取り出したかは問題ではない。むしろ問題にされると色々困るので奥に置き、ジョハルは輪に見える様に胸を張って見せた。
「俺は魔王さま」
「……なんで、魔王さま?」
「輪が魔女さんだからだよ」
 わかったようなわからないような。
 不思議そうに首を傾げた輪にジョハルが笑う。
「さあ、2人でハロウィンの街に繰り出そう。輪はハロウィンの魔法の言葉を知ってるかな?」
 仮装をして家々を練り歩く際、ある言葉を言わなければいけない。
 輪はジョハルの顔を見て「えっと」と言葉を詰まらすと、直ぐに「あ」と声を上げて言った。
「とりっく・おあ・とりーと!」

   ***

 手を伸ばしても届かない存在。
 望んでも得られない温もり。
 いつまで待っても触れる事の出来ない愛情。
(……行かないで……行かないで……!)
 必死に声を上げても届かない。
 願っても届かない。
(…………)
 込み上げる寂しさに胸が張り裂けそうになる。
 何処へ行けば良いのかも、如何すればいいのかもわからない。ただわかっている事は、自分が1人だということ。
「むすめにならないか?」
 そう言ってくれたのは、見知らぬ土地で出会った見知らぬ人。
 輪と同じ孤独の目をした寂しい人は、優しさを覗かせながら囁きかけてくる。
 その姿に手を伸ばそうとするが、ふと思いとどまる。
(私にはお父さんが……)
 空の上にいる父親の姿が脳裏を過る。けれどもう1度その人の顔を見た時、輪は迷いを捨てて手を伸ばしていた。

   ***

 不意に思い出したジョハルとの出会い。
 あの時ジョハルと出会った輪は、彼の中に在る悲しみや空虚な心を本能的に察した。
 それは自分と同じ寂しい心。
 1人でいることの苦痛に嘆く心。
 たぶん1人では抜け出すことの出来ない負の感情をジョハルも抱えていたのだと思う。
「どうして輪は、俺の『むすめ』になることにしたんだい?」
 心とは重なるものなのだろうか。
 考えていたことが見えていたかのような問いに、輪の目が瞬かれる。
 言われてみれば確かに、初めて会った相手にいきなり「むすめにならないか?」と言われたら不信がるだろう。
 けれど輪はこの言葉に首を縦に振ったのだ。
 そのお陰でこうして共にいるのだが、それもこれも輪の同意がなければ成しえなかったことだ。
「輪は、怖くなかったのかい? いきなり『むすめにならないか?』と言われて……」
 ジョハルの疑問に輪の目が落ちた。
 そしてジョハルと共に歩いて集めた菓子に目を落とすと、色とりどりの飴だったり、クッキーだったりが飛び込んでくる。
 輪はそれらが納まるバスケットを抱き締めると、静かにこう答えた。
「お父さんの娘に、なってみたいって思ったから」
 怖くなかった。そう言って顔を上げると、ジョハルの顔が綻ぶ。
「それじゃあ、びっくりは?」
「びっくりはしたよ」
 コクリと頷く彼女に「やはり」と笑みが零れる。だがそうなるとある疑問が浮かぶようで、
「びっくりしたのに『むすめ』になったのかい?」
 そう、普通なら断るはずだ。
 けれどあの時の輪は頷いた。それは何故なのか。
 問いかけるジョハルに、輪はぽつりと言葉を零す。
「私には、お空の上に本当のお父さんがいるから娘にはなれないって思った。でも、お父さんは本当のお父さんのことも考えてくれてて……」
 輪の父親はこの世にいない。そして彼女は亡き父に想いを寄せている。
 ジョハルはその事を察し、輪に無理強いはしなかった。それが輪には伝わったのだ。
「優しい人だなって、良い人だなって思った……ううん、思う」
 今日だってこんな風に一緒に出掛けてくれているし、輪が寂しいと思う時には傍にいてくれる。
 何処までも優しく、暖かい人。その心に見えない闇を持っていたとしても、それでもそう思う。
「だから、輪はお父さんの『むすめ』になったの」
 そう言い終えると、輪は笑顔でジョハルの顔を見上げた。
 その耳に、微かな呟きが届く。
「どうして……誰も俺に冷たい刃を向けないのかな」
 自嘲気味に零された声に輪は目を瞬く。
(お父さん、悲しい顔をしてる……)
 時折見せる悲しげな顔。本当なら笑顔でいて欲しいと願うのに、彼はこうして悲しげな顔を見せる時がある。
 そんな時思ってしまう。
(……いつか、話してくれるかな……)
 無理強いをするつもりはない。
 だって、ジョハルが笑ってくれることが、彼女にとっての幸せだから。
 だから聞こえた言葉の意味はわからないけど、それが少しだけ寂しいけど、それでも待とうと思う。
 彼が抱える闇が何なのか、を。
「なんでもないよ」
 そう言い置いて頭に手を置くジョハルに、輪は心配そうに表情を歪める。
「……お父さん、大丈夫?」
 思わず引いた袖に、ジョハルの視線が落ちた。
 このまま何処かへ行くのではないか。
 またいなくなってしまうのではないか。
 そんな不安もあったのかもしれない。けれど重要なことはそこじゃない。
 彼女は袖を掴む手に力を込めると、自分がこの場にいることを強調した。
 貴方は1人ではないのだと。悲しみを抱く必要はないのだと。そう伝えるために。
 そしてこれに、ジョハルの膝が折れる。
「大丈夫だよ、ありがとう」
 そう言いながら、いつものように左の手で頭を撫でてくれる。そうして空のように青く澄んだ瞳で輪の顔を覗き込むと、穏やかな眼差しを注いだ。
「輪……今夜は、手を繋いで眠ってくれるかい?」
 聞こえた声に反発する必要も、否定する必要もない。
 輪はジョハルに見えるように頷くと、頭におかれた彼の手を取った。
「うん、いいよ。お父さんの手、暖かいから好きだよ」
 にっこり笑って大好きな人の顔を見詰める。そして笑みを深めると、まるで悪戯を囁く様にこう告げた。
「でも、そのまえにもっと遊ぼう。お祭りなんだから」
 取った手を大きく引いて誘う。
 今日はジョハルがハロウィンを楽しむために連れ出してくれた日だ。
 折角だからめいっぱい楽しんで、一緒に笑って、一緒に遊びたい。
「そうだな。くたびれてグッスリ眠るくらい遊んでしまおう」
 そう言って見せられた笑みに、輪の顔が綻ぶ。
 輪はジョハルの声に頷くと「それじゃ」と両の手を上げた。そして――
「お父さん。とりっく・あお・とりーと!」
「おやおや、俺に悪戯するのかい? 輪の悪戯なら嬉しいけど、今日は我慢しておこうかな」
 両の手を上げて威嚇してくる彼女に、クスリと笑みを零す。
 そうしてバスケットに飴玉を落すと、輪は溢れんばかりの笑顔を彼に向けたのだった。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib7875 / 朧車 輪 / 女 / 13 / 砂迅騎 】
【 ib9784 / ジョハル / 男 / 25 /砂迅騎 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
大変お待たせいたしましたが、如何でしたでしょうか。
口調等、何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!

※同作品に登場している別PC様のリプレイを読むと少し違った部分が垣間見れます。
魔法のハッピーノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年10月31日

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