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『Mysterious Masquerade 〜ジョハル〜 』
ジョハル(ib9784)

 今日はハロウィン。
 子供たちがお菓子を強請って家々を巡り、大人たちもそれに便乗して羽目を外す。
日頃真面目にお仕事に励む人たちもこの日ばかりは子供に戻って一緒に遊ぶ。
 さあ、ハロウィンを楽しむ合言葉を一緒に――

   ***

 白亜の通りに並べられた色とりどりのランタンを眺めながら、朧車 輪(ib7875)が楽しげにジョハル(ib9784)を振り返る。
「お父さん、これをかぼちゃで作ったの?」
「そうだよ。ほら、このランタンを見てごらん」
 そう言って足を止めたジョハルの傍で輪も足を止める。そうして腰を曲げた彼に続いて、輪もその場にしゃがみ込むと、ジョハルの手が1つのランタンを指差した。
「ハロウィンはこうして南瓜で作った灯篭のようなものを飾るんだ。ほら、良く見ると南瓜がくり抜かれているのがわかるだろう?」
 南瓜のお化けを具現化したランタンは、作る人で顔が変わるのだろう。
 どれを見ても同じ顔が1つもないそれを見て、輪が「ほんとうだ」と目を輝かせる。
 ここはジルベリアにある街の1つ。
 ふとハロウィンの時期だと言う事を思い出し、急きょ輪をこの地に招いたのが全ての切っ掛け。
 緑や黄色、橙色のランタンに灯りが灯るのはもう少し後のこと。ジョハルはそれまでに輪にさせたいことがある。
 それはハロウィンの時期に子供たちが行うある儀式のことだ。
「輪はハロウィンの経験あるのかな?」
 多くを知り得る自分が知っているのは良いとして、輪が知らない可能性もある。
 だから問いかけたのだが、聡い我が子はこうした事にも知識があるようだ。
「ハロウィンは知ってるけど……やった事はない、かな」
 小さく首を傾げる姿に頬が緩む。
「そうか。輪はハロウィンをやってみたいかい?」
「え?」
 そう問い掛けながら周囲に目を向ける。
 その目に映るのはハロウィンの仮装をした人達の姿。実は街に足を踏み入れた直後から、輪がこの人たちを気にしているのに気付いていた。
 好奇心に満ち、期待に胸を膨らませる彼女の顔を見ればわかる。彼女が何を望んでいるのか。
「輪、皆仮装しているから俺達もやろうか」
「!」
 穏やかに問い掛けたその声に、輪の目が見開かれる。そして頬を紅潮させると真っ直ぐにジョハルを見詰めた。
「どうする?」
 この子はきっと自分からは「やりたい」とは言わない。それが悪いこととは言わないが、彼女にはもう少し自分に素直になって欲しい。
 だからこそ、彼女の口から敢えて「やりたい」と言わせたい。
 ジョハルは問い詰める訳ではなく、ただ優しく問い掛ける。これに輪の唇が戸惑うように動いた。
「お父さんがするなら、私も……」
「ああ。もちろん俺もするよ――ほら」
 言って広げられたマントに輪の目が瞬かれる。そしてマントがジョハルを覆い隠すと、次の瞬間には大きな角を携えたジョハルが現れた。
「わあ……!」
 まるで魔法のような替えに、輪の目が際限なく輝く。そして彼女の頭に三角帽子が被せられると、輪は嬉しそうに笑ってジョハルと同じマントを羽織った。
「私は魔女さん」
 ヒラリとマントを反す姿に、ジョハルの口元に笑みが浮かぶ。
「やっぱり輪は何を着ても可愛いね」
 お世辞ではなく本当のことだ。
 輪の仮装は可愛い魔女さん。そしてジョハルは――
「お父さんは、何の仮装……?」
 パッと見は怪しい男爵か何かだが、それでは仮装に成りきらない。
 問いかける輪にフッと笑むと、ジョハルは禍々しい杖を取り出して構えて見せた。
 この際、マントや角や杖など、どこから取り出したかは問題ではない。むしろ問題にされると色々困るので奥に置き、ジョハルは輪に見える様に胸を張って見せた。
「俺は魔王さま」
「……なんで、魔王さま?」
「輪が魔女さんだからだよ」
 わかったようなわからないような。
 不思議そうに首を傾げた輪にジョハルが笑う。
「さあ、2人でハロウィンの街に繰り出そう。輪はハロウィンの魔法の言葉を知ってるかな?」
 仮装をして家々を練り歩く際、ある言葉を言わなければいけない。
 輪はジョハルの顔を見て「えっと」と言葉を詰まらすと、直ぐに「あ」と声を上げて言った。
「とりっく・おあ・とりーと!」

   ***

 暗くて深い闇だった。
 それは物理的な闇ではなく、心が生み出す闇。
 恋人を失くした世界で絶望し、屍のように漂って消えようと決めていた過去。そこに、光が舞い降りたのはいつのことだろう。
 薬草士をする傍ら、孤児院の真似事をしていた自分の元に、修羅の少女が現れた。
 孤独の目をした、酷く寂しい少女。
 父を亡くし、自分と同じ孤独を抱えた少女は、何も言わずに自分を見詰めていた。
 同じだけど同じではない。
 孤独を知るには、絶望を知るにはあまりに年が若い。だがそれ以上に気になるのは少女の目だ。
(……なんて、寂しそうな目をしているんだ……)
 孤独だと、生きる意味など無いのだと、そう思っていた自分と酷似した瞳を見た時、知らずの内に口が動いていたのだ。
「むすめにならないか?」と。

   ***

 ふと思い出した輪との出会い。
 あの時、輪はジョハルの声を受け取った。それは彼にとっても光を得る瞬間だったのだが、未だに思うことがある。
「どうして輪は、俺の『むすめ』になることにしたんだい?」
 幾らなんでも初めて会った相手にいきなり「むすめにならないか?」と言われたら不信がるだろう。
 けれど輪はこの言葉に首を縦に振ったのだ。
 そのお陰でこうして彼女と共にいるのだが、それもこれも輪の同意がなければ成しえなかったことだ。
「輪は、怖くなかったのかい? いきなり『むすめにならないか?』と言われて……」
 純粋な疑問も大きいが、彼女が何と答えるかと言う好奇心もある。
 輪は突然の問いに視線を落とすと、お菓子の入ったバスケットを見詰めた。そして数度目を瞬いて、ジョハルを見上げて呟く。
「お父さんの娘に、なってみたいって思ったから」
 怖くなかった。そう応える彼女に自然と顔が綻ぶ。
「それじゃあ、びっくりは?」
「びっくりはしたよ」
 コクリと頷く彼女に「やはり」と笑みが零れる。だがそうなるとやはりあの疑問が浮かぶ。
「びっくりしたのに『むすめ』になったのかい?」
 そう、普通なら断るはずだ。
 けれどあの時の輪は頷いてくれた。それは何故なのか。
 問いかけるジョハルに、輪はぽつりと言葉を零す。
「私には、お空の上に本当のお父さんがいるから娘にはなれないって思った。でも、お父さんは本当のお父さんのことも考えてくれてて……」
 輪の父親はこの世にいない。けれど輪は亡き父に想いを寄せている。
 ジョハルはその事を察し、輪に無理強いはしなかった。
 それに、と輪の目が再びバスケットに落ちる。
 俯いた輪がバスケットの中を見詰める。
「優しい人だなって、良い人だなって思った……ううん、思う」
 今日だってこんな風に一緒に出掛けてくれているし、輪が寂しいと思う時には傍にいてくれる。
 何処までも優しく、暖かい人。その心に見えない闇を持っていたとしても、それでもそう思う。
「だから、輪はお父さんの『むすめ』になったの」
 そう言い終えると、輪は笑顔でジョハルの顔を見上げた。
 温かでまるで太陽のような笑顔。
 いつからだろう。この笑顔を守りたい、見守りたいと思うようになったのは。
 あの時は気紛れから輪に声を掛けたのかもしれない。けれど今はそんなもので彼女に関わっている訳ではない。
 人との縁を拒んで生きるつもりが紡いでしまった縁。そこから幾つもの縁を刻み、ジョハルは今もこうして生きている。
「どうして……誰も俺に冷たい刃を向けないのかな」
 自嘲気味に零した声へ、輪が不思議そうに目を瞬く。
「なんでもないよ」
 ジョハルはそう言い置くと、輪の頭を撫でた。
 友人やむすめが笑顔でいてくれることは嬉しい。けれどそれと同時に不安が胸を駆け上がる。
――俺には許されないことなのに、と。
(俺は誰よりも愛しい人の幸せを奪った。にも拘らず、心はまだ此処に在る……何故、なんだろうな)
 ジョハルは瞳を伏せると、浮かぶ想いを振り切るように息を吐いた。と、不意に袖を引く感覚がした。
「……お父さん、大丈夫?」
 心配そうに見上げる輪と目が合う。
 何処かへ行きそうになる心をいつも繋ぎ止めてくれるのはこの子だ。けれどジョハルはそのことに気付いていない。
 輪を助けた時に、自分も彼女に助けられていたのだということに。そして今も尚、彼女に救われているのだということにも。
 ジョハルは輪と目線を合わせる様に膝を折ると、そっと彼女の顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ、ありがとう」
 そう言いながら、呪われていない左の手で彼女の頭を撫でる。そうして宝石のような赤い瞳を覗き込むと、柔らかな眼差しで彼女を見た。
「輪……今夜は、手を繋いで眠ってくれるかい?」
 特に何かがあった訳ではない。けれど今夜はそうして眠りたいと思った。
 するとこの言葉に輪が頷く。
「うん、いいよ。お父さんの手、暖かいから好きだよ」
 いつも繋ぐのは左の手。
 けれどそんなことは気にもせず、輪は頭を撫でていた彼の手を取って微笑んだ。
「でも、そのまえにもっと遊ぼう。お祭りなんだから」
 取られた手が大きく引っ張られる。
 そうだ。今日は輪と一緒にハロウィンを楽しむために来たのだった。
 彼女との楽しいひと時をわざわざ闇に染める必要はない。
 ジョハルは光を抱くむすめを目に刻むように瞳を細めると、緩やかに立ち上がって輪の姿を見下ろす。
「そうだな。くたびれてグッスリ眠るくらい遊んでしまおう」
 可愛い魔女の可愛い誘惑。これほどまでに甘い菓子があるだろうか。
 輪はジョハルの声に頷くと「それじゃ」と両の手を上げた。そして――
「お父さん。とりっく・あお・とりーと!」
「おやおや、俺に悪戯するのかい? 輪の悪戯なら嬉しいけど、今日は我慢しておこうかな」
 両の手を上げて威嚇してくる輪に、クスリと笑みを零す。
 そうしてポケットを探ると、先程貰ったばかりの飴玉を、彼女の持つバスケットに落したのだった。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib9784 / ジョハル / 男 / 25 /砂迅騎 】
【 ib7875 / 朧車 輪 / 女 / 13 / 砂迅騎 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
大変お待たせいたしましたが、如何でしたでしょうか。
口調等、何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!

※同作品に登場している別PC様のリプレイを読むと少し違った部分が垣間見れます。
魔法のハッピーノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年10月31日

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