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『かぼちゃな夜の見せる夢 』
村上 友里恵ja7260


 トリック? トリート!
 悪戯好きのカボチャたちが仕掛ける、とっておきの夜を。
 ハロウィンパーティー、楽しんで行ってくださいね。

 ――村上 友里恵




 額の汗をぬぐい、友里恵はテーブルへ並べたパーティー料理へ満足げな表情を浮かべた。
 パイにケーキにクッキー、シチューにチキンにパスタに鍋。
「……ハロウィンって、こんな感じで良いでしょうか」
 巫女である友里恵にはよくわからないが、たぶん、大丈夫。
 パーティーだから、大勢でワイワイ楽しめれば問題ないはず。
 料理途中の味見や失敗の責任を取っているうちに、友里恵自身はお腹いっぱい。
 仕上げの味付けだけは確認していないけれど、途中まで美味しかったのだからきっと美味しいに違いない。
「もうすぐ、皆さんが来てしまいますね……。着替えてお待ちしないと」
 かぼちゃ風に飾り付けした鳩時計が時間を告げる。
 友里恵は慌てて、着替えを用意している部屋へと向かった。




「ふむ……。ハロウィンパーティーか」
 十年来の友人からの誘いに、酒井・瑞樹は少し考え込み、それから衣装を探し始める。
「仮装……してこい、ということだよな。何かあっただろうか」
 友人。或いは腐れ縁。大人しそうな外見をしながら悪戯ばかりの友里恵に振り回されることにも慣れている。
 心根は優しく、良い友人だと知っている。
 悪戯に応えるべく、ここは自分もハロウィンらしく。ハロウィンらしい……
 普段は武士道を極めんと進む瑞樹の部屋に、それらしいものはなかなかない。
「うん? こんな衣装、あったのか」
 文化祭か、何かの依頼で用意しただろうか?
 貸衣装か手作りか、と考えていたところ、服の隙間から一着の衣装が現れた。
「魔法使い……。ふむ、良いだろう」
 黒いミニ丈ワンピースをベースに、ウェストへ紫のリボンをあしらった魔女の衣装。
 下を見ると、帽子やブーツも揃っている。
「たまには、私から村上さんへ悪戯をするのもいいかもしれないな」
 具体的には、思いつかないが。
 衣装を胸元に宛ててみて、姿見の前でくるりとターン。
 スカートの丈が短いようにも思えるけれど、合せるのはニーハイブーツだから露出は気にしなくて大丈夫そうだ。
 さぁ、そろそろ出かける時間だ。道すがら、何かしら考えて行こう。




 久遠ヶ原島内の片隅にある、小さな森。
 日が暮れる頃、森の奥にあるかぼちゃな建物に明かりが灯る。

「…………」
「米倉さん……存在だけでトリックだよね」
 筧 鷹政は、傍らを歩く米倉 創平へ声を震わせた。
 ハロウィン。
 死者の霊が家族を訪ねてくる、という本来の由来を思い起こせば……
「ごめん、3分間ください。心落ち着けるから」
 これ以上のハマリ役はなかろう、素で行ける。
 笑い震える鷹政は、お招きいただいたパーティー会場の手前で創平へストップをかけた。
 黒いスーツ姿、アンダーはラフなシャツの、顔色の悪い男は不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「一生、笑えなくすることもできるが」
 創平の右腕が、電磁を纏う。
「そういうのは、いいから。今日はいいから。笑えないから」
 森の向こう、待っているのは可愛らしい女子高生二人だ。
 無粋な真似は不要である。


 ノックは三回。来訪の合図。
 胸元が大きく開いたワンピースに、リボンと同色のマントを羽織った可愛らしい魔女がお出迎え。
「今日は……トリックオアトリート、なのだ」
 瑞樹が二人へキャンディーを。
「え」
「……」
「む? 少々違ったか?」
 風習に倣った……つもりだったのだが。
 かぼちゃ型バスケットを提げた瑞樹が、二人の反応へ首を傾げる。
「いーや、ありがと。トリート一択じゃ、トリックの心配はいらない」
 『ね』の言葉を、鷹政がひっこめる。
 瑞樹の後ろに立つ、かぼちゃ巫女姿の友里恵と目が合ったのだ。嫌な予感しかしないのは何故だ。
「筧さんには試験問題の時、密室で二人きりにさせられましたし……米倉さんは私の初めての人ですし……、今夜は存分に楽しんで行ってくださいね♪」
 にこにこにこ。
 にこにこにこ。
「初めて…… ああ、君も戦場に居たのか。立って歩いているところを見ると、重体で済んだか? 運が良」
 『い』の言葉を終える前に、鷹政が瞬時に活性化したピコピコハンマーを振りぬき、創平の頭を襲撃した。
 二人の様子に、瑞樹は表情を和らげる。
 友里恵と同じ戦場に、瑞樹も居た。
 同じく、手ひどい傷を負った。
 けれど武士たるもの、そこに遺恨はない。
「米倉さん。……よければ、これまでの武勇の話を聞かせてはもらえないか?」
「武勇?」
「もし再戦の機があれば、武士の名誉に賭けて次は足下ぐらいには及んでみせるのだ」
「……そうか」
 張りのある声で宣言する瑞樹へ、創平が微かに目を細める。

「そうだな……残業は24時間を越えてからがスタートで」

「米倉さん、そっちじゃない。社畜時代の武勇を語らないで、夢も希望もある女子高生に」
「……夢? 希望?」
「日本語です」
 理解できない、と真顔で返す創平へ、鷹政は肩を竦めた。
「言語が通じない人は、あっち!! 美味しい料理でも味わって、社会復帰リハビリでもしてて下さい」
 ぐるり、体を反転させて、友里恵の待つパーティーテーブルへ突き出してやる。
「俺たちも行こうか、酒井さん」
「あ、その、筧さんにも、話が」
 瑞樹は、慌てて鷹政のジャケットを掴んだ。
「うん、何?」

「例えば筧さんなら、私のような者を好きになるだろろうか?」

 ガン。
 上着を掛けるポールに爪先をぶつけ、鷹政は蹲る。
「せ、先輩に好かれる為にはどうすれば良いか、人生経験豊富な筧さんの意見が知りたいのだ」
「ああ。先輩。先輩ね。清く正しい、あの人ね」
 その人です。
「酒井さんは可愛いよ。けど、俺が酒井さんを好きになったら、それは拙いだろ」
「……むぅ。それは、そうか。そうか?」
「そうです。肝心なのは、酒井さんと先輩、だろ?」
 魔女の帽子のつばを掴み、瑞樹は顔を隠して考え込む。
 正面から切り込んでみたが、恥ずかしさがジワジワこみ上げてきてしまった。頬が熱い。
「それは、そうなのだが……。一般的な意見として、何か参考にできないだろうか」
「俺も知りたい……」
「え?」
「あ、いや、なんでも」
 腹の底から絞り出された声に、瑞樹はキョトンとした。
「外見を磨いて、内面を磨いて…… それで振り向いてもらえたとしても、最後の決め手は自分の『言葉』なんだよな」
「……ことば」
「気持ちを伝えないと、伝わらないだろ」
 ザクザクと自身へブーメランが突き刺さるのを感じながらも、鷹政は言葉を探す。
「酒井さんはさ、『先輩』と、どうなりたいの?」
「う、そ、それは……」
 ストレートに問い返されて、瑞樹が反応に詰まる。
 どうなりたい、ってそれはもちろん――

 その時、誰も聞いたことのないような絶叫が室内に響いた。




「トリートの後は、トリックですよね♪」
 悪気一切なしの笑顔で、かぼちゃ巫女は告げた。
 足元には、膝をつく創平の姿。彼も、味覚は正常だったようだ。
「当たりの料理は激辛でー、と用意するつもりだったのですが……。料理の殆どを当たり料理にしておきました♪」
「友里恵ちゃん!? どうしてそうなったの友里恵ちゃん!!?」
「だって、激辛料理を食べた皆さんがどんな反応をするのか、私、とっても気になったもので……」
 ぽっ、と頬を赤らめるかぼちゃ巫女の肩を、鷹政が揺する。
「そう来たか、村上さん……」
 覚悟を決め、瑞樹は喉を鳴らす。
 こういった手合いの『悪戯』が好きな友人だと承知しているから、動揺は大人二人よりは、小さい。
「ただ……この部屋から出る鍵は、ただ一つあるハズレ料理に入れてしまったのです」
「ハズレ?」
「辛くない料理です」
「ただ一つ?」
 こくり。
「部屋の……鍵?」
「ふむ。開かないな、筧さん」
 瑞樹が、ビクリともしない扉を確認する。
 なるほど、寮や自宅、校内などではなく、わざわざ『こんな場所』でパーティーを開いた段階でトリックは仕組まれていたわけか。納得。
 じゃない。
「酒井さん! なんで、そんなに落ち着いてるの!?」
「十年も一緒に居れば……慣れだな」
「その秘訣の方を、俺は知りたいよ」
 瑞樹が持つ意外な強さを、発見した気がする。
「皆さんなら、きっと鍵を探し出してくれると、私、信じてます♪」
 にこにこにこ。
 お菓子を差し出しても回避不可能な、トリックであった。

「少しずつ味見をしていけば…… いや。武士の心得ひとつ、一度箸を付けた物は完食せねばならない、なのだ」
 生真面目な瑞樹は、一口サイズに切り分けたピザを手にし、それから思い直して思い切りかぶりつく。
 ビンゴ。
「私はもはやこれまで…… 後は皆さんに託すのだ……」
「酒井さん! 慣れてるんじゃないの!?」
 多分、それとこれとは違ったのだ。
 がくりと後ろに倒れる瑞樹の背を支え、とりあえず鷹政は水を飲ませてやる。
「酒井さんは、お友達ですもの。つらい思いは、あまりさせたくありませんよね♪」
 一発昇天系を、オススメしておきました。
 友里恵の声に、表情に、あくまで毒気はない。
「俺らはなんなの……」
「……感覚が麻痺してからが勝負だな」
 社畜の顔に戻った創平は、淡々と料理に手を伸ばし始める。真面目ですね本当に。
「意趣返しのハロウィンパーティーでしたのに……。もっと強烈なものじゃなければ、米倉さんには通用しませんでしたか」
「意趣返し? 意趣返しって言った?」
「趣向を凝らしての、お返しです♪」
「上手いこと言って!!」
 とりあえず、ツッコミ不足の現状もどうにかならないんだろうか。
 鷹政は盛大な溜息を吐き、テーブルの上のグラスに手を伸ばす。

 辛かった。


 
 これが夢なら、どうか早いところ覚めて頂きたいが、辛さが痛みに変わってるということは、夢ではないのだろうか。
 かぼちゃに取り込まれた四人の行く末は、夢から覚めるまでわからない。
 たった一夜の見せる夢、どうぞ存分に堪能あれ……!




【かぼちゃな夜の見せる夢 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja7260/ 村上 友里恵/ 女 /14歳/ アストラルヴァンガード】
【ja0375/ 酒井・瑞樹 / 女 /14歳/ ルインズブレイド】
【jz0077/ 筧 鷹政  / 男 /26歳/ 阿修羅】
【jz0092/ 米倉 創平 / 男 /35歳/ シュトラッサー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
意趣返し……意趣返し……(ふるえ)。かぼちゃな夢オチ、お届けいたします。
内容から判断しまして、今回は分岐なし一本道での納品です。
楽しんでいただけましたら幸いです。
魔法のハッピーノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年10月31日

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