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『願い秋空へ 〜リンカ・ティニーブルー〜 』
リンカ・ティニーブルー(ib0345)

『……義貞。見ておきなさい……これが、アヤカシ……人間と、アヤカシの決定的な違いよ……』

 緑の毛をした四つ尾の狐アヤカシ、羅碧孤。
 上級アヤカシでありながら一時は人の情に触れ、人に想いを寄せた彼女が最後に紡いだ言葉は、人とアヤカシが相容れないという事実。
 羅碧孤が言の葉を放った相手、陶 義貞(iz0159)とは猫又の姿をした彼女を拾い、最終的に彼女を倒す道を選んだ少年の事だ。
 リンカ・ティニーブルー(ib0345)はその時の事を思い出しながら呟く。
「もし彼女が人間で、その状態で義貞さんの前に現れていたら……」
 考えるだけで胸が痛い。
 義貞が羅碧孤に向けていた視線、想い、それらに嫉妬しなかったとは言えない証拠が胸にはある。
 それは彼に想いを寄せるが故の乙女心。
 故に強硬な手段で彼を引き留めようとし、誰にも奪われていないであろう唇を奪った。
 勿論、自分もはじめての接吻ではあったが、後悔はしていない。寧ろ、そうしなければ彼は奪われていただろうから。
「……そう言えば」
 ふと物思いに耽っていた目を動かす。
 その目に映ったのは薄らと色を付け始めた庭木だ。それが告げるのは今がどの様な時期かということ。
(もうすぐ彼岸か……墓参りに行くのも良いかもしれないね……)
 羅碧孤が亡くなって三月が過ぎる。そろそろ彼女の魂を見送っても良い時期なのかもしれない。
「……行くなら義貞さんを誘おう。息抜きにもなるかもしれないしね」
 リンカはそう零すと、庭木を眺めていた目を戻し、急ぐように立ち上がって部屋を出て行った。

   ***

 東房との国境付近にある、北面・狭蘭(さら)の里。この地を訪れたリンカと義貞は、彼が羅碧孤と初めて会ったという場所を訪れていた。
「……ここが、アイツを助けた場所だよ」
 そう言って膝を折った彼に視線を注ぐ。
 時の流れと仲間が与える癒しとで、義貞は徐々にだが元気を取り戻してきた。それでも時折見せる憂いは羅碧孤が彼にさせるものだろう。
(……生きてたら、良い恋敵になってたんだろうね……)
 そう思うと苦笑が漏れるが、聞こえて来た声がその思考を断ち切る。
「リンカさん、ありがとうな」
 振り返った義貞が笑みを向けてくる。
 それに目を瞬くと、彼は少し照れたように笑んだ。
「里の様子を見に行こうって……墓参りに行こうって言ってくれて、ありがとう」
「っ」
 向けられる温かな眼差しに胸が高鳴る。
 それを隠すように視線を彼の手元に向けると、同じように膝を折って大地に触れた。
 此処は安全ではない魔の森。
 いつアヤカシの襲撃があるかわからない危険な場所だが、義貞とならばどんな事態も解決できる自信がある。
 その想いは、共にこの場を訪れてくれた義貞にもあると信じている。だからこそこうして落ち着いていられるのだ、と。
「……あたいは、故郷への仕送りを増やそうかって義貞さんが悩んでいたのも知ってたし、二人一緒なら小さな案件なら対処出来るし」
 だから……。
 そう言葉を切った彼女に、義貞の首が横に振れた。
「その気遣いが嬉しいんだ」
 義貞はそう告げると、改めて大地に視線を落とした。そして愛しげにその地を撫でる。
「リンカさんは、アイツの最後の言葉が聞こえてたか?」
 突然の問いに彼女の目が瞬かれる。
 羅碧孤が最後に紡いだ言葉。それは彼女が息を引き取る手前、虚空を見詰めながら愚痴を零すように放った言葉の事だろうか。
「配下のアヤカシをいつまでも生かしておいたのが失敗だった……とか、そんな言葉だったと思うけど」
 そう。羅碧孤は最後に自らの終わりを招いた結果を嘆いて息を引き取った。
 けれど義貞は違うと言う。
「それは最後じゃない。最後に『でも』って言ったんだ」
「あ」
 そうだ。羅碧孤は最後に皆には聞こえない声で呟いていた。
 その言葉は彼女の瘴気と共に消え、結局の所誰の耳にも届いていない――その筈だった。
「義貞さんは……聞こえてたのかい?」
 彼の様子から察するにそうに違いない。
 問いかけるリンカの声に義貞が頷く。
「アイツは『楽しかった』って言ったんだ」
「楽しかった……?」
 上級アヤカシが悔いるでもなく、人間を憎むでもなく、ただ「楽しかった」と言ったのか?
「俺も楽しかった……開拓者の皆と看病したのも、狙われるアイツを背負って闘ったことも、全部楽しかった……アイツに、止めを刺す、意外は……っ」
 語尾を震わせて俯いた義貞にハッとする。
 土を握り締めて肩を震わせる彼の頬が濡れていたのだ。
「……あたいも、楽しかったよ」
 そっと手を伸ばして彼の肩に触れる。
 その感触に義貞がビクリと震えたが、拒否されることはなかった。だからそっと包み込むようにして彼の体を抱き締める。
「羅碧孤は確かにアヤカシで、倒すべき存在だよ。でもあたいは、彼女の事が嫌いにはなれなかったよ」
 これは苦し紛れの言葉では無い。
 どれだけ嫉妬の想いを抱こうと、手ごわい恋敵であろうと、羅碧孤の事を嫌う事は出来なかった。
 義貞だけでなく、リンカの事も諭してくれたアヤカシ。その姿を思い出して彼を抱く腕に力を篭める。
「ねえ、義貞さん」
 今の義貞が返事をすることはないだろう。
 それを承知で言葉を紡ぐ。
「あたい達には祈りを捧げる事ぐらいしか出来ないけど、それでも再び巡り会いたいって思うんだ」
 他の開拓者も願った未来への転生。
 それが何時になるかはわからないし、アヤカシが人に転生するかもわからない。
 それでももし転生するならば、どうしても切に願う事がある。
(これはあたいの一方的な思いだけど……もし義貞さんがあたいを見初めてくれたら……そして、何時の日か子を宿す事が出来たなら……)
 今はまだ片思いだが、それでももし義貞と添い遂げる事が出来たなら――
(……あたい達の子供として生まれ変わってこないかい? あなたの愛した人の子として生まれ、家族の愛情を一身に注がれて生きてはみないかい?)
 自らが孤独であること、寂しい存在だということ、それらを自覚した上で開拓者の手を拒んだ孤高のアヤカシ、羅碧孤。
 彼女が最後に「楽しかった」と言ったのならば、その楽しさを末永く味あわせてあげたい。
 愛情を注がれる嬉しさ、共に笑える幸せ、それらを全てを彼女に教えてあげたい。
(あたいはこの夢が叶うように頑張るからさ……だから……)
「リンカさん……?」
 無意識に力が篭ったのだろう。
 涙を拭って顔を上げた義貞の顔が間近に迫る。
 それに慌てて体を放すと、彼の手がリンカの腕を掴んだ。
「待って」
 真っ直ぐに向けられる眼差しに心臓が大きく跳ね上がる。それに呼応して頬も赤く染まるのだが、義貞は気にせず続ける。
「俺もアイツに会いたい。だから、リンカさんが会う時は俺も一緒に会わせてくれるか?」
 真剣な瞳で問う言葉に拒否など出来るだろうか。いや、出来ない。
 そもそもこうした台詞を無自覚で言える辺りが恐ろしい。
 リンカは腕を掴む義貞の手に自らの手を添えると、彼の瞳を見てそっと微笑んだ。
「勿論だよ。義貞さんも一緒に迎えよう」
「……ん。ありがとう」
 そう言って微笑んだ彼に、笑みが深くなる。
 そうして改めて羅碧孤へ弔いを向けると、リンカは義貞に寄り添うようにして目を閉じた。
(……必ず、必ずだよ……それまで安らかにおやすみ……)

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib0345 / リンカ・ティニーブルー / 女 / 25 / 弓術師 】

【 iz0159 / 陶 義貞 / 男 / 17 / 志士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
大変お待たせいたしましたが、如何でしたでしょうか。
口調等、何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
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朝臣あむ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年11月01日

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