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『吸血鬼は何処へ往く〜おにーさんの突撃・ハロウィン編 』
百々 清世ja3082




 暗い夜道を、ひとつの影がひたひたと行き過ぎる。
 黒いマントが翻ると、電柱の頼りない明りを受けて赤い裏地が閃いた。
「うー……思ってたより遅くなったわ……」
 百々 清世は目をこすり、呻くように呟く。
 今夜はハロウィン。
 気の合う連中と仮装パーティーで大騒ぎ。
 大いに飲んで大いに笑って、ふと気がつけばこの時間になっていた。
 清世はそのまま雑魚寝の気分にもならず、会場を後にしてきたのだった。

 夜はもうかなり冷え込む時期だ。
 小さなくしゃみが飛び出す。
「今、何時だよ……もう部屋帰んのめんどいわ」
 携帯を取り出し、すぐに現在地から一番近い寝床を見つけた。
 清世はそのまま迷うことなく発信ボタンを押す。
 ややあって、相手が出た。
 おそらく無視するか迷っていたのだろう。それ位のコール時間だ。
「じゅりりーん!! はろー!」
 清世は別に気を悪くすることもなく、電話の相手に明るくご挨拶。
『一体今、何時だと思ってるんだ。……酔ってるな。まだ外なのか?』
「酔ってたらだめなのかよ。じゃなくて、えっとー……終電なくなっちゃった……みたいな?」
 沈黙。
「ちゃんと行く前に連絡入れる俺、偉いでしょ?」
『……来る前提か!!』
「すぐ付くから待っててねー!」
 清世はマイク部分にキスし、おもむろに携帯を切った。
 電話の相手は頭を抱えていることだろう。


 暗く静まり返った住宅街に、コンビニだけが明るく浮かび上がっていた。
 深夜バイトの店員は、入口に立った清世に一瞬目を剥く。
 ハロウィンパーティーの仮装の、吸血鬼の格好そのままだったからだ。
 清世はその視線を気にせず、ふわふわと店内を移動する。
「お酒とー、お酒とー。それから……ちげえ、今日はこれ要らねえわ」
 衛生用品のコーナーを素通りし、冷蔵ケースへ。
「おー、あったあった」
 目指す物を籠に放り込み、足取り軽くレジへと向かう。




 酔っ払いには帰巣本能があるというが。今日の清世は完璧なまでに酔っ払いだったにもかかわらず、自分の巣ではない場所へ一直線だった。
 いや、彼の中ではここも巣なのかもしれない。
 目指すドアの前に立ち、連打でチャイムを鳴らしまくる。
 すぐにドアが開き、どこか悟りを開いたようなジュリアン・白川の顔が覗いた。
「トリック・オア・トリート!」
 万歳の格好で大声を上げる清世を、抱え込むように家に引き込み、ドアを閉める白川。
「今何時だと思ってるんだ! 近所迷惑だろう!」
 白川の抑えた声。ヘッドロックをかけられながら清世はへらへら笑っている。
「お菓子くれー! いや……なんか。何でもいいや」
「相当酔っているな? よく路上で寝込まなかったことだな」
 呆れ顔の白川の腕から逃れた清世が、コンビニの袋を差し出した。
「酔ってまーす! だから酒買ってきたし、飲もう」
「いやもう何だか意味がわからないぞ」
「ちゃんといつものアイスも買ってあるからー! 俺ってやさしーよね」
 壁に縋りつく白川を後に残し、清世はお気に入りのソファに身体を投げ出した。
「やだーもうこれ邪魔」
 もぞもぞ動きながら、黒いマントを外そうとする。
 白川がその様を見て笑った。
「すごい格好だな。それで夜の散歩か」
「んー、これ? 似合ってるべ? 最初はちゃんと着ようと思ったんだけどー、やっぱ苦しかった」
 本来タイを結んでいるはずの襟元ははだけ、かなりワイルドな吸血鬼だ。
 清世はめんどくさそうに、そのシャツまでも放り投げている。
「あー、こらこら、脱ぐのはそこまでだ。大事なモノは仕舞っておきたまえ」
 グラスとあり合わせのつまみが、テーブルに並べられて行く。




 何となくつけたテレビでは、お化けの格好をした人達がゲームに興じていた。
 白川はグラスを手に、ぼんやりと画面を眺めている。
 ソファに仰向けに寝転がる清世は、白川のその顔を斜め下から見上げる格好だ。
「そーいや……じゅりりんはハロウィンしねぇの……?」
「しないな。私の歳ではやる方が珍しいと思うが」
 リモコンを取り上げ、白川がチャンネルを変えた。だが他も余り面白い物はやっていない。
「しねぇのかー、そっかー……」
 ソファの上に身を起こし、清世がテーブルに手を伸ばす。
 白川がそれを咎めた。
「そろそろやめておいた方がいいんじゃないのか。カクテルは悪酔いするぞ」
「カクテルじゃなくて、トマトのチューハイー! 今日は吸血鬼だからトマト大丈夫ーふわふわ気持ちいいカンジだしー」
 何がおかしいのか、清世がけらけら笑って缶を口に運ぶ。
「……やはりもうやめておいた方が良さそうだな」
 白川が清世の手から缶を奪った。
「えー、やだー! 血がないとしんじゃうー!」
 清世がソファの上で膝立ちになった。その膝立ちといえば、不安定な足場と不安定な人間の相互作用で、ぐらぐらだ。

 案の定、清世は白川目がけて倒れ込んだ。
「なっ!?」
 咄嗟に清世の身体を支えるが、ぐにゃぐにゃで頼りない。
「しょーがないからーじゅりりんの血でがまんするー!」
 清世はやおら白川に抱きつくと、顔を寄せた。
「おいこら、何をやっとるんだ何を……ッ!!!」
 首筋に妙に柔らかく温かな感触。
 白川は反射的に、清世を引きはがそうと腕に力を籠めた。
 だが体重を乗せて寄りかかる人間一人を起こすのは至難の業だ。しかも相手の腕が自分に絡みついている。
「じゅりりんもこの前してたじゃん?」
 清世は全く悪びれず、白い歯を白川の首筋に当てた。
「あれは、そういう芝居で! そう見えるように振りをしただけだ!! ……だから噛むんじゃないッ!!!」
 白川、酔っ払い相手に真剣に会話(マジレス)。当然無駄である。
「おにーさん吸血鬼だからしょうがないかなー」
 くすくす笑いながら、清世はいつの間にか白川の膝に半身を乗せていた。
 両肩に手をかけ、鼻がくっつきそうなほどに顔を寄せる。
「……重いぞ」
「どいてほしい?」
「ああ」
「でもだめー」
 歌うように言うと、清世は白川の肩に頭をもたせかけた。




 ようやく静かになった清世は、白川の腿を枕に半ば寝入っている。
(……全く、何を考えているんだ)
 白川はソファの背もたれに身体を預け、天井を仰ぎ見る。
(まああれだな、大型犬、か)
 昔、どこかの家で妙に懐かれた、黒い大型犬を思い出す。
 立ち上がってこちらの肩に前足をかけ、顔じゅうを舐めまわしてきた。
 この青年はどうやら、酔うと人にくっつきたくなるらしい。……じゃれつく遊び盛りの犬のように。
 だが白川は、この姿勢で朝まで過ごす気はなかった。
「そろそろちゃんと寝たまえ。風邪をひく」
 そう呼びかけ、軽く体を揺り動かす。
「うゆ……や、まだ眠くねぇし……寝てねえし」
「嘘をつくんじゃない。すぐ寝床を用意するから、そちらでちゃんと寝なさい」
 身体を支えて起こしてやると、据わったような眼で清世が見返してきた。
「わかった、じゅりりんと一緒に寝る」
「もちろん私も休むとも。だから寝床に……」
「じゅりりんのベッドで一緒に寝る」
 一瞬の沈黙。
「いやいやいや、待ちたまえ。どうしてそうなるんだ!」
「一緒に寝た方があったかいから」
 真顔で返されてしまった。白川は頭を抱える。だめだこいつ。なんとかしないと。
「わかった、その点は譲歩しよう」
 とりあえず寝かしつけたら、後で抜け出せばいい。悲壮な選択を続ける白川だった。

「じゅりりんのべっどぉーーー!!」
 ぼふんと飛び込み、清世がはしゃぐ。
「さすがに狭いぞ、全く……」
 白川は能面のような顔でベッドに身体を横たえた。
 決して狭いベッドではないが、恵まれた体格の男二人では流石に厳しい。
 否応なしにくっついた身体から、体温が伝わってくる。
 ……白川は両手で顔を覆いたくなった。
「じゅりりん」
「なんだ。早く寝ろ」
 早く寝てくれ。俺は離脱する。
「おやすみのちゅー」
「……」
 無言の拒絶に、清世が駄々をこねる。
「してくんなきゃ寝ないからなー。いーじゃん、減るもんじゃあるまいし、おやちゅーぐらいツレでも普通に……」
 意外にも柔らかな感触で不意に言葉を封じられ、一瞬目を見張る清世。
「……これで寝るな?」
「……うん」
 清世は素直に頷くと、鼻まで布団に潜り込んだ。




 勝手知ったる家のこと。
 起きだした清世は勝手にシャワーを使い、眠い目をこすりながら居間に入る。
 白川は朝食が並んだテーブルを前に憮然と座っていた。
「おはよー、じゅりりんも起きてたんだ」
「お早う。元気そうで何よりだ」
 返事が若干嫌味っぽい。
 清世はそれも気にせず、椅子の背中越しに白川に寄りかかった。
「じゅりりんー、おはようのちゅー」
「は? 何の事だ?」
 白川は表情を変えないまま、コーヒーカップを口元に運ぶ。
「えー、おやちゅーやったんだし、当然おはちゅーもだろ?」
 清世は不満げに白川の顔を覗き込んだ。
「何を馬鹿なことを。酔っ払って夢でも見たんじゃないのかね?」
 動じる気配も見せない、いつも通りの白川がそこにいた。
「じゅりりん、ずるいな……?」
 コーヒーの湯気越しに、清世は白川の澄まし顔を軽く睨むのだった。

 さて、真相は一体何処に?


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / 酔っ払い吸血鬼】

同行NPC
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 28 / 寝床提供者】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ハロウィンの夜の出来事、ちょうど翌日にお届けです。
ある意味リアルタイム進行という結果になりました。
今回は敢えて何もここでは申し上げず。お読みになった通りということで。
お楽しみいただければ幸いです!
この度のご依頼、誠に有難うございました。
魔法のハッピーノベル -
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エリュシオン
2013年11月01日

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