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『突撃パーティー・ハロウィンナイト 』
御手洗 紘人ja2549


 夏の気配が消え去り、秋が日に日に深まる季節。
 クリスマスまでには未だ遠く、読書の秋など詰まらない。
 美味しいものを食べるのも良いけれど、何か楽しいイベントは無かったろうか。
 イベント? そう、イベント!
「この時期なら、ハロウィンパーティーだよね!」
「おー、いいねいいね」
 ぐっ、と拳を握って力説するチェリーは、夏のバーゲンで先取りゲットした秋物ワンピース姿。
 落ち付いた色合いのピンクがベースの花柄で、ボレロやカーディガンなどの上着で変化をつけやすく、お気に入りの一着だ。
 退屈を持て余していた百々 清世が、チェリーの発案へ頬杖を突いたまま笑って応じる。
 しゃらり、胸元でスクエアペンダントが音をたてた。
 チェリーのワンピースも清世のペンダントも、同じ夏の日、サマーバーゲンで『買ってもらった』もの。
 他に誰を巻き込み 違う 誘おうか、悩むことはなかった。

「どうせ、お菓子なんて気の利いた物を用意してない鷹政くんに悪戯しにいこー!」

 ほら、毎回毎回、金品をたかるのも悪いし。 
「序でに、そのまま仮装パーティーやろー!」
「仮装いいなー。チェリーちゃんは何やんの?」
 可愛い女の子だったら、何を着ても可愛いだろう。清世が身を乗り出す。
「んー……魔法少女から魔女へランクアップなんて、どうかな!」
「いんじゃない? セクシー度UP系ー。じゃあ俺、吸血鬼にしよー」
「パーティーの為の食材とか衣装も買って行かないとだよね!」
「スーパーの場所は覚えてっけど…… 衣装系の店って、あの辺にあったっけ?」
「チェリーの情報網を甘く見ないでよね! あのエリアは庭のようにチェック済みだよ!!」
 ぱちぱちぱち。清世が、素直に感嘆の拍手を送る。
「ふふっ、これで冬に向けてのネタはバッチリだねっ☆」
「……へー……。ネタってあれか、ホモのやつか」
 いわゆる薄い本ってやつか。
 清世にそっちの知識はないが、チェリーがそっちの世界へ首を突っ込んでいるらしいことは、知っている。
(あれ?)
 もしかして、
(おにーさん、期待されてる系……?)
 鼻歌交じりで計画を詰めてゆくチェリーを、ややぎこちない笑顔で清世は見守った。





 暗雲垂れ混むハロウィン当日。
 今にも雨が降り出しそうに、空は暗く重い。
「よっし、衣装はバッチリだね!」
「ん? 荷物増えてね? そっちも貸しなよ、荷物持ちなら任せてー」
 自分とチェリー、二人分だけだったはずだけど、いつの間にかチェリーはもう一つ、紙袋を提げていた。
 さりげない動きで、清世がそれを攫う。それほど、重くはないけれど――まあ、パーティー向けの衣装は得てして、そんな具合だけれど。
(あー、そっか)
 もう一人いるもんな。
 納得して、深くは問わず、清世は先を行くチェリーに並んだ。

 お兄さんも鷹政くんも、すぐにアルコール行っちゃうんでしょー!
 むくれながらも、オードブルメニューを呟きながら食材を買い込むチェリーの横顔は何処か楽しそうで、釣られて清世の表情も緩む。
(そーだ)
 カゴの入ったカートを押しながら、通り過ぎた売り場を3歩ほど戻る。
「これは…… うん、俺持ちでいいや」
 会計を別カウントしやすいように、少し離れた場所へシュークリームを放り込んだ。





 見慣れたマンションの一室、『筧 撃退士事務所』のプレート。
 なんだかんだで、このプレートに変わってから一年ほど経つそうだ。
 真新しい、という形容も、少しずつそぐわなくなっている。

「Trick or Treat! こんなお菓子でイタズラ回避できると思ってんのー?」
「お菓子くれても悪戯するZO☆」
 何故か玄関に提げられていたキャンディブーケ。こんなもので退治される我々と思ってか!!
「ですよねー!」
 来たか、とばかりに筧 鷹政がドアを開けた。
「ハロウィンパーティーしよ、鷹政くん☆ 材料はホラ、全部用意したから! 上げ膳据え膳、武士は食わねど高楊枝! やったネ☆」
「今夜は呑むよー 呑むよ、筧ちゃん。覚悟はいーい?」
「チェリーがパパッとオードブル、作っちゃうからね☆ ほら、着替えて着替えて!!」
「へ? え、コレなに?」
 押し付けられた紙袋とチェリーの顔とを、鷹政は見比べる。
「筧ちゃん、どうせ持ってないでしょ、仮装の衣装」
「そりゃな?」
「買って来てあげたよー、ほら、ちゃんと鷹政くん名義で☆」
「……三人分、あるね? 食材も含まれてるね?」
 チェリーから領収書数枚を手渡され、薄々そんな気はしていたけれど、と鷹政が口ごもる。
「鷹政くん、おとなでしょ!?」
「まあ……」
 まあ、正月や夏に比べれば可愛いものか。
 そう思って受け取ってしまった辺り、鷹政もどこか感覚が麻痺しているのかもしれなかった。
 チェリーの強引な理屈にも変に納得し、勝手知ったるなんとやらで上がり込む二人を事務所兼自宅へと招き入れた。





 オーブンレンジがあるでもない、圧力鍋があるでもない。
 冷蔵庫の中はいつだって必要最低限。
 そんな筧宅のキッチンで、何をどうやって毎回、チェリーはこれだけの料理を作ってみせるのだろうか。
「お待たせ☆ 魔女の特製★ハロウィンメニューだよっ!」
 背中がVカットされた黒ドレスに身を包んだ魔女チェリーが、カボチャをメインに使ったオードブルを大皿にまとめて運んできた。
「セクシー衣装に心奪われたらダメなんだからね〜☆」
「おー、いいねチェリーちゃん。セクシー、セクシー!」
 清世が口笛を吹く。歩く度に、深いスリットから白い脚が艶めかしく覗いて大変よろしい。
「そんなお兄さんも、危険な香りだね☆」
「お、わかる? もらいもんだけど、ちょっと香水つけてみたー」
「……」
「鷹政くんも、すっごい似合ってるよ! 首輪と犬耳!! チェリーの期待を裏切らないね!!」
「いや、これ、おかしいよね!?」
 コストが低く済んでよかったね、じゃない。
 真面目に着替えてから『おかしい』と気づくのもアレである。
「筧ちゃん、狼男だろ? 基本は半裸じゃん?」
 上を脱いで、犬耳カチューシャと首輪、以上。なんかおかしいだろコレ。
「いやいや」
「マジだって。俺も去年やったしー。写メみる?」
「……マジだった」
「だろ」
 こくり。
 実物を見せられては、頷くしかない。
 しかし、首輪から鎖が下がっているのはなぜか。
「ワイルドさが出るかなって!」
 だそうです。
「とりあえず、食おうぜ呑もーぜー。お腹空いた!!」
「今日の功労者は、チェリーちゃんだね。何から何まで準備してもらっちゃったな。連絡くれれば、こっちだって何か用意したのに」
「それじゃつまんないじゃない! 財布か身体、どっちかは確実に狙い撃つのが目的なんだから〜☆」
「え?」
「はーい! かんぱーいっ☆」
「かんぱーい! ほらほら、筧ちゃんも」
「いや、今、なんか不穏な単語が聞こえた」

 なんだかんだで、この二人が突撃するのも三回目。
 常に酔い潰されているような気もするけれど、美味しい手料理と気楽な会話はいつだって楽しい。
「それにしても、鷹政くんもようやく落ち着いたー? テーブルなんか買っちゃって、驚いたよ☆」
「あー、さすがに。毎回、入り口から持ってくるのも面倒だし、折り畳みなら楽だしさ」
 フローリングにはシートクッションを敷いて、友人たちが押しかけて来た時もある程度、寛げるくらいには。
「あれ、でもベッドは相変わらずねーの?」
 手足を伸ばし、清世が部屋の奥を覗きこんだ。
 少しだけ配置は変わっているが、ソファベッドは相変わらず一つだけ。
「この広さですからね……。二段ベッドを導入するのもどうかなって……」
「どうすんのよ、冬に入ったら凍え死んじゃうじゃん」
「泊まるのか、冬にも!!」
「終電はやいじゃんー、この辺り。呑んでたら軽く逃すよ?」
「まあねえ……。あ、このカクテル美味しい」
「だろ。トマトのカクテル! おにーさん、吸血鬼だからねー」
「チェリーはトマトジュースですよーだ★」
 未成年のチェリーは、一人だけノンアルコール。
 とは言え、眼前の二人でバッチリ目の保養をしているのでフィフティ・フィフティ?
 カクテルを開けた後は、のんびり水割りで。
「そいや筧ちゃん、飲みの合間に甘いの挟むって言ってたっけ」
「あー、うん。けっこう好き」
 生活習慣病危険サインの嗜好だが、ほどほどにしておけば大丈夫、きっと。
「これ、俺からのおみやー。一緒に食おうぜ」
「おお、シュークリーム」
 珍しい差し入れに、鷹政の目が輝く。
「冷凍庫には…… あるんだろ、アレ?」
「ふっ……。腐らないからね。いつ来ても良いように、ストックしてるよ。朝に食べよう」
「っしゃー!」
 冷凍庫へストックしてあるダッツについて、顔を寄せ合う男二人。絵面だけなら御馳走様です。
 心の中で手を合わせながら、チェリーはカボチャのスープを飲み乾すふりをして、緩む表情をそっと隠した。





 いつになく穏やかだなー、と鷹政が思った時には、既に術中にあった。
「あれ」
 清世のグラスへ酒を注ぎたしながら、互いのペースの違いにようやく気付く。
(百々君……、こういう飲み方だっけ?)
「鷹政くーん、束縛と麻痺どっちがいい? 睡眠は面白くないから却下ね☆」
「チェリーちゃん? なんの話ですか?」
「スキル的なOHANASHI★」
 鷹政の視線がチェリーへ動く、その隙を突いて清世が手首を掴んできた。
「うわっ?」
「いっとくけど、おにーさんホモじゃねーし!」
「いや、知ってるけd」
 ふわり、視界の端で桜の花弁が舞った。――チェリーの光纏だ。
「来れ、常闇の捕縛者よ」
 聞き覚えのある悪戯っぽい呪文の響き。禍々しい影が鷹政へと伸び、動きを束縛した。
(やだ……。お兄さんったら大胆……そんな鷹政くんの豆乳首連打だなんて……)
「デジカメで保存はお止めください!!」
 スキル発動後、粛々と『記録者』に回るチェリーへ、鷹政が叫んだ。
「鷹政くん……微妙に感じるのは止めてくれる?」
「ねぇっ、し!!」
「うるせぇな、じゃあ筧ちゃんが俺になんかしろよ!」
 ぐい、清世は鎖をひっぱり、顔を近づける。
(いや、ほら……いつも遊んでくれるチェリーちゃんに恩返しっつーか、しようと思って。……ネタ探してるって聞いたから)
(……あー)
 なるほど。
「お望みとあらば」
 薄く笑い、鷹政は清世のうなじへとそっと手を伸ばす。顔の角度を変えさせ、重なるように見せかける。
 チェリーからは、丁度、陰になって『それっぽく』見えるはず。
「〜〜〜〜っ!」
 他方の手で、思い切り清世の鼻をつまんでやる。良い具合にもがいてくれた。
「筧ちゃんのばか! 痛くするとかさいてー!!」
 もう無理!!
 辛すぎたのと叫んだせいで一気に酔いが回ったのとで、清世は鷹政の胸へと寝落ちた。
「……最初から目的が解ってれば、俺のテクに掛かればこんなもんだぜ……?」
※フェイクです
※これは酷い絵面です
「うわー☆ この映像、幾らで流せるかな……」
「すみません、本気で指折り数えないでください」





 雨だれの音と、喉の渇きで清世は目を覚ました。
 夏に泊まった時のように、自身は応接セットの椅子を繋げたものに寝かされていた。
(あー……)
 身を起こし、状況を把握する。
 パーティーの後はきちんと片づけられていて、チェリーが毛布にくるまってソファベッドで寝息を立てているのが影になって見えた。
 鷹政は、相変わらず横に転がっている。
 二人を起こさないように、気配を殺してそっと水を飲みに部屋を横切って。
(ふー 生き返る……)
 楽しいこと至上で生きてきたが、今回は一生懸命かんがえたきがする。チェリーちゃんは、果たして喜んでくれたろうか。
「筧ちゃんも、お疲れなー」
 平和な寝顔の、その額に軽くオヤスミのキスを落とし、清世は与えられた寝床へと潜った。



 ――という部分まで、チェリーの赤外線カメラがバッチリ収めていたことを、二人は知らない。





【突撃パーティー・ハロウィンナイト 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2549/ 御手洗 紘人/ 男 /15歳/ ダアト】
【ja3082/ 百々 清世 / 男 /21歳/ インフィルトレイター】
【jz0077/ 筧  鷹政 / 男 /26歳/ 阿修羅】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
筧事務所に集ろうず☆ハロウィン編、お届けいたします。色んな意味で、馴染んでまいりましたね……。
内容から判断しまして、今回は分岐なし一本道での納品です。
楽しんでいただけましたら幸いです。
魔法のハッピーノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年11月05日

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