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『妖怪たちの祭囃子 』
黒・冥月2778

1.
 宵闇に沈む街のどこかから、祭囃子が聞こえた。
「どこかで祭りでもやってるのかな?」
 草間武彦(くさま・たけひこ)は音の方向を探るように辺りを見回した。
「…もう、ハロウィンのデートでしょ? それに…なんとなく嫌な感じがするわ。この音に関わるのはやめましょ」
 草間と腕を組んでいた黒冥月(ヘイ・ミンユェ)は、秋の風に吹かれながらギュッと恋人にしがみつく。
 しかし、そんな忠告も聞かずに草間はフラフラと歩く。と、いつの間にか2人は見覚えのない大きな鳥居の前にいた。
「どこだ? ここは」
 そう草間が口にすると、ふわっといつの間に現れたのか提灯を持ったはっぴ姿の男。手招きして、後をついてくるようにと先を行く。
「ねぇ? 武彦。止めましょうったら」
「だけど…あいつが来いって…」
 草間は誘われるままにそれについていくと、賑やかな夜祭の会場へと行きついた。
「招待状はお持ちですか?」
 その声に首を振ろうとしたが、男は草間の頭の上から1枚の葉っぱを手にした。いつの間にそんなものが乗ったのだろう?
「はい、確かに招待状を拝見しました」
 そう言った男は、ふさふさの金色のしっぽを揺らしながら言う。
「どうぞ、楽しんでいってください」

 よくよく会場を眺めれば、人間とは違う者たちばかり。
 一つ目の妖怪や、からかさお化け。
 どうやら妖怪たちの祭りに紛れ込んでしまっているようだ。
「だから止めましょうって言ったのに。誘われるまま入るから……怪奇誘引体質は相変わらずね」
 冥月は苦笑いをして、嘆息を漏らす。
「お、俺だって別に好き好んで誘い込まれてるわけじゃ…!」
 反論した草間は完全に分が悪い。現に冥月の忠告を無視しているのだから。
「道が無くなってる…楽しめ、ってことね」
 今来たはずの道が、どこにもない。冥月はまたひとつため息をつく。
「…呆れてるって顔だな」
「呆れてるわ。でも、折角だもの。楽しみましょうよ」
 ふふっと微笑んで、冥月は草間と腕を組んで歩き出す。
 妖怪たちの夜祭へと…。


2.
 ジャガイモのトルネード揚げにかき氷、お面屋台に金魚すくい。
「…思ったより普通なのね」
 冥月は素直な感想を述べた。どこの屋台も普通であった。
 すれ違う者たちが妖怪であるということだけが、この場所の違和感。
 …いや、もしかしたら自分たちがここにいることが一番の違和感なのかもしれない。
「あ、見て。茄子のチーズ焼きよ」
 冥月が指差した方向を見れば、ナスをまるでピザのようにチーズをのせて焼いたものがある。
「珍しい。博多で人気の屋台メニューよね」
「美味そうだな」
 草間も興味ありげに屋台を覗き込む。
「おひとつ、どうだね?」
 牛の頭をした店主が、草間たちに愛想よく言う。
「日本円でいいのかしらね?」
「まぁ…出してみるしかないんじゃないか?」
 そう言って財布から1000円札を取り出す。
「はい、まいど」
 普通に買えてしまった。2つのチーズ焼きと返ってきたお釣りに、冥月と草間は顔を見合わせて笑う。
 立って食べるのは行儀が悪いと、2人は歩道から少し離れた岩の上に腰かけた。
 ホカホカと湯気を立てるそれは、とても美味しそうだった。ふと、草間がにやりと笑う。
「知ってるか? 日本では『秋茄子は嫁に食わすな』って言われてるんだぜ?」
 意地悪な顔。知っている。冥月の反応を見て楽しもうという時の顔だ。
 冥月はにっこりと笑い返す。
「それは贅沢だって意味かしら? それとも体を気遣ってくれてるのかしら?」
 その笑みが本当の笑みでないことは、草間がよく知っていた。どうやら冥月の逆鱗に触れかけているということも。
 だが、草間も負けじと笑う。
「…今の発言は『俺の嫁』であることを認めたってことでいいんだな?」
「!?」
 改めてそう訊かれると、確かにそれは冥月が『草間の嫁』であることを前提とした発言ととれる。
「あ…は、嵌めたわね!?」
「墓穴だろ? よし、じゃあ嫁としてまず俺に一口食わせてくれ。ほれ、あーん」
 そう言って大口開けた草間に、冥月は赤くなりながら観念したように茄子のチーズ焼きを草間の口に放り込んだ。
「あっちぃ!!」
「じ、自業自得だわ」
 焼き立てのチーズ焼きを頬張れば、火傷するのは必然。冥月は口では冷たいことを言いながら、近くの飲み物屋へと冷たい物を買いに行くのだった…。


3.
「巫女様!」
 チーズ焼きを食べ終えて、屋台を回っていた冥月と草間の後ろから声が聞こえた。
「巫女様!」
「?」
 振り返れば烏帽子に狩衣、切袴という神楽の衣装を着けたガマカエルがこちらに走ってくる。
 立ち止まっていると、カエルは冥月たちの前で止まった。
「巫女様、探しましたぞ」
「巫女…様??」
「誰が?」
 きょとんとした冥月と草間に、カエルはさも当然のように言い切った。
「もちろん、貴女のことです。巫女様」
 その視線はしっかりと冥月を捕えて動かない。
「え…!? わ、私!?」
「巫女神楽がもうすぐ始まってしまいます。早くお支度を!」
 冥月の手を取って神楽殿へと走っていこうとするカエルに冥月は首を振る。
「待って! 私じゃないわ。人違いよ? 大体、私、巫女なんてやれる様な綺麗な人生じゃないけど?」
「いいえ、貴女様です。貴女様でなければ、今宵の巫女神楽は成功いたしません。どうか、どうか…!」
 切願するカエルにどうにか断りたい冥月は草間を見た。
 しかし、草間は嬉しそうににやにやと笑っていた。
「いいじゃねぇか。減るもんじゃないし。やってやれよ」
「武彦!?」
「あぁ、よかった! 巫女様、ささ。早く!」
 手を引かれ、冥月は強引に神楽殿へと連れて行かれる。それを草間は嬉しそうに眺めながら後からついてきた。

「………」
「見違えたな! やっぱなに着ても似合うな」
 巫女装束に着替えた冥月に、草間は満足そうに頷いた。
「そんなに言うなら自分でやればよかったのに…」
「おまえの黒髪によく似合ってる…って俺がやってどーすんだよ!」
「さっき可愛い巫女さんに見惚れてたの、気付いてないとでも? そーんなに見たいなら、巫女装束着て近くで見た方がよかったんじゃないのかしら?」
 そう言って冥月が指差した後ろには、青い髪をしたヒレのついた指の可愛らしい巫女の女の子が立っている。
「…そ、それは…珍しかったからで…」
 しどろもどろに草間は言い訳する。それを冥月は追い打ちをかけるように冷たい視線を投げる。
「珍しいとじーっと見ちゃうの? 女の子を」
「……すいません……」
 草間が大人しく謝ったところで、冥月の踊りが奉納される番となった。
「ちゃんと…見ててね」
 そうチクリと草間に釘を刺して、冥月は鈴を手に奉納の舞台へと上がった。
 屋台の明かりに染まる舞台は赤く、まるで真紅の月の上のようだった。
 紅い月に落ちる黒い影。
 脳裏によぎるのは娘の姿。そして、愛しい恋人。可愛い妹。
 すべての人に幸せを。今宵限りの私の舞いが、私の想う人を守ってくれますように。
 ひらひらと緩やかに、鳴り響く鈴の音と共に舞い踊る冥月の姿はその場の誰をもの心に刻まれたのだった。


4.
「巫女様、この度は素晴らしい舞をありがとうございました」
 冥月を強引に舞台に上がらせたカエルは、深々と礼をした。
「貴重な体験だったわ。本当にあれでよかったのか、わからないけど…」
「大変素晴らしかったです! ワタクシ、心が震えるような感動を味あわせていただきました!」
 カエルは頷きながら、そっとハンカチで目頭をぬぐった。
「大げさね…」
 苦笑いした冥月に、草間は言った。
「いや、すごく綺麗だった。神秘的で…まるで手が届かない存在になっちまったみたいだった」
 ぎゅっと抱きしめられて、息が止まるかと思った。
「…バカね」
 冥月は草間の背中をポンポンと軽く撫でて、抱きしめた。
「…うぉっほん!」
 ハッと我に返ると、恥ずかしそうにカエルが目を逸らしながら小さな紙袋を冥月に手渡した。
「些細ではありますが、本日のお礼の品でございます。どうかお持ち帰りください」
 カエルは赤面したまま、それを冥月に押し付けると闇に消え行った。
 草間が冥月から体を離すと、辺りは段々と暗くなり、ついには真っ暗になった。
「これ…は…」
 遠くに小さな明かりが見える。あれは…街の明かりだ。
 振り返ればそこに祭りの気配などどこにも残っておらず、闇に埋もれる小さな神社がポツンとあった。

「ママ〜! おかえり♪ …パパに変な事されなかった?」
 草間の娘(仮名:月紅)は興信所で冥月と草間を出迎えるや否や、冥月にそう言った。
「…おい、おまえ…」
「あたし、パパのこと信用してないもーん」
 べーっと舌を出して月紅は冥月にべったりとまとわりつく。
「あーそう…そうかよ!」
「もう、2人とも…変なことで喧嘩しないの!」
 そう窘めた冥月だったが、いきなり風向きが変わる。
「そんなこと言うヤツにはいいもんみせてやらねぇもんねー」
「? いいもん??」
 なにか、嫌な、予感がした。
「へっへーん」
 そう言って草間が取り出したのは、スマホである。
「何? ま、まさか…!」
 冥月の顔が青くなるのを見て、草間は意地悪そうに笑う。
「そのまさか、だ」
「やっ!? やめて〜!!」
「え!? 何!? ママ関連!? 見たい見たい!!」
 親子3人、興信所でぐるぐると追いかけっこを始める。
 なにやらほのぼのな姿に、お茶を入れてきた草間零(くさま・れい)はふふっと微笑む。
 ふと、小さな紙袋に気が付いた。それは冥月があのカエルから貰ったお礼の品だ。
「わぁ、可愛い…」
 零は思わずそれを手に取った。

 中に入っていたのは、小さな水晶のカエルだった。
 子宝・豊穣・成功のシンボル…すべてを願い、包み込む愛を。

「ハッピーハロウィン…ですね」
 赤面する冥月と、楽しそうに笑う草間と、それを追いかける月紅。
 そんな幸せがここに有ることに零は目を細めて見つめた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間の娘 (くさまのむすめ) / 女性 / 14歳 / 中学生

 NPC / 草間・零(くさま・れい)/ 女性 / 不明 / 草間興信所の探偵見習い

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 黒・冥月 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度は魔法のハッピーノベル、ご依頼いただきましてありがとうございました。
 大変お待たせいたしました! ハロウィン過ぎちゃって申し訳ありません!
 巫女装束を着ていただけるとは…超似合いそうです! 似合いそう!!(興奮
 和風なハロウィン、少しでもお楽しみいただければと思います。
魔法のハッピーノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年11月07日

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