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『自由へ繋がるその道を 』
加倉 一臣ja5823


 平穏な、秋の午後。
 外へ出たなら風はピリリと冷たいのだろうけれど、窓から差し込む陽光は校舎内を暖めていて、気持を弾ませた。
 その日は一般授業も午前中で終わり、斡旋所にも気を引かれる依頼は見当たらず。
 ちょっとした安息日ということにして、小野友真と加倉 一臣は午後からの予定を話し合っていた。
 窓の外で、色づいた葉の一枚がひらりと落ちていく。
「一臣さん、どこ遊び行こかー」
「時間あるしな。ちょっと遠出もできるよな」
 他の友人も誘う?
 車出しちゃう?
 美味しいもの食べに行く?
「迷うな。そやったら俺は――…… はっ」
「うん?」
 何かが友真のアンテナに引っかかったらしい。
 急に顔を上げ、弾丸の如く走り出す。

「トリック&トリートぉぉ!!」
「ぐは!!?」

 職員室から出てきた筧 鷹政の背へ全力タックル。ずべしゃ、と床へもろとも倒れ込む。
 笑って見届け、一臣はゆったりとした足取りで追いつき、しゃがみ込んだ。
「筧さん。せっかくの秋晴れだし、一緒にハロウィン・ランチしません?」




 テイクアウトOKの、小洒落たカフェ。
 ランチタイム中ということもあり、胃袋を刺激する香りと若者たちで賑わっていた。
「へぇー、最近できたところ? 知らなかったな」
 落ち着いた内装で、男性一人でも気軽に立ち寄れる雰囲気。
 良い所を教えてもらった、と鷹政は上機嫌に呟く。
「期間限定メニューがチョイチョイ切り替わって、面白いんですよね。
……依頼の報酬が入ったので、ここの支払いは俺に任せてもらおうか」
 サラリと髪をかき上げ、一臣はイケヴォで告げた。
 ローストビーフサンドやパンプキンポタージュをオーダーし、冷めないうちにと移動する。
 徒歩でも行ける範囲内の、久遠ヶ原の海へと。


「うーみー!」
 低い岸壁の上から、友真が絶叫する。
「海来たら叫ぶやろ、さーご一緒に!」
「と、言ってる小野君をムービー保存しておきますね」
「筧さん、どこでそういうん覚えてきたん……」
「友真の絶叫なんて、使い道少ないと思いますよ、日常的すぎて」
「一臣さん、どういう意味……。……海入るんは、もう冷たいから控えとこ」
 二人がランチを広げるのを見て、友真は大人しく一臣の隣へ腰を下ろす。
 潮風と、波の音。遠く、カモメたちの鳴き声。
 ほんのり温かいサンドイッチ、スープは未だ熱々だ。
「飲物は俺に任せろ、買っといた!」
 すちゃ、っとホルダーから友真が取り出す。
「コーヒー、ココア、紅茶…… ハロウィンに因んで南瓜味で揃えてみた! 気の利く俺……」
「「南瓜味」」
「南瓜商品て甘くて好き、幸せ。さぁ筧さんも遠慮なく……」
 ドヤ顔で笑う友真に対し、『何故それをチョイスした』という二人の反応だが、友真は気づいていない。

 ローストビーフサンドに添えられるポテトチップスも、期間限定で南瓜チップスに。
 こういう季節の楽しみ方も、良いかも知れない。
「もう、秋かー。あっという間だねぇ」
「……京都も取り返しましたしね。さすがに未だ、紅葉狩りとは行きませんけど」
「ん」
 一臣の言葉に、友真は神妙な面持ちでスープを喉に流し込んだ。
 京都。
 一臣が、鷹政と初めて戦いを共にした場所であり。
 友真が、撃退士としての矜持を懸けた場所であり。
 一年半に及ぶ長い長い戦いの中で、撃退士たちへ小さからぬ成長を促した場所であった。
「さすがにもう、ぽんぽこは居ないよなぁ」
「俺、それ話にしか知らんですけど、そんなに…… やったん?」
「あれは酷い戦いだったぜ、友真」
 視覚的な意味で。
「あの時のフリーランスの皆さんは、お元気ですか?」
「元気元気。今でも時々、組んでるよ。指揮が完全に学園に移ってからは京都に携わることも無かったし、地元勢は今回の奪還でやたら張り切ってる」
「ああ、なるほど」
 京都奪還戦、と銘打たれる頃には、完全に学園の撃退士だけで作戦に当たっていた。
 『封都』の頃はまだ、外部からの応援もあったのだけど。
「皆が、頑張って繋いで結んでくれた糸、だね」
 それは、天界勢の張り巡らせた結界よりも強固な意志。
 紡ぎ、結び、編まれ、時間をかけて再興してゆくだろう。
 新しい戦いが、あの土地で待っている。
「花見は、京都でできるんかな」
 せめて、桜の花を楽しむことは。
「頑張り次第? 夏の祭りとか、見たいよな」
「筧さん」
「ん?」
 ふ、と友真が真顔になる。
「京都の夏…… ナメん方がええです。生半可な心構えやと、死にます」
「……そんなに、なのか? 友真」
 出身は北海道、一臣が聞き返す。
「大阪とも、ちょっと違うで。盆地、凄い」
「旭川とか、そんな感じか……?」
 夏→凄い 冬→凄い
 そんな連想から、一臣は自分にわかる感覚へ置き換えるが、友真は旭川を知らない。
「とりあえず、日本の広さはよくわかった」
 関西と北海道、それぞれの感覚で喩えて考え込む友真と一臣の姿に、鷹政は笑いを誘われた。




「美味しいトリート食べた後は腹ごなしに……トリック行きますか」
 サンドイッチの包み紙をクシャっと丸め、ビニール袋へまとめつつ。
 友真が立ち上がり、赤毛を見下ろした。
「食後のデザートもこの通り。お菓子も悪戯もプレゼント、ってね」
「筧さん、浜辺で練習試合どないすか!」
 一臣は、ハロウィン柄の包装が愛らしいキャンディを取り出した。
「トリックタイムはキャンディが口の中から消えるまで、とか。いかがですか?」
 拳を鳴らす友真に、何を持ちかけているのか鷹政は察する。
 加えて、一臣の提案へ――
「案外と、鬼なところあるよな加倉」
「え? そんなことは」
「無自覚か。まあ、それはそれで」
 鷹政の含み笑いの意味を、友真も一臣も気づかない。
「じゃ、就職採用試験の模擬テスト……ってトコロでいいかい?」
「元ヤンの意地見せたるで、中学時代だけですけどね!」
「こっちは25で学園入る前まで現役だったぜ」
「筧さん、それ既にヤンキーじゃなくてチンピr なんでもないです。じゃ、俺は見学兼ジャッジを」




 トントン、ブーツの先で砂を蹴り、鷹政は足場を確認する。
「結構、もってかれるな」
 砂は夏のような滑る感触ではなく、水分を含んでずっしりと重い。
 足回りに注意が必要なことに変わりはないが、体重移動に気を配る必要がありそうだ。
 ――一臣の指笛で、試合、スタート。

 速攻で友真が距離を詰める、身を沈めて足払いを掛ける。
「軽い!」
 スキルを伴わない行動は、単純に力勝負となる。ウェイトのある鷹政の体勢を崩すには至らない――増してや『足場に要注意』の砂浜だ。元より警戒している。
「一撃で終わりやなんて、油断は大敵やで!」
 小柄さを活かし、友真は振りぬいた足の勢いを止め、かかとで砂を散らす。
「身の回りの物を使うのは、お約束だよな!」
 目つぶし狙いの砂の幕は、脱ぎ捨てられるコートで阻まれた。
「ちょ! それ、ズル……」
「どっちが?」
 払われるコートから繰り出される拳。
 手刀へと形を変えて、友真の肩を狙う。寸でのところで後ろへ転がり、友真は難を逃れる。
(近接格闘は履修してるし、十代の頃は随分とヤンチャもしたけれど…… ヤンチャだな、あれはな)
 目つぶしの友真、コートで視界を遮る鷹政。
 一臣は双方の動きを観察し、クセや取り込めそうなものは無いか探した。
(ああ、けど)
 鷹政は剣道をやっていたという話だったか。
 そうしてみると確かに重心がしっかりしている。
 沈みやすい砂浜に対し、踏み込みをせず足さばきによって、突進してくる友真を往なしていた。
 友真は、自身の体格に助けられている点が多い。
(蹴り技が少ないのは…… フィールドが砂浜だから、なのかな)
 開始前に、鷹政が足場を確認していたことを一臣は見逃していない。
 失敗すれば全身のバランスを崩しかねない足技は控えて、スピードと手数を繰り出せる戦い方を優先、か。
 リーチだけなら脚の方が有効だろうに、不自然にも思えるスタイルを、そう分析する。
 対照的に、フットワーク重視の友真は息が上がり始めていた。
 懐に入ってから、友真は回転を利かせた拳で腹を狙う。相手は、でかい的だ。
(なるほど、あそこでそう来るか)
 直線的な攻撃は、半身を引いて回避され―― そこまでが、友真の読み。
 肘を折り、ガラ空きのミゾオチへと追撃の弾丸を打ち込む!
「っ、」
 流石に鷹政の顔色も変わる。
「まだや!!」
 スタミナが切れかけながら、友真は止めの殺撃を――
「あっ」
「……その指は何かな、小野君」
「俺が銃を持っていたら…… 危険でしたね、筧さん」
 素手であることを忘れてました。
「俺が刀を持っていたら、危険だったね小野君」
 とん。
 鷹政が、手刀を友真の首筋へ。
 からの――
「! いっ」
「最初から、こうなると思って」
 かん、と軽く下から顎を小突く。
 飴を口に含んでいた友真が、思い切り舌を噛んだ。
「これ、グーパン顔に入ったら大惨事だぜ。転倒しても危険だけどさ……。加倉たち、こういうプレイ好きなの?」
「プレイとか言わないでください……。友真、舌だして。……ん、応急手当までは要らないか」
「こえは、いひゃいえ、かうおいひゃん」
 恨めし気な眼差しで見上げられ、一臣はHAHAHAで誤魔化した。




 近くの自販機でホットコーヒーを買ってきて、手のひらを温めながら三人は帰り道を辿る。
「どーでしょ、俺。高卒で雇えそうなレベル?」
「うっかりさんは致命的だね、この一年間、しっかり勉強するが宜し。ほら……俺も、うっかりさんだから……」
「……筧さん」
 顔を覗き込む友真に対し、鷹政が目を逸らし、そんな背を一臣が叩いた。
「それにね、『雇う』『雇われ』なんて余裕はないからな。一緒に看板しょってもらう覚悟でいてもらわないと」
「『筧・小野 撃退士事務所』か……」
 顎に手を当て考え込む友真の、髪を鷹政がワシャワシャとかき回した。
「想像できそう?」
「イメトレは、バッチリです!」
 ――学園卒業後は事務所に入れて貰って、勉強したいん!
 友真が宣言したのは、今年の初め頃だったろうか。
 不確定な青写真に対して、きちんと考えてくれていたことが鷹政には嬉しかった。
 見据えるに値する目標としてくれているなら、そんなに嬉しいことはない。
 繋がる道であるように、自身も歩いてゆこうと気持ちを新たに。
「それは楽しみだ」
 瞬間瞬間、その日その時を生き抜くことで手いっぱいな日常で。
 遠い未来を待ち望むことができる幸福――それが幸福なのだということに鷹政が気づいたのは、並び歩く存在を喪ってからだ。

「来年の今頃は、皆どうしてるだろうね」

 近くて遠い未来。約束。
 命がけの日々を潜り抜けた、その先で。
 変わることなく笑いあえることを祈って。




【自由へ繋がるその道を 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6901/ 小野友真  / 男 /18歳/ インフィルトレイター】
【ja5823/ 加倉 一臣 / 男 /26歳/ インフィルトレイター】
【jz0077/ 筧 鷹政  / 男 /26歳/ 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
トリック&トリート、盛りだくさんハロウィンお届けいたします。
内容から判断しまして、今回は分岐なし一本道での納品です。
続いていた人生設計。楽しんでいただけましたら幸いです。
魔法のハッピーノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年11月11日

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