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『 』
神喰 朔桜ja2099
●忌光翔翼


 自分が異質なのだと理解したのは何時だろう。
 余りにも退屈な微睡の中、瞼を細めて幾度となく繰り返した自問自答を繰り返す。
 それは感性の問題。絡み合うのは少女が持って産まれた天賦の才能。周囲と自分の差異を幼くして感じ取ってしまった敏さも、決して埋められない渇きとなっていた。
 それが囁くのだ。この世の統べてが愛おしくて、好ましい。なのに、どうして触れられないのだろう?
 それを言い替えるならば神喰 朔桜(ja2099)そのものを問う行為に他ならない。
 己と他人が違うという事を、物心付いた時には気づいていた。
 そして、それが愛おしくて好ましいと常に想い続けていたのだ。
 自分と同じモノだけが好きならば、鏡でも抱き締めていれば良い。相手の内面を深く理解して、違いと相手のみが持つ個性をも愛して、初めて抱き締めるように触れ合えるのだと朔桜は識っている。
 だからこそ、この世の統べてが愛おしい。
 この世で何一つ、自分がないという事。裏返しで孤独に蝕まれている事さえ、ある種の歓喜だ。
 抱き締めることも、抱き締められることもない現実を、厭う事なんてある筈がない。
 老成して達観した幼い朔桜の思考は、ならばと空を見上げる。
 澄み渡る青空。この下の何処かに、きっと触れ合うる人がいる。抱き締めても壊れない人がいる。
 胸の中、狂おしい程、全力で抱き締めたくて、抱き締めて欲しい飢餓が渦巻いていても、それが朔桜の願いの形だった。痛みが、自分の姿を作っている。
 これは愛?
 それとも祈り?
 応えは見つからない。愛して欲しいのか、愛されたいのか。祈りの往く果てが何なのか。
 ぼんやりとした輪郭でしか感じられない。だから、壊れ果てるまでに抱き締めて、抱き締められたいと思うのだけれども。
 そういう感性自体、他人とは違うらしい。隔絶された心で、朔桜は薄暗い心を瞬かせる。他と相容れない。そう理解は、している。

「ああ、でも――」

 呟いて、気付く。学校の図書室、その窓際に、朔桜は一人座っている。
 周囲に人はひとりもいない。まるで皆、朔桜を避けているように、ぽつんと空白の空間が穴のように開いていた。
 これが朔桜の日常。余りにも図抜けた能力は、他人を遠ざける。喩えるなら獅子の周囲に、兎は近寄れない。存在と才能。その二つだけで全てを凌駕し、そして人に恐怖を植え付ける。
 それを寂しいとは思わない。
 苦しみを通り越して、今の人格へと辿り着いているのだから。


――だって、私はそういうもの。
 

 小学生の少女が、そう確信する。
 それが間違いではない事を、悪魔が歌にして示すだろう。
 物悲しそうに聞こえる囁きの調は破滅への誘い。そんな優しいものでは断じてないのだから。
 一度だって、朔桜の抱擁に耐えられたものはいないという現実が全ての証。全力で触れ合い、けれど壊れなかったものを、彼女は知らない。
 焦がれるように人を求めながら、それを破壊してしまう。まるで彼女と踊れば破滅へと 転がり堕ちるように。誰も付いていけない忌光の輪舞。嬉々として、悪魔が微笑んで手招いている。その悪魔の名を、慕情故の飢餓と呼ぶ。
 伝えたい言葉があった。
 だが、それは相手の心を壊す。
 触れたい相手がいた。
 けれど、触れた指先は鋭い爪跡を相手に残した。
 つまり、最初にあった獅子と兎の喩えの通りなのだ。
 獅子が兎は可愛らしいと触れれば、爪で柔らかな肉を斬り裂く。声を漏らせば、捕食者のそれに逃げ惑うしかない。
 天才は孤独とはよく言ったものだ。今の今まで、愛おしいからと、全力で触れる事が出来た事がない。その途中でみな、砕けて行く。
 身体も心も、魂さえも。
 どうしようもない、破滅の黒光。
 抱き締める事は、きっと出来ないのだろう。そんな答えに辿り着き、何時ものように思考を止めて瞼を落す。
――だから、私の輪郭は危ういよね。
 黒い衣服を纏う少女の姿は、確かに希薄だ。恐ろしい程の才覚と感性の鋭さを持ちながら、同時に影のようにうっすらと周囲に溶けてしまいそうな印象がある。朧なのだろうか。それとも影そのものなのだろうか。いいや、これは違う。誰とも、この世界の何物とも触れ合っていないのだ。一種、位相がズレている。
 それは心の在り方。組み合わさり方。異質と自らを評した所は、そこにあった。全身全霊を尽した事はなく、も乃ごとは触れれば全て容易く崩れる砂上の楼閣。ならばと力を律した結果が、己が世界への埋没だった。
 壊れない為に。壊さないために。全てが愛しくて、好ましくて、見ていたいのだから。
 触れれば壊れる。砕ける。散って雫へと流れる定めだと知っているから。『化け物』と称されたのも成程、正鵠を射ている。全身を以て拒絶し嫌悪するものさえなく、好の一点のみ抱くなど、天上か異界からの俯瞰でしかない。
 異質の感性と怪物の才覚。それが比翼の連理となりて、神喰・朔桜をより高みへ、完成された忌むべき光へと近づけていく。
 つまり、それは人間性の破綻。行きつく果てなど、触れ合い踊り続ける相手などいないという証左。
 だが、けれど。
 諦められるのだろうか。そんな筈はない。魂が愛したいのだと叫んでいる。
 それを仮面を付けて隠しても、中身が消え失せる事などないのだ。蓋をしてみないフリをしても、願いは加速して糜爛した熱を帯びて行く。達観。確かにしている。だからこそ、彼女は願望を抱くのだ。
 がたりと席を立つ。苛立ちというには余りにも寒々しい、祈りを映す瞳。
 余りにも閉じられたこの世界。――たいと思うのだけれど、朔桜は最後の希望とて抱いている。この世界は、広い。胸に飢餓を抱え、何をしても埋まらない空虚さばかりとしても、絶望するなどあり得ないのだ。
 だから手を伸ばした。硝子窓の鍵を開けて、空へと近づく。図書室に入り込む風は冷たく、伸ばし放題の朔桜の髪をばさばさと靡かせた。
 それは翼にも見えたし、或いは影が霧散していくようにも感じた。朔桜の姿、その輪郭がぼやけて吹き飛ばされていくように見えたかもしれなない。
 向かい風。その中で、少女が眼差しを向けるのは蒼穹の空。
 至高の頂き。世界の中心。朔桜が見る事が出来るのはほんの僅かな場所だけだ。今は自分を遠巻きにする子供ばかりの図書館だけ。だが、あの空から見ればどうなのだろう。
「翼が、欲しい」
 擦り減って摩耗した感情が、呟きを漏らした。
 それは無感動で無機質で、けれど、僅かな熱を持っている。
 鼓動するものがあるのだ。脈動する渇望がある。あの空まで飛ぶ事が出来れば、こんな狭い場所ではなく、広い世界へと飛び出せれば――きっと、ある。
「至高の天へ」
 そこならば見つかるだろう。抱き締めても壊れないものが。
 幾ら全力を出しても、己が慕情を向けても砕けない存在が。共に踊れど、破滅へと高速で廻り落ちて行くだけの破滅の舞踏ではなく。何か。きっと何かで誰かがある。いる。
 この世界さえ超越してしまえば。
 全てを超えていけば、きっと同じソラを目指した、翼あるものへと出逢える筈。
 壊す必要などないのだ。
 越えていけば良い。地平で足りないならば天空へ。その最中、或いは極点にいるものに触れたい。
 踊ろう。
 燃え尽きるまで。
 愛させて欲しいし、愛して欲しい。
 壊れて、壊される程に、この想い――受け止めて。
 そして、願わくば壊れないで欲しいと、少し、胸の中へと誤魔化すように言葉を紡いだ。
 流れ続ける風は、朔桜の長い髪を翼のようにはためかせる。
 空へと飛翔する、黒光の鴉。未だ殻という仮面を被った、忌光の雛鳥が此処にいた。






 そうして、物語は加速する。
 師たるモノに巡り合い、魔名という呪いを受ける。
 傲然にして不遜。天真爛漫なる光は、魔王になるのだと。天へと挑む悪魔の名をつけられ、けれど朔桜は笑う。
 それは久遠ヶ原に来て、少しとは云え自分に近い存在を見たからかもしれない。笑うようになった彼女は明るい。闇の色彩の抜けた、光のような笑顔を浮かべる。
 それは天魔と交わったからかもしれない。少なくとも、天使の脅威を彼女は知る。我が身では届かない神威を知る。が、それは今の自分だ。何れ超えるし、天使を超越して更なる高みへと昇れる自負があった。
 故に、この問いへと辿り着く。
 
 

――神であれば、私と踊れるの?


 
 ある種、それは直感。
 神であれば、全身全霊を尽して戦える。ああ、確かに彼女は全力を出した事はある。だが、それを振り絞って限界を突破した事がないのだ。常に身にあるのは倦怠感と、こんなものかという失望。
 燃え尽きる程の物事、人物に出逢えない。この為に魂があるのだと、奮えた事がないのだ。
 知識に裏付けされた世界の狭さ。それさえ、魔術の才覚で超えるべく、鴉は羽ばたこうとする。
 だが、そんな彼女は気付かない。
 産まれ出るものは何かを壊さないといけない。
 雛鳥は己を包む卵の殻と戦う。卵は世界だ。至高の天を目指すならば、朔桜はまずは己を包む卵という世界を壊す必要があった。
 産まれるべきではない?
 確かに。破滅と破壊をばら撒き、残骸を新たなる翼に変える闇の鴉など、深淵の生き物。
 だが、産まれてしまったからには仕方がない。
 死と終焉。新たなる空へと超越する為に、既存の世界を壊していく。無邪気に、自覚なく、呼吸するように。
 その切っ掛けは、砕け散る緋色の雫。


 禍津神の使徒を名乗る少女との会合に、魂が奮えたのだ。







「………っ……」
 煌めく剣閃。跳ね上がる血飛沫は熱たるものを瞬時に奪われ、緋色の氷珠と散る。
 それは余りにも美麗な太刀筋。蒼氷で紡がれた居合刀は神速の域で振るわれているのだ。受ける事も避ける事も出来ずに、命を削られていく。仲間が、或いは朔桜が。隔絶した武威を以て、対峙したものを斬り捨てる禍津の氷刃。神罰と奔る、冷たき祈りの剣。
 だが、そんなことはどうでも良かった。
 産まれて初めて、朔桜の魂が歓喜の音色を上げている。
 氷凛の刃に感じるのは、魂を吸い取られるような怖気振るう美しさ。この一振りに、少女の魂が秘められているのだ。鞘走り一閃する度に飛び散る鮮血に、けれど、一瞬たりとも意識を裂かない。
 己が氷刃であるという自負。魂を形に成して動き、世界さえ創造しなおさんという武威。
 
――振りかえれば、きっと羨ましかったのだ。

 願いの純度は、かつて見たモノの中でも過去最高。
 だからこそ、奮われる氷刃の美しさに魂を奪われる。嫉妬するような熱を胸に抱いて、止まらない。震え続け、鳴り響く音は何。幻聴の類ではないと確信する程、綺麗な音色。心地良い。なのに、焦って止まらない。
 そう。だからこれは初めて。幻想を現実に叶えるユメの発露。魂の具現に、朔桜の魂が共鳴した。
「君は、ダレ?」
 殺したいの?
 壊したいの?
 私が超越を求めたように?
 いいや、違う。まるで正反対。己の釼は焔であると、うっすらと知っている。
 だから、これは正反対。平穏を求めて斬り拓く、願いの氷刀。流血を厭わぬ、殺す事に厭はない。理想の為ならば、全て斬り捨てる。
「君は、ナニ?」
 だから高鳴る胸が止まらない。初めて共鳴した魂の音色の止め方を知らない。
 産声の如く奔る朔桜の雷鳴。魂から漏れだしたナニカ。でも止まらない。お互いに止まらないのだ。魂を氷刃と化した少女はその程度で止まる筈もなく、また、朔桜も一秒ごとに心の底、魂を覆っていた仮面と封が砕けて漏れて行く。
 閃光、剣閃。音を置き去りにする迅と化す氷刃。
 見えるのはその蒼き軌跡と、飛び散った血が凍えた雫のみ。
 でもその美しさは感じ取れてしまう。止まった一瞬、氷の刀身に秘められた魂を知る。

――壊したい。

 この魂の氷刀を、黒き衣の少女を壊したい。
 漆黒の雷撃にて形成された槍さえ斬り裂かれ、後退する朔桜に討つ手はない。秒単位で新たな魔術、より効率の良い方法を編み出していくが、それでも使徒の少女の刃が朔桜の心臓を貫く方が早いだろう。
 何処までも真摯で、真剣な使徒の少女。肌が斬り裂かれるような極寒の敵意を以て、歩む姿。
 こうなりたかったのでは?
 朔桜の胸に、傷つき、傷つけながら前に進む己の影が過った。
 困難が欲しい。血を流し、身ょ焼かれながらも追い縋りたい。辿り着く為に走破したい。
 それだけの困難がなくて。それだけの目標がなくて。魂が鳴り響くことなどが今までなかったから。
 何処までも真っ直ぐな、透き通る魂の祈りに、羨望すら抱くのだ。我が身を厭わぬ、その姿に。
「決めたよ」
 銃声と剣戟。氷と鋼の打ち鳴らされる余韻響く中、朔桜は魂から漏れだした闇の黄金に囁きかける。
 それは斯くし掻く在れという自己への宣誓。真実、求める魂の行き先。


「その氷を、魂を――壊すね」


 私の焔釼と切り結んで欲しい。
 何も命のやり取りをしたい分けじゃない。ただ、朔桜は純粋に交わりたいのだ。
 物質的な触れ合いなど些細で、不純に過ぎる。魂をぶつけ合う閃光と、焔と氷の逝く先を見たい。全力で触れ合うから、魂ごと抱き締めるから感じる事のできる本質があるのだ。
 それが例え、破壊の慕情という異質の魂でも。平穏を求める氷刃があるように。
 壊れる程、抱き締めてあげたい。
 その祈りの刃、解けて雫になるまで、感じさせて欲しいのだ。
 実感が欲しい。壊れて砕け散るその刹那に、朔桜は愛を憶えるから。



 だから、そんな願いが胸を満たした。
 焼き尽されるような、痛みと共に。
 砕け散った、縛鎖の音。爆ぜる氷のように。
 或いは、黒き翼がはためいたように。









 そうして、砕けた仮面を表すように、灰色の雪が降り注ぐ。
 黒いのだろうか。白いのだろうか。火傷と煤で汚れて歪んだ頬に張り付いていく。
 あれだけ燃え盛っていた森は、最早ただの焼け跡。禍津の使徒が手繰る、禍津の眷属。 それが奮った猛火の跡がこれ。
 敗北の証。
 焼け落ちた残骸。
 それらを認識して、先程まで見ていたものが回想であるのだと朔桜は知る。
「…………」
 意識がはっきりと戻っても言葉が出ない。
 朔桜の胸の中でじわりと何かが浮かぶが、形にならないのだ。
 真剣、だったとは思う。
 全力だって尽した筈だ。だったら、何が足りなかったのだろう?
 見上げた空は黒。夜に浮かぶは大陰たる月の白。
 あの場所まで、いきたい。辿り着く為に、全てを超越したい。
 けれど、そこに違和感を覚えるのは何故だろう?
 嘘付きと、囁く声が自分のそれなのはどうして。
 自分の願望を偽ったつもりはない。あの使徒の少女を超えて、壊したいと思ったのだ。
 それは至極簡単な事。あれは、余りにも透明だったから。眩しいとさえ感じるほどに。
 それこそ、魂が脈打つ始まりは、あの氷凛の剣閃だと断じてしまう。
 あれ程真摯に、真剣な瞳は見た事がなかったから。祈りの道に殉じた使徒。そこに曇りも嘘もない。
 地を這わされた今でも、やはり羨望が胸を焼く。肌の痛みより強く、熱く。何よりも強い感情として。
 喉を鳴らした。言葉はやはり出ない。感嘆の息は、唯一自由に動く思考から紡がれた。
 つまり――自分はああなりたいのだ。
 嘘はいらない。偽りたくない。何処までも純粋に願い、祈り、そして求めたい。
 超越、越える?
 どうしてそんな必要があるのだろう?
 壊れる程に抱きしめたいのが朔桜の情。それが壊人のそれだとしても、何ら問題はない。
 返り血を怖れる必要なんて、何処にあるのだろうか。残骸と残照に照らされ、夕闇を飛翔する大鴉――忌光を翼に、ソラへと飛翔したい。
 その最中、どうして他を気遣う?
 元より朔桜の心は内面へと向かっていない。外面へと思考も感性も向いている。その方向性が己の中へと向いているのならば、揺るがず自己完結して完成してしまう程の思考と才覚を持っている。
 では、そうなっていないのは何故と問うのは愚かに過ぎる。そうではないから。外へと感性が向いているからこそ、自分が他と比べて異質だと幼き頃に気付いたのだ。
 超越したいなど虚偽、妄言。薄々気づいている。抱き締めて壊れるからそっとしておこうと思っても、壊してしまう程に抱きしめたい想いは変わらない。変えられない。
 それが情。慕情。壊れるか否かなどではなく、全力を尽くして触れる事を求める少女こそ神喰・朔桜。
 真実、魂が求めるのは、幾ら全身全霊を尽しても壊れずに、自分と踊ってくれる相手。道を違え、剣を交え、魔を紡いで衝突させても、共にあれる存在。
 壊しても、壊れない。そんなモノ。
 天賦の才覚と、異質の感性。絡み合う先にあったのは、忌むべき魔王の在り方。
 愛してはいけない。
 だって、この少女は闇色の光。
 愛されるならば逃げるしかない。
 だって、この少女は忌むべき光の君。
 ゆらりと、ぼろぼろの身体を起こす。そうしなければいけない気がしたのだ。
 火の名残を感じさせる煤けた風が吹き抜けて、何時かのようにばさりと黒い髪が靡い た。
 これが或いは始まり。
 壊す事が愛だと、真に祈った、神喰・朔桜の。
 黎明は遠い。そんな闇夜の中で、彼女は求めるものを見据える。
 世界悉く、万象が好ましく、愛しい故に――さあ、壊そう。
 壊れないものこそ、この魔性の鴉、忌むべき光の君の番ゆえに。
 力と感性が絡まって産まれた、魔王の夜。
 何ももう疎かになんてしない。純粋に、透き通るような願いを以て。


「ね、君を壊すよ」

 だから、壊れないで。
 その魂と、この魂。競い合うように、共に至高の天へと駆け上がりたい。
 独りではあまりにも悲しいから。
 壊し合いながら、共に走ろう。飛翔しよう。
 理想という幻想を、この現に顕す為に。
 それが良い。それを求めよう。
 ようやく見つけた真実の願望に、朔桜は小さく笑って――その意識を途絶えさせた。
 闇は心地いい。
 痛みも、苦みも、全て自分の器を満たしていく。
 次に目覚めた時、その瞳に映る光は、きっと破壊の光。
 平穏を求めて血道を斬り拓いた使徒によって、破壊と愛を求める魔導の少女が、ついに目覚める。



 かくして忌光は翼となり、空へと飛翔する。
 誰も見た事のない。聞いた事もない。ただ神喰・朔桜の求めた魂の世界へと。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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エリュシオン
2013年11月11日

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