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『ハロウィン限定・かぼちゃワゴン side四郎 』
九 四郎jb4076


 ハッピー・ハロウィン!
 学園では文化祭と時期が重なり、一際賑やかなシーズンがやってきた。
「出店もいいんだけどさァ」
 秋も深まる今日この頃。
 活気あふれる放課後の廊下を歩きながら、三島 奏は考えながら隣の九 四郎へ視線を投じた。
「こう、もっと! 枠からハミ出してみたい気がすンだよね」
「枠……っすか」
 身長的に、平均値からはみ出し気味の二人であるけれど。

 ――それが、コンプレックスだったこともあった。
 
 久遠ヶ原へやってきて、多種多様な友人知人と巡り合い、二人は出会い、少しずつ少しずつ、『他者との違い』に対する劣等感が溶け始めた。
 『自分自身』をさらけ出せる場を、見つけられるようになってきた。
 今もまだ、臆病な気持ちが顔を覗かせることもあるけれど、少なくとも奏は四郎と、四郎は奏と居る時は、そんな感情を忘れられた。
 互いに大切な、先輩後輩という間柄。
「学園の外に飛び出すとか、どうッすかね」
「ソレ! 面白そう。今から助っ人を揃えるのも時間が足りないか。シローとあたしで『ハロウィン限定クラブ』! やンない?」
「ふたりっきり」
 思春期男子に、なんとも甘い響き。いやいやいや、三島先輩は確かに素敵で憧れだけれどいやいやいや。
「久遠ヶ原島内ッても広いし、人の集まるところに絞ったとして移動……。ワゴン販売、か?」
「自分、先輩の料理、好きッす!」
「お、……おう? アリガト」
 ワゴン販売=食べ物=料理、と連想が走る。四郎は身を乗り出し、奏は勢いに気圧された。
「……へへ。思い付きだったけど、形になってきたねェ」
 照れ隠しの笑みを浮かべ、相談を詰めるべく二人はノート片手に空き教室へ。



●ハロウィン色の、教室で
「移動販売用の軽ワゴンはレンタルで、安く借りられるところピックアップしてきたっす」
「結構、種類があるねェ……。これさ、ハロウィンぽく装飾したら目立つよね」
「だったら、ボディはシンプルで充分ッすね。最安値のこれッすか?」
「OK、OK。場所は、商店街とかいいかなッて。これ、マップなんだけど」
「あちこち回りすぎても、お客さんがゆっくりできないッすよね……」
「あたしも、思った。学園近辺と、もう一か所だけにする?」

 打てば響く相談時間も楽しい。
 ワゴンの手配を済ませ、
 移動販売先を決め、許可の申請をして、
 メニューの構想を挙げながら小物を作ってゆく。
「ほへえ……。先輩のセンス、さすがッす」
「見てないで、手伝いなよシロー。ほら、線に沿って切るだけ」
「実際の飾りつけは手伝うッすよ! 自分はこっち、材料の手配が!!」
「あはは。確かにそうだ」
 奏は口を動かしながらも、コウモリにゴースト、カボチャといったハロウィンらしいアイテムをマグネットシートやペーパークラフトで作成してゆく。
 机を向い合せにして、四郎は材料の発注内容を検討する。

 しばし、沈黙がそこに座した。

(……三島先輩、こうして見ると睫毛が長いッす……)
 奏が美人であることは元より承知だが、こうしてじっくりと眺める機会などなかなかない。
 鼻歌交じりに紙を動かし、命を吹き込むように形を作り出してゆく。
 その指先、眼差しに、四郎は一瞬、心を奪われた。
 放課後の教室。
 先輩と二人きり。
 廊下のざわめきは、どこか遠くの世界のように。
(……じゃ、ないッす!!)
 四郎は慌てて首を振り、現実へ戻る。
 ボケっとしている場合じゃないッたら!

「あ、ハロウィン色ッす」

 誤魔化すように、奏に気づかれる前に、四郎は窓の外を指す。
「うん?」
 釣られるように、奏も窓の外を見る。
 カボチャ色の夕焼けが、教室を染め上げていた。大きな夕日が震えて見える。
「当日、楽しみだね」
「はいッす!!」




 天候に恵まれたハロウィン当日。
 ワゴン車の装飾OK。
 荷物や材料の積み込みOK。
「それじゃ、運転はあたしに任せて。ハロウィン限定・移動カフェ、行こうか!」


 長身二人、体を折り曲げてのドライブ。
「痛っ、先輩、カーブはもう少し丁寧にお願いするッす!」
「あははは! 天井の高さは仕方ないよね、頭ぶつけないよう気を いたッ」
 横切る猫を避けようとしてハンドルを切っては肩をぶつけたり。
(うわわっ)
 横へ倒れた四郎の頭が、トンと奏の肩に当たる。柔らかな感触に驚いて飛び退いて、四郎は逆方向に頭をぶつけた。
「大丈夫? シロー。すンごい音したけど」
「へ、へいき……ッす」
 撃退士として鍛えられているはずなのに、奏の腕は、肩は、男のものとは違う。
 普段から触れるような場所でもないだけに、驚きと驚きとそれから驚きで、四郎は赤くなる頬を隠すように車窓へと視線を向けた。
(健全な男子ッすから……!)
 ドキドキしちゃっても、仕方ないじゃない。


 少しだけ緊張したことも、現地へ到着してしまえば霧散した。
 奏がイートイン用にテーブルを広げセッティングをし、四郎がワゴンへ看板を取り付ける。
「ッと。シロー! 看板、もうちょい上かな?」
「ん、この辺りっすか?」
「行き過ぎー! あと、右が下がってる」
 秋空の下、大きな声を掛け合って。
「二人で一緒に作るって楽しいっすよね」
「あァ、……楽しいねェ」
 間もなく開店。
 調理担当の奏、接客担当の四郎はセッティング完了したカフェスペースを見渡した。
「もっと、楽しくして行こうか!」




 学園でも文化祭中だから、そちらにばかり人が流れているかと思えばそうでもない。
 出張ワゴンカフェは、なかなかの賑わいを見せていた。
 出来立ての香りが人を呼び、人の姿が人を呼ぶ。
「いらっしゃいませーっす! ハロウィン限定・出店カフェっす!!」
 ギャルソン姿の、スキンヘッドの大男――と思えば、振り向いて見せる笑顔は人懐こく、大型犬を連想させる。
「お勧めっすか? そうっすねぇ」
(うまくやってる、やってる)
 学園の文化祭へ向かう途中の客から声を掛けられ、楽しそうに切り返す四郎の姿に奏は何処かホッとしていた。
「おっと、混んできたか」
 下げ膳に回っていた奏が、慌ててワゴン車へと向かう。
 二組の会計へ対応してから、調理に専念。
「一番テーブルのホットサンドセット、上がったよー!」
 忙しいのが楽しい。
 外の空気と、ドリンクや料理の匂いが混ざり合って、熱が立ち上って。
 学園内だけでは味わうことのない満足感を、四郎と奏は共有していた。


 ランチタイムを終えたら、場所を街の中心部へと変えてティータイムを狙う。
 少しだけ気温が下がり始める頃合いに、ホットな飲み物とスイーツをどうぞ。
 メニューを考えたのは奏だったので、四郎が接客中に細やかな説明を求められる姿をハラハラして見守りつつ、きちんと応対している姿に胸をなでおろしつつ。
「作る方は、ずっと熱いンだけど」
 クレープを巻きながら、奏が笑う。汗で、頬にプラチナブロンドの髪が貼りついていた。
「自分も、作り手を手伝えたらよかったっすね……」
 なんとなく気になって、四郎は手を伸ばし、それを払ってやる。
「!!」
「? あ、その。えっと……」
 ごく自然な所作、のつもりだったのだけど。
 触れた頬、触れた指先、互いにその感触に驚いて、飛び退る。
「……」
「……」
 仲のいい先輩後輩で。気が合って。息が合って。一緒に居て心が楽で。
 親しい友人という関係に変わりは無い、はずなのに。
 ちょっとした折にドキドキしてしまうのは、どこぞの魔女がハロウィンの魔法でも掛けたのだろうか??




 本格的に寒くなり始めたところで店仕舞い。
 レンタカーの返却時間までには余裕があるからと、街がよく見える場所まで少しだけドライブ。
「あーーッ 楽しかった!」
「ッす!!」
 車から降り、高台から街を見下ろす。
 日が暮れはじめ、街に明かりが灯りだしていた。
 ジャックランタンの蝋燭のよう。
「それから、体が痛い」
「……ッす」
 顔を見合わせ、二人は笑う。
 二人で遠距離ドライブとなったら大変そうだ。
 疲労感を、達成感が優しく包み込む。
 準備期間、教室内を満たしたハロウィン色に、二人は静かに染まっていた。
 店仕舞い前に、魔法びんへ詰めていたホットココアで打ち上げ乾杯。
「そうだ。シロー、ちょっと待ってて」
(たしか、材料が余って……)
 奏が、一言残してワゴン車へと戻る。
 余剰材料で、作れそうな――
 今日一日、頑張ったご褒美に。

「トリック・オア・トリック! お菓子をやるから悪戯させろ!」

 焼きたて南瓜パンケーキ、トロリとバターが美味しそうに表面を滑る。
「……ええ?! 可愛い悪戯にしてくれっす!」
 予想外の切り返しに、奏は笑った。
 驚かせたくて言ってみただけで、悪戯の内容なんて考えていなかった。


 楽しい。
 こうして、二人で協力して考えて動いて騒ぐのが楽しい。
 一瞬一瞬、飽きることなくワクワクが起こる。
 今は、この瞬間を大切に。
 星々が夜空を彩りはじめるまで、談笑は続いた。




【ハロウィン限定・かぼちゃワゴン side四郎 了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb4076/ 九 四郎 / 男 /18歳/ 陰陽師】
【jb5830/ 三島 奏 / 女 /20歳/ 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
仲の良い素敵な先輩後輩ハロウィン出店、お届けいたします。
準備期間のシーン、微かにですがそれぞれの視点で差し替えしております。
楽しんでいただけましたら幸いです。
魔法のハッピーノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年11月11日

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