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『実用・デート入門 〜その日の為に 』
ランベルセjb3553)&百々 清世ja3082




 ランベルセは真剣だった。
 普段何事につけ尊大な彼にしては、実に低姿勢で頼みごとを切り出す。
「百々、デートに連れて行ってくれ」
 一方で百々清世は片肘をついて顎を乗せ、もう片方の手でスマホを弄るのをやめようとしない。
「あぁ? 何で男をデートに連れて行かなきゃなんねぇんだよ」
 画面から目を離さないまま、つれない返事。
 まあ尤もな返答ではある。
「百々とのデートが楽しいと聞いたからだ」
 ランベルセがぐっと身を乗り出した。
「是非どのようなデートなのか、教えてもらいたい」

 果たして誰がそれを言ったのか。ランベルセが『我が蒼』と呼ぶ、憧れの君である。
 そもそも特に不満もなかったランベルセが天界に別れを告げ、人界に来たのは彼女ゆえ。
 だがそれで相手の女性が感激して、うまく行っていれば苦労はない。
 それどころか未だまともに相手にもされていない始末だ。
 しかしランベルセは諦めない。
 だから思った。それなら自分も彼女を楽しませてみせようではないか。
 そう決意し、名前ぐらいしか知らない男の元へとやって来たのだ。
 尤も多少なりとも、彼女とデートしたという男がどんな奴かよく見てやろうという気はあったかもしれない。

 まあ突然来られた方にだって、言い分はあるだろう。
 しかし運が悪かったのか良かったのか、たまたま清世は暇だった。
 暇が潰せるなら、大概の事には付き合おうかと思う程度には暇だった。
 視線がスマホの画面から離れ、ランベルセに移動する。
「んじゃお前がデート連れてけよ。エスコートさせてやるから。その代わり奢れよ」
「問題ない。任せておくがいい」
 話は決まった。……らしい。




 多くの人が行き交うショッピングモールの入口で、ランベルセは傲然と顔を上げた。
「定番のデートコースといえば、まずは一緒に買物だな。大丈夫だ、問題ない」
 その程度のことはランベルセもちゃんと事前に調査済みだ。
 但しその資料が若干ファンタジー要素を含む物であったことは否めない。
「要するに、今日は百々を女子として扱えばいいのだろう?」
「ま、そーゆーこと。んじゃべるせー、どっから見る? やっぱ服とかー?」
 早速歩きだす清世に引きずられるように、ランベルセが足を踏み出した。
「……動き難いな」
「デートだろ? 手ぐらい繋がなくてどうするよ。サービスしてやってんだぞ、有難く思えよ」
「そういうものなのか」
 いや、そういうものでもないだろう。
 共に身の丈180センチ以上の若い男二人が、指を絡めた恋人手繋ぎで堂々と並んで歩いてたら、目立つなどというものではない。
 おそらく各家庭に今夜の夕食時の楽しい話題を提供しつつ、のんびりと見て回る。

「べるせー、これ似合うんじゃね」
 清世が少し光沢のある生地のプリントシャツを当てる。
「悪くないな」
 思わずランベルセが口元を緩めた程、それは好みのデザインだった。
「やっぱり? もしかして結構服の好みとか、似てんのかね」
「そうかもしれない。もう少し他のものも見てみよう」
 なんだかんだで、普通にお買い物になっている。
 何点かを巡った所で、ようやくランベルセはそれに気がついた。
「と、そうだ。そろそろ歩き過ぎて疲れたのではないか?」
「んーそうでもないけど。混む前にちょっと休憩すっか」
「よし、ではそうしよう」
 そこでランベルセの反応が止まった。
「どしたの」
「……何処へ行けばいいだろうか」
 困惑顔のランベルセに、清世が苦笑いを浮かべる。
「デートの時はちょっと下調べしとくべき? でもま、女の子の方が詳しいことも多いしねー、行きたいとこ任せんのもありか」

 結局、清世が引っ張って来たのはパフェが美味しいと評判のカフェだった。
 要するに清世が食べたかっただけなのかもしれないが、デートとしては至極当然の流れである。
 そして今、二人の間にはカラフルなフルーツとクリームが山盛りの巨大パフェが聳え立つ。
 それをしげしげと眺め、ランベルセが呟いた。
「こういうのが好きなのか」
「んー、ほとんどの女の子は好きじゃないかな? ほら」
 長いスプーンですくった一口分を差し出され、ランベルセは首を傾げる。
「あーんだよ、あーん。デートなんだろ?」
「……」
 ランベルセの口にスプーンを突っ込み、清世がにっこりと笑った。
「おいしい?」
「……うむ」
 これが人気なのか。研究者の様に味わうランベルセに、更なる指令が下る。
「じゃあお返しして」
「何?」
「何って、デートなんだろ? あーんしてもらったら、あーんし返すのが当たり前だろ」
「そういうものなのか……?」
 困惑しながらも、ランベルセは銀色の長いスプーンを取り上げる。
 崩れそうなパフェを注意深くすくい取り、恐る恐る清世の口元に差し出した。
「ほら、食え」
「そうじゃないだろ。あーんして、ってゆうの」
「……あーんして」
 店内の皆様にも、二人は楽しい話題を提供し続けるのだった。




 再び律義に手を繋ぎつつ、ランベルセは清世に確認した。
「本当に、これが『楽しいデート』なのか?」
「何だよ楽しくねえのかよ。失礼な奴だな。ほら次、ここ」
 清世はプリクラの機械が並んだ一角を指さす。
 怖々という風情で覆いを潜り、ランベルセはやたら明るい色彩に溢れた機械に対面する。
「ほらー、あそこ見て笑えよ! せーの!」
「ちょっと待て、おい!」
 パシャ。
「べるせー、なにこれうける」
 強張った顔のランベルセのヤル気のないピースに、清世は涙目になって笑う。
 自分が寄りかかって頬を寄せていることにはお構いなしだ。
「あとはー、色々デコってー」
 清世がやたら一生懸命に色々描きこんだ結果、実に賑々しいプリクラが出来上がる。
「ほらこれ」
「ちょっと待て。百々が女子なのだろう。何故俺の方にリボンがついている」
 ランベルセの頭に、ピンクの水玉リボンが可愛くくっついていた。
 どうやらリボンは女の子のもの、という認識はあるようだ。
 だがランベルセの苦情などどこ吹く風。
 それどころか清世は、少し意地悪い笑みを見せる。
「だってべるせー、全然女の子楽しませてねえじゃん? 俺を女の子扱いしたいんなら、口説き文句の一つでも言ってみろよ」

 果たしてどう出て来るか。清世は黙り込んだランベルセの反応を窺う。
(ベタな口説き文句なら爆笑してやろうか)
 そう思った清世の身体を、ランベルセが不意に抱き寄せた。
「お前は、今日は俺のものだ」
 各種資料を精査し、女性の心をぐっと掴む言葉を選び出した……つもりだった。
「……ぶはっ! ちょ、なにそれ、ダセぇ」
 だがランベルセ渾身の一言を、清世はすげなく笑い飛ばす。
 ちょっと資料に問題があったのかもしれない。
「だめか?」
 飼い主に咎められた犬のように、何が悪いのか判らないという顔でランベルセが清世の顔を窺った。
 それでも、腕は離さなかった。
 もしかしたら彼女にもこんなふうに笑い飛ばされるのかもしれない。
 でも一つだけランベルセにも判ることがあった。もしここで手を離したら、本当に笑い話で終わってしまうだろうということだ。
 そう思うと、心はきまった。
 腕に少し力を籠めると、清世もようやく笑いを収める。
 上手く言葉にできなかった思いを、直接届けるかのように。ランベルセは静かに唇を寄せる。

 再び距離が開くと、清世の微笑はそれまでと少し違ったものになっていた。
 例えて言うなら、テスト用紙を返す教師のそれに似ていたかもしれない。
「……ま、いんじゃね? 後で殴られないようにタイミングだけ気をつけりゃ」
 その殴りだって、本気かどうかは二人次第なのだが。
 そこまでは他人の知ったことではない。
「わかった。気をつけよう」
 ランベルセは真面目な顔で頷いた。
「そーゆーわけで、このプリクラも記念にちょっとデコっとくか〜」
「何だと?」
 思わずランベルセが画面を覗き込む。
 ……一体、いつの間に操作していたのか。
 清世がハートや星を描き散らしている画面には、見事な『ちゅープリ』が写っていたのだ。
「……それをどうしようというのだ」
「んー、カノジョにプレゼンt……嘘、嘘だって! じょーだんじょーだん!」
 清世を押しのけ、画面を消去しにかかるランベルセ。
 だが清世の手には、既に印刷されたプリクラシールのシートがあった。
「ま、いーじゃん。今日の記念ってことで」
 清世が笑いながらプリクラを突き出す。
 二人の間には大きく『なかよち』の文字が書き込まれていた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / デート指南役?】
【jb3553 / ランベルセ / 男 / 25 / 誤算の堕天使】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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どうしてこうなった。そんな感慨も籠めてデート指南ノベルのお届けです。
なんだかんだで予行演習の目的だけでなく、お二人ともこの時間を楽しまれたのではないでしょうか。
実際、ショッピングセンターで目立つイケメン二人が恋人手繋ぎで歩いていたら大変だろうなと思ったりもしますが。
いつかこの経験が、いい方向に生かされる日が来ますように。
この度のご依頼、誠に有難うございました。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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エリュシオン
2013年11月11日

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