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『ふたりで南瓜収穫祭 〜ヴィレアのお料理教室 』
ヴィレア・N・イフレリアjb7618


●配って、貰って、大収穫

 Trick or treat!

 今日はハロウィン。
 小さなお化け達の嬉しそうな声がどこかから響く。
『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!』

 そんなお化け達の中、随分と勤勉な(自称)魔族がひとり。
「とびきり美味いお菓子なのだ! ぼろ布があったら交換でプレゼントするのぜ!」
 まず目を引くのは、黒く大きな先折れ三角帽。
 ぐいっとつばを持ち上げれば、珊瑚色の瞳がどこか不敵に輝いていた。
 長い銀色の髪が流れるマントの隙間からは久遠ヶ原学園の制服が覗いている。
 一見怖そうだが、どこか愛敬のある魔女の背後から、もうひとりのお化け(?)が姿を見せた。
「何、遠慮するでない。今日は特別じゃ」
 燃え上がる炎のように複雑に揺らめく光を放つ髪、立派な鹿の角。エキゾチックな花鳥文様の刺繍が見事なサテンのドレスを纏い、扇をひらひらさせている様は、龍族の公主(ひめさま)か。
「ぼろ布? さがしてくるー!」
 きゃあきゃあ声をあげながら、子供達が家に戻っていく。
 やがて、着古した衣類やよれたタオルなどなど、手に手に袋を提げて戻って来た。
「お菓子ちょーだい!」
「よしよし、順番なのぜ! 一杯持って来てくれてありがとな!」
 可愛らしい包み紙とリボンをもどかしげに外し、子供達は賑やかにお菓子を広げる。
 ヴィレアはその様子に目を細めた。
「こういう催しに参加するのも、悪くはないのぅ」
 本来の祭りの目的は、この国では様変わりしているようでもある。だが、子供達が嬉しそうにしているのならそれも良いだろう。
「よしっこんなもんだろ!」
 お菓子はほとんどなくなり、ぼろ布は持ち切れない程に集まった。
 ヴィレアが不思議そうにその山を見つめる。
「で、これは如何様にするつもりじゃ?」
「年末に古着とか雑巾に使わせて貰うとか助かるのぜ!」
 意外と現実的な魔女だった。

 そこに年配の男性の声がかかった。
「まだ余ってるなら、うちの孫にも貰えないかい?」
 振り向くと、畑の脇で休憩している一団が目に入った。どうやら農家の人らしい。
「いいのぜ! 本当はぼろ布と交換なんだが、特別だ」
 ギィネシアヌが可愛い包みを手渡すと、おじさんは嬉しそうに受け取った。
「ありがとうよ。ぼろ布はないんだが、良かったら代わりにこれでどうだ」
 差し出されたのは、立派な南瓜だ。
「南瓜? いいのか?」
「お菓子を配って歩く魔女さん達にご褒美だ。ほれ、もって行きな」
 そう言ってリヤカーに乗せてくれた。……いくつもいくつも。
「え? あの、えっと……」
「今年は中々いい出来だぞ。煮て食っても、甘いもんにしても、いくらでも食える」
 おじさんはにこにこ笑いながら、大量の南瓜を積み上げて行く。
 ぼろ布の脇に積み上がった南瓜の余りの重みに、ギィネシアヌは危うくつんのめりそうになった。

 ヴィレアが首を傾げて、横を歩くギィネシアヌを気遣う。
「大丈夫かえ?」
 そういうヴィレアもリヤカーに乗りきらなかった南瓜を、袋に入れて抱えている。
 不安定なリヤカーは、下手に手を貸すとバランスを失って大惨事になるので、ヴィレアには見守ることしかできない。
「もちろんなのぜ! おじさん、有難うな!」
 おじさんのせっかくの好意を無駄にする訳にはいかない。
 ギィネシアヌは顔を真っ赤にして、南瓜を落とさないようリヤカーを押して行くのだった。


●超・南瓜祭り

 山盛りの南瓜を前に、ギィネシアヌは改めて困惑する。
(南瓜ってどうやって食べたら減るんだ……)
 メニューをあれこれ考えてみるが、南瓜がゲシュタルト崩壊して頭が混乱してきた。
「折角の好意故、無駄にする訳にもいかぬしの」
 まさか文字通り山ほどとは。さすがのヴィレアも扇の影で苦笑い。
 そこでギィネシアヌがパッと顔をあげた。
「そうだ! ヴィレアさん、前に和食作ってくれるって話したよな。南瓜で色々出来るのぜ?」
「ふむ? 南瓜で料理かや?」
 期待に輝く眼で見つめられると、ヴィレアとて応えないわけにはいかない。
「ふふ、良かろう、汝の為に腕を揮うとするのじゃ!」
「やった、言ってみるもんなのぜっ! んじゃちょっと俺はこれ片付けて来るな!」
 ギィネシアヌは南瓜をヴィレアの部屋へ運び込むと、他の大荷物を片付けに自宅へ急いだ。


 しっかりした深緑色のつやつやした南瓜だった。
 ヴィレアは山積みの中から一つを取り上げ、しげしげと眺める。
 相手の気前よさに乗じて軽い気持ちでもらってしまったが、随分と立派な南瓜だ。
「さて、南瓜ならばやはり煮物かの」
 しっかりと中身の詰まった重い実。きっとほくほくの煮物が出来上がる。
 ヴィレアが思案していると、ギィネシアヌがキッチンに顔を覗かせた。
「何作るんだろー。俺は和食にちょい疎くてだな……」
 マントと魔女の三角帽子の代わりに、割烹着と三角巾をキリリと身につけているギィネシアヌは、一見すると頼もしいアシスタントだ。何事もまずは形から、である。
「その割烹着は……汝も手伝ってくれるのかや?」
 ヴィレアが悪戯っぽく目を輝かせる。
「もちろんなのぜ!」
「ではでは、有難く手を借りるとするのじゃ! まずはこの南瓜を切る所からじゃの」
「ナイフは銃ほどは得意じゃないのだな……」
 サバイバルナイフを取り出すギィネシアヌを、ヴィレアが笑顔で押し留める。
「使うのは包丁じゃ」
「わ、わかってるのぜ!」
 ヴィレアの手には、かなり立派な包丁が握られていた。
「南瓜は固い上に転がるからの。注意じゃ」
 まずは見本を見せる。
 一度包丁の刃が嵌ると厄介な南瓜だが、ヴィレアが上手く力をかけると綺麗に真っ二つに。
「ではこのような感じでお願いするのじゃ! これは煮物にする分じゃ」
「お安い御用だぜ」
 ギィネシアヌは包丁を受け取ると、南瓜に当てる。
 が、丸くて固い南瓜は、刃がなかなか上手く当たらない。
「……見てると簡単そうなんだけどな?」
 首を傾げながら奮闘するギィネシアヌを、ヴィレアは楽しそうに見守る。
 その間も手は休むことなく動いていた。
 手際良く他のメニューの下準備を済ませ、ギィネシアヌの作業が終わるころには煮物に火を使える状態に。
 キッチンには、鼻孔をくすぐる香りと温かな湯気が満ちていく。


●同じ釜の飯

「おおっすごいのぜ!」
 ギィネシアヌが思わず身を乗り出した。
 白糸の刺繍とカットワークが美しい、スワトウのクロスがかかったテーブルには、南瓜づくしのご馳走が並ぶ。
「いい匂いだな!」
「ん、口に合うと良いのじゃが。では頂くとしようかの!」
 二人で向い合せにテーブルにつき、いただきます。
 間に並ぶのは山盛りの天麩羅に、玉葱入りの味噌汁、南瓜のおやき。ほっくりした煮物にはとろみの付いたひき肉の餡がかかっていた。
 早速箸をつけ、ギィネシアヌが感嘆の声をあげる。
「おお! すげぇうめぇな!」
「ふふっ、口に合うなら良かったの。さ、どんどん食べるのじゃ!」
「うむ、これはすごいな!」
 強すぎない、南瓜特有のやさしい甘みが口の中に広がる。
 ほくほくの栗南瓜は、煮物にしても天麩羅にしても、絶品だった。
「思いの外、良い南瓜を貰えたようじゃのう」
 ヴィレアも感心したように呟く。
 思えばお菓子配りから料理作りまで、今日は朝からずっと動いていたのだ。
 次々と箸が伸びるのも当然のことだろう。


(……やはり誰かと食事を共にするのは、楽しいものじゃ)
 自分の手料理を、美味しいと言って食べてくれる相手がいる。
 料理を作ったことがある者ならその喜びはよく理解できるだろう。
 ギィネシアヌとはこれまでにそれほど多くの言葉を交わした訳ではない。
 それでも、機会があればゆっくり話をしてみたいと思っていた相手だった。
 だからハロウィンの『悪戯せずにお菓子を配る』計画を聞いて、思い切って一緒にやってみることにしたのだ。
 そのギィネシアヌが、以前に何気なくかわした「料理を振る舞う」という軽い約束を覚えていてくれていたのが、何だか少し嬉しかった。
(不思議なお人じゃな)
 相手を睨みつけるような眼をしているかと思えば、思わぬ気づかいを見せる。
 やはり興味深い。
 そう思っていた所に急に呼びかけられ、ヴィレアは顔をあげた。


「ヴィレアさん?」
「?」
 ギィネシアヌが、軽く咳払いをして続けた。
「同じ釜の飯を食ったのだ、これからはヴィーちゃんと呼んでもいいのぜ?」
「……ヴィーちゃん、とな?」
 ずっと微笑を湛えていたヴィレアの紫の瞳が、予想外の言葉に大きく見開かれる。
「おかしいのぜ?」
 ちょっと不安げにこちらを窺うギィネシアヌの表情は、思わず吹き出しそうなぐらい大真面目だ。
 ヴィレアは笑いを堪えながら、手を振った。
「ふふっ、よいよい構わぬのじゃ」
 ……ただ、そんな風に呼ばれることに慣れていないだけ。
 そう答えるのも野暮な気がして、ヴィレアはただ微笑みを返す。
「その代わり、と言っては何じゃが。我もギィネと呼んで構わぬかの?」
「え? ……あー、別にいいのぜ」
 ギィネシアヌはちょっと照れくさそうに俯いた。

「ところでギィネ、一つ聞きたいのじゃが」
「どうしたヴィーちゃん」
 ヴィレアが少し困ったように首を傾げた。
「今、二人で食すだけでは、南瓜が全く減っておらぬのじゃ」
「あ……」
「今度は南瓜を配って歩かねばならぬのではないかえ?」
 ヴィレアとギィネシアヌは顔を見合わせ、そしてキッチンを振り返った。
 そこにはジャック・オ・ランタンの切り抜きもないのに、こちらを笑っているかのような山積みの南瓜。
 さて、これを配って歩いて、代わりに何が来るのやら。
 二人のハロウィンは、まだ終わりそうもない。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja5565 /  ギィネシアヌ / 女 / 13 / 三角帽の魔女】
【jb7618 /  ヴィレア・イフレリア / 女 / 18 / 龍王の公主】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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南瓜だらけのハロウィンの一日、お待たせいたしました。
食事を一緒に作って一緒に食べると、その人との距離が一気に縮まるように思います。
和食のメニューだから余計にそう思うのでしょうか。
お二人にこれからも楽しい出来事が沢山ありますように。
尚、最後の章『●同じ釜の飯』の中段辺りが、一緒にご依頼いただいたもう一本と対になっております。
併せてお楽しみいただければ幸いです。

この度のご依頼、誠に有難うございました。
魔法のハッピーノベル -
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エリュシオン
2013年11月11日

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