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『幸せのカタチ〜やぎさん 』
ラグナ・グラウシード(ib8459)

 こんな伝説、知ってるかい?
 かぼちゃの種には幸せが入ってる――って。

●今日のおやつ
 その日、ラグナ・グラウシード(ib8459)は、かぼちゃの種を炒っていた。
「殻のまま炒れば良いのだな‥‥味付けは、いつすれば良いのだ?」
 フライパンに種を並べて火を点ける。
 これは別に彼が家庭的な男で、丸ごと購入した南瓜を種まで美味しくいただこうとしているという生活の智恵的物語ではない。ここ最近、万商店で開拓者ギルド支給品を受け取ると、何故か暁がオマケを付けてくれていた。オマケの中身はかぼちゃの種。彼は今からそいつを炒って食おうとしているのだ。

 色違いやら袋入りやら様々な種類があるらしいかぼちゃの種には、何故かそれぞれ点数が付いていた。
 大きい種5点、普通の種2点、小さな種1点――種にも旨さの格付けがあるのだろうか。
 生真面目なラグナは杓文字を手に、一心にフライパンの内側を掻き回し始めた。まるで、一瞬たりとも手は抜かぬと言わんばかりである。
「少し焦がしたくらいが食べ頃なのか? 種なんぞ食った事がないから分からんが」
 ぱらぱらと塩を振って更に炒り続ける。
 そのうち、パチパチと音を立てて香ばしい香りが漂いだした。ああなるほど、豆を炒るのと同じだな。更に熱心に掻き回し続けて、美しい黄金色の種に炒り上げる。
 ぱらぱらと白い皿に移すと、ただの種も立派なおやつに見えてくる。
「我ながら完璧な炒り加減だ」
 問題は中身なのだが、さて。
 年頃の男がひとり自宅でかぼちゃの種を炒っておやつにしている侘しさはともかく、ラグナは意気揚々と種を割って食べ始めた。
 暫くして――

「? ‥‥なんだ、これ」

 奇妙な形の種だった。
 大抵のかぼちゃの種は外側の殻と同じような雫型だ。もちろんその種も他と同じ翡翠色をしていたが、雫型には程遠い不規則な形をしていた。
 雲の形を何かに喩える事があるが、それに擬えてこの種を形容するならば――
「ま、いいか」
 地の文で喩える前に、ラグナは食べてしまった!
 もぐもぐ。味は普通の種と変わりないようだ。暢気に旨そうに食べている。しかし――

「や、やぎいぃぃぃっ!?」

 そこにラグナの姿はない。種を嚥下し驚愕の声を上げたのは、二頭身のふわもこやぎさんだったのだ!

●やぎさん
 淡い緑の毛並みした、ふわもこニ頭身のやぎさんが、いた。
 その正体はラグナ・グラウシードその人である。
「やぎー!」
 ラグナは吠えた。「なにー!」と言ったはずなのに、彼のもっふりした愛らしい口元から出た音声は人語を発していなかった。
(こ、これは‥‥)
 寸詰まりの腕は口元までしか届かない。蹄のない前脚を顎にあてがい、ラグナは考えた。
 今の自分はヤギだ。ヤギになる前、何をしていた?
「やぎっ!」
 食べた! とラグナは言った。
 万商店で貰ったかぼちゃの種を炒って食べたのだ。そして万商店で売り子をしている獣人の暁は陰陽師――まさか。
「や、ぎ‥‥!?」
 新手の呪いか!?
 尤も、暁にラグナを呪う謂れがないのだが、そこは考えからすっぽ抜けている。独り身の僻み根性を日々増幅させている、非モテ騎士のラグナ・グラウシードの発想は被害妄想寄りなのだ。
「やぎ、やぎ‥‥ッ!」
 陰陽師か魔術師に頼んでお払いをしなければ! 転がるようにして、ラグナは家を飛び出した。

 外は良い天気だ。ほんの少し冷たい晩秋の風も、今日は何だかおひさまに遠慮しているかのよう。
 ひなたぼっこすればさぞや気持ち良さそうな――
「うふっ、良い天気〜」
 心地良い秋空の街で、エルレーン(ib7455)は涼やかな風を胸一杯に吸い込んだ。久々の休日がこんなに素敵な陽気だなんて、やっぱり日頃の行いが良いのかしらん。
 機嫌よく、足の向くまま気の向くままに、あちらの店こちらの店と気侭な散歩を楽しんでいたのだが。
「‥‥はぅ?」
 淡い緑の毛並みした、ふわもこ二頭身のやぎさんが、いた。
 可愛い。エルレーンは一瞬ぬいぐるみが落ちているのかと思った。次いで、ぬいぐるみショップから逃げ出したのだと思った。
「‥‥ううん、そんなことない」
 だって、ぬいぐるみは逃げ出さないもの。
 それにやぎさんは――向こうから、てちてちと歩いてくるではないか!

 一方、淡緑のやぎさんことラグナは、仇敵エルレーンの姿を眼中に留める余裕なんぞ持ち合わせちゃいなかった。
「やぎ! やぎっ!!」
 陰陽師! 魔術師!! お客様の中に、陰陽師か魔術師のかたは居られませんかー!
 つぶらな赤い瞳はクラス判定に必死で、志士のエルレーンは完スルー。我が敵にも関わらず気が付きゃしない。
 そう――復讐者は、目の前に彼女が立つまで全く気付かなかったのだ。

「わあ‥‥かぁいい! やぎさんやぎさん、どこ行くの?」
「や、やぎっ!(き、貴様は!)」
 ラグナの前にしゃがみ込んだエルレーンが、にこにこと話しかけていた。自然ラグナからは太腿がよく見えるのだが、惜しいかな彼女はマイクロミニならぬショートパンツ――もとい、相変わらず色気も素っ気もない、細い脚だ。
 つい、ラグナはエルレーンの胸元に視線をやって毒づいていた。
「やぎ、やーぎっ(この、貧乳娘め)」
「かぁいいかぁいい、なになに? お話ししたいの?」
「やぎっ!(違うわ!)」
「うふっ、かぁいい♪ じゃあ、私のおうちに来ない?」
 言いざま、エルレーンはラグナをひょいと抱き上げた。修羅のラグナならそう簡単にはいくまいが、今は淡緑の毛並みしたやぎさんである。抵抗してじたばたするも彼女は意にも介さない。
「やぎ、やぎー!!(離せ、離せー!!)」
「高い所は苦手? 落っことさないから、おうちまで我慢してね」
 ともすれば自ら落ちそうになるやぎさんを、エルレーンはぎゅっと抱き締めて歩き始めた。
 焦ったのはラグナである。師匠を殺した憎っくき仇に抱き上げられて搬送されている。叫んでも暴れても、こちらの敵意が通じない。
(私だと気付かぬとは‥‥愚かな)
 やぎゅっぎゅっぎゅっ。
 ラグナは、もふらさまばりの含み笑いをした。しかしそんな姿も可愛らしくて、エルレーンは胸の中のやぎさんを覗き込んで微笑む。意思疎通ができていないまま、一人と一匹はエルレーンの自宅へと到着した。

 すわ敵陣到着と気が逸るラグナを見つめるエルレーンの目は何処までも優しい。
「はい、着いたよ〜 ようこそ、いらっしゃいませ」
 やぎさんを床に下ろして賓客を迎えた風にお辞儀して。ふふふっと笑い出し、徘徊を始めたやぎさんを楽しげに眺めた。
 一方ラグナは敵陣視察とばかりに小さな身体を潜り込ませて部屋を調べている――つもりだが目ぼしい収穫はない。
(さすが、私の仇敵。自室にも隙がない)
 違う、ただの整頓した女の子の部屋だ。
 やぎさんが、あっちでふんふんこっちでふんふんしているのを、エルレーンは小動物がテリトリーの確認をしている程度にしか見ていなかった。
 そうして次に出て来る言葉は――
「かぁいい‥‥」
 溜息にも似た乙女の呟き。
 可愛いお客様を持て成そうとお茶菓子を用意していたものの、部屋をもそもそする動くぬいぐるみを見ている内に段々と堪らなくなってきた。
「ふわもこ‥‥」
 かたりとティーセットをテーブルに置いて、エルレーンは身体ごとラグナに向き直った。わきわき無意識に手指を動かして、じわりじわりとラグナに近付いてゆく。
 そんな事とは露知らず、ラグナは敵陣視察に余念が無い。
「やぎ? やぎ‥‥(ここは? 秘密が隠されている気がする‥‥)」
 目隠し布が掛かった洗濯籠に手をかけようとした、瞬間。

「あぁん、ふわふわもこもこ‥‥かぁいいなあ!!」

 がばっとラグナは抱き上げられた。

 彼に、それから後の記憶は――ない。
 何だか散々触られまくりもふられまくり、ちゅーされた挙句、同衾までしてしまった気がするが、あれは夢。きっとハロウィンの魔法だ。
「‥‥そういう事に、しておこう」
 だから記憶にございません、でないと色々居た堪れない。

 誇り高き修羅の騎士が仇敵にあんなことやこんなことをされてしまったなど――ッ!



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib8459 / ラグナ・グラウシード / 男 / 19 / 淡緑色のやぎさん 】
【 ib7455 / エルレーン / 女 / 18 / やぎさん拾った女の子 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 てちてち‥‥なんて可愛らしい、やぎラグナさん!
 かぼちゃの種がこんな魔法を掛けるなんて‥‥私ももふりたい(笑)いつもありがとうございます、周利でございます。

 相棒・南瓜提灯ゲットに必要な『かぼちゃの種』ですが、このお話ではおやつにさせていただきました。
 なお、やぎラグナさんは山羊珠とは異なり、「やぎ」としか喋れない仕様です。だってその方がエルレーンさんと意思疎通できませんもの!(酷)
 もふるともふられるは別物、かぁいいもの好きがかぁいいものになって‥‥ラグナさん、どんな気分だったでしょうね?
魔法のハッピーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年11月11日

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