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『幸せのカタチ〜ふわもこ 』
エルレーン(ib7455)

 こんな伝説、知ってるかい?
 かぼちゃの種には幸せが入ってる――って。

●やぎさん
 淡い緑の毛並みした、ふわもこニ頭身のやぎさんが、いた。
 その正体はラグナ・グラウシード(ib8459)その人である。
「やぎー!」
 ラグナは吠えた。「なにー!」と言ったはずなのに、彼のもっふりした愛らしい口元から出た音声は人語を発していなかった。
(こ、これは‥‥)
 寸詰まりの腕は口元までしか届かない。蹄のない前脚を顎にあてがい、ラグナは考えた。
 今の自分はヤギだ。ヤギになる前、何をしていた?
「やぎっ!」
 食べた! とラグナは言った。
 万商店で貰ったかぼちゃの種を炒って食べたのだ。そして万商店で売り子をしている獣人の暁は陰陽師――まさか。
「や、ぎ‥‥!?」
 新手の呪いか!?
 尤も、暁にラグナを呪う謂れがないのだが、そこは考えからすっぽ抜けている。独り身の僻み根性を日々増幅させている、非モテ騎士のラグナ・グラウシードの発想は被害妄想寄りなのだ。
「やぎ、やぎ‥‥ッ!」
 陰陽師か魔術師に頼んでお払いをしなければ! 転がるようにして、ラグナは家を飛び出した。

 外は良い天気だ。ほんの少し冷たい晩秋の風も、今日は何だかおひさまに遠慮しているかのよう。
 ひなたぼっこすればさぞや気持ち良さそうな――
「うふっ、良い天気〜」
 心地良い秋空の街で、エルレーン(ib7455)は涼やかな風を胸一杯に吸い込んだ。久々の休日がこんなに素敵な陽気だなんて、やっぱり日頃の行いが良いのかしらん。
 機嫌よく、足の向くまま気の向くままに、あちらの店こちらの店と気侭な散歩を楽しんでいたのだが。
「‥‥はぅ?」
 淡い緑の毛並みした、ふわもこ二頭身のやぎさんが、いた。
 可愛い。エルレーンは一瞬ぬいぐるみが落ちているのかと思った。次いで、ぬいぐるみショップから逃げ出したのだと思った。
「‥‥ううん、そんなことない」
 だって、ぬいぐるみは逃げ出さないもの。
 それにやぎさんは――向こうから、てちてちと歩いてくるではないか!

 一方、淡緑のやぎさんことラグナは、仇敵エルレーンの姿を眼中に留める余裕なんぞ持ち合わせちゃいなかった。
「やぎ! やぎっ!!」
 陰陽師! 魔術師!! お客様の中に、陰陽師か魔術師のかたは居られませんかー!
 つぶらな赤い瞳はクラス判定に必死で、志士のエルレーンは完スルー。我が敵にも関わらず気が付きゃしない。
 そう――復讐者は、目の前に彼女が立つまで全く気付かなかったのだ。

「わあ‥‥かぁいい! やぎさんやぎさん、どこ行くの?」
「や、やぎっ!(き、貴様は!)」
 ラグナの前にしゃがみ込んだエルレーンが、にこにこと話しかけていた。自然ラグナからは太腿がよく見えるのだが、惜しいかな彼女はマイクロミニならぬショートパンツ――もとい、相変わらず色気も素っ気もない、細い脚だ。
 つい、ラグナはエルレーンの胸元に視線をやって毒づいていた。
「やぎ、やーぎっ(この、貧乳娘め)」
「かぁいいかぁいい、なになに? お話ししたいの?」
「やぎっ!(違うわ!)」
「うふっ、かぁいい♪ じゃあ、私のおうちに来ない?」
 言いざま、エルレーンはラグナをひょいと抱き上げた。修羅のラグナならそう簡単にはいくまいが、今は淡緑の毛並みしたやぎさんである。抵抗してじたばたするも彼女は意にも介さない。
「やぎ、やぎー!!(離せ、離せー!!)」
「高い所は苦手? 落っことさないから、おうちまで我慢してね」
 ともすれば自ら落ちそうになるやぎさんを、エルレーンはぎゅっと抱き締めて歩き始めた。
 焦ったのはラグナである。師匠を殺した憎っくき仇に抱き上げられて搬送されている。叫んでも暴れても、こちらの敵意が通じない。
(私だと気付かぬとは‥‥愚かな)
 やぎゅっぎゅっぎゅっ。
 ラグナは、もふらさまばりの含み笑いをした。しかしそんな姿も可愛らしくて、エルレーンは胸の中のやぎさんを覗き込んで微笑む。意思疎通ができていないまま、一人と一匹はエルレーンの自宅へと到着した。

 すわ敵陣到着と気が逸るラグナを見つめるエルレーンの目は何処までも優しい。
「はい、着いたよ〜 ようこそ、いらっしゃいませ」
 やぎさんを床に下ろして賓客を迎えた風にお辞儀して。ふふふっと笑い出し、徘徊を始めたやぎさんを楽しげに眺めた。
 一方ラグナは敵陣視察とばかりに小さな身体を潜り込ませて部屋を調べている――つもりだが目ぼしい収穫はない。
(さすが、私の仇敵。自室にも隙がない)
 違う、ただの整頓した女の子の部屋だ。
 やぎさんが、あっちでふんふんこっちでふんふんしているのを、エルレーンは小動物がテリトリーの確認をしている程度にしか見ていなかった。
 そうして次に出て来る言葉は――
「かぁいい‥‥」
 溜息にも似た乙女の呟き。
 可愛いお客様を持て成そうとお茶菓子を用意していたものの、部屋をもそもそする動くぬいぐるみを見ている内に段々と堪らなくなってきた。
「ふわもこ‥‥」
 かたりとティーセットをテーブルに置いて、エルレーンは身体ごとラグナに向き直った。わきわき無意識に手指を動かして、じわりじわりとラグナに近付いてゆく。
 そんな事とは露知らず、ラグナは敵陣視察に余念が無い。
「やぎ? やぎ‥‥(ここは? 秘密が隠されている気がする‥‥)」
 目隠し布が掛かった洗濯籠に手をかけようとした、瞬間。

「あぁん、ふわふわもこもこ‥‥かぁいいなあ!!」

 がばっとラグナは抱き上げられた。
 慌てて抵抗するも、何せラグナは動くぬいぐるみ状態の小さなやぎさんだ。
「びっくりさせてごめんね? 怖くないよ?」
 人慣れしていない小動物のやぎさんを相手にしているつもりのエルレーンだから優しく優しく、怯えさせないようにやぎさんに話しかけて、撫でた。やっぱり手触り最高のふわもこだ。
「はぅ、ふわふわ‥‥」
「や、やぎっ!?」
 我慢できなくなって、エルレーンは両手でやぎさんの全身をもふもふ。
 あんなところやこんなところ、相手はぬいぐるみサイズの二足歩行やぎさんだから恥ずかしくなんてない。寧ろ全身くまなくもふり倒したい!
「やぎ〜」
 何だかやぎさんが困ったような声をあげたけれど、そんな反応も可愛らしい。思わずエルレーンは抱き締めて、ちゅっ。
「やぎさん、かぁいいよぅ‥‥」
 やはり乙女、ラグナ以上に可愛いもの好きかもしれなかった。

 暫し後、お昼寝しましょとやぎさんに添い寝するエルレーンは、ラグナを寝かしつけながら四方山話。
「‥‥それでね? ラグナったら酷いんだよ? もぅ、あの馬鹿ラグナ!!」
 その馬鹿、実は間近にいるのだが。
 尤も、茫然自失状態のラグナに反論する気力は残っていない。あらあらもうおねむなのねとエルレーン、やぎさんに毛布を掛けてやり彼の額にキスを落とした。
「ふぁ‥‥私も眠くなってきちゃった‥‥おやすみなさい、やぎさん‥‥」

 小さく欠伸をしたエルレーンは、やぎさんを抱き締めて夢の中へ――

●やぎさんの魔法が解けるまで
 目覚めた時、腕の中にやぎさんはいなかった。
 抱き締めた感触は記憶に残っている――だけど、どうやら夢を見ていたようだ。
「はふ‥‥素敵な夢だったな‥‥」
 小さい欠伸を噛み殺し、エルレーンはベッドから降りた。
 目覚めに熱いお茶でも淹れよう。お誂え向きにテーブルには茶器が載っている。

 紅茶を蒸らしている間、茶請けは何にしようかと思案して、そう言えば万商店で貰ったかぼちゃの種を炒ってあったっけと思い出した。
「かぼちゃの種って美容にもいいのよね」
 湿気ないように缶に入れていたのを皿に開けたエルレーンは、奇妙な形の種が混ざっているのに気付いて手を止めた。
 翡翠色の綺麗な種だが不規則な形をしている。何かの形に似ているような?
「ええと‥‥やぎさん?」
 夢で逢ったあの子を思い出し、エルレーンは呟いた。
 可愛い子だったな、そんな事を思いつつ摘み上げた奇妙な形の種を口に放り込み――

「‥‥やぎ?」

 ――魔法はまだ、終わらない――



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib7455 / エルレーン / 女 / 18 / 幸せみつけた女の子 】
【 ib8459 / ラグナ・グラウシード / 男 / 19 / ふわもこやぎさん 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 はっぴーはろうぃーんやぎ!
 いつもありがとうございます。お待たせいたしました、周利でございます。
 かぼちゃの種が、こんなふわもこした幸せを運んで来てくれるなら――誰かに食べさせたい(笑)
 ほっこり幸せな気持ちで書かせていただきました。お楽しみいただけましたら幸いですv
魔法のハッピーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年11月11日

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