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『一期一会の持ち帰り sideジャミール 』
ジャミール・ライル(ic0451)

●繰り返される日常の、稀によくある非日常風景
 今日も天儀の日は暮れる。

 アル=カマル生まれ・定住地を持たないジプシーのジャミール・ライルは、今宵の寝床を何処にしようか、ふらふらと街を歩いていた。
 昼には昼の、夜には夜の、賑わいというものがある。
 昼から夜の掛けての時間帯はまた、独特で。
 家路をたどる者、これから『仕事』の者、昼の住人と夜の住人が行き交いすれ違い、時に衝突することも。

「ちょっと待てや、そこの金髪」

 一度目は、気づかなかった。
 二度目は、『自分かな』と思った。
 三度目、『あ、これは痛くされるな』と思った。
「いやいや……。女の子取ったとか取ってねぇとか、どの子かわかんねぇし」
 振り向くと、ガタイの良い顔の悪い男どもが数人、怖い顔をして立っていた。
(そんなツラで人に接するから、女の子も寄ってこないんじゃねぇ?)
 辛うじて、これは飲み込む。吐きだせば速攻で痛い思いをするくらいは学んでいる。
 いち、にぃ…… 数えようとするが、夕方の薄暗さでよくわからない。とりあえず、たくさん。
 そこまで恨まれるようなことをしただろうか。
 自分は、悪かったろうか?
 考えてみる。
 悪くない、と思う。悪くないだろ。
「……第一それ、女の子が俺を選んだってだけで、俺は悪くないよね?」
 だから、確認をしてみた。
 顔の悪い男どもは、一瞬にして夕日もびっくりな赤い顔でジャミールへ掴みかかった。
「あっ、ちょ、暴力はんたい!! 誰かたすけてー!!」

「おら!! 大人しくしやがれ!」
「綺麗な顔で帰れると思ってんじゃねぇだろうな!!」

 乱暴に路地裏へ放られ、ジャミールは咽こんだ。
 商売道具に傷が付いたらどうしてくれる。
 再度、助けを求めようと息を吸った時―― 風が、ジャミールの横をすり抜けた。
 トッ、短刀が背後の壁へ突き刺さる。

(わぁ……。なんかでかい人きましたわぁ……)

 敵か味方かわからない、大きな体躯の獣人――それが、五黄であった。
 



 邪魔する気か、とゴツイ男たちが目を剥いた。
 隙だらけの立ち居振る舞いに、五黄は吐きだしそうになる溜息を何とかこらえる。
 戦うことは嫌いじゃない、しかし無益な刃傷沙汰は御免だ。
(……馬鹿共が)
 引きずり込むなら、こんな大通りの路地裏よりふさわしい場所があるだろうし、引きずり込んでの行為であるのに、そんなカッカと反応していちゃ『悪いことしてます』と宣言しているようなものだ。
「邪魔されちゃあ困るような、楽しいコトでもしてんのか」
 五黄の尾が、強く地面を打ち付け威嚇する。
「なあ、俺も混ぜちゃあくれないか? お前ら全員をブチのめせばいいのか?」
 獰猛な笑みを浮かべ、五黄が裏路地へと一歩踏み込む。
 巨躯が夕日を遮った。
 獣人の瞳は、獲物を捕える肉食獣の輝きを見せる。
 左目を覆う眼帯は、全てを飲み込む闇のようにさえ思える。
「どうなんだよ。ほら、拳が届いちまうぜ」
 釣り上げた口の端に、犬歯が覗く。五黄は拳を振り上げ――

「ったく、ハッタリひとつもかませねぇのか」
 逃げ出した男たちを追うでなく、五黄はようやく深く深く息を吐きだした。
「――で、なんだよ、野郎かよ……」
 随分と煌びやかな衣装だったから、てっきり女だと思い込んでいたが―― 踊り子、か。
(丁度飲みに行くところだったしな。このままじゃケチがつくだけだ)
「おい」
「やだぁ、放してー! 俺なんにも悪い事してないです!」
「悪いことしてる奴ぁ、大体そういうんだよな。気にすんな、ただのお節介だ。ついでに付き合え」
「うわぁあああああ!!」
 五黄はジャミールを立たせ、行きつけの飲み屋へと――
「ああ、そうだ」
 連れてゆく前に、壁へ刺さったままの短刀を引き抜く。
「いいシロモノだな、勝手に悪かった」
 背後で呆然と立ち尽くしていた若者へと、返却することを忘れずに。




 引き戸を開けると、食欲をそそる惣菜とが酒の香りが二人を出迎えた。
「よ、また来たぜ」
 五黄の姿に、カウンター向こうの女将が笑顔で応じた。
「酒はいつもの、食いもんは……適当に頼むわ」
 ずるずると引きずってきたジャミールを隣へ座らせながら、注文を。
(酒…… 食いもん あれ?)
 てっきり、怖い男たちの仲間か新手かと思っていたら、どうやら違うらしい。
 ようやくジャミールに、周囲を見渡す余裕ができた。
 酒場……といっても、ジャミールが出入りするような綺麗な女の子が居るところとは違う。
 酒と、食事を程よく提供する店。
 快楽を提供する方を普段から選んでいるジャミールにとって、なんだか物珍しくてソワソワしてしまう。
「五黄だ。暇なら付き合え」
 状況を把握できた頃合いを見て、五黄が声をかけた。
 付き合うも何もここまで連れて来て、ではあるけれど。
「ごおー…… 五黄ってゆーの? 言いにくーい」
「そういうお前は?」
「俺? ジャミールっての、踊り子だよー。よろしくね、ごおーちゃ」
 なんだか適当な呼び方に変換されている気もするが、五黄は細かいことは流して、カウンターへ置かれた酒をジャミールの杯へと注いだ。

 一人で飲み食いすることを特段さびしいとも思わないが、相手が居ればそれなりの楽しさもある。
 酒が入り胃が満たされ始めると、打ち解けるのに時間は要さなかった。
 軽い調子のジャミールはこの街に詳しく、五黄の知らない場所など、色々と教えてくれた。
 男一人で行くような場所じゃない情報もあったが、聞く分には楽しい。
 酒の呑みっぷりも気に入った。
「しっかし、今日はまたなんであんなことに遭ってたんだ?」
 軽く、そしてどこか緩いジャミールは、何処かしら何かしらトラブルに巻き込まれそうな危うさはある、となんとなくだが感じながら。
「今日のは俺悪くないよ、悪けりゃ俺だってちゃんと謝るもん」
 ジャミールが、人生で何度謝ったかは定かではないが。
「悪い、か」
「女の子だって、好きな男を選ぶ権利はあるっしょ」
「確かにな」
 商売にしている女性でもそうでなくても、当然だけれど『意思』はある。なるほどだ。
 軽く緩く、だから束縛は無く自由なジャミールに、窮屈な思いをしている女は惹かれても不思議はないだろうと、考える。
 会って間もなくの相手を何処まで信じるかという疑問が無いわけではないが、信じる存在が居て不思議はない。そういう意味だ。
「五黄ちゃんは、いいひとね」
「俺がか?」
「怒らねぇし、助けてくれたしー?」
「行きがかり上、な」
「ごはん、おごってくれるしー?」
「……これは、俺の奢りなのか?」
「それから うっわ、すげーもふもふ!!」
 奢りに関してスルーして、ジャミールはずっと気になっていた五黄の尾に触れた。
 反射的に五黄は尾をしならせ、その手から逃れようとするも深く酒の入ったジャミールの好奇心を刺激するだけであった。
「耳とか、さわっていーい?」
「……気にはせんが、他所でやると怒るやつもいる。気をつけろよ」
「五黄ちゃん、いいひと!! だいすき! もふもふ!!」
 ジャミールは瞳を輝かせ、耳やら尾やら、遠慮なく触りはじめる。
 柔らかな毛並みに、深く指が沈み込む。暖かくて、気持ちいい。
「やべぇ、気持ちいー……」
「? おい。どうした、ジャミール?」
 長い指が急に動きを止め、全身を五黄へ預けてきた。

 ――スヤァ

「……寝たのか」
 時間はまだ早いが、気づけば随分と酒が進んでいた。
(酔いつぶれ、か)
 今日は彼なりに怖い思いをしたのだろうし、その反動も来たのかもしれない。
「……これは、俺が奢ることになるのか?」
 先のジャミールの言葉を思い出し、五黄は現実を見詰めた。




 勘定を済ませ、外へ出る。
 酔いのさめるような冷たい風が頬を打つが、肩で支えるジャミールが目覚める気配はなかった。
「引きずってきたのも俺だしな。一応連れて帰ってやるとするか」
 ジャミールの住処など分からない。
 しかし、この寒空へ放りだすほどに五黄も白状ではない。
 もしかしたら、自分のペースに合わせて飲み過ぎて潰れたのかもしれないし、そうだとしたら責は自分にあるだろう。
(同居してるやつらが五月蝿そうだが…… 一期一会、というやつだな)
 五黄は腹を決め、ジャミールを背負い直す。もふもふの耳へ、ジャミールが鼻先を埋めた。
 何事か言っているが、どうせ寝言だ。判別できない。


 朝が来て、ジャミールが目を覚まし、五黄の住処を出ていったら。
 この天儀の街で、街中で、再びバッタリ出くわすことなんてあるのだろうか。
 あるかもしれないし、ないかもしれない。なにしろ、広い。
 こんな出会い、こんな成り行きは、そうそうないだろうと五黄は思う。
 だから、楽しいのだろう。
 機嫌よく尾を揺らし、五黄は夜道を歩いた。
 平和な寝息が、耳をくすぐっていた。




【一期一会の持ち帰り sideジャミール 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ic0451/ジャミール・ライル/ 男 /24歳/ ジプシー】
【ic1183/   五黄    / 男 /30歳/ サムライ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
もふもふ一期一会、お届けいたします。
冒頭シーンを、それぞれの視点で差し替えしております。
楽しんでいただけましたら幸いです。
魔法のハッピーノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年11月12日

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