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『このありふれた日に 〜あたたかな言葉 』
亀山 絳輝ja2258

●迷う・その1

 秋を追いやりながら、冬が近づいて来る。
 紅葉も鮮やかさを失いつつあり、吹き抜ける風にかさかさと乾いた音を立てていた。
 何かに追いかけられるように年の瀬に向かって走り出す街は、気の早いバーゲンの呼び声で溢れている。
「んー、やっぱこの時期人いっぱいだねぇ……」
 人いきれに、百々 清世が思わず天を仰いだ。
「ゴメンなもも、でもやっぱりどうしてもこの時期は逃せないからな!」
 清世の腕につかまり……というより腕を捕まえ、亀山 絳輝が虎視眈々と並んだ店のショーウィンドウを見比べる。
「いいよー、で、どんなの欲しいの?」
「んー、色々……あっ!!」
 絳輝がずんずんと突き進み、清世はそれに引っ張られてついて行く。
 やがてお目当てのショップの雑踏に突撃していった絳輝は、頬を紅潮させながら飛び出してきた。
「ももー! このコート! 黒と茶色、どっちが似合うっ!?」
 手旗信号のようにせわしなく、交互に身体に当てて見せる。
 その仕草に清世はつい笑ってしまう。
 そんなに慌てなくても、まだまだ時間はあるのに。
「んー、どっちも似合うけど。俺はこっちのが好みかなー」
「じゃあこっちにする! ももの眼力信じてるよっ!!」
 弾んだ声を上げて店内に引っ込む絳輝。だがそれから中々出てこない。
「……なにやってんだろ?」
 もしかして財布でも忘れたとか。
 しっかりしているようで、どこか天然ボケっぽいところのある彼女のことを心配して、清世は後を追う。
 暫く人ごみの中を見回すと、見慣れた背中が二つの棚の間をうろうろしているのがわかった。
「あれーどしたの、絳輝……」
「ああ、もも、どうしよう! このブーツかっこいいな、んー、でもあっちのセール品も捨てがたい……うわあああ、ごめん、もうちょっと待ってて!!」
 待たせていることに対する焦りか、余計に判断がつきかねているらしい。
 顔を赤くしたり青くしたりして、絳輝がうろうろ歩きまわる。
「おっけー、大丈夫。女の子の買い物なんて時間かかるもんでしょ。ゆっくり考えたらいいよ」
 泣きだしそうな顔でこちらを見る絳輝に、清世はゆったりと笑って見せた。
 ちょっとでも自分を綺麗に見せたい、素敵に飾りたいと、あれこれ悩む女の子の姿はとてもいじらしく思える。
 少々待たされたとしても、それを眺めているのは案外楽しいものだ。
「うん、ありがとう。じゃあちょっと冷静に検討してみるね」
 清世の笑みが心からのものであることを確認し、絳輝は少し安堵する。


●迷う・その2

「もも、いいよ……自分の荷物ぐらい持つって」
 絳輝が手をかけようとした紙袋を、清世は笑って引いてしまう。
「荷物持ちは男の仕事っしょ? お買い物の時ぐらい、絳輝も甘えていーのよ」
 空いた方の手を軽く握り、こつんと絳輝の額に当てた。
 絳輝が窺うように清世を見つめる。
「……本当にいいの?」
「もちよー」
 そこで意を決したように、絳輝がぐっと顔を近づけて声を張り上げた。
「じゃあもも! アイスおごって!」
 その真剣な顔に、清世は噴き出しそうになる。
 そんな可愛いお願い事に、そんなに気合が必要なのか。
「おーわかった、任せとけ!」
「やったー! じゃあ早く行こ!」
 絳輝の顔がぱっと輝いた。
 清世の腕を引っ張ると、二人は転がるように走りだす。


 だがいざアイスクリーム店に到着すると、絳輝はまた迷うのだ。
 ガラスケース越しに、色とりどりのアイスが並んでいる光景は余りに魅惑的だった。
「うう……迷う……定番ものも捨てがたいけど、やっぱりハロウィン限定って惹かれるよな……でも結局それで、毎回定番って食べてない気もするし……」
 どのアイスも美味しそうで、まるでそれぞれがこちらを誘っているようだ。
「俺はもち、限定フレーバー」
 普段ふんわり流れに任せて生きているようで、清世の決断は結構早い。
「で、絳輝どれにすんの?」
「限定にするのか、じゃあそうしよう。……うう、それでも迷う……『魔女のケーキ』にするか、『かぼちゃプディング』にするか……」
 ガラスに額をくっつけるようにして悩む絳輝に、清世はまた笑ってしまう。
「じゃあダブルにすりゃいーじゃん」
 びっくりしたように絳輝が振り向いた。
「ふ、二つ重ねもいいのか……!?」
「いいよー。その代わり、晩飯とびきり美味いの頼むわ」
 軽くウィンクすると清世はさっさと店の女の子に向き直り、笑顔でオーダーしていく。

 座席で待つ絳輝に、両手にアイスを持った清世が少しおどけた調子で声をかけた。
「おまたー! はいどーぞ、ダブル」
「ありがと、すけこまし」
 ニヤリと笑いながら、絳輝がアイスを受け取る。
「何それー?」
 隣に座りながら、清世が首を傾げた。
「なんでもない!」
 早速絳輝がかぶりついたアイスに、清世がいきなり小さなプラスチックのスプーンを突っ込む。
「ちょ、何それ」
「味見ー! 自分のと違うの食べたくね?」
「えーっそんなのあり!?」
 不満そうに頬を膨らます絳輝に、清世はスプーンを返す。
「俺のも取っていーよ」
「……貰う!」
 絳輝はざっくり清世のアイスを奪い取る。
「あ、ひでー。じゃあもう少しそっちもよこせ」
「うわっいきなりそう来るか!?」
 絳輝が手にするダブルの上段を落とさないよう、清世が器用にかぶりついた。


●あたたかな言葉

 ショッピングを終えて、絳輝の部屋へと揃って帰る。
 大きな荷物を部屋におろすと、絳輝はさっとキッチンへ向かった。
「ふーふふ、ここからは私の手料理タイムだ! アイスにも負けないくらい美味しいもの作るからな!」
 エプロンの紐をキュッと締め、気合を入れる。
「この季節ならやっぱり南瓜だよな! さんまも安かった!」
 食品スーパーの袋から取り出した食材を、次々と調理台に並べて行く。
 使い慣れた自宅のキッチンとはいえ、自分ひとりで食べる食事を作るのとは手順が違う。
 メニューを思い浮かべながら、絳輝は手際よく下ごしらえを始める。
(もも、お腹すかせてるよな……)
 ソファに寝転がる清世の気配を背中で伺う。
 忙しく包丁を動かしながら、食べてくれる相手を思うひととき。
 それは幸せの形のひとつだろう。
 だからといって、ずっとそこに居てくれとは言わない。
 大事な人だけれど、縛りつけるつもりもない。
 もしずっとそこに居られたら、逆に自分は戸惑うだろう。
(私は我儘なんだろうか?)
 わからない。
 けれど清世がくれる、あたたかな時間。
 甘えていいと言ってくれる、あたたかな言葉。
 それは今の自分には、とても大切なものであることは間違いない。
 だから言葉の代わりに、今日は心を籠めて……。


●ありふれた一日の終りに

 絳輝が慎重に菜箸を動かす。
 自分1人で食べるときには気にならない、鉢の中の煮物の角度にまで気を配って。
「よし、できた! もも、食べよ!」
 キッチンから清世に声をかける。
 がばっとソファから身を起こした清世は、いそいそとやって来た。
「腹減ったー! お、うまそー!」
 テーブル一杯の心づくしの手料理に、清世が目を見張り感嘆の声を上げた。
 少し照れくさく、少し誇らしい気持ちで絳輝が促す。
「さ、早く。座って座って」
 かぼちゃの煮っ転がしに、秋ナスとサンマの焼きびたし、しめじの味噌汁。
 山盛りの白いご飯はほかほか湯気を立てている。
 絳輝が不意に、椅子の上で少し身を縮めた。
「……若干、その、おば……いや、和風じみてはいるが……」
 季節の美味しい物をと思ったが、いざこうして並べてみると、少しおばあちゃんの料理みたいだったかもしれない。
(も、もう少し、オシャレな料理とかにすればよかったかな……?)
 そっと清世の様子を窺うと、嬉しそうな表情が目に入る。
「そういや最近、和食とか全然だったしな……なんか嬉しいかも。いただきまーす」
 きちんと手を合わせる清世の仕草は、何だか少し可笑しかった。
 絳輝は浮かびそうになった笑いをかみ殺す。
「お、美味い」
 煮物を頬張り、清世が呟いた。
「ほ……ほんと?」
「いや、まじ美味いんだけど。これならアイス三段で奢っても良かったな……?」
 冗談めかしながらも、本当に美味そうに次々と箸をつける清世に、絳輝の緊張がほぐれて行った。
「そう言ってもらえるのが、一番うれしい。お代わりあるからね!」
「マジで。んじゃ遠慮なくー」
 清世が空になった茶碗を元気よく差し出した。


 食事をして、片づけをして、そして一緒に寝転んで。
 その間に他愛のない、色んな事を話して。
 普通すぎるほど普通の恋人同士の時間が流れる。
 一緒に居る時は一緒に笑って楽しんで、けれどそれぞれが一人でいることも大事にできる、心地よい距離を保てる。
 そんな相手はなかなか得難いものだ。
 腹ばいになって、清世が雑誌のレジャー特集のページをめくる。
「今度ヒマできたら、どっか行きたいとこある?」
「うーん、どこでもいいよ。ももが行きたいとこなら」
 並んで雑誌を見ながら、絳輝が小さな欠伸をひとつ。
「あ、ごめん」
 絳輝は申し訳なさそうに肩をすくめた。
 退屈なのではない。気を許した相手だからこそ出てしまった欠伸なのだ。
 勿論、そんな言い訳は口にしないけれど。
「おねむかー。じゃあもう寝る?」
 清世が優しく労わるように笑った。
 ショッピングして、気合の入ったお料理をして、そう言えば今日は結構動き回っていた気がする。眠くなるのも当然だ。
「じゃ電気消すねー」
「お、ありがとう」
 柔らかな闇が部屋を覆う。
 心地よい温かさと、心地よい疲れが優しく全身を包み込んでいく。
 きっと今日は嫌な夢など近付くこともできないだろう。
「おやすみ、もも。良い夢をな」
 絳輝は頭を少し上げ、清世の頬に軽く唇を寄せた。
 終わった今日という日に感謝する儀式のように、心を籠めて。
「うん、おやすみ。また明日」
 そして優しい口づけが、頬に返される。

 おやすみなさい、また明日。
 明日もきっとありふれた、やさしい日になるだろう。
 この暖かさに包まれて眠れば、子供の頃のように無心にそう信じられる。
 だから今日は、おやすみなさい。愛しいあなた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2258 / 亀山 絳輝 / 女 / 20】
【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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秋の一日のほんわかデート、お待たせいたしました。
好きという気持ちの現れ方は、人によって色々なのだと思います。
その気持ちに嘘がなければ、そして互いが納得できていれば、それは最良の相手なのでしょう。
今回は三章目が一緒にご依頼いただいた分と対になっております。
合わせてお楽しみいただければ幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました。
魔法のハッピーノベル -
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エリュシオン
2013年11月14日

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