▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『モノノケ達と月の夜 side 狸 』
石田 神楽ja4485


 ハロウィンが近づき、友人知人から縁もゆかりもない者まで、各々主催のハロウィンパーティーの案内が飛び交う。
「見てるだけでも、楽しくなりますねぇ」
 それぞれ趣向を凝らした招待状を並べ、石田 神楽は常と変らぬにこにこ笑顔。
「行けるんやったら、全部に顔出しくらいはしたいところやけど」
 宇田川 千鶴は、それぞれの日程とカレンダー、自分たちのすでに固まっている予定とを睨み合った。
「……こうしてみると、難しいですね」
「せやろ?」
 神楽と千鶴の休日と、パーティーの開催日が全て一致するのは……
「誰のや、これ。神楽さんの友達?」
「いえ……存じませんね」
 招待状には、見知らぬサイン。封筒をひっくり返しても、やはり思い当たる節は無い。大きなイベント関係で一緒になったとか、そういった繋がりだろうか。
 内容は、ごく普通で仮装も強制ではない。片隅でひっそり楽しむくらいは大丈夫そうだ。
 参加してみれば、見知った顔もあるかもしれない。
「ま、どっちにしても、行けるんはこの日だけやし行ってみたらわかるやろか」
「ですねぇ。久遠ヶ原ですし」
「久遠ヶ原やしね」
 トラブルがあったとして、サプライズがあったとして、大体は『久遠ヶ原なので』で解決できる。
「ほな、来週の夜やね。楽しみやわ」
「えぇ、良い夜になるといいですね」
 話がまとまったところで、休憩終了の時間。
 互いに、午後からは通常の授業が入っていた。
 短く別れを告げ、それぞれの教室へと向かう。
 放課後になってしまえば、近く迫る依頼へのミーティングで慌ただしくなる。

 来週の夜、見知らぬ主催者のハロウィンパーティー。
 ちょっと得体の知れない部分も、忙しさの隙間の『お楽しみ』ということで。




 とても月の綺麗な夜だった。
「……千鶴さん」
「……神楽さん」
 お互い、仮装なんて興味なさそうな顔をしていたのに。
「千鶴さんは…… ミイラ、ですか?」
 白いマントを羽織っているが、肌の露出部分は包帯をぐるぐる巻き。
 軽やかに敵の攻撃を回避することを得手としている千鶴にとって、『包帯』というアイテムが縁遠そうで、彼女を知る者には印象的だ。
「ちょ、ちょっとだけやで。神楽さんこそ力、入っとるやん。吸血鬼やろ」
「はっはっは、ただの正装ですよ。ちょっと黒いだけで」
「シャツもネクタイも真っ黒やんか」
「はっはっは。お祭りは基本的に見ている側ですが、こうしてひっそりと参加するのは問題ないでしょう」
 全力で弾けるほどではないけれど、少しくらいハロウィンの空気を味わいたい。
 互いに考えていたことは同じだったようで、それ以上の言及はやめにして会場へと進んでいった。

 さすが久遠ヶ原、というべきか。
 これだけ参加者が居るのに、知った顔が見当たらない。
「ほんまに、ひっそりやわ」
 というか、仮装が見事すぎて原形をとどめている参加者が少ない。
 自分たちのささやかな仮装は、思った以上にささやかだった。
 二人は顔を見合わせ、肩をすくめる。
 わずかに残っていた照れくささも吹き飛んだ。
「お菓子と悪戯を秤に掛けるような子供やないけど、お祭りには乗らんと損。……楽しまなね」
「えぇ」
 奥のステージでは、ロックバンドがおどろおどろしい楽曲を奏で、シャウトしている。笑いしか出てこない。
 二人は参加者たちの仮装を楽しみながら、酒場になっているエリアに入った。
 『ご自由にどうぞ、カクテル・トリック&トリート』
 そう看板の立てかけられたテーブルに、様々な色合いのカクテルが並んでいる。
「綺麗やねぇ」
「パッと見で、名前などはわからないのですが…… 全て、今夜のオリジナルなんでしょうかね?」
 グラスも、カクテルに合わせて様々な形をしている。
 小さなジャックランタンに照らされて、魔法を掛けられた秘薬のようにも見えた。
「これ、えぇな。炭酸と……白いんは、なんやろ」
 透明と白のツートーンに分かれたカクテルを、千鶴は手に。
 宵闇のようなブルーに赤が沈むカクテルを、神楽は手に。
「それでは…… 月の夜に、乾杯?」
「乾杯」
 笑い合い、グラスを合わせる。
 甘口の、飲みやすいカクテル。
 半分ほど飲んだところで、千鶴は少し、異変を感じる。
(なんや? 視界が、ぼやけ……)
 味にそぐわず、アルコールが強いのだろうか。
 しかし飲みやすさに負け、一気に乾してしまう。
「……?」
「…………千鶴さん?」
「……ど、どうして」


 どうしてこうなった。




「これはまた、随分と可愛らしい姿になりましたね」
「な、なん……」
 にこにこと、神楽が千鶴を見下ろしている。
 普段より、ずっと低い位置を。
 わなわな震えながら、千鶴は自身の手足を確認する。
 小さい。短い。衣服もサイズに合わせて縮んでいるのは幸い。
 神楽との身長差から計算して、外見の年齢は小学生低学年くらいだろうか。
「髪、は……変わってへんね。…………耳?」
 ペタペタ、見えない部分を指先で確認したらモフッとした獣耳に触れた。
「!!?」
 驚いて振り返る、マントの裾からフサフサの尾が覗いていた。
「白狐ですねー、お似合いですよ」
「そういう神楽さんは、狸耳だけやん。不公平や」
「……え?」
 少しだけ、神楽の笑顔が固まった。
「安心して下さい、尻尾も装備されてます」
「……っ」
 神楽が動じるどころか嬉しそうにさえ見えるから、千鶴は堪え切れずに笑いを噴きだした。
「ほら、多分日頃の行いじゃないかなって」
「狐と狸やしねー……」
「折角なんですから、この状態で楽しんでみましょう。私もお伴しますから」
「ん……」
 子供の姿でカクテル、とも行くまい。
 周辺をぐるり、歩き回ってみようか。
「折角、やしね」
 子供の姿になるなんて、狙って体験できることじゃあない。
 嘆くことより、プラスに考えてみよう。
 こういった時、ベタベタに甘い恋人関係ではなく、『親友』とも呼びあえる距離感が心地いい。
 驚きからワクワクへと気持ちを切り替えて、子供の視線の高さで千鶴は夜のパーティーを歩き出した。


 ふわふわ、ゆらゆら、狸の尾が揺れる。
 届きそうで届かない、むしろ離れる、離れてゆく。
 コンパスの差という現実は厳しく、神楽は遊んでいるのか気づいていないのか――
「待てい、ちょっとは気を使えっ」
 小走りから全力疾走になり、千鶴は叫んで尻尾に飛びついた。
 もふりとした毛並に顔を押し当てる。
「……なるほど、これは失礼しました」
 意地悪をしていたわけではなかった。
 視界から消えない距離を保っていたつもりだが、千鶴の方は必死の早足だったか。
「足の長さで苦労してたんですね。気付かず申し訳ありません」
「え? それはその、 か、神楽さん!?」
 ひょい、黒狸は容易に白狐を抱き上げ、そのまま肩車。
「……どうしてこうなった」
「はい、しっかり掴まっていてくださいね〜」
「う、うん、わかった……」
 背負われることはあるかもしれないが、流石に元の姿で神楽に肩車をされる機会はないだろう。
 ドキドキしながら、千鶴は神楽の髪に手を伸ばす。さらりとした感触が指先を滑り、気持ちいい。
「髪の毛は引っ張らないでくださいね。痛いので」
「耳は、ええん?」
「どうなるか、わかりますよね〜?」
 千鶴にも、冗談を返す余裕が出来てきた。
(……高い。壁走りん時とも、違う視界やなー……)
 膝のあたりを神楽が押さえ、安定感も抜群。
 これは良い。
 神楽が馴らし歩きを始める。
「如何ですか、千鶴さん」
「夜風が、気持ちええね。うん、なんや新鮮な感じがする」
 胸の高鳴りは、冒険に出る子供のそれに近い。
 会場内を歩く仮面姿の給仕から、南瓜のスティックキャンディーを貰ったところで千鶴のテンションが子供モードにカスタムされた。
「よし、狸号出発や!!」
 指揮棒代わりとキャンディーの南瓜を振るい、千鶴は声を上げる。
「安定の狸号ですね……」



●side 狸
 右へ左へお菓子へ料理へ音楽へ、頭上の小狐が気まぐれに指示を出す。
 いつになく楽しげな声に、神楽の心も合わせて弾む。
 一緒に、子供へ戻ったかのようだ。
「周りからは兄妹と思われていそうですね」
 何の気は無しに、口にした。
(私も妹が居ますけど……)
 今は離れて暮らす家族を、神楽は思い出す。
 これほど、やんちゃな妹ではない。
 なんだかんだで、神楽にとって千鶴は特別なポジションだ。
 姿かたちが子供になったところで変わりはなくて、そう考えると腹の底から笑いがこみ上げてきた。


 お祭りには乗らんと損。……楽しまなね。

 パーティー開始時の千鶴の言葉が、この夜を後押しするように蘇った。




 うすら寒さと体の痛みで、千鶴は目を覚ました。
「……うーん、あれ?」
 薄手の毛布を跳ねのけ、ソファから身を起こす。
 秘密の隠れ家、久遠ヶ原のとある場所にひっそりと佇むオフィスビルの一室。
 カーテンを開ければ、橙色の南瓜よろしく朝陽が頭を覗かせていて。
「綺麗な朝焼けや……。ううううん?」
 さっきまで、変な夢を見ていた気がする。
 ハッとなり、周囲をきょろきょろ見渡せば、床には神楽が転がっていた。
 くしゃみと同時に肩が揺れ、それからのそりと起き上がる。
「おはよう、神楽さん」
「あ、……おはようございます、千鶴さん?」
 テーブルの上には、友人知人から縁もゆかりもない者まで、各々主催のハロウィンパーティーの招待状が散乱していた。
「あのまま……寝てしまっていましたか」
「みたいやねぇ。このところ、立て込んでたもんなぁ」
 神楽と千鶴の休日と、パーティーの開催日が全て一致する日が、なかなか見当たらなくて。
「ひとつくらいは、行きたいんやが」
「ですねぇ。せっかくのお祭りですから、楽しみたいところです」
「……神楽さん、狸の耳と尻尾、どこに隠したん?」
「千鶴さんこそ、かわいい子狐への変化はやめてしまったんですか?」
 顔を見合わせて沈黙、それからどちらともなく笑い合う。
 誰の悪戯かわからないけれど、どうやら不思議な夢を共有していたようだ。
「時間は早いですが、朝食の準備をしましょうか。たしか、下処理を済ませて冷凍しておいた南瓜が残っていたはず……。暖まるものを作りますよ」
「私も手伝う!」
 朝日へ背を向け、二人はパタパタとキッチンへ向かった。


 幾つもの招待状が散乱するテーブルの上。
 あの夜へ続くカードだけは、その後、どれだけ探しても見つけることはできなかった。




【モノノケ達と月の夜 side 狸 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja4485/ 石田 神楽  / 男 /23歳/ インフィルトレイター】
【ja1613/ 宇田川 千鶴 / 女 /21歳/ 鬼道忍軍】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼、ありがとうございました!
白狐さんと黒狸さんのハロウィンパーティー、お届けいたします。
『兄妹』という言葉へ抱く思いの場面を、それぞれに差し替えております。
楽しんでいただけましたら幸いです。
魔法のハッピーノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年11月15日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.