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『モノノケ達と月の夜 side 狐 』
宇田川 千鶴ja1613


 ハロウィンが近づき、友人知人から縁もゆかりもない者まで、各々主催のハロウィンパーティーの案内が飛び交う。
「見てるだけでも、楽しくなりますねぇ」
 それぞれ趣向を凝らした招待状を並べ、石田 神楽は常と変らぬにこにこ笑顔。
「行けるんやったら、全部に顔出しくらいはしたいところやけど」
 宇田川 千鶴は、それぞれの日程とカレンダー、自分たちのすでに固まっている予定とを睨み合った。
「……こうしてみると、難しいですね」
「せやろ?」
 神楽と千鶴の休日と、パーティーの開催日が全て一致するのは……
「誰のや、これ。神楽さんの友達?」
「いえ……存じませんね」
 招待状には、見知らぬサイン。封筒をひっくり返しても、やはり思い当たる節は無い。大きなイベント関係で一緒になったとか、そういった繋がりだろうか。
 内容は、ごく普通で仮装も強制ではない。片隅でひっそり楽しむくらいは大丈夫そうだ。
 参加してみれば、見知った顔もあるかもしれない。
「ま、どっちにしても、行けるんはこの日だけやし行ってみたらわかるやろか」
「ですねぇ。久遠ヶ原ですし」
「久遠ヶ原やしね」
 トラブルがあったとして、サプライズがあったとして、大体は『久遠ヶ原なので』で解決できる。
「ほな、来週の夜やね。楽しみやわ」
「えぇ、良い夜になるといいですね」
 話がまとまったところで、休憩終了の時間。
 互いに、午後からは通常の授業が入っていた。
 短く別れを告げ、それぞれの教室へと向かう。
 放課後になってしまえば、近く迫る依頼へのミーティングで慌ただしくなる。

 来週の夜、見知らぬ主催者のハロウィンパーティー。
 ちょっと得体の知れない部分も、忙しさの隙間の『お楽しみ』ということで。




 とても月の綺麗な夜だった。
「……千鶴さん」
「……神楽さん」
 お互い、仮装なんて興味なさそうな顔をしていたのに。
「千鶴さんは…… ミイラ、ですか?」
 白いマントを羽織っているが、肌の露出部分は包帯をぐるぐる巻き。
 軽やかに敵の攻撃を回避することを得手としている千鶴にとって、『包帯』というアイテムが縁遠そうで、彼女を知る者には印象的だ。
「ちょ、ちょっとだけやで。神楽さんこそ力、入っとるやん。吸血鬼やろ」
「はっはっは、ただの正装ですよ。ちょっと黒いだけで」
「シャツもネクタイも真っ黒やんか」
「はっはっは。お祭りは基本的に見ている側ですが、こうしてひっそりと参加するのは問題ないでしょう」
 全力で弾けるほどではないけれど、少しくらいハロウィンの空気を味わいたい。
 互いに考えていたことは同じだったようで、それ以上の言及はやめにして会場へと進んでいった。

 さすが久遠ヶ原、というべきか。
 これだけ参加者が居るのに、知った顔が見当たらない。
「ほんまに、ひっそりやわ」
 というか、仮装が見事すぎて原形をとどめている参加者が少ない。
 自分たちのささやかな仮装は、思った以上にささやかだった。
 二人は顔を見合わせ、肩をすくめる。
 わずかに残っていた照れくささも吹き飛んだ。
「お菓子と悪戯を秤に掛けるような子供やないけど、お祭りには乗らんと損。……楽しまなね」
「えぇ」
 奥のステージでは、ロックバンドがおどろおどろしい楽曲を奏で、シャウトしている。笑いしか出てこない。
 二人は参加者たちの仮装を楽しみながら、酒場になっているエリアに入った。
 『ご自由にどうぞ、カクテル・トリック&トリート』
 そう看板の立てかけられたテーブルに、様々な色合いのカクテルが並んでいる。
「綺麗やねぇ」
「パッと見で、名前などはわからないのですが…… 全て、今夜のオリジナルなんでしょうかね?」
 グラスも、カクテルに合わせて様々な形をしている。
 小さなジャックランタンに照らされて、魔法を掛けられた秘薬のようにも見えた。
「これ、えぇな。炭酸と……白いんは、なんやろ」
 透明と白のツートーンに分かれたカクテルを、千鶴は手に。
 宵闇のようなブルーに赤が沈むカクテルを、神楽は手に。
「それでは…… 月の夜に、乾杯?」
「乾杯」
 笑い合い、グラスを合わせる。
 甘口の、飲みやすいカクテル。
 半分ほど飲んだところで、千鶴は少し、異変を感じる。
(なんや? 視界が、ぼやけ……)
 味にそぐわず、アルコールが強いのだろうか。
 しかし飲みやすさに負け、一気に乾してしまう。
「……?」
「…………千鶴さん?」
「……ど、どうして」


 どうしてこうなった。




「これはまた、随分と可愛らしい姿になりましたね」
「な、なん……」
 にこにこと、神楽が千鶴を見下ろしている。
 普段より、ずっと低い位置を。
 わなわな震えながら、千鶴は自身の手足を確認する。
 小さい。短い。衣服もサイズに合わせて縮んでいるのは幸い。
 神楽との身長差から計算して、外見の年齢は小学生低学年くらいだろうか。
「髪、は……変わってへんね。…………耳?」
 ペタペタ、見えない部分を指先で確認したらモフッとした獣耳に触れた。
「!!?」
 驚いて振り返る、マントの裾からフサフサの尾が覗いていた。
「白狐ですねー、お似合いですよ」
「そういう神楽さんは、狸耳だけやん。不公平や」
「……え?」
 少しだけ、神楽の笑顔が固まった。
「安心して下さい、尻尾も装備されてます」
「……っ」
 神楽が動じるどころか嬉しそうにさえ見えるから、千鶴は堪え切れずに笑いを噴きだした。
「ほら、多分日頃の行いじゃないかなって」
「狐と狸やしねー……」
「折角なんですから、この状態で楽しんでみましょう。私もお伴しますから」
「ん……」
 子供の姿でカクテル、とも行くまい。
 周辺をぐるり、歩き回ってみようか。
「折角、やしね」
 子供の姿になるなんて、狙って体験できることじゃあない。
 嘆くことより、プラスに考えてみよう。
 こういった時、ベタベタに甘い恋人関係ではなく、『親友』とも呼びあえる距離感が心地いい。
 驚きからワクワクへと気持ちを切り替えて、子供の視線の高さで千鶴は夜のパーティーを歩き出した。


 ふわふわ、ゆらゆら、狸の尾が揺れる。
 届きそうで届かない、むしろ離れる、離れてゆく。
 コンパスの差という現実は厳しく、神楽は遊んでいるのか気づいていないのか――
「待てい、ちょっとは気を使えっ」
 小走りから全力疾走になり、千鶴は叫んで尻尾に飛びついた。
 もふりとした毛並に顔を押し当てる。
「……なるほど、これは失礼しました」
 意地悪をしていたわけではなかった。
 視界から消えない距離を保っていたつもりだが、千鶴の方は必死の早足だったか。
「足の長さで苦労してたんですね。気付かず申し訳ありません」
「え? それはその、 か、神楽さん!?」
 ひょい、黒狸は容易に白狐を抱き上げ、そのまま肩車。
「……どうしてこうなった」
「はい、しっかり掴まっていてくださいね〜」
「う、うん、わかった……」
 背負われることはあるかもしれないが、流石に元の姿で神楽に肩車をされる機会はないだろう。
 ドキドキしながら、千鶴は神楽の髪に手を伸ばす。さらりとした感触が指先を滑り、気持ちいい。
「髪の毛は引っ張らないでくださいね。痛いので」
「耳は、ええん?」
「どうなるか、わかりますよね〜?」
 千鶴にも、冗談を返す余裕が出来てきた。
(……高い。壁走りん時とも、違う視界やなー……)
 膝のあたりを神楽が押さえ、安定感も抜群。
 これは良い。
 神楽が馴らし歩きを始める。
「如何ですか、千鶴さん」
「夜風が、気持ちええね。うん、なんや新鮮な感じがする」
 胸の高鳴りは、冒険に出る子供のそれに近い。
 会場内を歩く仮面姿の給仕から、南瓜のスティックキャンディーを貰ったところで千鶴のテンションが子供モードにカスタムされた。
「よし、狸号出発や!!」
 指揮棒代わりとキャンディーの南瓜を振るい、千鶴は声を上げる。
「安定の狸号ですね……」



●side 狐
 右へ左へお菓子へ料理へ音楽へ、小狐が気まぐれに指示を出せば狸号は軽やかに移動する。
「神楽さん! あれ取って!!」
「はいはい、えーと……こちらのパイでしょうか」
「それの、隣! コウモリの形!」
 千鶴は子供化に乗じて、ちょっと我侭モードを発揮してみる。
 神楽は変わらず、笑顔を崩すことはない。むしろ、この状況を一緒に楽しんでいた。
 普段、素直になりにくいから……と思い切ったつもりだが、案外に案外と、変わることは無いのかもしれない。
 もちろん、相手が他ではない神楽だから、ということもあるのだろう。
 千鶴だって、いくら姿が子供になったからといって誰にでも我侭を言えるかといえばそんなことはない。
「周りからは兄妹と思われていそうですね」
 にこにこと、楽しそうに嬉しそうに、神楽は口にした。
(兄妹……)
 コウモリ型のパンプキンパイを齧りながら、千鶴はボンヤリ想像してみる。
 親友、戦友、そんな風に神楽のことは感じていたけれど、『兄』という発想は無かった。
 今は離れて暮らす家族を、千鶴は思い出す。
(子供の頃は黒髪で髪型も違って、今の姿と全然違うけれど……。こういう兄がいたら、また違ったんかな、私も)




 うすら寒さと体の痛みで、千鶴は目を覚ました。
「……うーん、あれ?」
 薄手の毛布を跳ねのけ、ソファから身を起こす。
 秘密の隠れ家、久遠ヶ原のとある場所にひっそりと佇むオフィスビルの一室。
 カーテンを開ければ、橙色の南瓜よろしく朝陽が頭を覗かせていて。
「綺麗な朝焼けや……。ううううん?」
 さっきまで、変な夢を見ていた気がする。
 ハッとなり、周囲をきょろきょろ見渡せば、床には神楽が転がっていた。
 くしゃみと同時に肩が揺れ、それからのそりと起き上がる。
「おはよう、神楽さん」
「あ、……おはようございます、千鶴さん?」
 テーブルの上には、友人知人から縁もゆかりもない者まで、各々主催のハロウィンパーティーの招待状が散乱していた。
「あのまま……寝てしまっていましたか」
「みたいやねぇ。このところ、立て込んでたもんなぁ」
 神楽と千鶴の休日と、パーティーの開催日が全て一致する日が、なかなか見当たらなくて。
「ひとつくらいは、行きたいんやが」
「ですねぇ。せっかくのお祭りですから、楽しみたいところです」
「……神楽さん、狸の耳と尻尾、どこに隠したん?」
「千鶴さんこそ、かわいい子狐への変化はやめてしまったんですか?」
 顔を見合わせて沈黙、それからどちらともなく笑い合う。
 誰の悪戯かわからないけれど、どうやら不思議な夢を共有していたようだ。
「時間は早いですが、朝食の準備をしましょうか。たしか、下処理を済ませて冷凍しておいた南瓜が残っていたはず……。暖まるものを作りますよ」
「私も手伝う!」
 朝日へ背を向け、二人はパタパタとキッチンへ向かった。


 幾つもの招待状が散乱するテーブルの上。
 あの夜へ続くカードだけは、その後、どれだけ探しても見つけることはできなかった。




【モノノケ達と月の夜 side 狐 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja4485/ 石田 神楽  / 男 /23歳/ インフィルトレイター】
【ja1613/ 宇田川 千鶴 / 女 /21歳/ 鬼道忍軍】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
白狐さんと黒狸さんのハロウィンパーティー、お届けいたします。
『兄妹』という言葉へ抱く思いの場面を、それぞれに差し替えております。
楽しんでいただけましたら幸いです。
魔法のハッピーノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年11月15日

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