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『●Bitter Sweet Night 』
百々 清世ja3082)&九鬼 紫乃jb6923

 百々 清世(ja3082)が、その店にふらりと入ったのは偶然であった。
 皆とわいわい飲むのが好きな清世だが、たまには一人でゆっくり飲みたい時もある。
 そんな気まぐれが清世にいつもとは違う、表通りから一本奥に入った通りにひっそりとある小さな店のドアを開けさせた。

 カランというベルの音とJAZZ。小さなキャンドルが清世を出迎える。
 店明け間もないのか清世以外の客は居らず、がらんとしていた。

「いらっしゃいませ」

 カウンターに座った清世は、ぐるりと店内を見回したがメニューらしいものはない。
 客が思いつくまま好きなものをオーダーして良い店という証拠である。

(さて、どうしようかな?)
 洒落の通じない店は、堅苦しすぎて居心地が悪い。
 ちょっとした悪戯心が起きた清世がバーテンダーに、次の客が男か女か賭けようと持ちかける。
「次の客が、男だと思うなら店で一番高い酒を。女と思うなら──」

 暫くして目の前に置かれたグラスを一口飲んで、にやりとする清世。
 そして、ベルがカランと鳴った──。

 ***

「ああ、もう!」
 ばふん!
 クッションを抱きしめ、ベットに体を投げ出す九鬼 紫乃(jb6923)。
 好きだった彼を思い出し、バタバタとベットの上で暴れた挙句、はぁっと大きな溜息を吐く紫乃。
「……虚しい」
 溜息ばかりが出るのは、きっと世間が秋なのと家にいるのがいけないのだ。
 実際、家にいれば電話が掛かってこないか気にしてしまう。
 掛けて来ない相手(彼)への未練を断ち切るには新しい恋愛か、フランクな男女関係を楽しむのが一番である。
 新しい出会いには、新しい冒険を。
 買ったばかりのスカートをスツールから取り出し、夜遊びに出かける事にする紫乃だった。

 いつもは通らない表通りから一本奥に入った通りにひっそりとある小さな店を見つけた紫乃。
 ナンパに王道なホテルラウンジにあるBarも悪くないが、こういう店も悪くないだろう。
 素敵な男性が隣にいなくても女性一人で利用できる雰囲気の店を知る事は、女子力を上げる事になる。
 ドアを開けるとカランというベルの音とJAZZ。小さなキャンドルが紫乃を出迎えた。

 カウンターに着いた紫乃は、最近お気に入りのカクテルを注文する。
 静かに置かれたショートグラスのカクテルを一口を含む。
(ん……美味しい♪)
 ゆっくりと店内を見回す柴乃と男の目が会った。

 ***

(お、美人ちゃん♪)
 清世の目が、柴乃へと吸い寄せられる。
 流行のスカートからすらりと伸びた足がセクシーである。
 誰かと待ち合わせかもしれないが、清世にしてみれば美人を待たせた挙句、暇そうにさせてしているのは罪である。
 そんな清世と紫乃の目が会った。
「こんばんは♪ 隣良いー?」
「いいですよ」
 にっこりと答える柴乃。

「此処よく来るの?」
「いいえ、初めてですよ」
「へー、すごい偶然。俺も今日が初めて。これって運命?」
「運命かどうかは判らないけど、すごい偶然なのは確かですね」
(なんだか手馴れている人ですね。後腐れなさそうだし、今日の気分に向きます)
「久遠ヶ原の大学生?」
「そう見えます?」
「うん、そう見える。俺も大学部に通っているけど君みたいな美人がいたのに気がつかなかった。なんか損した気分だな。あ、まだ入学したての18歳とか?」
「比較的最近といえば最近ですけど。ちゃんと20歳は越えてますよ」
「なら安心♪ 未成年者だったらおにーさんとして『お酒は20歳になってから♪』って怒らなきゃいけないしねー」
 安心してお酒を薦められると笑う清世。
「結構飲みに出かけるの?」
「そこそこですよ」
「へー。今飲んでるカクテルの他に好きなカクテルってある?」
「そうですね。一度飲んだだけで名前が判らないのがありますが……」
 清世にカクテルの説明をする柴乃。
「じゃあ、それを彼女にね。俺は同じの♪」
 二人の前に新しいグラスが置かれ、たわいのない会話が続く。

「ちょっと酔ったみたいで……暑いです」
 涼みたいですとパタパタ顔を手で扇ぐ柴乃の頬は、ほんのりと紅に染まっている。
「良いよ、どこ行く?」
「夜景が綺麗な所なんて素敵ですね」
「了解。美人の誘いは断らないよ」
 近くに止めてあるバイクと取ってくるという清世。
「飲酒運転は、駄目ですよ」
「大丈夫♪」
 柴乃に自分のグラスを差し出す清世。
「これ……アルコールが入っていない?」
 そこの人(バーテンダーを指差しながら)賭けに負けちゃってね♪ とウィンクする清世。
「飲んじゃおっかなぁって思ったんだけどね。それに一緒にいた女の子を物足りないとか”残念”な気持ちで返すのはねー」


 ***


 紫乃にヘルメットを渡し乍ら清世が言う。
「しっかり掴まってね♪」
「はい」
 タンデムシートに座り体を清世の背に預けた紫乃が、ぎゅっと掴まる。

 夜の久遠ヶ原を二人を乗せたバイクが風を切って駆け抜ける。
 冷たい風が火照った紫乃の頬を撫でていく、町の喧騒と対向車のクラクションが後方へと流れていく。
 二人の側を街灯のキラキラとした光が、川のように流れていく。
(夜空を飛んでいるみたいです)
 空を飛べる天魔は、こんな気分なのだろうか?
 ぼんやりと考える紫乃。
 清世の背から伝わる温もりと流れていく灯りが、紫乃は彼との思い出をこのまま忘れさせてくれそうな気がした。
 ぎゅっと掴まる紫乃の腕に力が篭もる。
「それにもっとスピード出して」
「OK♪」
 アクセルを吹かす清世。

 バイクで町を駆け抜け高台へとやってきた二人。
 車同士が行き違う退避所に心もとない灯りを照らす自動販売機が、ぽつんと一つあった。
「……ここが目的地?」
「上の展望台は、何時でも人が多いからね♪」
 秘密の場所だと清世が紫乃にウィンクする。
 バイクを止めたこの場所から少し離れているという。
「足元、気をつけてね」
 見落としそうな小さな立て札を頼りに、清世に手を引かれ小さな散歩道を進む紫乃。
 茂った木立を抜けると少し開けた場所に出た。そこから──


 ──人工島の夜景が一望できた。
 町の明かり、人の息吹が地上に星となって輝く。
「わぁ……!」
 紫乃の口から思わず感嘆の言葉が漏れる。
「上の展望台の丁度数メートル下になるのかな? でも人が少なくって静かな分、俺はこっちの方が好き」
 銜えた煙草に火を着け、一服しながら柵に保たれる清世。
「綺麗ですね」
「綺麗だねぇ」
 町の明かりの向こうに対岸の明かりがキラキラと見える。
 ふと思い出したように清世が言う。
「そーいや名前聞いてなかった……」
「そうね。このまま名前、聞かれないかと思ったわ」
「あー、いや、まあ……いっか」
「まあ、いっかなの?」
 清世の返答に苦笑する紫乃。
 今、ここに君と俺がいる。それで良くない? と笑う清世。
「もう一度会えれば嬉しいけど、会えなくても困らないよ」
「そう言われるとちょっと切ないわね」
 微笑み返す紫乃だったが、紫乃にとっても清世は会えなくても困らない相手である。
 今、この時が楽しければいい。一晩限りの存在。

「寒くなちゃったね」
 清世が柴乃のスカーフを直しながら言う。
「この後、どうする? どこかに入って飲み直す?」
 俺も飲みたい気分だし、と清世。
 ふっ──口唇に微笑みを浮かべる柴乃。
「そうね……」





 人の温もりが恋しい夜もある。

 夜が明ける迄に
 まだもう少しだけ時間がある──








 晴れきれぬ朝靄の中をバイクを押して歩く清世に歩調を合わせて並べて歩く紫乃。
 大学生には寮の門限がないとはいえ、立派な朝帰りである。
「……ここまで送ってくれれば大丈夫ですよ」
「じゃあまたね……どこかで会ったら、気が向いたらまた付き合ってよ」
「そうですね。また会えたらね」
 楽しかったねーと笑う清世に微笑を返す紫乃だった。








<了>



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / インフィルトレイター】
【jb6923 / 九鬼 紫乃 / 女 / 21 / 陰陽師】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は、ご依頼ありがとうございます。
 大変遅くなりました事をお詫び申しあげます。

 お気に召していただければ幸いとなります。
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エリュシオン
2013年11月15日

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