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『ミナミなう。 〜友真帰省編 』
小野友真ja6901


●帰省

 メール送信を終え、小野友真が軽くため息をつく。
 急用で呼び出された実家の用事は終わった。
 恋人宛のメールには顔文字や記号が乱舞しているが、きっと「逢えなくて寂しい」という気持ちは伝わってしまうだろう。
「……あかんなあ」
 プルプルと首を振ると、もう一件メールを送る。
『俺大阪なう!』
 久遠が原で知り合った同郷の友人に、今大阪だと知らせたらどうするかな?
『何かお土産のリクエストがあったら教えてや!』
 そう送った直後、電話がかかってきた。
「え、帰ってきてるんか! 俺明日まで大阪おるん、遊び行かへん?」
 意外なところで楽しみができた。
 腐っていても仕方がない。
 やはり楽しいことは、貪欲にゲットの構えでなくては!
 友真はいそいそと家を出た。


●タコ焼き祭

 待ち合わせは、昔からある百貨店の厳しい玄関口で。
「ごめんーおまたせー!」
 良く通る声が、真っ直ぐ友真に届く。
 淳紅が息を切らせて一生懸命走って来た。
「おー、淳ちゃーん! そんな走らんでええんやで!!」
 友真が大きく手を振る。
「はー、なんか地下街の出口とか変わってて、どないしよおかと!」
 頬を真っ赤に染めて、淳紅は大きく肩で息をついた。
「ごめんなゆーま君、ちょっと出るのが遅なったん」
「こっちこそ、急でごめんな。でも淳ちゃんと同じタイミングで大阪なんて、めっちゃ嬉しいわ!」
 信号が変わり、急ぎ足の人々が横断歩道にあふれ出す。
 その中に混じりながら、二人はそれぞれ『最強のタコ焼き屋』を挙げ、譲らない。
「よし、ほな両方食べ比べや!」
「久しぶりの本場もん、がっつりいくでえ!!」
 賑やかな呼び込みの声が響くアーケードを急ぎ足で抜けて行く。
「なあゆーま君、あの店っていっつも閉店セールやなあ」
「あー、なんかそういうのが売りの店みたいやな」
 変わって行く物もあれば、変わらぬ物もあり。
 昔と同じく、アーケードを歩く人々は皆、おしゃべりしながらも歩速が早い。

 辿りついたタコ焼き屋の前には、長い行列。
「うわあ、なんかすごいな」
 近くの電気屋街やテーマパークのカラフルな袋を提げた人も見える。
 みんな一日で何もかもを楽しもうと急いでいるみたいだ。
 少し並んで手に入れたタコ焼を早速ほお張る友真。
「あふっはふっ! れも、おいひ……!」
「外はかりっと中はふわっと! ええねぇええねぇ故郷のたこ焼きや……!」
 淳紅も慣れた手つきで長い楊枝にぶら下げたタコ焼きを口に運ぶ。
「あ、あのネギいっぱいのってんのも美味しそうちゃう!?」
「よし、次はあっちや!」
 並んで食べて、また並んで。男子高校生の食欲を満たすには、中々遠いようだ。
「思った通りやあ、やっぱこれも美味しい……!」
 淳紅がうっとりとソースの味を堪能する。
「俺さっきのが最強や思っててんけど、こっちも好き……」
 友真の笑顔もいかにも幸せそうにとろけていた。


●ひっかけてみました

 道頓堀をぶらぶら西へ向かって歩く。
「このへんもちょこちょこ変わってんなあ」
 戎橋までたどり着くと、その感慨は一層強くなった。
 綺麗に整備された遊歩道、高い塀。だがどこか懐かしい匂いは相変わらずだ。
 ……決して、彼らが揃って飛び込んだ時の匂いが記憶に染みついている訳ではない。
 何となく欄干にもたれ、揃って通行人を眺める。
 友真の袖を引き、淳紅がそっと小声で囁いた。
「あ、あの兄ちゃんナンパ成功したっぽいな……なんかコツとかあるんかねぇ」
 戎橋、地元での通称はひっかけ橋。そりゃもう色んな人が、色んな人を引っ掛けているのだ。
「だいたい、あんな気ぃ強そうなお姉ちゃんに声かける挑戦心が凄いな。競争率も低いで」
 友真が真顔で呟く。
 ナンパだけではなく、店の呼びこみや、果ては何かのスカウトまで。
 声をかけられる方も心得たもので、その気のない者は素晴らしいフェイントで相手をかわし、さっさとすり抜けて行く。

「あれ?」
 目の端に何かを認め、友真が顔を向ける。
「どしたん?」
「いや、なんか今、見覚えある金髪スーツが通っ……」
 友真はさっと身体を起こし、人ごみに見え隠れする背中を追った。
 淳紅も友真と少し距離を置き、挟み込むように近付く。
「お兄さんお時間ありますかー」
 友真が裏声で調子の良い呼び込み風に声をかけた。
 だが相手は歩調を緩めない。
「ちゃ、茶しばきにいきませんかー?」
 淳紅が得意の変声を使って、尚も追いすがる。
 突然、スーツの金髪男が足を止め、肩越しに鋭い視線を向けた。
「……やかましわ、どこのモンや。ええ加減にせんと……って、何……?」
 ドスの利いた低い声が不意に途切れた。
「先生お疲れさまです!」
「お仕事の帰りかなんかでしょうか、お、お疲れ様ですっ!」
 ニヤリと笑う友真の背中に隠れながら、淳紅がおどおどと顔を覗かせた。
「……どうして君達がここに……」
 ジュリアン・白川は、不覚を取ったと言わんばかりに、額に手を当てた。


●蟹の誘惑

 友真が白川の腕を掴み、満面の笑みを浮かべた。
「いやー先生って、ほんまネイティブやったんやなあ!」
「……何のことかな?」
「あの脅し文句、堂に入ってたもんなあ。なあ、淳ちゃん!」
 是非録音したかった。友真にはそれが残念だった。
「う、うん!」
 淳紅はひたすらこくこくと頷く。一応学園で見知ってはいるが、白川と直接話をしたことはほとんどない。少し気後れしながら、相手の様子を窺う。
 だが此処で会ったが百年目。
 食い倒れツアーは、タコ焼きからのグレードアップ確実だ。
「先生、お仕事で来てるんです?」
「まあそんなところかな」
「えっと、まだ用事あります? もし時間あったら、一緒にセンセとも美味しいもん食べたいなー、なんて!」
 きゃっという感じのポーズで、可愛く首を傾げる友真。
「いや、もう用事は済んだところだよ。……何処に行きたいんだね?」
 友真と淳紅が歓声を上げた。
「先生、あっち!!」
 腕を引っ張って戎橋を戻ると、すぐ近くの出店を指さす。
「焼き蟹が! 3足500円! 何て芳醇な香り! 三足なら一人一足食べれちゃう! ……先生、是非記念に俺らに買うてくれませんかっ俺帆立と蟹大好きなんです」
 息継ぎの間もなく言い切った友真の言葉を、淳紅が受ける。
「やだー、ゆーま君ったら大胆なおねだり。あ、でも自分も大好きです蟹、一週間蟹だけでもいいくらい好きですよ蟹!」
 淳紅の自慢のブレスもばっちり決まった。
「……蟹か。立ち食いでいいのかね?」
 白川は苦笑いしながらも、店に近付いて行く。

 太い蟹足は切れ目で簡単に折れ、中から白い身が顔をのぞかせた。
 ほお張ると、得も言われぬ滋味が口いっぱいに広がる。
「うま……どうしよう、俺、もう戻られへん……」
 何処へだ。
 そういうツッコミはともかく、友真は実に幸せそうだった。
「美味しいわあ……最高……!」
 淳紅もうっとり目を細める。
「分けられるようなら、残りも二人で食べると良いよ」
「えっ先生、こんな美味しいのに!?」
 目を見張る淳紅に、白川が残りの一本を渡す。
「さっき食事を済ませたところでね。良ければ」
 目を輝かせる男子高校生二人。
 流石についそこの高級鰻店で、たらふくご馳走になって来たばかりなのだとは言いづらい雰囲気だった。


●引率あり

 蟹の殻を捨て、名物の看板を見上げる。
 人目を引いてなんぼの極地、趣向を凝らした周囲の看板の中でもそれは一際異彩を放っていた。
「三人で記念写メ撮りたい! 珍しい機会やし、先生どないです?」
 友真の発案に、白川は身を引いた。
「何?」
「ええねぇ! とろとろ! あ、そこのお姉さんすみませーん! 写真とってくれませんかー!」
「え、ちょっと、待ちたまえ!!」
 淳紅のよく通る澄んだ声は、すぐに通行人の足を止めてしまう。
「これでええやろか?」
「ありがとうございます、バッチリですう!」
 明らかに地元民のイントネーションにくすくす笑いながら、若い女性の二人連れが手を振って立ち去った。
「よお撮れてるわ!」
 きゃっきゃと喜ぶ淳紅と友真、だが白川は乾いた笑いを浮かべる。
 またつまらぬものを残してしまったようだ。

「なんか先生が一緒やと、修学旅行に来たみたいやな!」
「ほんまやねえ。なんかテンションあがってくるわ。次どこいこ?」
 人見知り気味の淳紅もかなり慣れてきたようだ。
 白川の腕を引っ張るように、またアーケード街へ戻っていく。
「何処へ行きたいんだ?」
「えーと、後は串カツにー豚肉まんにーミックスジュースにー、あ、すいませんアイスキャンデー一つくーださいなー♪」
「あー、俺も! チョコレートとフルーツ、どっちにしよ……!」
「君たちはこっちの人間だろう? そんなにまとめて食べなくとも……」
 まさに食い倒れ満喫。ある意味これぞ本懐なのかもしれないが。
「とにかく少し座って落ち着こう」
 白川の提案に、食べ歩きを続けてきた友真と淳紅もさすがに足の疲れを思い出す。
「そういえば……あ、そこの店、面白そうやで!」
 黒いマントにミニスカートの魔女が、チラシを手に呼び込みしている店だった。
「ハロウィンパーティー開催中です〜!」
「仮装やったら割引やて……やるやろ!!」
 カッと目を開き、友真が真顔で取り出した黄金色のヒーローマスクを装着。
「やるしかないな!」
 淳紅は長いローブを纏い、白川を見上げた。
「先生は?」
「……そのままで結構だ」
「「えーーっ!!」」
 結局取り出した小銃をモデルガンだと言い張って、そのまんま『ギャングの仮装』で押し切った。
 もちろんその様子を、こっそり友真が撮影していたのは言うまでもない。

 店内で腰を落ち着け、ようやく話をする時間ができた。
「そうか、二人とも帰省していたのか。実家のほうはもういいのかね?」
 何気ない白川の言葉に、友真があいまいに笑う。淳紅も同様だ。
 その様子に何事かを察したか、白川はそれ以上聞かなかった。
 やがて頼んだものが運ばれてきて、話題はそちらに移る。
「はー、ミックスジュースうまー!」
 もったいないと思いながらも、喉の渇きに一気にすすってしまう友真。
「これは他ではあんまり飲めへんもんねえ」
 淳紅もあっという間に氷だけになったグラスを、名残惜しそうに見つめた。
 白川がぼそりとつぶやいた。
「店では確かにあまり見かけないな。偶に懐かしくなって自分で作ったりはするが」
「えっ先生、ミックスジュース作るんです!? 意外や!!」
 身を乗り出す淳紅に、逆に白川が驚く。
「そうかね? 適当にミキサーにかけるだけだが」
「先生、今度飲みにいく……作って……!」
 友真が必殺のうるうる目でおねだり。
「ま、まあそれは構わないが」
 咳払いし、誤魔化すように時計を見た白川が、不意に真剣な顔になった。
「ところで君たち、今日は泊まりかね」
「はーい、明日帰りますー」
「……すまないが、私の方は少々まずい」
「なん……やって……」
 白川が慌しく席を立つ。
「うわあん、まだ豚まんがあ!!」
「本店があー本店が、そこにーー!!」
 あからさまに財布扱いの白川。
「また今度、機会があったらご馳走するよ! 豚まんは逃げないが、飛行機は確実に逃げるからな!!」
「先生約束やで!!」
「絶対やでーーー!!」
 スーツの姿を見送りながら、今生の別れのように手を振る男子二人。
「……ま、ここに色々残ってるし。ジュリー忘れたとは言わんよな!」
「やだーゆーま君てば、頼もしいわー」
 スマホを手に、悪い笑いを浮かべる友真と淳紅であった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2261 / 亀山 淳紅 / 男 / 18】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 18】

同行NPC
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 28】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お待たせいたしました、大阪食い倒れツアーです!
NPCもお呼び頂き、有難うございます。
固有名詞は伏せておりますが、きっと判っていただけることと信じつつ。
久しぶりに自分も回ってみたくなりました。
尚、冒頭部分のみ併せてご依頼いただいた分と違っております。ご了承くださいませ。
この度のご依頼、誠に有難うございました。
魔法のハッピーノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年11月15日

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