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『●Circumstances of His and Her 』
百々 清世ja3082

 その日、何時になく早起きをしたのは、百々 清世(ja3082)であった。
 何時もであれば柔らかい甘い香りのする一夜の相手と共にまだ眠りについているはずの時間であったが、
 早起きしたのにはそれなりの理由があった。


 発端は、極めて日常的であった。
 元友人から紹介された宗方 露姫(jb3641)が、一度もデートしたことがないという話を清世が耳にしたのが始まりだった。
 先輩として男として一肌脱ぐべく露姫に声を掛けたのであった。

「そ、お弁当持ってデート。今の時期なら紅葉も見れるし、綺麗だよー」
「弁当デート♪ 行く行くっ!」
 清世の誘いに目をキラキラとさせて頷く露姫。
「すっごい楽しみだぜ! で、弁当は何作ってくれるの?」
「………」
(こういうのって普通女の子が作ってくるもんじゃない?)
 そう内心思いつつ、
(……つっても、ま、女の子に頼まれたら断れないよねー)
 全身でワクワクしている露姫を見て苦笑する清世。
「初心者の宗方ちゃんは、全ておにーさんに任せておきなさい」


 ──そして本日に至るのであった。

 人参をモミジに型抜き、刻んだ紅生姜の口に胡麻の目玉を爪楊枝でつけていく。
(こういう作業ってやりだすとつい凝っちゃうんだよね)
 そうして出来上がった弁当を眺めて満足そうに頷く清世だったが、
「うわっ! ちょっと凝ってたら待ち合わせ時間やばい」
 水滴防止シートを上に置き、慌てて弁当の蓋を閉めて部屋を飛び出す清世。
「徒歩じゃ間に合わねぇな、バイク出すかー」
 タンデムシートにグルグルとお弁当が入ったバックを括り付け、バイクを飛ばす清世だった。


 ***


 待ち合わせの公園に着くと露姫の姿を探す清世。
「あー、悪ぃ……待った?」
 ごめんねー。てへぺろ♪ と可愛く謝る清世。
「早く来た分マジ待った」
「え、まじっ?!」
 清世が遅れたのは、ほんの数分である。
「ごめんねー、宗方ちゃん。つい弁当に熱中しちゃってさ」
 重箱の弁当を見せ、謝る清世。
「なら許す!」
「宗方ちゃん、ありがとう♪ でもなんで早く来ちゃったの?」
「あー……それはなぁ……ゴニョゴニョ…」
 まさか今日のデートに興奮しすぎて早い時間から目が覚めてしまった等、まるで小学生のような事は恥ずかしくて言えない。
「そう、そうだ! 清世の弁当が楽しみで早く来たんだっ!」
「それはそれで嬉しい理由だけど。おにーさんとのデートが楽しみで眠れなかったとかじゃないんだ」
 ちょっと残念と図星を清世に刺されて真っ赤になる露姫。
「誰がそんな事言うかバカァ」
「宗方ちゃん、素直じゃないなぁ。俺の為にスカート穿いて来てくれたんだよね」
「う……」
「嬉しいな。ありがとー」
「まあ、それはそうなんだが……」
 似合うよと言われて増々赤くなる露姫。
「折角のデートだから楽しもうね♪」
「おぅ!」
 力強く答える露姫。


 ***


 まずはお弁当が食べれる場所探し兼お散歩コースを散策する二人。
「へぇ、この時期になると自然ってこうなるのかぁ……」
 モミジやイチョウが色づくお散歩コースは、華やかに彩られている。
「人間界の秋って初めて見るんだ、俺」
「そうなんだ。もうすっかり秋だねぇ、ドングリとか落ちてねぇかなー」
「ドングリ?」
「見たことない?」
 ちょっと待っててねーと路側を探す清世。
「はい、お待たせ。ドングリだよ♪」
「なんだか栗を細くしたみたいな格好だな」
 手の上に乗せられたドングリを転がす露姫。
「あ、清世。こっちの木にも何か実がなってる」
「これはコブシだな」
「へぇ……清世は博識なんだな」
「そう。と言いたいけど、そこにプレートがついているんだよ」
 清世が指差す方向に小さなプレートがついていた。
 よく見ればあちらこちらの木や草むらに名前がついている。
「これがススキで、こっちはクヌギ……」
 楽しそうにプレートを見つけては名前を読み上げていく露姫。


 ***


 散策を楽しんだ後は、噴水が眺められるベンチに並んで座る清世と露姫。
「お待ちかねのお弁当タイム。じゃーん!」
「おぉっ! 弁当っ、待ってました!」
 清世が重箱の蓋を開けると、パチパチと手を叩く露姫。
 唐揚げ、金平牛蒡にポテトサラダ。ヒヨコのゆで卵とタコさんウィンナー、行儀よく串刺しになった肉団子──重箱の中も秋の彩りで飾られていた。
 密閉型プラスチック容器にはデザートのフルーツが入っていると言う清世。
「……そういや、好き嫌いとかなかった?」
「好き嫌いねぇのが俺の取り柄だぜ? どっから食べようかな……」
 目をキラキラ輝かせて言う露姫。

 元気の良い「いただきます」の後、ぱくっと唐揚げを頬張る露姫。
「ん、イケメンと食べる飯も美味いな!」
 お弁当を嬉しそうに食べる露姫を見て、箸をつける清世。
「やっぱ自分で作ったのでも、女の子と一緒に食べると美味しいねぇ」
 色々なオニギリを結んだと言う清世。
「全種類違う……とはいかないが、何が入っているかのお楽しみってね」
「そう言われると全部制覇したくなるぜ。んでは、早速」
 オニギリに手を伸ばす露姫。
「お! こっちはオカカで、こっちは焼きメンタイコだぁ♪」
 モグモグとオニギリを食べる露姫が質問する。
「清世の作る飯はどれも美味しいけど美味しく作るコツっとかあんの?」
「んー、作り方とかコツ……ってもねー」
 小首を傾げる清世。
「……俺もレシピとか見ねぇし、適当よー?」
「……て、適当でこれ? すげぇな!」と感心する露姫。


 ***


「あー、食べた食べた♪」
「宗方ちゃんには十分ご満足頂けたかな?」
 大満足〜と一杯になった腹をさすりながらデザートのウサギリンゴを片手に食後のお茶を楽しむ露姫。
「このお礼、清世になんかしなきゃいけないよな?」
「えー、いいよ。俺が好きでやってんだからさ」
「っていうか、実は考えてきたりして。にひっ♪」
 片づけをしていた清世を抱きかかえ、
「まず1つめ、邪魔が入らねぇ空中デート!」
 空へと翼を広げ飛び上がる露姫。

「うひゃあああああっ!!」
 落ちないよう思わず咄嗟に露姫にしがみつく清世。
「うひゃひゃひゃっ♪ 清世、驚いた?」
「い、いきなりは吃驚するよね! 流石にね!」
「へへっ、女の子らしい事は苦手だからさ……」
 照れくさそうに笑う露姫。

 足元には午前中歩いたお散歩コースが小さく見える。
「どーだ、空を飛ぶのも気持ちいいもんだろ?」
 漸く慣れてきた清世が微笑みながら返す。
「うん、あれ、でもほら……普通は逆だよね……?」
「?……清世は、空を飛べないだろう?」
「……いや、お姫様抱っこ……」
「…………」
「………」
 露姫にしてみればおんぶや抱っこよりも姫抱っこの方が清世の安全確保の点で有利と考えただけであろうが、
 180cmの男子大学生が華奢な外見15歳148cm女子に抱っこされているのは、抱きかかえられている本人(清世)がイタい。
 万が一、他人に見られたら暫く立ち直れないかもしれなかった。
「……まあ、清世が言うんならね」
 ふんわりと清世を抱きかかえたまま地上に降り立った露姫。
(うーん、イマイチ受けなかったか)

 こうなってしまったらもう一つの方法しか露姫には残されていなかった。
 はっきり言って露姫にとっては、スカート以上の強敵ではあり、更には適当で上手い料理が作れてしまう清世である。
 ゲートに単身乗り込むぐらいの無謀と笑われてしまうかもしれないが、
(俺も龍の血を継ぐ者。しっかりしろ、俺。
 こんな事でビビってどうなる。それに誰かが言ってたじゃないか──



 『敵に後ろを見せるな』それに……『女は度胸!』だって!)
 ぐっと握り拳を作る露姫。
「で……もう1つは、あんま自信無いけど……」
 持ってきたバックから可愛いハロウィンの絵柄が掛かれた袋を取り出し、清世に手渡す露姫。
「俺に? 開けていい?」
「うん」

 中には少し焦げたカボチャクッキーが入っていた。

「……苦手なりに、頑張ってみたんだけど……どっかな?」
 なるべく焦げが少ないのを選んで入れてみたんだけどという露姫に、
 一つ取り出して食べてみる清世。
「ありがとう。宗方ちゃんの一生懸命の気持ちが入って、とっても美味しいよ」
 俺の(料理の)域にたどり着くのには、まだまだだけどと清世が笑う。
「まあね。俺も清世の言う”適当”ってのを覚えて今度やる時は、美味いもんを食べさせてやるよ」
「楽しみにしているよ♪」





 ──すっかり陽が傾き、時計が5時を告げる。
「今日は楽しかったね」
「うん、楽しかった! お弁当デート、また誘ってくれよな!」
 今度はがっつり肉系がいいかなーと嬉しそうな露姫。
「……それ、やっぱり俺が作るのかな?」
 どうやら露姫の弁当を清世が食べれるようになるには、今暫く時間がかかりそうであった。



<了>



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…‥

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / インフィルトレイター】
【jb3641 / 宗方 露姫 / 女 / 15 / ナイトウォーカー】




ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は、ご依頼ありがとうございます。
 大変遅くなりました事をお詫び申しあげます。
 百瀬様版、露姫様版と内容が少し異なりますので
 読み比べてお楽しみいただければと思います。
 お気に召していただければ幸いとなります。
魔法のハッピーノベル -
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エリュシオン
2013年11月18日

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