▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『ハロウィンの悪戯 〜八意・慧〜 』
八意・慧(ib9683)

 今日はハロウィン。
 子供たちがお菓子を強請って家々を巡り、大人たちもそれに便乗して羽目を外す。
日頃真面目にお仕事に励む人たちもこの日ばかりは子供に戻って一緒に遊ぶ。
 さあ、ハロウィンを楽しむ合言葉を一緒に――

   ***

 天高く馬肥ゆる秋。とは良く言った物で、各方面からアヤカシの被害はあれど収穫の報告が響いてくる昨今、八意・慧は近所の人から貰った南瓜を並べて、思案気に本を捲っていた。
「さて……今年は何がいいかな」
 彼が今手にしているのは、天儀の菓子が記された本だ。
 アル=カマルとはまるで違う菓子が並ぶ本の中に、幾つか目ぼしい物が飛び込んでくる。その中の1つ、南瓜の形をした和菓子に目を留めると、慧はフッと笑んで服の袖を捲った。
「これにしよう。可愛いし、みんな喜んでくれるだろうから……」
 もう直ジルベリアの風習と言われるハロウィンが天儀にも訪れる。少し前までは浸透もしていなかった行事だが、ここ最近では都の至る所で南瓜のお化けを模した飾りを目にするようになった。
 だから、こうして文字の読み書きを乞いに来る子供たちに、せめてもと菓子を用意するようになった。そして今年もその準備に勤しむ。
「南瓜を練り込んだ餡と、それを包む餡……意外と難しいな……」
 ふむ。と時折本に目を落として手を動かす。
 こうして本を見て物を作るのは嫌いじゃない。寧ろ、何もない場所から何かを作るのは楽しい。
 慧は訪れるであろう子供たちの喜ぶ顔を思い浮かべて笑みを零す。そうして出来上がった餡の1つを口に運ぶと、僅かに表情が綻んだ。
「ああ、これは美味しいな……」
 柔らかな日差しが差し込むがごとく微笑を零して囁く。その上で本に書かれている通りに餡を餡で包むと、最後の仕上げに南瓜のお化けを模して顔を刻む。
「……ふふ、出来た」
 少し不恰好だが、それなりに見れる品になっていると思う。
 慧は柔らかな眼差しで出来上がった菓子を見詰めると、残る餡も南瓜の形に仕上げようと手を動かし始めた。

   ***

 柔らかな日差しが差し込む窓辺で、残る菓子を包んでいた慧は、ふと聞き覚えのある足音に顔を上げた。
 軽やかに、まるで踊る様に土を踏む人物には覚えがある。
 慧は僅かに目元を緩めると、残る菓子を進む手を速めた。と、同時に勢いよく扉が開かれた。
「とりっくおあー!」
 元気良く響いた声に「おや」と眉が上がる。
 まるで太陽の加護を受けたかのような髪と、温かな日差しを思わせる肌の色。その双方を携えた華やかな男が笑顔と共に入ってくる。
 彼の名はジャミール・ライル(ic0451)。
 慧の元に文字の読み書きを乞いに来る生徒の1人だ。けれどまさか彼がハロウィンを知っているとは思ってもみなかった。
「ハロウィンをご存じだったんですか?」
 僅かに驚いて問う声に「へへん♪」と得意気な笑いが漏れる。それに微笑んで見せると、慧はジャミールを中に招いた。
 その瞬間、彼が辺りを見回すように鼻を動かし出す。
「良い匂いー! せんせーお菓子下さい♪」
 クンクンと鼻を鳴らしてから発見したのだろう。掌に乗せたままだった菓子にジャミールの目が釘付けになっている。
(ハロウィンと言えばお菓子、そしてこれをあげないと大変な事になるんったかな……)
 彼も慧の大事な生徒だ。その生徒に菓子を渡すのは当初の目的通りだし、なんら問題はない。
「はいはい、お菓子ならありますよ」
 そう言って掌に乗せられた菓子に、ジャミールが満面の笑みを零す。
「かっわいいー♪」
 ちゅーっと唇を寄せてキッスを落とす彼に思わず笑い声が漏れる。そうして残った菓子を失くさないように包装し終えると、慧は改める様に、そして冗談めかすように囁いた。
「これで悪戯はなし――」
「じゃあイタズラ何がいい?」
 被った言葉に双方の動きが止まる。
 今ジャミールは……そして、慧は……何と言った?
「確認ですが……ジャミール。ハロウィンとはどんな催しだったでしょうか?」
 お互いに顔を見合わせて首を傾げる。
 だってそうだろう。
 どちらが放った言葉も、なんだか持っている知識に違うのだから。だから確認の為に問い掛けたのだが、ジャミールから返って来たのは意外な言葉だった。
「いや、俺もよくわかんねぇんだけどー。知り合いの女の子に、甘いもん強請って、くれた人にお礼に楽しいイタズラする日だって聞いたわ」
 真顔で返された言葉に慧の目が見開かれる。そして首を傾げると、彼は考え込むようにして顎に手を添えた。
「……さて、そうでしたかね。何だか逆だったような気がしなくもないですが」
 慧が知っているハロウィンはジャミールとは違う。彼が知っているのは「お菓子をくれなかったら悪戯する」と言うものだ。
 昔、ジルベリアから輸入された本にその様な事が書かれていた気がする。けれどそれを読んだのはかなり前だし、知識にうろ覚えな部分も多い。
 なので自信がなかったのだが、それを打ち破る様にジャミールの手が勢い良く叩かれた。
「まあいいやー。どっちでも楽しいし、先生はどんな悪戯がして欲しいー?」
 頑張って楽しい悪戯しちゃうよん♪ そう囁いて掌に乗った和菓子を摘まむ彼に、慧の瞳が揺れる。
 正直言って、悪戯して欲しいと思わない。
 それでもそれが正しいハロウィンならやらなければならないだろうし……。
「何が良いですかね……」
 そう零して、首を動かした時だ。
 サラリと銀の髪が慧の首筋を撫でた。それを目にした瞬間、ジャミールが怪しい動きに出た。
「良いこと思い付いちゃった♪」
(え?)
 疑問に思う間もなく、ジャミールが背後に忍び寄る。その瞬間――
「!」
 チリッと感じた首筋への痛みに目が見開かれる。そしてその事に抗議しようと口を動かすのだが、次いで訪れた刺激に彼は抗議よりもまず何よりも叫んでいた。
「ち、ちょっと…!?」
 覚えがあると言われれば覚えがあるかもしれないが、それは男性相手ではない。断じて違う!
 思わず振りほどいたジャミールの頭。それと同時に抑えた首筋に覚える違和感に息を呑む。
「じゃ、ジャミール、今、何を……」
 恐る恐る訊ねた慧の顔が若干蒼いのは見間違いではないだろう。
「キ・ス・マーク♪」
「!?」
 驚いた慧を見てジャミールは「いたずら成功」と喜んで腰をくねらせているが、当事者である慧の心中はそんな穏やかなものではない。
 だってそうだろう。
 まさかこの様な形で同性からこんなものを付けられたのだ。誰だって穏やかでいられるはずがない。
 と、ここでジャミールに関して弁解をしておこう。
 それは彼が女の子を好きだということだ。それも自分の生活の一部となる程には好きだということ。
 では何故このような行動に出たのかと言うと。

 そこに首筋があるから!

――だそうです。
「へへへ、楽しい悪戯だったでしょー?」
 悪気なんて勿論ない。
 笑顔で言う彼に、慧の目が一瞬だけ赤みを帯びた。その瞬間、ジャミールの顔が強張る。
「あ、あれ……?」
 この顔には覚えがある。
 大好きで優しい慧。その彼がこういう顔をするときは間違いない。
「……怒って、る?」
 笑顔なんだが背筋が寒くなる眼差しとでも言うのだろうか。
 それを目にしたジャミールの足が下がる。けれど完全に下げ切る前に、穏やかで優しい声が彼の逃走を遮った。
「何でこんなことを……?」
 にっこり笑顔だけど、声も優しいけど、間違いなく怒っている。けれどそれを隠しながら冷えた眼差しを送ると、ジャミールがゴクリと唾を飲んで呟いた。
「……せ、先生の……男ぶりをあげようと思って……?」
 へらっと笑ってもう一歩下がろうとした彼の腕を掴む。そうして盛大に溜息を零すと、慧は極上の笑顔を浮かべて彼に詰め寄った。
「せ、先生?」
 嫌な予感が湧き上がり、ジャミールの額を冷や汗が流れる。
 けれど容赦しない。
「……仕方ないですね、罰としてこの痕が消えるまで僕と行動を共にして貰います」
「!!!」
 一気に顔面蒼白になるジャミールに、ふふっと意地悪な笑顔が漏れる。そうして彼なりに何か思う所があったのだろう。
「やーん、ごめんなさい、ゆるしてー。女の子と遊べなくなったらおにーさんまじ死んじゃうから……!」
 キスマークが消えるまでと言ったら最低でも2日は拘束されてしまう。となれば、その間に女の子不足になるのは必須。
「ね、先生、心から謝るから許してー」
 必死に縋るジャミールだったが、慧は容赦しない。彼は真っ直ぐに彼の瞳を見詰めると、キッパリした口調で最後通告を口にした。
「…遊びに? 行かせませんよ?」
 そう言って微笑んだ彼に、ジャミールは「いやああああ!」と叫び声を上げて泣き崩れた。
 こうして数日間、ジャミールは慧の元でみっちり勉強を教え込まれるのだが、その時のことが身になっているかどうかは、彼に聞いてみないとわからない……。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 ib9683 / 八意・慧 / 男 / 24 / 巫女 】
【 ic0451 / ジャミール・ライル / 男 / 24 / ジプシー 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
大変お待たせいたしましたが、如何でしたでしょうか。
口調等、何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!

※同作品に登場している別PC様のリプレイを読むとちょびっとだけ違った部分が垣間見れます。
魔法のハッピーノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年11月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.