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『ハロウィンの悪戯 〜ジャミール・ライル〜 』
ジャミール・ライル(ic0451)

 今日はハロウィン。
 子供たちがお菓子を強請って家々を巡り、大人たちもそれに便乗して羽目を外す。
日頃真面目にお仕事に励む人たちもこの日ばかりは子供に戻って一緒に遊ぶ。
 さあ、ハロウィンを楽しむ合言葉を一緒に――

   ***

 黄色に橙に、赤の南瓜。
 右を見ても左を見ても、何処の家にも置いてある南瓜をくり抜いて作った不思議な置物に、ジャミール・ライル(ic0451)の足が止まる。
「んー……これ、なんだろうねぇ?」
 ひょいっとしゃがんで見下ろした小さな南瓜。魔除けか、はたまたタダの飾りか。
 たぶん顔の形を作り上げているのだろうが、可愛いと言うより少し不気味な気もする。んじしてもこの南瓜、ここ数日で良く目にする気がする。
「そう言えば」
 良く目にすると言えばもう1つ。
 キョロリと視線を動かした先に見えた、可愛い女の子。その子が着ている黒い衣装にとんがり帽子もここのところ良く目にしている気がする。
「最近の流行にしては地味だしねぇ……んー……」
 はて? そう首を傾げたジャミールの耳に明るい声が響いてくる。
「あら、そこにいるのジャミちゃんじゃない♪」
「あらん、この可愛い声はお姉さん♪」
 こんにちは♪ そう囁いてウインク1つ。これに近付いて来た女性から悲鳴が上がるが、こういう可愛い悲鳴は大歓迎。
 ジャミールは女性が傍で足を止めるのを待つと、今盛った疑問を口にした。
「ちょうど良いや、聞きたい事があるんだけど良いかなぁ?」
 艶っぽく笑んで彼女の顔を覗き込む。
 この女性は良く行くお店で優しくしてくれるお姉さんの1人だ。まあ、いわゆるお友達。
 仲良くしてくれるし、美味しいご飯もくれるし、たまに寝るところも提供してくれるし大好き♪
 そんな彼女がジャミールの問いに目を輝かせる。何を聞かれるのか、何の話をしてくれるのか、興味津々と言った所だろう。
「なになに? ジャミちゃんのお話だったらなんでも聞いてあげる♪」
 ニコニコと首を傾げる可愛い人に「ありがと」っと笑顔を返して囁く。
 その声に女性はある知識を授けてくれるのだが、これが後に大変な事になるとは、ジャミールもこの女性も、思っていなかった。

   ***

 鼻歌を歌いながら軽やかに歩くジャミールの目的地はもう目と鼻の先。
 彼が目指すのはある人物の家で、そこで彼は文字の読み書きを教えて貰う事になっている。
「ハロウィンかー、先生は知ってるかな♪」
 んふふ、と妖しい笑いが零れるが、この辺は若干目を瞑って欲しい。
 楽しいこと、嬉しいこと、そうしたもの全てが好きなのだから仕方がない。
 ジャミールはここに来る前に女性から聞いた情報を再確認すると、「よし」と頷いて勢いよく扉を開いた。
「とりっくおあー!」
 ハロウィンと言えばこの挨拶。
 開け放った扉から中へ入ると同時に発した声に、中で作業をしていたらしい人物が振り返る。
 白銀の髪に金色の瞳。柔らかで優しい風貌の男性は、手に南瓜の形をした和菓子を乗せている。
 この人物がジャミールに文字の読み書きを教えてくれている先生こと、八意・慧(ib9683)だ。
 彼は上機嫌に中へ入ってくるジャミールを見ると、「おや」と眉を上げて彼を迎え入れた。
「ハロウィンをご存じだったんですか?」
 若干驚いた声に「へへん♪」と得意気な笑いが漏れる。それを受けて先生が微笑むと、ジャミールは鼻孔を擽る甘い香りに目を細めた。
「良い匂いー! せんせーお菓子下さい♪」
 その手に乗っているのはまさしくお菓子。
 そしてそれは部屋に充満している香からも判断できる。だからこうして両手を出して乞うのだが、その考えは大当たりだった。
「はいはい、お菓子ならありますよ」
 そう言って掌に乗せられた菓子に笑みが乗る。
 南瓜の形をした、目と口が描かれた和菓子。もしかすると中は餡か何かだろうか。
「かっわいいー♪」
 ちゅーっと唇を寄せてキッスを1つ。
 そんなジャミールに笑いながら、先生は他の菓子を拾い上げて包装してゆく。
「これで悪戯はなし――」
「じゃあイタズラ何がいい?」
 被った言葉に双方の動きが止まる。
 今ジャミールは……そして、先生は……何と言った?
「確認ですが……ジャミール。ハロウィンとはどんな催しだったでしょうか?」
 お互いに顔を見合わせて首を傾げる。
 だってそうだろう。
 どちらが放った言葉も、なんだか持っている知識に違うのだから。だから確認の為に問い掛けたのだが、ジャミールから返って来たのは意外な言葉だった。
「いや、俺もよくわかんねぇんだけどー。知り合いの女の子に、甘いもん強請って、くれた人にお礼に楽しいイタズラする日だって聞いたわ」
 真顔で返された言葉に先生の目が見開かれる。そして首を傾げると、彼は考え込むようにして顎に手を添えた。
「……さて、そうでしたかね。何だか逆だったような気がしなくもないですが」
 先生が知っているハロウィンはジャミールとは違うらしい。彼が知っているのは「お菓子をくれなかったら悪戯する」と言うものらしい。
 それはそれで面白いと思うが、女の子が嘘を吐くはずもない。
 ジャミールはパンッと両の手を打ち鳴らすと、満面の笑みで先生の顔を覗き込んだ。
「まあいいやー。どっちでも楽しいし、先生はどんな悪戯がして欲しいー?」
 頑張って楽しい悪戯しちゃうよん♪ 囁いて掌に乗った和菓子を摘まむ彼に、先生が思案気に視線を揺らす。
 正直言って、悪戯して欲しいと思わない。
 それでもそれが正しいハロウィンならやらなければならないだろうし……。
「何が良いですかね……」
 そう零して、首を動かした時だ。
 サラリと銀の髪が先生の首筋を撫でた。それを目にした瞬間、ジャミールの中にある考えが浮かぶ。
「良いこと思い付いちゃった♪」
 言うが早いか、ジャミールが先生の背後に忍び寄った。
 直後――
「!」
 首筋に感じた微かな痛みに先生の目が見開かれる。そして何かを言おうと口を開くのだが、それが次いで訪れた刺激に遮られた。
「ち、ちょっと…!?」
 覚えがあると言われれば覚えがあるかもしれないが、それは男性相手ではない。断じて違う!
 思わず振りほどいたジャミールの頭。それと同時に抑えた首筋に覚える違和感に息を呑む。
「じゃ、ジャミール、今、何を……」
 恐る恐る訊ねた先生の頬が紅く……と言うよりは蒼くなってる。
 これを目にしたジャミールは「いたずら成功」と喜んで腰をくねらせている。そしてとんでもない言葉を放った。
「キ・ス・マーク♪」
「!?」
 さあっと血の気が引く先生に対して、上機嫌なのはジャミールだ。
 だって先生がここまで驚いているのだから、いたずら大成功じゃないか。
 と、ここで彼に関して弁解をしておこう。
 それは彼が女の子を好きだということだ。それも自分の生活の一部となる程には好きだということ。
 では何故このような行動に出たのかと言うと。

 そこに首筋があるから!

――だそうです。
「へへへ、楽しい悪戯だったでしょー?」
 悪気なんて勿論ない。
 笑顔で言う彼に、先生の目が一瞬だけ赤みを帯びる。その瞬間、ジャミールの顔が強張った。
「あ、あれ……?」
 この顔には覚えがある。
 大好きで優しい先生。その先生がこういう顔をするときは間違いない。
「……怒って、る?」
 笑顔なんだが背筋が寒くなる眼差しとでも言うのだろうか。
 それを目にしたジャミールの足が下がる。けれど完全に下げ切る前に、穏やかで優しい声が彼の逃走を遮った。
「何でこんなことを……?」
 にっこり笑顔だけど、声も優しいけど、間違いない。先生は怒ってる!
「……せ、先生の……男ぶりをあげようと思って……?」
 へらっと笑ってもう一歩下がろうとした彼の腕が掴まれた。そして盛大に溜息を零すと、先生は極上の笑顔を浮かべて彼に詰め寄ったのだ。
 これに今度はジャミールの顔が蒼くなる。
「せ、先生?」
 嫌な予感が湧き上がり、額を冷や汗が流れる。
 けれど先生は容赦しない。
「……仕方ないですね、罰としてこの痕が消えるまで僕と行動を共にして貰います」
「!!!」
 今、何と言った!?
 確かにここには勉強しに来たし、少しの間なら居るのも問題ない。けれどそれがずっとと言うと話は別だ。
「やーん、ごめんなさい、ゆるしてー。女の子と遊べなくなったらおにーさんまじ死んじゃうから……!」
 キスマークが消えるまでと言ったら最低でも2日は拘束されてしまう。となれば、その間に女の子不足になるのは必須。
「ね、先生、心から謝るから許してー」
 慌てて両手を合わせるけど、先生の笑顔は崩れない。
 それどころかキッパリした口調で最後通告を口にした。
「…遊びに? 行かせませんよ?」
 そう言って微笑んだ彼に、ジャミールは「いやああああ!」と叫び声を上げて泣き崩れた。
 こうして数日間、ジャミールは先生の元でみっちり勉強を教え込まれるのだが、その時のことが身になっているかどうかは、彼に聞いてみないとわからない……。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ic0451 / ジャミール・ライル / 男 / 24 / ジプシー 】
【 ib9683 / 八意・慧 / 男 / 24 / 巫女 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
大変お待たせいたしましたが、如何でしたでしょうか。
口調等、何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!

※同作品に登場している別PC様のリプレイを読むとちょびっとだけ違った部分が垣間見れます。
魔法のハッピーノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年11月18日

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