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『Trick or Trick〜イタズラしかないハロウィンナイト〜 』
高橋野々鳥jb5742


●飲もうぜ!
 丁度昼時を迎えた久遠ヶ原学園のとある食堂は生徒達の喧噪で満ちている。
 席もほぼ満席。ガヤガヤと騒がしい声達の中で本日の日替わりBセットのトレイを手に高橋 野々鳥はキョロキョロと辺りを見回していた。
 席空いてないかなぁ。丁度、窓際の日のよく当たる席で先輩の百々 清世の姿を見つけて早速声を掛ける。
「お、ももくーん!」
「おー、のの!」
 声をかけると清世はすぐに気付いたようで軽く手を上げて迎え入れてくれた。
 テーブル席の向かいに腰掛けて、早速
「そういえば、ももくん。午後の授業なんだったか知ってる?」
「え、じゃー多分刺身の上にタンポポ乗せるテクニック授業でいいんじゃね?」
「あれスーパーで買うと大体造花なんだよねー。たまーに本物が乗ってたりすると少し嬉しくなったり」
 クラスどころか学年すら違う野々鳥の授業なんて解るはずがない。清世が適当に言ったら野々鳥も悪ノリしてきた。
「刺身はとりあえず置いておいてー、ののー、いつも通り佐藤んちで飲まね?」
「おー、いいねぇ。じゃあ仮装もしてみない? 丁度こんな時期だし、それぞれ持ってきた衣装を交換したら楽しそうだじゃん!」
 清世の誘いに野々鳥は自分のトレイの上にのっかっているカボチャプリンを指差す。丁度ハロウィンの季節だからとのことでサービスで貰ったらしい。
「おお、いいじゃん。じゃ、そうと決まれば善は急げつーことでー」
 慣れた手付きでポケットから携帯を取り出す。またも慣れた手付きでアドレス帳から相手の電話番号を選択し発信。3コールで繋がった。
『もし――』
『佐藤ー、今晩お前んとこで飮み会な。なんかつまみ買っといて』
 これは酷い事後報告。どうせ暇だし良いよねと一方的に告げた清世は佐藤の返事を聞かずして切った。

「……もう、いっつも急なんだから」
 佐藤 学は苦笑しながら待ち受け画面に戻った携帯電話を眺めていた。
 そうして、飲み会
「まずは、おつまみの到着と……冷蔵庫の場所開けとかないとね」
 そうして、冷蔵庫の扉を開いた学。
「丁度良いか。スペース開けるついでにこの辺の野菜纏めて煮て昼ご飯にしようかな、買い物はその後でいいよね」
 嬉しいやら哀しいやら。あの友人達が家で要求してくることが何となく解るようになってしまっていたのだ。
 そうして、学は少しだけ遅めの昼ご飯を作り始めた。


――その頃。

「あ、そういえば佐藤、仮装のことゆっとくの忘れ……ま、いっか」
 そうして、最後に水を一気に飲み干す。南瓜プリンを強奪しようとしたら野々鳥に威嚇されたので清世は素直に昼食を終えて席を立つ。
 丁度近くの席に知り合いの女の子の姿を見つけたので『仮装、何か貸してくれない?』と頼むとあっさりと了承を得た。
 その後に手渡されたのはセクシーナースの衣装。どうせ着るの自分じゃないし、他に探すのも面倒だからという超適当かつある意味合理的な理由で清世の持参する衣装が決まった。


●男の飲み会たるもの
 そうして学の家のベルが鳴ったのは午後20時過ぎ。『ハズカシイモノ』は、ベッドの下は定番すぎてすぐ見付かるだろうとご丁寧にクローゼットの奥に仕舞い終えた学がホッと一息ついた時だった。
 返事をして、家の鍵を開けた学。
「いらっ……」
「おーす、冷蔵庫貸してー」
 ドアノブに手を掛けて開こうとした前に、勝手に開いた。というよりは外に居た清世が勝手に扉を開けた。
 迎え入れた学の言葉とその隣をスルーした清世は、挨拶もそこそこに上がり込み冷蔵庫にコンビニで買ってきたチューハイやおつまみなどをぶち込んだ。勝手知ったる他人の家。女の子には甘くても男の友人には遠慮無い百々 清世。
 そんな、清世の後からひょっこりと入ってきたのは野々鳥。
「いつも佐藤に用意して貰ってばっかだから偶には俺達もーってことでフナ寿司ポテチとカレーチューハイ買ってきた。佐藤、今晩はお邪魔するよー」
「……ねぇ、それ誰が得するの? というか、どうやって入手したの?」
「普通にコンビニに売ってたけど」
 サラッと答える野々鳥。ちなみに一応普通のも用意はしているらしい。でも一応だからね、普通じゃ面白くないじゃんと野々鳥の瞳が語っていた。
「……明らかに悪酔いしそうだけどな。そっちの紙袋は何?」
「ん、これはー、後でのお楽しみ」
 野々鳥も何やら意味深な笑みを浮かべて、リビングへと入っていった。
 そうして学と野々鳥がリビングに入ると、既に清世がテレビの電源を入れて何やら楽しんでいた。勝手知ったる他人の家。
 清世が見ていたのはクイズ番組。名物でもあるらしいおバカ芸人が素っ頓狂な解答をするとクスッと。逆に此処まで斜め上な解答を考えるのも大変だよねぇと野々鳥がのんびり。その隣へと腰掛ける。
「それじゃあ、料理とかお酒とか持ってくるから、ふたりはそこでちょっと待っててね」
 そうして台所へ戻った学は予め用意しておいた酒とつまみ、ちょっとした一品料理をお盆にのせてリビングへと戻る。
「おまたせー。じゃ、始めよっか」
「ちょーっと、そーのーまーえーにー、着替えなきゃね」
 机にお盆を置いて、グラスを配り始めた学にストップをかけたのは野々鳥。
「着替えるって、何を?」
「服を!」
「そりゃ、そうだろうけど、何で態々着替えるの?」
 恐ろしい程に自信満々に答えた野々鳥に、何か嫌な予感を感じた学。背中を冷や汗が伝ってゆく。
 そうして、野々鳥はにこやかに告げる。
「だって、仮装飲み会だしね」
 え、あの。
「……ちょっと聞いてないんだけど?」
 思わず学が吐き出す言葉。その言葉にちょっと言ってなかったっけ?といった表情で清世を見る。
「言ってないもん」
 そしてこれまたケロリと答える清世に肩を落とすしかなかった。なんというか、もう自分が何を言っても無駄なのが解っているだけに辛い。
「……で、仮装なんて用意してあるわけないんだけど、どうするつもりなのかな?」
「心配ご無用。のの、例のブツを」
「イエッサー!」
 清世に言われた野々鳥はガサゴソと例の紙袋を漁る。よしみーっけと小さな声がしてバッと振り返る。
「じゃーん!」
 野々鳥が見せたのは、ミニスカナース服。清世が女の子に借りたもの。
「ねぇ、なんかやたら丈短いし、そんなの着ても誰も特しないよね?」
 冷静に反論してみたつもりだった。だが、しかし佐藤 学の声は震えてしまっている。そんな彼にずる、ずるると近付く清世と野々鳥の顔にはそれはそれは素晴らしい笑顔が浮かんでいる。
「もう、着ればいいんでしょ……着れば」
 有無を言わせないふたりに観念したように学は別室へと向かいさっさと着替えてリビングへ向かう。
「う……うぅ……なんか、すーすーするし……恥ずかしいし……」
 扉を開けるとバッと視線が向けられているのに一瞬で気付き更に顔を赤くして震える学。
 先ず噴きだしたのは野々鳥。
 そして、いつの間にかポリスマンのコスプレを着た清世も携帯を取り出しながら大爆笑した。
 ちなみに、衣装は野々鳥の私物らしく自宅でこっそりと着て楽しんでいるらしいが用途はよく解らない。というか、理解出来なかった。
「証拠品押収、じゃなくて現場写真撮影しまーす」
 ひとしきり笑った後むせながらも写メを取り始めた清世。やめてよと、携帯撮影を止めさせようとするけれど清世に華麗にスルーされた。
「佐藤ー、あれ言ってよ『もう僕お婿さんにいけない』って」
「嫌だよ!」
 即座に返した。断られた野々鳥も諦めず、学に近寄ってスカートに手を掛ける。
「中はどうなってんの?」
「ちょっと……?! 全く……」
 寸前のところで押さえつけて事なきを得たつもりが。かしゃりとシャッター音がして、パンチラ頂きーなどとの声が聞こえてき。もう気にしないことにしよう、精神衛生上。
 学は、必死に自分の心を静めようと心の中で深呼吸をして、数を数えた。そうして、野々鳥が未だ何も仮装していないことに気付く。
「……うーん、僕何も用意してないけど、のの君の衣装どうしよう……そうだ、これ着る?」
 一クローゼットの衣装ケースから白衣を取り出してリビングに戻ってきた。学が医大に通っていた頃に使っていた白衣。
「おお! 生白衣!」
「生の意味がちょっとよく解らないけど、一応元医大生だしね……はい」
 キラキラと瞳を輝かせて早速学から白衣を受け取って、わくわくと羽織る野々鳥。
「ねえ、アレやりたいんだけど!」
 そうして早速白衣を羽織った野々鳥がそんなことを言うものだから学は首を傾げる。
「ナースさん、メス」
「メスなんて無いよ? あるわけないじゃない」
 差し出された野々鳥の手に即座に学がきっぱりと断った。えーとした表情を浮かべた野々鳥に何かを言われることを覚悟した、その時。
「ドクターののー、包丁ならあったぜー」
 きゃぴ。似てるからいいよねとでも言いたげな表情をした清世。その手の中で鋭く銀色に輝く刃物は確か台所にあったはずのものだ。
「それは、なんか事件が起こりそうだからダメ!」
「事件が起こっても大丈夫。俺、ポリスマンだし準備万端。いつでもどんとこい殺人事件」
 即座にツッコんだ学に対しまたもや晴れやかな顔で言い放つポリスマン清世。しかも敬礼なんぞしている。
「来た! サスペンス。配役どうするももくん」
「そーだなー。犯人役は包丁を持つののだと思うぜ。で、俺が刑事、相棒いねぇけど。そういや刑事ドラマだとナースが犯人ってのが多い気がする。けど、ののが犯人役なら人数足りねーし佐藤が被害者役でいいや」
「うんうん、セクシーなナースが被害者役でも映えるしねー。白衣の天使が赤く染まる時、みたいな?」
「……もう、何言ってるかよく解らないんだけど」
 凄い勢いで勝手に話を膨らませる清世と野々鳥。学は思わず頭を抱えたくなる。これでシラフテンションなのだから先を思うと、うん。いつものことだから諦めた。
 いっそこのぐだぐだっぷりを切る方が先と心に決めた学は半ば強引に皆のグラスにチューハイを注ぐ学。
「じゃあ、今度こそ……乾杯!」
 かぁんとグラスが涼しげな音を立てた。
 結局用意したのは普通のチューハイとおつまみ。
 どうでもいい話をしたり、酔いの勢いと悪ノリでナース服姿の写メをメールや呟きサイトで拡散しようとする清世を止めながら騒がしく時間が過ぎてゆく。
 そうして、空き缶がゴミ袋の中にいくつも積もっていった頃。ふたりが突撃してきたのは20時ころ、ふと時計に目を向けてみたら既に日付が変わりそうになっていた。
 次第に朦朧としてきた意識を感じた野々鳥。次の瞬間に吐き気を覚えてトイレに駆け込んだ。
「案の定……ののくん、潰れたね。僕、介抱してくるから……変なことしないでね?」
 アイツ早速潰れたかーと爆笑する清世に対し、さり気なく加減して飲んでいた学が念を推すように去り際にそう言って野々鳥の介抱へと向かった。

 けど、そんなんで良い子にしているような清世ではなかった。
「お、無いなぁ」
 出て行った瞬間に清世はその『変なこと』をし始めた。学の念押しも哀しい程に無力。清世は家捜しなる行為に勤しみ出す、捜査令状も同意も得ていない家宅捜索。
 ただひとつを探すため、それははずかしいもの。つまりはエロ本。良い歳した健康な青少年ならば持っているに違いない。というか、持っていることこそが男たる証なのである。
 多分きっと恐らくメイビー鉄板であるベッド下に違いないとポリスマン清世は睨み家宅捜索を続けるが、例のブツを押収出来ないどころか発見出来ず思わず溜息。
「これで、よしっと」
 ベッドの下にコンビニで入手したエロ本なる物体をこっそりと仕込み、家宅捜索を終了した。全くいかがわしくないエロ本だ。これは健全な男子の証であり決して不健全なのではない。
 それを仕込むことは同じ男児としてのせめてもの優しさなのである。
 そうして、ついでにさり気なくベッドも占拠。
「ここ俺のな、異論は言わせねーぞ?」
「い、いいよ。俺は今日もトイレで寝るから」
 言外にちゅーして黙らせるぞと込めた清世。いつも通り野々鳥がトイレに向かい、早速寝始めた。学はせめてと野々鳥に毛布を掛けておいた。

●朝がきた
 タタタタ、がちゃん。タタタタ。

 耳に届いたのはそんな音。少しだけ重たい頭、だけれど野々鳥が出て行く音で学は目を覚ました。
「あー、ののくん……もう、買えちゃったんだ。ゆっくりしていけばいいのに……」
 床で寝ていた為、体の節々が痛い。それでも体を起こす。
「ねぇ、もも君。今日の朝ご飯、お味噌汁と焼き鮭でい、い!?」
 ベッドの上で未だぐーすかと寝息を立てている清世の顔を見て、固まった。慌てて洗面所に向かった学は自分の顔を確認してみる。
「一緒だ……のの君……」
 清世と学のおデコに描かれていたのは『内』の文字。人がひとつ足りないあたり、更にやるせない。
 どうしようもない虚無感を感じつつ、とりあえず学は洗顔を始めた。

 犯人は未だ逃走中。
 手口は早々にダウンした為二人より早く目覚めたホシが水性マーカーで行ったものだと推察される。
 水性なのは未だ慈悲だ。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / イフィルトレイター】
【jb6262 / 佐藤 学 / 男 / 26 / アカシックレコーダー:タイプA】
【jb5742 / 高橋 野々鳥 / 男 / 26 / ナイトウォーカー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ハッピーハロウィン! 大変お待たせしてしまい申し訳御座いません!
 これはひどい! 佐藤くん、哀れ。
 そういえば、水綺はこの前友人とバーへ行ったのですが、何だか酒が入る程に真面目な話をしていた気がしたような……。
 飲み会の、よく解らないテンションを意識しながら描いてみましたが如何でしょうか?

 少しでも気に入って頂けたら幸いです。ご発注有難う御座いました!
魔法のハッピーノベル -
水綺ゆら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年11月20日

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