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『☆魔物だらけのハッピーハロウィンデー☆ 〜天谷悠里編〜 』
天谷悠里ja0115

 10月31日は年に一度のハロウィン。
 まだ日付が変わったばかりの深夜、天谷悠里とシルヴィア・エインズワースは戸惑いの表情を浮かべながら一通の招待状を手に持ち、車に乗っていた。
「う〜ん……。いくら考えてもこの招待状を送ってきた人に、心当たりはないなぁ。シルヴィア先輩はどうですか?」
「私も思い当たる人はいませんね。ユウリと同じです」
 二人は困ったというように、同時に深いため息を吐く。
 招待状には二人の名前は書いてあるものの差出人の名前はなく、ただ10月31日にホテルで行われるハロウィンパーティーに二人を招待したいということだけ書かれてある。
 必要な物は全て用意するので、身一つで駅前で待っていてほしいということだった。
 最終電車が行き、駅も閉められた時刻に二人が駅前で待っていると、黒い外車が静かにやって来る。
 車から頭は山羊で体が人間の黒い燕尾服を着た男性が出てきてビックリしたものの、丁寧な言葉遣いと柔らかな物腰を見て、少し気を抜く。
 男性は招待状の送り主から、二人をホテルまで車で送るように命じられて来たと言う。
「……もう仮装をしているなんて、気合が入っていますね」
 悠里がこっそり声をかけると、シルヴィアは首を縦に何度も振る。
「ええ……。でもコレもサービスの一つでしょうね。パーティーを盛り上げる為に」
 男性が後部座席のドアを開けて二人に中に入るように勧めるので、とりあえず乗ったのだ。
 招待状を送ってきた人に心当たりはないものの、気になった二人は行ってみることにする。
 一時間ほど経って、車は目的地に到着した。
 車から降りて見ると、夜の闇の中でも眩しい程の煌びやかで豪華なホテルが二人の眼に映る。
「うわぁ! こんなにステキなホテル、はじめて見たよ!」
「でもこのホテル、日本式には見えないような……」
 感動して眼を輝かせる悠里と、不思議そうに首を傾げるシルヴィアは、しかしホテルの中からヴァンパイアの格好をした男性が出てくると、同時に驚いた。
「あっアレも仮装でしょうか?」
「たっ多分、そうだと思います」
 男性は二人の前に立つと、恭しく頭を下げる。そして自らをこのホテルのオーナーだと名乗った。
 オーナーは二人に仮装の準備ができているので、着替えるように勧める。
 二人はビクビクしながらも、オーナーに案内されるままに着替えの部屋に入った。
 部屋には頭にヤギの角、背中にはコウモリの翼が生えている女性メイドが複数いるのを見て、二人の顔色が青くなる。
「しっシルヴィア先輩……。もしかして私達、来ちゃいけない所に来ちゃいましたか?」
「そっそうかもしれません……」
 戸惑う二人に笑顔でメイド達は群がり、着ている服にそれぞれ触れた。
「きゃああっ! いきなり服を脱がせないでー!」
「いやぁん! どこを触っているんですかぁ!」
 部屋の中で、二人の悲鳴が響き渡る。
 しかし数十分後、着替え終えた二人は、互いの姿を見て頬を赤らめた。
 悠里は淡い水色のロングドレスに身を包み、魚のヒレを耳に付けている。頭にはパワーストーンのラリマーを使ったプラチナのティアラ、首と手首には小さな真珠が連なるネックレスとブレスレット、付けヒレ耳にはあこや貝のピアスが付いていた。
「ユウリ、とてもステキです! 可憐なマーメイドに見えます!」
「ありがとう……ございます。でも普段、こういう綺麗な服や高そうなアクセサリーは身につけないので、ちょっと緊張しちゃいます……。シルヴィア先輩はヴァンパイアですか?」
「そうみたいですね。故郷にあるような、このホテルに合っていると思います」
 シルヴィアは黒いゴシック風のロングドレスを着ており、両目には赤いカラーコンタクトを付けている。そして口の中には付け牙、頭には青いバラのカチューシャをつけていた。
「シルヴィア先輩、とってもキレイです! いつもより大人っぽく見えます!」
「うふふ、ありがとうございます。でもこのホテル……」
 シルヴィアが言いかけたところで、メイドから廊下でオーナーが待っていると言われる。
 廊下に出ると、オーナーは笑顔を浮かべながら二人の仮装を褒めた。そしてハロウィンパーティーが行われているサロンへと、案内すると言う。
 歩きながらシルヴィアは、ずっと思っていたことを問いかけてみる。
「あの、何故私達をここへ招待してくれたんですか? あなたと私達は初対面のはず、ですよね?」
 少し自信なさげに悠里を見ると、彼女も同感だというように頷く。
 するとオーナーは説明を忘れていたと手を叩いて気付き、語りだした。
 このホテルは元々ある結界の中にあり、普通の人間の眼には見えずに経営をしていたらしい。ホテルで働く者や宿泊客は全て魔物だけで、人間世界には干渉せずに存在していた。
 だがつい最近ホテルの近くで戦いが起こり、そのせいで結界が一部破壊されてしまったのだ。敵が結界内に侵入したものの、悠里とシルヴィアが倒してくれたおかげで、無事に済んだらしい。
 その後、すぐに結界は張り直され、ホテルは再び人間の眼には見えなくなった。
 しかし助けてもらった礼をしていないことに気付き、二人をホテルで行うハロウィンパーティーに招待することを思い付いたのだ。
 人間を招き入れることがはじめてな上にパーティーの準備で大忙しだったので、招待状が説明不足のままだったことをオーナーは苦笑を浮かべながら謝る。
 けれど二人はオーナーの説明を聞いて、改めて青ざめた。
「じゃあこのホテルって魔物だらけなの? しかも運転手さんもオーナーさんもメイドさんも、仮装じゃなくて本物だったの?」
「そして結界を張ってあるということは、解かない限り外には出られないってことですか?」
 オーナーは笑いながらここにいる魔物達は人間を襲わないと言い、心ゆくまで二人が楽しんだ後、ちゃんと無事に帰すと約束してくれたので、二人は納得することにした。
 そしてサロンへ到着すると、仮装に見える魔物達が数多く参加しているのを見て、二人は顔を引きつらせる。
「シルヴィア先輩……。私達、本当に大丈夫でしょうか?」
「だっ大丈夫ですよ! 魔物だって、悪いヤツばかりではありません! さあ、行きましょう!」
 シルヴィアは悠里の手を握り、サロンの中に入った。
 最初は気後れしていた二人だが、魔物達が優しく接してくれるおかげで、徐々に緊張が解けていく。しばらくすると楽しめるようになり、二人の顔には笑顔が浮かぶ。
 サロンの中心にグランドピアノが置いてあるのを見つけると、二人は弾けることを魔物達に語る。
 するとぜひ聞かせてほしいと頼まれ、悠里とシルヴィアはオーナーにピアノを弾いてもいいかと聞くと、快く承諾してくれた。
「ねえ、ユウリ。せっかくですし、二人で連弾しませんか?」
「えっ!? でっでも私はシルヴィア先輩ほどの腕じゃないですし……」
「今日はコンクールじゃないんですから、気軽で良いんですよ。楽しい気持ちを込めて弾けばきっと皆さん、喜んでくださいます」
 不安がる悠里を励ましつつ、シルヴィアはイスに座る。
 悠里は自分の分のスペースを空けて待ってくれているシルヴィアの姿を見て、覚悟を決めた。そしてシルヴィアと並んで座りながら、ピアノを弾き始める。


★普通の乙女の悩み
 パーティーは朝日がのぼる頃に終わり、二人は欠伸をしながら部屋に入って、入浴することにした。
「う〜ん。緊張してばっかりでちょっと疲れたなぁ。でも心地いい疲れだわ」
 悠里は機嫌良く、バスタブに浮かぶ赤いバラを手ですくう。
「バラ風呂なんてはじめて入ったよ。でもシルヴィア先輩はこういうお風呂、入り慣れてそう。ピアノも上手だったな〜」
 隣でピアノを堂々と弾くシルヴィアに眼を奪われつつも、悠里も一生懸命に弾いた。
 演奏が終わった後は魔物達から惜しみない拍手をされて、嬉しくもあったが少し複雑な気持ちだった。
 ピアノの演奏がシルヴィアにリードされたものだったのが、ほんのちょっぴり悔しかったからだ。
「でも今日のシルヴィア先輩、何だかイキイキしてたなぁ。このホテルが故郷にあるのと似ているそうだし、ああいう仮装も似合っていたわね。……年上の女性って、敵わないけどやっぱりステキね!」
 サロンでも慣れている感じのシルヴィアの後ろにいた悠里は、彼女に憧れを抱きっぱなしだった。
 シルヴィアはいつも自分を可愛がってくれるし、面倒も見てくれる。
 彼女のような美しくも優しい本物のレディに憧れているものの、自分との差を知ってしまうとちょっとへこむ。
「オーナーさん、しばらくはこのホテルに泊まっても良いって言ってたし、その間にあのグランドピアノで練習をしよう! またシルヴィア先輩と一緒に弾く時の為に」
 新たな目標を決めた悠里は勢い良く立ち上がったものの、浴槽の中でツルッと足を滑らせ、ドッボーンと沈む。
「ううっ……。どこまでも格好がつかないなぁ」
 暗雲を背負いながらも今度はゆっくり風呂から出て、着替えた。


☆甘い時
「あっあの、シルヴィア先輩。そっちのベッドに入ってもいいですか? こんなに大きくて立派なベッドに一人だけじゃ心細くて眠れません……」
「そうですか? じゃあどうぞ」
 寝室には豪華なベッドが二つ置いてあり、シルヴィアは慣れた様子で入ったものの、悠里は一度潜り込んでも落ち着かず、とうとうシルヴィアに声をかけてしまう。
「シルヴィア先輩って、こういう豪華な生活に慣れてますよね」
「そう見えますか? まあ私には英国の古い生き方が合っているんでしょう。ですが逆に、機械には弱いというところがありますからね」
 悠里はシルヴィアが最新式の携帯電話やパソコンの扱いに苦労している姿を思い出して、口元が引きつってしまった。
 悠里は一通り一応使えるものの、シルヴィアは機械に関してはパニックになることが多いのだ。
「あはは……。機械関係で困ったことがあれば、教えますよ。まあ私もあまり詳しいってほどじゃないですけど……」
「ありがとうございます! ユウリが一緒にいてくれると、心強いです!」
 間近で金髪美女の満面の笑みを見て、悠里は眼がチカチカした。
「ユウリ、このホテルにしばらく滞在することにしましたけれど、何をしましょうか?」
「そうですねぇ。まずは……」
 こうして二人は長話をした後、眠りにつく。

 ――そして眼を覚ましたのは、日付が変わる夜遅く。けれどホテルの利用客は夜の生き物である魔物が多いので、夜の方が活気がある。
 二人は魔物の宿泊客や従業員達と仲良く話をしたり、オーナーに教えられてホテルのビリヤードや乗馬を楽しんだりした。
 充分に楽しい日々を過ごした後、オーナー達に見送られながらホテルを後にする。
 だが駅前に戻って来たのも深夜。しばらく昼夜逆転の生活を送っていた為に、二人は普通の生活に戻るのに苦労したそうだ。


【終わり】

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0115/天谷悠里/女/18/アストラルヴァンガード】
【ja4157/シルヴィア・エインズワース/21/インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびはご依頼していただき、ありがとうございました(ペコリ)。
 ライターのhosimure(ほしむれ)です。
 二人のほのぼのしながらも現実離れした幻想的なお話を書かせていただき、とても楽しかったです。
 『★』が付いた章は個人ストーリーになっていますので、それぞれ読んでいただければと思います。
魔法のハッピーノベル -
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エリュシオン
2013年11月20日

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