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『映写機の向こう側 』
藤田・あやこ7061)&瀬名・雫(NPCA003)

 USSウォースパイト号の艦長室内、あやこの目の前には暗い表情の雫が立っていた。
 天下御免のオカルト少女にしては、珍しい顔色だった。
「失恋から立ち直る勇気を下さい! 【卓袱台返しのあやこ】の……武勇伝フォルダを噴火させて下さい!」
 真剣な眼差しでそう言ってくる雫に対して、あやこは組んでいた足を組み直し不敵に笑う。
 そして右腕を勢いよく上げて、雫の視線を導いた。
 指先のその先にあるのは大きなスクリーン。直後に映り出した三つのカウントダウンの後、伝記映画が始まった。
 
 ――ネバダの大自然の中、両親の愛情を一身に受けて育ったあやこがその場にはいた。
 傍にいたはずの優しい両親はすでに居ない。とある強盗団に襲われ親を失った彼女は復讐心に燃えていた。
「我が名はあやこ! 一騎打ちを願う!」
 必ず名乗ったあと、一対一で勝負を挑む彼女の姿はじわりじわりと噂になり、その人格に共感を得た人々がいつの間にか集った。そしてあやこの復讐の旅に同行して、彼女を励まし協力をする。
 いくつかの困難を乗り越え、そして彼女は仇である強盗団を完膚なきまでに討ち取ることに成功する。

「成長あるのみよ。成長して見返してやりなさい」
「……あやこちゃん……」

 スクリーンに視線を向けたままで、あやこが雫にそう言った。
 その言葉が心に染みた雫は、胸の前で手を組みながらこくりと頷く。
 すると、画面の向こうの映像が別の色になっていった。
 場面変わって、テキサス州。
 将軍の命令で米国輸送列車を襲った強盗団があった。あやこが率いる一団であった。
 成り行きで強盗団の汚名を着た彼女は、任務を失敗させて逃走していた。遂行中に仲間の一人だった女が将軍のやり方に同意できずに、敵対している反政府軍に手に入れた武器を売り渡してしまったのだ。
 多くの仲間を失い、残っている人数は自分を含めて五人。彼女たちは隣国の本拠地まで逃げたが、その先で女が将軍に捉えられた。
 四人になった彼女たちは、二百人の数の敵と対峙する。
「――覚悟を決めなさい」
 口元だけで笑みを浮かべたあやこが言った響きは、たったそれだけであった。
 虫のように群がる敵の数。絶望とも言える現状だ。
 その敵に対して、あやこは怯むことなく対峙した。持ち合わせる力の波動をその手から撃ち、まるでボーリングのピンを弾くかのごとく蹴散らす。
 その姿はとても美しかった。

 そしてまた、時間が進む。
 コロラド州のとある一本の道を、砂塵を上げて進むトラックがある。
 掛け金返済という名目のもと、あやこは違法な輸送を請け負っていた。荷台の中には高級な盗難車が積まれている。
 背後には重なるのサイレンの音と、目もくらむほどの回転灯がいくつもの数を帯びて追ってきている最中だ。
 それでもあやこは、笑みを絶やさなかった。
「アヤコ! アヤコ!」
 彼女のトラックを目にした人々が、あやこの名を連呼し始めた。
 そんな彼女の立ち振る舞いは今や有名だ。地元のDJが彼女を讃え、国民的英雄という位置にまで存在する。
 追う側の警察は威信のために必死だった。
 トラック一台を追うだけのためにブルドーザーと戦車まで用意し、辺りは物々しい。
 ゴゴゴ……と地鳴りがした。双方から迫る大きな車と、あやこのトラック。
 あわや挟み撃ち、という窮地でも彼女はその走りをやめなかった。躊躇いすら見せずに加速するあやこの車とその姿。
 当然、彼女とトラックは見事に戦車とブルドーザーをくぐり抜けて、滑走する。
 挟み撃ちを狙った警察は、二台の車が激突し大破し、自滅するしかなかった。
 純粋すぎる走りへの情熱が、周囲の人々の心を熱くさせる。
「アヤコ! アヤコ!」
 再びの歓声が上がった。
 その声に笑顔で答えつつ、あやこのトラックは颯爽と去っていく。
 スクリーンいっぱいに砂塵を巻き上げたあと、その映像には『the end』の文字が浮かび上がる。
 チリッというチラ付き後、伝記映画は終わりを告げた。
「一途あるのみよ」
 感動で目に涙を浮かべている雫に対して、あやこが言う。
 そんな彼女の背後には『卓袱台返し』と言う立派な毛筆の掛け軸が掛かっている。
 黒革の椅子に腰掛けたままのあやこは、扇情的なタイトスカートから伸びた脚をまた組み替えて冒頭と同じように不敵に笑うのだった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年11月21日

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