▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『疾風怒涛!舞え 愛と希望のイルカに乗った乙女たち! 』
藤田・あやこ7061)&三島・玲奈(7134)&(登場しない)

突然だが、妖精王国の辺境伯首脳会議が襲撃を受けた。
身もふたもない話だが、要である警備メカを壊滅させた見事な奇襲攻撃に警備兵たちは思わず喝采を送り、警備主任から容赦なくどつかれたのは当然の成り行き。
しかし、そんなのんきなことをやっている間にも辺境伯首脳部に敵兵襲撃の危機は確実に迫っていた。

「どあぁぁぁっぁぁあっ!!どうすんですかぁぁぁぁぁ!!」
「おにょれっ!!警備メカ634シリーズを壊滅させるとは……」
「のんきに言っている場合ですか?!!」

大恐慌状態で首脳部秘書や事務官が涙を滝のように流して、オーバーアクションで苦悩する警備隊長の大尉を締め上げるが状況がよくなるわけじゃない。
元々、この隊長、素晴らしくもなんともない大いなる親の七光りを持ってちょっとした事務と机上の作戦論だけ出世した現場知らずのお坊ちゃまという人物。
苦悩するだけで、状況確認どころか対策一つ取れず、泣き崩れるという無能を丸無視し、実質現場の指揮は警備主任の少尉が取っていた。

「警戒していた連中ではないんだな?」
「はい。水晶で未来予知し、地雷を埋める―なんて古典且つ気長な手段ですから察しはつきやすいですよ。ただ今回は厄介ですね」
「襲撃者は数十体の魔獣。採取したデータからこの辺の森に棲んでいた動物を変異させたようですね」

艦隊旗艦のブリッジでオペレータたちの報告に少尉はきつく唇を噛む。
総指揮を執る上司は無能であてにはならないのは致し方ない。だが、別荘地での警備という性質上、艦隊旗艦と少数精鋭だったのが裏目に出た。
敵の詳細が不明で森の動物たちを魔獣化させ、襲わせたとあれば、大規模な組織がいるとみて間違いない―が、今ここでのんきに詳細を調査している暇はない。
こうしている間にも魔獣相手に展開している剣士たちの命が奪われていく。
迷っている暇はなかった。

「市民の避難を最優先。各部隊を市街に展開させつつ、増援を要請。敵・魔獣群を迎撃……」
「その必要はないわ!!少尉」

緊迫しきったブリッジに響くはた迷―もとい、力強い女性の声。
同時にメインスクリーンに映し出されたのは有翼エルフたちを従えた藤田あやこと娘の三島玲奈の雄姿。
彼女が関われば事態は悪化―いや、莫大な戦果がもたらされるが、同時に甚大な被害もおまけでついてくる。
結果、彼女はこう呼ばれている。すべてを御破算にしてしまう必殺『卓袱台返しの藤田』と。
現に状況を尋ねに来た市長は声にならない悲鳴を上げて立ち尽くしているが少尉以下全員が思った。

―いいや、藤田艦長に任せちゃえ。全責任はあの無能野郎に押し付けちまえばいいよね?答えは聞かなくても同じだろ!!

華麗なる責任転嫁は見事に全員一致したのだった。


今にも踊り出しそうな足取りであやこは整列した有翼エルフたちの前に立ち、朗々と一同を鼓舞する。

「今、この時が国難である!魔獣によって壊滅的危機に見舞われようとしている。こんな事も有ろうかと日夜鍛錬した諸君の健闘を祈る!」
「ハッ!!」
「おか〜さん嬉しそう」

緊張しきった面持ちで真面目に敬礼して返すエルフたちに浮かれきった様子で半分踊りかけるあやこに玲奈は苦笑まじりでツッコミを入れる。
ビキリと一瞬固まり、あやこはギミック人形よろしく隣に立つ玲奈の方を向くと、思いっきり両手でこめかみを締め上げた。

「うっさいわね!!こんな千載一遇なチャンス……逃すわけないでしょ!!」
「なにそれ!!」
「えええい!!とにかくっ出撃よ!!」

無茶な理屈を振りかざすあやこに玲奈はこめかみに走る激痛をこらえながら突っ込むが、お構いなしとばかり出撃を叫ぶ。
見事な敬礼と共に藤田流空中殺法を収めた妖精とイルカの混合部隊が戦場へと飛び出す。
その迷惑な―いや、雄姿を目にした市民たちは空前絶後の大絶叫を上げ、一部が市庁舎へとなだれ込み、虚脱状態となった市長を問答無用に締め上げた。

「なんだっ!なんで藤田が出てるんだぁぁぁぁぁっ!!」
「アンタっ市長だろっ?!俺たちの街がどーなってもいいのかぁぁぁぁっ!!」
「藤田に関する一切の請求を申請する!このまま泣き寝入りなんて冗談じゃねーぇぇぇぇぇ!」
「それは私も同じだあぁぁぁぁぁあっ!!」

鬼気迫る市民たちの背後であやこたちが悠々と空を舞い、迫りくる魔獣群に向かっていく姿を窓ごしに見送り、市長は血の涙を流さんばかりに絶叫した。
もはや収拾不能。哀れだが、こうなってはもうどうにもならない。座して事態を見守るしかないと大多数の市民がその場で合掌したのは別の話である。

街近くの森で繰り広げられていた光景はあまりに異様で無残なものだった。
本来、おとなしい気質の鳥たちが悲痛な鳴き声を上げた瞬間、その姿が大きく盛り上がり、羽毛がなく、爬虫類のそれに似た巨大な翼と硬質で鋭い牙を持つ翼竜へと変質するが早いか、口から吐き出された炎が展開していた事象艇を次々と撃墜する。
臆病なたちの小動物たちも同様に巨大で凶暴性に満ちた魔獣へと姿を変え、応戦していた兵や魔導師たちが抗う術もなく蹂躙されていく様は悪夢としか言いようがなかった。
凶悪な光を宿した魔獣の目が逃げ腰になった兵たちに向けられた瞬間、それは何の前触れもなく飛来した。

「まぁぁぁあああじゅうううううううたち♪か〜くご〜しなさい!!」
「きゅぁぁっぁぁぁ〜〜〜」

間の抜けた歌声が響いたかと思った瞬間、天空から舞い降りたのは美しき翼をもつエルフの戦士……と、愛嬌たっぷりな空飛ぶイルカさん御一行。
調教師よろしく空中を浮遊するエルフたちの号令とともに可愛らしい鳴き声を上げた空飛ぶイルカたちは集団立ち泳ぎ姿でアゴを外さんばかりに驚く魔獣群に襲い掛かった。
くるりと魔獣の鼻先で回転し、鋼鉄よりも固い尾びれで一秒間に数万回ぶっ叩く。
それも数匹がかりでやられたものだから、魔獣は悲鳴とともにあっけなく戦意を喪失。
集団で逃げ出そうとするも、いつの間にか背後に回り込んだイルカたちが握手で〜すとばかりにひれからくり出した往復ビンタが炸裂し、無様にも牙が折れてあさっての方向へとふっとび、魔獣たちは白目をむいて気絶する。
見事な連携プレイと褒めるべきか、それともえげつない攻撃と蔑むべきか悩むところだが、戦況を考えるなら目をつぶろう。

「見事です!見事な攻撃ですよっ、ええホントに!!みなさんご覧いただけますか?街に迫ろうとしていた魔獣たちを藤田隊長の下、妖精飛行隊の皆さんが鍛えた技が魔獣を屠っています」

街に迫る危機が回避されつつあるのを恐怖に怯える市民を安心させるべく、翼竜の攻撃をかわしていた小型事象艇がテレビ中継とばかりに、半ばやけっぱちで映像を撮影しつつ、絶叫する。
市内の避難所に特設された緊急スクリーンにそれが映し出されると、市民からは安堵と何とも言えない空気が支配していた。
はっきり言って無茶苦茶だ。
鍛えられた空飛ぶイルカたちの芸―ではなく、技が決まるたびに言葉がない。
気絶した魔獣たちを投げ、鼻先や尾びれでキャッチボール。数匹のイルカがくるりと回転して、魔獣を地面にたたき落とす。
同時に有翼エルフたちが容赦なく放った炎が苛烈かつ華麗な紅蓮の柱を打ち立てる光景はもう何というか、えげつないのだ。見ている限りは楽しいがやられている方は哀れだ。
市民同様、その光景を目撃した翼竜たちは本能的に危険を感じとり、有翼エルフとイルカ連合軍を魔獣群に押し付け、目標である街に全速力で飛翔した―というよりも、早い話が逃走しただけである。
だが、それはそれで大問題だった。
妖精飛行隊の攻撃で魔獣沈黙。それを恐れて翼竜が街へ逃走。逃走した翼竜が街で暴れる。
そこから導かれる答えは一つ―すなわち暴れた翼竜たちを討伐するために、あの恐怖の親子が何かをしでかすという結論に気づき、市民たちは戦慄するが、それを回避する術は持ち合わせていなかった。

群れを成して街に飛来した翼竜たちは巨大な翼を羽ばたかせて、家屋を破壊し、そこに容赦なく炎を浴びせる。
轟音とともに燃え盛る炎が竜巻となり、唸りを上げて街を蹂躙していく。
満足げにそれを見下ろしていた翼竜たちに悲劇―ではなくて、鉄槌が言葉の通り落ちた。

「滑ぁぁぁぁ空ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ斬っっ〜」

上空に輝く太陽の中からバック転しながら滑空してきた玲奈の麗しき黄金の右足があっけに取られた翼竜の首を捕える。
とんでもなく鈍い音が街中に響き、だらしなく舌を出した翼竜がぐらりと巨体を震わせて落下し―地面にそのだらしのない姿をさらす。
回転で威力を増した玲奈の蹴りがあっけなく翼竜の首をへし折ったのである。
あまりな一撃に翼竜たちは戦慄し、一気に逃げ出さんとしたが叶わなかった。
一匹の翼竜の眼前に陽炎のように現れた嫣然と微笑むあやこ。

「怒髪突き!!」

恐怖を覚える間もなく、その翼竜の顔面に突き付ける強烈な激痛。
限界ぎりぎりまでアゴを開けて、全身を弛緩させて地面に叩きつけられる。
その惨い姿を目撃し、恐怖を通り越した翼竜たちは闘争本能のそのままに紅蓮の炎を吐き散らす。
いや、完全に捨て鉢特攻で暴れているだけなんだろうが、もたらされる被害は甚大。
周囲を飲み込む業火に平和で安穏としていた街並みが焼き尽くされる。

「おのれ……なんてことを!」
「藤田隊長、ここは我らにお任せを!!」
「きゅうぃぃぃぃぃぃぃぃん!」

元々は自分たちがきっかけで翼竜が暴れるということをすっかり吹っ飛ばしたあやこが悔しげに唇を噛んだ瞬間、涼しげな声と愛らしい鳴き声がきりりと響く。
見上げるとそこには魔獣たちを掃討してきた勇敢なる妖精飛行隊とイルカたちが凛々しく敬礼する姿があった。
新らに現れた敵を捕えた翼竜たちは喉を鳴らし、一斉に炎を吐き出す。

「火球風塵っっっっ!!」

襲い来る無数の火球を前に整列した有翼エルフたちは全力で翼をはためかせて風の壁を巻き起こし、寸前で火球を弾き返す。
跳ね返された火球は四方八方に飛び散り―中でも最も巨大な火球は風に煽られ、勢いを増すと速度を速め、街の象徴である教会の尖塔に爆音を上げて直撃した。

「うぎゃぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっ!!」

その光景を特設スクリーンで目の当たりにした教会を任された牧師たちは涙目で絶叫し、口から魂魄を飛ばして真っ白になる。
崩れ落ちる尖塔の爆風で飛ばされた無数の木材を目の端で捉えた玲奈が風より速く空を駆け、己が身長よりも長い材木を2本掴むと、暴れ来る翼竜に狙いを定め、身体を回転させて思い切りよく投擲する。

「食らいなさい!!疾風突きぃぃぃぃ!!」

全身を回転させることで加速し、威力を増した材木は槍よりも鋭い破壊力を持って、真横から2匹の翼竜の目を貫き、何が起こったか分からないまま落ちていく。
わずか数分の間に数匹となった翼竜たちは最後の生き残りをかけて円陣を組み、空中を飛ぶあやこと玲奈に突撃を試みる。
けれど、それは彼らにとって無謀な攻撃であった。

「ふっ、どうやら最後の攻撃ね……行くわよ!玲奈」
「ええっ!!おかあさん」

小さく微笑を零し、あやこと玲奈は聖剣・天狼を翼竜たちに向けると、朗々と防御力増強の歌を歌う。

「雲が踊る♪鳥が歌う♪命の息吹に胸弾む♪風騒めく」

吐き出された火球があやこと玲奈に届く前に消え失せ、天狼に埋め込まれた白の輝石が輝きを増していく。
その光が増大するたびに輝石を守るように刻まれた天の狼がゆらりと動き始める。

「今だ行こう♪心ゆくままに♪響き合う奏であう世界がステージ。宝探しする子供の様に♪自由な地図描きたい」

台座に出現したレーザー砲の発射口が輝き出し、強烈な閃光を零れ落ち始める。
スクリーンにその映像が映し出された瞬間、市民たちは一様にどこぞの有名な名画よろしく絶叫する。

「可憐なときめき♪季節を超えて♪駆け出す弾ける♪無限の大地。眩しい出会いが幾つも君に微笑む♪翼♪太陽浴びて♪」

にやりと笑みを浮かべた玲奈が天狼のレーザー―砲の照準を翼竜たちにむける。
特攻を仕掛けていた翼竜たちは本能的に危機を感じ取り、手前で急ブレーキを掛けるように翼を止め、反転しようとするが間に合わなかった。

「君らしく戦えばいい〜!!」

歌声とともに一条の白き閃光が翼竜たちを真っ二つに叩き斬る。
ぐらりと崩れ、切り裂かれた翼竜の身体が無数の雨となり、空を切り裂く唸り声をあげて横転しながら街に堕ち―無傷だった家々を無残にも破壊しつくす。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ、誰かぁぁぁぁぁっあいつらを止めてぇぇぇぇぇ!!」

滝のごとき涙を流して悲鳴を上げる市長の声はタガが外れた玲奈がぶっ放す天狼の攻撃と共に崩れ落ちていく街に飲まれていった。


涼しげというか絶対零度に近い風が吹き抜ける。
呆然とその様を眺めていた要人たちと真っ白な生き人形となった市長。

「皆、怪我はないか?」

戦闘を終えて駆け付けたあやこの安否を気遣う問いかけに要人たちは誰も答えない。というよりも、答えられない。
自分たちは確かに無事だった。怪我はない……怪我はないけど、街がない。
わずか一日で廃墟化した街を呆然と眺める要人たち。

「あっははははははははは、焼け野原だ!焼け野原!!」
「やったぁぁぁぁああ、あやこ!ありがとう!!」
「これがやっていられるかってんだぁぁぁぁぁぁあっ!!」
「だぁはははははははっ!!!」

その隣でヤケクソとなって騒ぎ立てる市民たちにあやこは何も答えない。
捨て鉢かつ無軌道な市民たちに絶望しつつ、市長は小さく嘆きの声を零した。

「また卓袱台返しか?もーいやだぁぁぁぁぁぁ」

お祭りのように騒ぎまくる市民たちを呆然と眺めながら、静かに涙を流す市長に何と声をかけていいか迷う要人たちはただただ立ち尽くすだけであった。

FIN
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年11月26日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.