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『●決戦は彗星の夜に 』
クレアクレイン・クレメンタイン8447)&藤田・あやこ(7061)&(登場しない)

 そう、これは一体何の手違いだろう。
 白い肌に映える藤色のセクシーなイブニングドレスを纏った鶴橋亀造もといクレアクレイン・クレメンタイン(8447)は、己の不幸を嘆いた。
「だから年末は、嫌いだ……」




 ──亀造は、歳末が嫌いだ。
 毎年鬱になる。
 それが原因で今朝も早々に嫁と喧嘩である。

「偽御節を食って人外にされた」
「五月蝿いわね。まだ嘆いているの?」
 昔の事をウダウダと、と怒られる。
「大体、女になって何が悪いの?」
 挙句、
「うちの母は……」
「また姑自慢かよ!」
 
 偽御節と知らず注文し、食べて鶴になったのも、
 オリジナル=クレアとの魂の交換を承諾したのも亀造である。
 でもやっぱり気持ちの何処かで納得しきれず鬱になるが、嫁にして見れば過去の事である。
 掃除が終わるまで出て行けと、亀造と一緒にチケットを放り出す。
「横須賀港でディナークルーズ?」
 ブツブツ文句を言っていた亀造だったが、怪しい顔でにんまりと笑う。
「よーし! 女子会とやらに行くか。あわよくば若いね〜ちゃんと……」
 外見がクレアのものであっても中身は肉食系男子である。
 さっきまでの落ち込みは何処吹く風と、意気揚々と横須賀に向かう亀造だった。


 ──そして横須賀にやってきた亀造。
 街にはイルミネーションならぬ提灯が灯り、お祭りムードである。
 宵の口と言うのに街には、米兵や地元民が大勢繰り出している。

『これは、絶対いける』と確信を持った亀造を待ち受けていたのは、藤田・あやこ(7061)であった。
「いらっしゃい。クレア♪」
(あの野郎、チケット代ケチりやがったな……)
 にっこりと微笑むあやこから見えないところで拳をプルプルとさせる亀造。
「なんで藤田がいるんだよ」
「それは、私の艦だからよ」
 あやこが艦長を勤めるUSSウォースパイト号の乗員らから「上陸休暇中にアイソン彗星の下でディナークルーズをやりたい」と要望があったので横須賀海軍施設に寄港したのだという。
「粋な計らいでしょう♪」
「いいのか?」
「この施設に他国の艦が寄港するのは、よくある事よ」
 だが、美形揃いの妖精王国の姫が直々に率いる艦が来る。
 その上、ダウナー族は可愛いうえに全員、外見が女子高生という事で、地元が最高潮に盛り上がり現状に至るという。
 お陰で甲板は、大人のムード漂うディナークルーズというよりも女子高の学園祭のノリに近い。
 望遠鏡を覗いたり、米兵と腕を組んで歩いたり、料理の争奪戦を繰り広げ、姦しかった。
 折角来たのだから楽しんで欲しいと笑うあやこ。
「そうだな」
 ナンパを諦めてドンちゃん騒ぎに参加する羽目になった亀造。
 中身がクレアではないように気を使いながら恐る恐る参加した女子会だが──
 目からウロコだった。
 同性同士の気が置けない女子会である。料理は美味いし、恋バナとやらも興味深い。
(あらまあ? やだ楽しい)と、しっかり馴染んでいる亀造だった。


 ***


 ふと盛り上がっている会場の中、亀造は壁に寄りかかりながら冷ややかに誰かを見つめているあやこの姿に気がついた。
「おかしな客層がいるわ」
 あやこ視線の先には、複数の男達がいた。
「あの集団、様子がおかしい」と訝しむあやこ。
「セキュリティに引っ掛かったのか?」
「問題ないわ」
 幾らお祭り騒ぎの真っ最中であってもウォースパイト号に武器を持ち込ませる程、甘くはないと笑う。
「挙動不審な点は、ないんだけど。ただ何となく生気を欠くというかまるで機械の様な……」
 あらゆる危難衰運を察知する慧眼を持つあやこの嫌な勘というのは、侮れない。

 給仕を務めるミニスカートの兵士が男達に料理を勧めていた。
 『貴方の味覚と私の味覚が同じと誰が保証できよう?』
 『塩は辛く砂糖は甘いという共通の主観を誰が担保できよう?』
 『そう、誰もいないのだ』

 『従って我々は諸君の埒外にいる』

 男達はそういうとラウンジから出て行った。
 慌てて追いかけるあやこと亀造。
 
 関係者以外進入禁止エリアに入っても何故かセキュリティシステムが働かない。
 焦ったあやこは、追いかけながら管制室に連絡し急いでハッチを閉じようとしたが、ハッチは彼らが通り過ぎるのを待つようにゆっくりと閉まっていった。


 亀造の頭の中で男達が呟いた『我々は諸君の埒外にいる』という言葉が繰り返される。
(嫌な予感がする。だから年末は、嫌いだ……)
 そう口の中で呟いた。


 男達が行きついた先は──ミサイル発射塔であった。

 閉じられていく扉の向こうにいる男達と亀造の目が会った。
(うわっ、こいつら絶対ヤバい!)
 亀造の背筋に悪寒が走る。
 街で会ったら目を合わせたくない頭のおかしい連中だと本能が知らせる。

「我らは今、ここに世界征服の完了した」
 リーダー格の男が笑った。


 ***


 立て籠もった男達を正式にテロリストと判断したあやこ達は、強制的に敵を排除する為にミサイル発射塔のドアを開けようとしたがどうしても開かなかった。
 勿論、敵が艦内に入って来た際、閉鎖する事も出来たが、逆に乗員がこじ開ける方法も準備されていたのにも関わらず、どうしても開かないのだ。
「中の様子をこっちに回して頂戴」
 管制室から監視カメラの映像を近くのモニタに転送させるあやこ。

 男達は、頭からフードを被り円に座っている。
「この艦の艦長の藤田 あやこです。貴方達の要求は何? 立てこもっていないで出てきなさい」
 要求はない、と男が笑う。
『既に我らは世界を手に入れた。諸君は我らが缶詰に封印された』
 男の指差す先に、壁に貼られた小さなラベルが見えた。
 監視カメラのズームが寄ろうとした瞬間、カメラが壊されたのか映像が消えた。
「何、いまの?」
「……缶詰のラベルじゃないかな?」
「ふざけているの?」
 ジト目で亀造を睨むあやこ。
「いや、奴らが俺達を缶詰に封印したっていうからさ」
 残念な奴を見るような目であやこが亀造を見る。
「俺が言ったわけじゃないだろうが!」
「そういう事にしておきます」

 大きな溜息を吐くあやこ。
 祭り気分で警備体制が甘くなっていたとは言え、厨二病集団に艦の一部を乗っ取られたと外部に知られれば、かなりの恥である。
 唯一、良かったのは男達が立て篭もったのが、艦が横須賀港から東京湾に出ていた事だろう。
「後で米軍にはセキュリティ強化の申し入れをするとはいえ、とりあえず彼らの排除が最優先よ。管制室からロックを掛けたから大丈夫だと思うけど、万が一、何かの弾みで発射されたら困るわ」
 亀造のクレームをさらりとスルーするあやこ。


 だが、その時、誰も気がつかないうちに、既に異変は始まっていたのだ。

 まずは亀造が、クレアの記憶を頼りに造った高機能爆弾でドアの破壊を試みたが、謎の電撃を食らった。
 続いてあやこが霊剣を抜き、ドアを斬りつけたが傷一つつかないでいた。

 何か、おかしい──

 そう誰もが思い始めた時、それは起こっていた。



 昼間は夜に、夜は昼間に。
 空にはオーロラが輝き、炎の礫が飛んでいた。

 管制室からあやこ達にウォースパイト号を中心として世界各地で災いが起こっていると伝えた。
「奴ら神になりやがった!」

『我々は諸君の埒外にいる』
 男の言葉を思い出し頭を抱える亀造。
「嘆いてないで考えなさい。抗う術はないの? 貴方男の子でしょ!」
「男もなにも、奴らは俺達(世界)を缶詰に閉じ込めたって言ったんだぞ!
 そんな奴らに何をしろ……

 待てよ……缶詰と言ったな?

 缶詰の中身は、本質的に外に出るモンだ。でなきゃ缶詰の定義が崩れる」
「まあ、開けなきゃ意味がないわね」
 どうするの? とあやこが、亀造に問う。
「中身が自発的に出ればいい。何か破裂する物をよこせ。シュールストレミングとか?」











 洋上に移動したウォースパイト号。
「総員退避〜っ!」
 サイレンの下、防毒マスク姿の一団が離船する。

 無機質な合成音声のカウントダウンが続く中、
「3・2・1……ちゅどーん!!」




 缶詰に閉じ込められた世界は外へと飛び出し、自由を取り戻した──。

 そしてミサイル発射室は、めでたく篭城した犯人ごと海溝へと投棄された。
「あの周辺は、臭いが酷くて使いものにならないし」
 と、肩をすくめて見せるあやこ。

 この後、どうするのか? と亀造が尋ねる。
「お客様を下船させなきゃいけないし、横須賀に戻るわよ」
 それまでディナークルーズの続きを楽しんだら? とあやこ。
「そうだな。家に帰ったら感想を絶対聞かれるだろうからな」
 逆に世界制服を企む奴らと戦ったとバレたら嫁が、何故、応援に呼ばなかったかと怒るに決まっている。
 上手い嘘をつく為にもディナークルーズの続きは、ありがたかった。
「でもやっぱり中は、臭いんだろうな」
「発案は貴方でしょ」
 甲板で我慢しなさいとあやこが言う。

 ボートから二人が甲板に上がった所、亀造を先に上がっていた女性達が取り囲んだ。
「どういう事?」
「2度も世界を救った英雄クレアとお友達したいって事でしょうね」
 クスクスと笑うあやこ。
「知的なオンナは同性にもてるよ。クレア君w」
 彼女(亀造の嫁)には、黙っていてあげますと笑うあやこだった。



<了>




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8447 / クレアクレイン・クレメンタイン / 女 / 19 / 王配】
【7061 / 藤田・あやこ / 女 / 24 / エルフの公爵】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は、ご依頼ありがとうございます。
 お楽しみいただければ幸いです。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2013年12月03日

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