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『Answer and Question 』
夜来野 遥久ja6843)&月居 愁也ja6837


●何故かと問えば

 賑やかな鐘の音が鳴り響き、月居 愁也は思わず身をすくめた。
「おめでとうございます〜! ご家族三名様で温泉旅行大当たり〜!!」
「えっ?」
 赤い法被のおじさんにアレコレ書類を書かされ、気がつくとチケットを握りしめていた。
「当たりって、ホントに入ってるんだなあ……」
 割と失礼な感想を述べる愁也。
 商店街の福引で、温泉旅行が当たってしまったのだ。
「三名かあ。余らせんのも勿体ないよな。あと一人どうする?」
 夜来野 遥久はその問いに静かに答える。
「……俺に任せてもらってもいいだろうか?」
「? いいけど?」
 僅かに眼を細めた遥久の様子がどこか嬉しそうにも見えて、愁也は小首を傾げる。

 その足で向かった先は大学部の研究棟だった。
 担当教授の代わりにジュリアン・白川が使用している一室で、遥久と愁也は満面の笑みを浮かべる。
「ということでお誘いに。次の連休は如何ですか」
「いや待ちたまえ、話が見えない」
 白川は穏やかな笑顔こそ崩さないが、明らかに困惑していた。
「三名一室の招待ですので、ちょうどいいかと思いまして」
「そこで何故私なのだね」
 遥久は不意に真顔になり、禁断の技・質問返しを浴びせる。
「ご一緒してはいただけない、と。理由を伺っても?」
 そしてこの一瞬に勝負はついた。
「いや、駄目だとは言わないが……」
 白川は腑に落ちない物を感じながらも、それを上手く言葉にできない。
「たまには良いでしょう?」
「やったー! 温泉旅行だ!」
 いつの間にか待ち合わせの場所と時刻も決まり、白川は苦笑いを浮かべるしかなかった。


●温泉天国

 案内された部屋で、愁也が歓声を上げる。
「部屋広ーい!」
 笑いを堪える仲居さんが部屋を去るのを待ちかねたように、あちこちの扉を開いて回る愁也。
「景色きれーい! うおーっ、控えの間まである! ……トイレも掃除行き届いてる!」
「確かに想像以上にいい所だね」
 白川も窓外の景色に目を細めた。
「先生も開き直って楽しむといいよ! ひゃっはー! 部屋に備えつけの家族露天風呂まであるう!!」
 大声を上げた愁也を、ついに遥久が窘める。ほぼ同時に白川も軽く口元に指を当てた。
「愁也、とりあえず落ち着け」
「月居君、他のお客さんもおられるからね。声は少し控えめに」
「はぁ〜い」
 頭をかきながら、愁也がぼそりと呟く。
「……お父さんが二人」
 ガスッ! ボスッ!
 不用意な発言に、容赦ない鉄拳二発が放たれた。

 とはいえ、温泉となれば誰しも心浮き立つもの。
 赤毛・銀髪・金髪の日本人三人が大浴場で伸びている光景は、ちょっと不思議な感じもするが。
「うあー……生き返るう」
 愁也の声が木霊した。
「早い時間で良かったですね。大浴場が事実上貸し切りとは」
 浴槽の中でもきちんと背筋を伸ばす遥久。手拭もきちんとたたまれて頭の上に載っている。
「そうだね。部屋の風呂も良さそうではあったが、やはり大浴場は押さえておきたいところだ」
 白川は湯が注ぐ滝を肩に受けながら頷いた。ベストポジション独占とはやや大人げない。
「あーでも俺もう限界! そろそろ上がりまーす」
 愁也の声に倣い、遥久と白川も湯から出る。
「お、浴衣選べんじゃん」
 脱衣場には色とりどりの浴衣が棚に用意されていた。
「ミスター、もし良ければ似合いそうなものを選んでいただけませんか」
「私がかね? 構わないが、似合うものと言われると責任重大だな」
 遥久の提案に白川が笑った。


●物想う夜に

 部屋での食事を堪能し、部屋風呂も順に済ませた頃。
 糊の匂いの清々しい布団をまくり上げ、白川が座敷机を据える。
 そこに鍵が開く音と共に、遥久と愁也の声が飛び込んできた。
「……直ぐ開くだろう、ほら」
「あれ? おっかしいなー……まあいいや。ただいま帰りましたー!」
 愁也の浴衣は江戸鼠に淡黄色の菱模様、遥久の浴衣は白の麻模様の入った薄花色。
「すまなかったね、先に寄っておけばよかったのだが」
 答える白川は、灰白色にやや濃い鼠色の網代文様の浴衣姿である。
「いえ、どうせ愁也の買い物がありましたから」
「えー、だって普通、梅酒ぐらいあると思うじゃん?」
 買ってきたつまみを並べ、それぞれの飲み物を備えつけの小さなグラスに注ぎ、乾杯。
 ささやかな酒宴の始まりだ。
「ミスター、今日はお付き合い有難うございます」
 遥久がグラスを上げた。
「いや……こちらこそ、便乗で大いに楽しませて貰っているよ」
 白川が少し困ったような笑みを浮かべた。
 誘って貰うのが嫌な訳はない。だが立場上、公平であることを己に課しているが故に、躊躇いがあっただけだ。
 だが今それを口にするのは野暮というものだろう。
「君達とは一度ゆっくり話をしてみたいと思っていたしね」
 白川はワインの瓶を取り上げると、遥久のグラスに注ぐ。

 飲んでは語りあうこと暫し。
 やがて黙り込んだ愁也は梅酒のグラスを見るともなく見つめていた。
 遥久はそれに気付いていたが、敢えて何も言わなかった。
 ぽつりと愁也が呟く。
「……先生」
 顔を向けた白川が、続く言葉を待つ。
「先生、あのさ……国家撃退士って難しい?」
 撃退士にも色々な就職先があるが、中でも国家公務員は一般的に『好まれない』選択肢である。危険な任務に出動を命じられ、拒否は叶わない職場だからだ。
「どうだろうね。厳しい任務が多いことは確かだが」
 白川が愁也の真意を推し量るように、静かに言った。
 愁也は酔いの回りかけた眼を僅かに伏せる。
「見下してなんかいない、けど」
 グラスを置き、愁也は膝を抱え込んだ。
「根本から変えるのって難しいけどさ」
 あいつに示してやりたい。この力は弱者を護る力なのだと……。

 京都での激戦の中、敵である男は問うた。
 アウルの力を持つお前は、力持たぬ弱者を見下していないと心からそう言えるのか、と。
 学園が保管していた記録によると、あの男はアウルの力を求めて得ること叶わず、人類を裏切ったと言う。
 欲して得られない力。その為に虐げられていた男の叫び。
 あいつがずっとあんな風に思っていたのなら……。

「あれから、ずっと聞きたかったそうですよ」
 寝息を立て始めた愁也を、遥久は広げた布団に誘導する。
「成程」
 白川の顔から普段の笑みが消えていた。
「彼らが敵であることには違いはありませんが」
 ――それでも言葉を交わせば、心にかかるものはある。
「差し支えなければ、お伺いしたいことがあるのですが」
 遥久が静かな目を向けた。
「貴方を、撃退士たらしめるものは何ですか」
 白川は遥久の視線を真っ直ぐ受け止める。
「これは、愁也が恩師に問うた言葉だそうです」
「……君は何故撃退士を?」
 答えの代りに、白川が問い返した。
 遥久は、赤い髪の従兄弟に視線を移す。
「これがいるから、という理由も自分でどうかと思いますが」
 自分を信じ、背中を追いかけて来る愁也。
 その信頼を裏切りたくない。真っ直ぐな背中で応えたい。
「……すみません、忘れてください」
 常に涼やかな微笑を崩さない遥久が、珍しく苦笑いを浮かべた。
 その綻びから、若者らしい柔らかな物が零れるように見えて、白川は眩しそうに眼を細める。

 自分が撃退士である理由。
 適当なことを答えれば、目の前の聡明な青年はおそらくその適当さに気付くだろう。
 そして答えを避けたことを許し、見逃してくれるだろうということも白川には判っていた。
(流石にそこに甘えるのはみっともないか……)
 グラスを置き、白川はそれを見つめる。
「私にはね、知りたいことがあったんだ」
 遥久は静かに続きを待つ。
「君をがっかりさせるかもしれないが、嘘を言うよりはいいだろう。私は唯、知りたかったんだ」
 何故、天魔はやって来るのか。
 何故、人は天魔の餌にならねばならないのか。
 何故、一部の人間にだけ、天魔と戦う力が与えられたのか――。

「撃退士で在り続ければ、その答えに近づけるような気がしてね」
 語る白川の頬に不吉な翳りのような物を認め、遥久は口をつぐむ。
「国家撃退士は、確かに危険で学生には不人気だが。力ある撃退士を、本当に必要としている現場でもある」
 それが先刻の愁也の問いに対する答えだと遥久が気付くのに、僅かに時間がかかった。
「だから、実力と、確固たる信念と、絶対に生きて帰るという拠り所を持った者にしか勤まらないだろうね」
 白川の顔にはいつもの微笑が戻っていた。
「死んでしまっては撃退士で居られない。全ては生きていればこそだ。私は自分の得た生き抜く術を、学生に伝えたい。今はそれが撃退士であり続ける理由だと思う」
「……有難うございます」
 遥久は静かにただ黙礼した。
「私は『実力』の部分にしか関与できないだろう。信念と拠り所は、それぞれが見つけて行くものだ」
 君達のように、と最後に白川が付け加えた。


●川の字

「さて、流石にそろそろ休もうか」
 座敷机を片付け、白川は愁也の眠る布団を真ん中に押し出した。
「愁也を真ん中にして寝る? それは良いですが……」
「私が真ん中というのもおかしいだろう」
 何故か遥久が考え込むような表情をした。
「別に何もしませんよ?」
「何って何だね?」
 白川と遥久の胡散臭い微笑がぶつかり合い、キラキラ飛沫を放つ。


 翌朝、白川は激しい後悔と共に、遥久の思案顔の理由を知ることとなった。
「申し訳ありません、早めに朝風呂に行きたかったものですからお助けできなくて」
 遥久は湯上りのつやつやした顔で、抱き枕代わりにがっちり愁也にしがみ付かれた白川を見下ろす。
「……成程」
 白川が僅かに自由の効く片腕で愁也を押しつつ、憮然と答えた。
「ん……あれ? 先生だ?」
 ようやく目を覚ました愁也が、寝ぼけ眼でそれでもまだ離れない。
「お早う。よく眠れたかね月居君。ところで夜来野君、君は何を探しているのだね」
 満面の笑みを浮かべて振り向いた遥久の手にはデジカメ。
「いえ折角の珍しい光景ですし」
「待ちたまえ。それをどうするというのだね」
「そうですね特大パネルにでも……勿論冗談ですよ」
 遥久の顔に窓から差し込んだ朝陽が当たっている。
 その笑顔は、普段よりもっと輝いているように見えた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6837 / 月居 愁也 / 男 / 23 / 大学部四年】
【ja6843 / 夜来野 遥久 / 男 / 27 / 大学部五年】

同行NPC
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 28 / 久遠ヶ原学園大学部講師】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、男三人温泉旅行のお届けです。
お二人の大事なお話を伺い、白川自身も色々と思う所はあったかと。
少し抽象的な部分もあるかもしれませんが、語ったことは彼の本心です。
真面目な部分が多かったため道中などの楽しい部分を割愛したのが、私としてはやや残念ではありますが!
お気に召しましたら大変嬉しいです。
この度のご依頼、誠に有難うございました。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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エリュシオン
2013年12月06日

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