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『初雪は、あたたかく 』
ノーチェ・オリヘンjb2700)&キャロライン・ベルナールjb3415)&ベティーラ・トワイニングjb3554


 ここ数日、ギュッとした冷え込みが続いていた。
 秋の終わりから冬の始まりまでは駆け足で、人間の世界のなんと目まぐるしいことか。
「見てください、ツン子さん、ギャル子さん! 息が、ほわぁって」
 寒い寒いと身を縮めて学園を出てきたというのに、ノーチェ・オリヘンは真白の吐息に表情を輝かせた。
 ホワリと球状に生まれては消えてゆく。今まではあっという間に霧散していたのが、いつになく形を保っていた。
 二人の友人を振り向き、淡いピンクブラウンの髪がふわりと揺れる。頬に触れる髪の冷たさに、思わず目を閉じる。
「ぐっと冷えてたからな。これは、今日あたり降るか?」
 ツン子と呼ばれるのも納得な、気の強そうな眼差しに、ぶっきらぼうな口調。
 マフラーを鼻の先までクイと上げ、キャロライン・ベルナールが曇天を見上げた。
 天気予報では、今週中には――そう、言っていた気がする。
「えー? それって流星群ってコトー? ねーねー、お泊りして皆で観測したーい☆」
「降るのは星じゃないぞ、ギャル子。雪だ。降ったなら、初雪、だな」
 ギャル子、そう呼ばれたのはベティーラ・トワイニングだ。フワモコの手袋を口元にあててキャッキャとはしゃいでいると、キャロラインがピシャリと返した。

「「ゆき」」

 その単語に、ノーチェとベティーラの動きが止まる。
「雪、って…… あの、雪ですか?」
「白くてー、冷たくてー、みたいなー? あたし、ホンモノみたことないのー」


 残念ながら、その日は雪が降ることはなかった。
 おしゃべりをしながら、久遠ヶ原で出会った堕天使たちは仲良くそれぞれの帰る場所へ。
 初雪。
 きっと、そう遠くない日のことへ、思いを馳せて。




「ゆき」
「ゆき」
「初雪!!!」


 神様とは、本当にいるのだろうか。
 天界や冥魔、そういった類に準ずるものではなく。
 休日、自室のカーテンを開けるなり、三人はそれぞれに叫んだ。

 ふわふわ、キラキラ、やわらかそうな雪が一面にうっすらと積もっている。
『ちょっと、ぽや子ー ホントに雪が降っちゃったみたいなー? そうそう、あたし、初初雪!! ぽや子も??』
『ギャル子さん、ギャル子さん! 雪です……』
『とりあえず、落ち付け』

 通話がアチコチ行き交い、最終的にキャロラインが話をまとめた。
 近場の公園へ、集合だ!


「これが…… 初雪なんですね」
 防寒対策をしっかり整えたノーチェが、さくさくと雪を踏みしめる。
 残る足跡に、微かな感動を覚えた。
「まぁっ!? 本当に冷たいんですね〜」
 身をかがめ、手袋を外して触れてみる。
 冷たい。けれど、すぐに融けてしまう。息を吹きかけると、さらさらと地表を舞った。
 儚いのに、なんて存在感!
 むくむくと、好奇心が沸き起こる。
 ノーチェはたちまち、真っ白なキャンバスへ手形を付けることに夢中になった。
「きゃーっ☆ 冷たいっ 気持ちいいーみたいなー!」
 ずさっ、とその横を、ベティーラが滑り込む。そのまま大の字に寝転がった。
「雪の絨毯……には、ちょっと早いけど……ひんやりするぅ☆」
「ギャル子さん…… 綺麗です……」
 温度を持たない金色の髪は、泳ぐように薄い雪の上に広がっていた。
 ノーチェが、その姿へ素直に見惚れる。
「……堕天使だろうが、風邪を引くぞ?」
 はしゃぐ二人の姿へ、呆れるようにしてキャロラインが声をかけた。
「えー! 一人だけクール気取ってますけど、ツン子だって大はしゃぎですしー」
「なっ」
 ネコ耳ニット帽を指され、キャロラインは顔を赤らめる。
「こ、これは、その、あくまで防寒でだな!!」
「寒いけど、最近に比べたら暖かいようにも感じます」
「あ、それ、あたしも思ったー。雪が降るってことは、寒いんだとばっかり思ってたんだケド」
「一度、降ってしまえば暖かくなる、とは聞いたな」
「……さすが、ツン子さんです」
 ぱちぱちぱち。
 物知りぶりに、ノーチェは尊敬のまなざしで拍手を。

 ――ぺち

 まんざらでもなく胸を張るキャロラインのこめかみあたりに、柔らかく握られた雪玉が炸裂した。
「油断大敵ーみたいなー?」
 臨戦態勢バッチリOK、ベティーラが子供の笑顔でこちらを見ている。
「雪合戦ですか? はい、がんばりますね」
 これが、噂に聞く。噂でしか、知らない。
「でも、お手柔らかにお願いします」
 ベティーラが彼女を称する所以であるぽんやりとした笑顔でノーチェは応じ、雪玉づくりに取り掛かった。
(ええと…… まるく、かためて、それから)
「ノーチェ?」
 傍観の構えであったキャロラインは、後ろからヒョイと覗き込んでは首をかしげた。
 やたらと時間がかかっていると思ったら……
「雪うさぎさんがメインで、必殺が雪ねこさんです。 ……あら、違いました?」
「違うというか、いや、可愛いな」
「はい」
(私も、何か作ってみるか?)
 キャロラインの思考が、雪合戦から少々逸れた……そのすぐ横を、光速で雪の礫が抜けてゆく。
「ギャル子!!」
「手加減? ナンノハナシ?」
 叫ぶキャロライン、余裕の笑みのベティーラ。ノーチェはマイペースに、「えい」と雪うさぎをベティーラへ投げつけた。
 柔らかく握られたそれは、ベティーラのコートの上で、フンワリと崩れた。




 雪が融けると、春になる。
 そんなロマンチックな問答もあるが、現実としては水になる。

「冷たーい! 寒ーい!! 雪合戦であったまったハズなのに〜〜」
「すっかり、ベシャベシャですね……」
「初雪、だからな。量も少ないし、あの遊び方じゃ」
 最後は自身も混ざって、ありったけの雪をかき集めていたキャロライン。
 遊び疲れ、体温が下がり始めたところで、友人二人を自室に招いた。
「おじゃましまーす」
 キャッキャと賑やかに上がり込む二人へ、得意げにキャロラインが先を促した。 
「まあ、コレを見ろ」
「……生炬燵!!!」
 橙色の瞳を最大限に見開いて、ベティーラがリビングに置いてある炬燵へ飛びついた。
「テーブルにお布団がとても可愛らしいです」
「ノーチェも入るといい。すぐに暖まる」
「では」
 こくりと頷き、ノーチェもベティーラと向かい合わせの場所へ腰を下ろし、布団を膝へと乗せた。
「わ。わ。うわわ」
 電熱の発する温かさが、布団とテーブルによって閉じ込められたワンダーランド。
「知っていたか? これさえあれば冬を越せるのだぞ」
「これは凄いです……」
 ノーチェの瞳も感動に震えていた。
「背中がちょっと寒いけど……極楽だしー」
「ギャル子さん、溶けてますよ」
 くすくす笑い、ノーチェはベティーラの髪をやんわりと引っ張る。

「さ、冬に雪にコタツときたら、これだな」

 トン、キャロラインはテーブル中央に蜜柑の入った籠を置いた。
 可愛らしく、山のように積まれている。
「蜜柑は風邪予防にもいい。完璧だ」
「なるほど…… 人間界の知恵ですね」
 ノーチェが素直に感心して、一つを手に取った。
「この世の幸せーみたいなー?」
 はもはも、蜜柑を頬張りながら、程よい酸味にベティーラは至福のひと時を。
「それだけじゃない」
 そしてこれで最後だ、とキャロラインは冷凍庫からバニラアイスを3つ、取り出して自身も炬燵へと入り込んだ。
「コタツでみかんは定番。寒いからこそアイスを食う。どうだ、知らなかっただろう?」
 得意げに胸を張るが、二人の反応はイマイチ。
「アイス…… ですか?」
「みかんはともかく、アイスはないんじゃないー?」
 二個目の蜜柑へ手を伸ばし、ベティーラは胡乱げな眼差しでキャロラインを見上げた。
「寒い季節、贅沢に暖まって冷たいものを食べる。これが最高なんだ。騙されたと思って食べてみろ」
「でもさー、アイスは夏食べるのが普通!」
「美味しいです」
 渋るベティーラの向こうで、ノーチェは言われるがままにアイスクリームに挑戦していた。
「えー? ぽや子、騙されてない? 気のせいじゃないー? 寒くて風邪引いたら大変なんですケド」
「足元がぬくぬくなので、寒さはありません。のぼせそうになるところへ、冷たいアイスがシャキッと……」
「さすが、ノーチェは解っているな」
「……むぅー! ほんとだし……」
 試してみて、ベティーラも納得。
 何も、高級なアイスである必要はない。
 蜜柑も、アイスも、容易に手に入る物で。
 かけがえのない、心許せる友たちとぬくもりを共有しながら。
「……これは、ちょっと、幸せかもしれんな」
「ツン子がデレたしー! デレ子ーー?」
「やかましい」
 真っ直ぐなキャロラインの髪の先を、ベティーラがからかう様に引っ張った。

「炬燵と蜜柑とアイスは仲良しさんなんですね。なんだか私達みたいですね!」

 ぽふ。
 良い喩え! とノーチェが手を合わせ、じゃれあう二人は毒気を抜かれた。
 三人で顔を見合わせ、そして同時に笑い合う。




 めいっぱいはしゃいで、動いて、それからポカポカの炬燵で一休み。
 ガールズトークが次第に小さくなってゆき、誰というでなく睡魔の手に落ちていった。
 冷たいアイス、甘酸っぱい蜜柑。
 それに炬燵があれば、確かにこのまま一冬越してしまいそう。

「……ギャル道は遠いナー」
 むぎゅ、と籠の中の蜜柑を掴み、悔しそうなベティーラ。
「ねこさん、とけて……」
 ノーチェの目じりには、涙が浮かんでいる。
「…………わさび醤油」
 キャロラインの夢の中で、不足している重要アイテムなのだろうか。



 三人が、どんな夢を見ているか、静かに時を刻む壁掛け時計にもわからない。
 窓の外では、再びの雪が静かに降り始めていた。
 目覚める頃には、きっと本格的に積もっていることだろう。
 冬は長い。
 仲良し三人娘が、楽しく明るく暖かく、この季節を過ごせますように。




【初雪は、あたたかく 了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb2700 /  ノーチェ・オリヘン  / 女 / 15歳  / バハムートテイマー 】
【jb3415 /キャロライン・ベルナール/ 女 / 15歳  / アストラルヴァンガード 】
【jb3554 /ベティーラ・トワイニング/ 女 / 16歳  / ルインズブレイド 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
初雪にはしゃぐ堕天使三人娘様の一日、お届けいたします。
お楽しみいただけましたら幸いです。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年12月10日

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