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『かくも緩やかな日々 』
百々 清世ja3082

 ――いやまあ、よくある誤入力だと思うんだ。
 スマートフォンの画面を眺めながら、百々 清世(ja3082)は、どうしてこうなったのかを思いかえしていた。
 何のことはない、スマホのパズルゲームで遊んでいたら、うっかりとホームボタンに触れたらしい。が、勢い止まらずそのままゲームのつもりで思い切りフリック入力されたメニュー画面は勢いよくアイコンの群れをスクロールさせていき、慌ててそれを止めようとして画面を連打したらこれまたうっかり何かのアプリを起動させた、と。
 うん。よくある。よくある話だよね?
 そもそも、こちらがこうやって、間違えて入力した上でこうなった、ってことは、この時点では向こうは分からないはずなわけだし。
『……もしもし?』
 だから、今、電話アプリが表示している通話相手、桝本 侑吾(ja8758)の声が若干不機嫌に聞こえるのは、多分なんかの気のせいか、そもそも俺のせいじゃない。はず。うん。
「ごめー、間違えたー……」
 だからここは、早めに真相を告げておくことにした。
『間違えたってなんだよ』
 聞かれたので、これまた素直に事情を説明すると、なんか釈然としない感じではあったけど納得はしてくれたらしい。
 そこまでは、いいのだが。
「……んけど、あー、そだ、お前暇? 俺暇、遊ぶ?」
 何となく、このままだとすぐに電話を切られてしまう気がして。やっぱり何となくだけど、それはなんかもったいない気がして。ついでとばかりに、聞いてみた。
『まあ、暇かと言われれば、暇だが』
 お。すぐにおっけーの返事が来た。うん、これはおっけーってことだよね? 俺間違ってる?
『おーし、じゃあ今から行くからよろしくー。酒買ってくねー。あ、なんか食べたい』
 そういうことで、ご飯はまっすんの家で食べることにしよう。文句は? ないね。よし問題なし。3秒待ってから、ピ、と電話を切る。
 そうして清世は、思い立ったがなんとやら、とばかりに、そうそうに出かける準備を開始した。

 そんなわけで、この時清世が侑吾に電話をかけたのは、この通り純粋に何の意図もない100%偶然の産物である。この時の侑吾の状態を知っていたわけでも、これまでの経験から何らかの予測を立てていたわけでも全くない。
 故に、この電話が、かけた相手のある種の窮地をある意味で救っていたことになるなど、彼は勿論、知る由もない。



 コートを羽織り、マフラーまいて、ウキウキでドアを開けて外に出て。
 ……ゴメンまっすん。やっぱりさっきの無かったことにしていい?
 一瞬、そんな風に電話をかけ直そうか。そんな考えが脳裏をよぎった。
 ――――……寒っ!!
 なんだこりゃめちゃくちゃ寒いぞおい地球温暖化とかどこ行きやがった政府はいい加減なことばっかり言いやがって南極の氷が解けるとか言ってもうここにペンギン住めるよ!? などと阿呆なことを考えて誤魔化そうとするも全くの無駄に終わるくらい寒い。
 ああもうどうしよう今すぐぬくぬくのお部屋の中に入りたい。あーでもどうしようまっすんにご飯作ってって言っちゃってるしなー。もう作り始めちゃったかなー。
 っていうか考えてる間にどんどん寒いよ!
 駄目だ。これ以上じっとしているのは無理だ。意を決して、ひとまず最初の目的地、コンビニへ向かって小走りに進む。
 転がり込むように店内への扉を押しあけると、ほーっと溜息が洩れた。さてと、まずは酒か。何を買えばいいだろう。
 つまみも含め、何が好きなんだろう、と一応考えはしたが、分からなかったので無難にチューハイと、適当な菓子をチョイスして買っておく。レシートは、あとで割り勘してもらおうとポケットに突っこんだ。
 それから、暖かい店内に後ろ髪惹かれる思いで、再び意を決してコンビニのドアを開き、寒風に縮みあがりながら今度は侑吾の部屋に向かって再び小走りで駆けていく。
 ドアの前に着くなり、呼び鈴を連打した。
「まっすん速く開けて寒い! 凍死する!」
 悲痛な想いを分かってくれたんだろう。間もなくドアが開けられる。なんか侑吾は若干迷惑そうな顔をしてた気もするが、とにかく今は暖かなお部屋めがけてダイブ! リビングの扉を開けて目に映るのは、冷えた体へのザ・救世主、炬燵。勿論遠慮などすることなく、その中に飛び込んだ。
「はー……ぬくぬくー……。生き返ったー……」
 ああ……至福。体中に血が通い始めたのを感じると、お腹がすいてきた。
「飯なにー?」
 尋ねながらコンビニで買ってきたものを並べていると、大皿に盛られた炒飯が出てきた。丁度できたてなのだろう。ほこほこと湯気が立っていい香りが立ち込める。ゴロゴロに角切りにされた焼き豚が美味しそうだ。うん。肉と炭水化物。これさえあれば、だいたい男は幸せである。
「いっただっきまーす」
「ん。いただきます」
 清世が元気良く宣言すると、侑吾は静かにそう言って、やはり炒飯に手をつけ始める。
「おー、美味いねこの炒飯」
 そうして食べ始めた友人の手料理は、見た目から期待した以上にうまかった。
「美味い? 俺の好みにしか作ってないぞ?」
「そーなの? まっすん地味に料理上手くね? また作ってよー」
「まあ別にこの程度なら……ってか、この酒は奢りだよな? 飯の手間賃って事で」
 のだが、さらりと聞き捨てないことを言われる。確かにこの炒飯はありがたいが、こっちだってクソ寒い中頑張って買ってきたのだ。
「え? 後でちゃんと割り勘してもらうよ? ちゃんとレシートぽっけに入れてあるし」
 牽制するようにそう言うと、若干空気に緊張が走る。勿論男に奢る気はない、が、ここで機嫌を損ねて「じゃあ炒飯も食うな」などと言われてはたまらない。
 ……よし、とりあえずここは誤魔化して、請求するのは炒飯食べ終わった後にしよう。清世はそう結論して、ひとまず払えとも払わなくていいとも明言せず、上手く誤魔化したまま食事を続けることにした。



 さて、そんなこんなでのんびり食べて飲んでしてるうちに、炒飯は大分少なくなってきた。買ってきたツマミやら菓子やらはまだそこそこに炬燵の上に広がっているが、この辺はもう、だらだらと昇華していけばいいだろう。
 よし、それじゃあ何をするか。清世はしばし考える。
 やること……。
 やること……。
 ねぇな?
 やがて彼は考えをやめて、座イスにもたれてスマートフォンを弄り始めた。
 わざわざ友人の家に何をしに来たのか。のんびりしに来たのである。別に深く考える必要などない。こうしてだらだらしているのが楽しいのだから。
「これ美味くね? なんか新商品」
 だらけながら、ポテチに手を伸ばす。
 そう、だからこういう時にどうすればいいかと言えば。食べたいように食べ。
「そういや、こないだのデートでさー……」
 静かだなーと思ったらしゃべる。別にそれだけで、十分楽しいと、思うわけだ。
「……ん? いや待て。こないだ聞いてた子と違くないか?」
 話題は適当に思い出したようなもの、と言うだけだったが、気がつけば同じようにまったりしていた侑吾が、意外なことに反応を返した。てっきり完全に聞き流してると思ったら、そうでもなかったのか。
 で、えーと。
「こないだの子? えーと。どの子のことだろー……」
「誤解どころか心当たりが複数か。あれだ、この前聞いた話だと――」
「ああ、あの子か。あの子はうーん。ちょっとねえ。重たくなってきてさ。そ―ゆーのちょっとめんどいんだけど、って言ったら」
「振られたのか」
「ん? どっちだろ。んーまあ、それでもいいけど」
 それは別に虚勢でも何でもなく、清世の正直な気持ちだった。今話題の彼女と別れたことに、彼自身に未練も悔悟もない。だって別に、俺も彼女も悪くない。ただ彼女にとっては付き合うとはそういうことであり、自分にとってはそうじゃなかった。それだけのこと。だから別れたという結果についても、清世にとってはだから、『じゃあ、しょうがないよね』、と。
 本当に、それ以上もそれ以下の感想も無い。
 この話をしたことだって、懺悔をしたいとか同情してほしいとかそんなつもりは毛頭なく、ただ、聞かれたからつい答えた、それだけの話だ。
 ……もっとも、聞いた相手がどう感じるかは、それもやっぱり、それぞれの人の勝手では、あるんだろうけど。
 侑吾は、どうしたかと言えば。
「そのうちいつか、刺されないように気をつけろよ」
 それだけ言って、話題を打ち切った。
 咎めるようなことは言わない。
 気分を害した様子もない。

 ああ――……楽だなあ。
 しみじみと、清世は感じた。
 思うままに過ごして、思うままに食べて飲んで、そして、思うままに言の葉を並べても気にすることのない時間と空間。
 女の子の機嫌を取るのもそれはそれで楽しいけど、ただ、だらだらとのんびり過ごすのなら、こういう相手がいいのかも。
 もとから気を使ってるつもりなど全くなかったが、もう清世はこのまま、こころゆくままに気持ちのタガを緩めていく。

 あー……本当、楽。
 っていうか、炬燵気持ちいい……眠い……。
 んー……? まっすん何か、言った……?
 適当に返事しておいたけど、まあ大丈夫、だよね……。



 で、なんとなくうとうとした状態から目をさましたら、侑吾の姿がなかった。
 どこ行った……と言うか、今何時だ?
 まあ、いっか。なんかもう、寒い外に出るのやだし、泊っちゃお。
 このままなし崩しに宿泊許可を得るべく、再び押し寄せる睡魔の波に身をゆだねることにする。
 うつらうつらした意識の中、玄関で物音がした。おー、帰ってきたのかー。
「炬燵は風邪ひくぞ。先輩、暫く帰ってきてないし、そのベッド使っていいからそっちで寝ろ」
 炬燵でゴロゴロし続けていると、上から声が降ってきた。心配してくれるのか。優しいなあ。
「えー……ベッド行くのめんどい……まっすん運んでよー」
 優しいついでにお願いしてみたら、無視された。
 あー……どうしよう。
 もう完全に面倒臭いし……。
 炬燵から……出たくないなあ……。

 まあいいや。とりあえずこのままで。もうちょい目が覚めたら、あとで考えよ……。
 結局清世は、最後の最後まで深く考えることなく、今日一日最後の決断もこうして適当に決めた。
 いいのだろう。今日一日は彼にとってそういう日だったのだ。
 緩やかな関係の友人と、緩やかに過ごす、緩やかな一日。
 やはり緩やかに彼は、その最後を迎えていた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / インフィルトレイター】
【ja8758 / 桝本 侑吾 / 男 / 22 / ルインズブレイド】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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すみません、何かノリと勢いで書いてしまいました。キャラ性につきまして、やり過ぎだ、とか、良いぞもっとやれ、とかありましたら、お気軽にお申し付けくださいませ。
で、その。その、大変申し訳ないのですが、コンビニ代の清算につきまして、プレイングに競合があり、どうするのかはこちらで判定いたしかねまして……。
結局、どうなったのかはこの後、お二人でご相談かご想像いただければと思います。
この度はご発注、ありがとうございました。
winF☆思い出と共にノベル -
凪池 シリル クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年12月13日

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