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『神無月――彼岸と此岸の狭間で 』
佐上 久野都(ia0826)&羽流矢(ib0428)

 何で俺、此処に来たのかな
 あの人と戦えて、俺はそのまま、逝っても良かった、のに――

  *

 心ざわめく、夜だった。
(神無月‥‥は関係無いでしょうね)
 頭に浮かんだ単語がひとつ。佐上 久野都(ia0826)は苦笑した。
 字面に倣えば、神がひとところに集まって各地の神々が守護地を留守にすると伝えられる時期である。尤も、神の所在に関係なく年中アヤカシは跋扈しているし、更に最近ではこの時期他儀の風習だか何だかで物怪の扮装をして街を練り歩く行事が広まっているとも聞く。
 誰ぞ迷い込んだのやもしれぬと、久野都は夜着に一枚羽織り、庭へ出た。

 薄曇で月の見えない、夜だった。
 風はすっかり晩秋のそれ、久野都は上着を掻き合わせた。乾いた風に年季の入った広い屋敷の廊下が鳴っている――今夜は冷えそうだ。
 木枯らしに混じって何かが聞こえる。
(犬の声‥‥忍犬か?)
 久野都は犬を飼っていないし相棒にもしていない。だがその時何故か一瞬忍犬を連想したのは、何らかの予兆であったのやもしれぬ。
 近隣からでなく明らかに敷地内から聞こえる吠声の只事ならぬ様子を感じ取って、彼は耳を澄ました。裏庭だ。
 小走りに吠声がする方へ向かった彼が見つけたのは、倒れている羽流矢(ib0428)と、その傍らで吠え続ける羽流矢の忍犬・銀河の姿であった。

 倒れ伏した羽流矢の血が滲む戦装束の下はまだ傷口が開いたままなのだろう。そんな傷が全身至る所に付いている。
 吠えるのを止めた銀河の横にしゃがみ込み、久野都は羽流矢を仰向けに起こした。微かに顔を歪めて唸る羽流矢、良かった生きている。
「これは‥‥《仕事》の怪我かい?」
 問わずとも判っていたが、問わずにはいられなかった。
 志体を持っていなければとうの昔に失血で落命しているだろう深手なのだ。なのに装束の上からお情け程度に晒を巻いてある程度の処置で、どう見ても止血の用途を為してはいない。
「随分と商品管理のなってない所だね羽流矢の里は。結構良い値を払って羽流矢を雇っているつもりなんだが」
「‥‥何を、今更」
 減らず口を叩く気力はあるようだ。肩を貸し、久野都は羽流矢に立てるかと尋ねた。
 他者の気配がないかを辿る。大丈夫、此処にいる二人と一頭だけだ。人目を避け、追っ手を撒いて羽流矢は佐上邸に辿り着いていた。
「まぁ此処まで来たのは上出来だ‥‥治療は私の符になるが‥‥此処でゆっくり休みなさい」
 此処なら里の手の者は来ない。それに雇用代金は支払い済なのだから――そう諭して、久野都は羽流矢を離れに運び込んだ。

 取るものも取りあえず湯を沸かし、血がこびり付いた晒を装束から剥ぐ。傷口を広げないよう装束を脱がせて久野都は絶句した。
「これは‥‥」
 最低限も、否、最低限ですらない応急処置だった。服の上からただ布を巻きつけただけでは治療とは言えぬ。傷口は開いたまま膿み始めていて、よくも耐えているものだと呆気に取られた久野都に対し事も無げな羽流矢の様子は、彼が生まれ育った里の過酷さを伺わせた。
 湯を浸した清潔な布で清拭し、膿み掛けた傷口に符を押し当てる。
「巫女だった義妹が転職したのでね‥‥効力は落ちるが、少なくともこれ以上酷くはさせないからね」
 符を通じて羽流矢の身体に癒しの力が流れ込んで来る。やはり耐えていたのだろう、羽流矢はほぅと息を吐いた。
「よほどの手練が相手だったのだね」
 ああ、と羽流矢は快さげに笑った。憧れの人と戦ったのだ、と。

「血が滾った。やっぱ強くてさ、敵わなかった‥‥全力で戦って、あの人と戦えて。俺はそのまま、逝っても良かった、のに‥‥」
「そんな事を言うものではない」
「俺はそういう人間だよ。こっち側の奴や仕事に対しては尚更‥‥」
 そう言って、羽流矢はまるで久野都との間に壁を作るかのように視線を逸らした。
 彼が陰殻で生まれ育ち、未だ陰殻の掟に縛られて生きている事を久野都は知っている。羽流矢の枷を解き放つのが容易い事ではないというのも解っていた。だが――
「私はまだ羽流矢に死なれると困るのだがね?」
 契約中だよと久野都は囁く。それが羽流矢を闇から掬い上げる精一杯の口実だったから。
 次の合戦も頼むよと、尤もらしく雇い主は羽流矢に言って、続けた。
「‥‥それで、何時まで里のシノビでいるつもりなのかい?」

「久野都さんも‥‥あの人と同じ事、言うんだな」

 ぽつり、羽流矢は呟いた。
「‥‥まだ、顔向けできないんだ‥‥久野都さん、すまない」
 何かしら守れたらという気持ちだけで駆ける事ができた、あの頃にはもう戻れない。力も覚悟も、足りない。
 久野都は重ねて諭しはしなかった。ただ、そうかと言って汚れた布を湯桶に入れた。
「時間はある。開拓者としてシノビとして。折り合いが付くまでは世話を焼かせておくれ」
 私自身は楽をしているのだからねと言い置いて、久野都は離れを出た。

  *

 彼岸と此岸の狭間で足掻く魂
 闇に沈めず光に触れず、だが自身の足で此処に来れたのだから。此岸への一歩と信じよう――



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ia0826 / 佐上 久野都 / 男 / 23 / 羽流矢の雇い主 】
【 ib0428 / 羽流矢 / 男 / 18 / 諏訪系支族の駒 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変お待たせいたしました。
 この度はご用命ありがとうございます。周利芽乃香でございます。

 お二方ともWTでお会いした事はございますが‥‥まさかこんな繋がりがあったのですねぇ。
 意外な所で意外な人と。あれこれ想像しながら描かせていただきました。
 イメージに近くなっておりますでしょうか‥‥? お気に召していただけましたら幸いに存じます。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年12月16日

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