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『導きの星 』
七ツ狩 ヨルjb2630

 ひらりと舞い落ちる白の結晶。

「あ……雪だ」

 アスファルトから空を眺めていた七ツ狩 ヨルは、呟いた。
 人界に来て雪を見るのは、去年の冬以来だろうか。
 初めて見た時の感動は今でも忘れていない。空気がいっそう冷え、周囲の音が一瞬空へと吸い込まれたかに思えたその時。

 真っ白な結晶が、舞い落ちてきたのだ。

 今もヨルは、雪に見とれしばらくの間佇んでいる。
「黒も一緒に見られたらよかったのにな……」
 そう口にして、我に返る。
 今日は人界で言うクリスマス・イブ。そして友人であり大切な存在である蛇蝎神 黒龍の誕生日でもある。
 その為彼は一緒にお祝いしようと、黒龍の家に向かっている最中だった。
「急がないと……遅れる」
 慣れない服を着ているせいか、何となく動きづらい。
 プレゼント入りの紙袋を落とさないよう胸に抱き、ヨルは先を急いだ。

●祝う

 ドアの前に現れたヨルを見て、黒龍は目を瞬かせた。
「……ヨル君その格好どないしたん?」
 黒龍が言うのも無理は無い。なぜなら彼が身につけているのは、どういうわけかメイド服。
 紺色のパフスリーブだとか、ギャザーをたっぷり取ったスカートだとか、フリルがふんだんに使われたエプロンだとか。
(見間違いや無い…な……?)

 そう。まごう事なきメイド服なのである。

「え? だって今日は黒の誕生日だし」
「うん、そうやけど」
「だから俺もきちんとした服装の方がいいと思ってさ」
 ちょっと何言っているかわからないでいる黒龍に対し、ヨルは思い出すように。
「俺、人界の誕生祝いの正装はメイド服って聞いたからさ。それに倣ってみたんだ」
「そ、そうかー……うん、すごい似合ってるからええんやないかな!」
 笑顔でサムズアップ。完全に誤った知識であるが、かわいいは正義だからいいのだ。だって自分ら悪魔だし。
(何よりわざわざボクの為に着てきてくれたんやもんね)
 そう考えるだけで、嬉しいのだから仕方ない。

「へえ、これがクリスマスツリーなんだ」
 室内に入ったヨルは、中央に置かれたツリーをまじまじと見つめている。時々街では見かけていたものの、実際に間近で見るのは初めてで。
「面白そうやから買うてみたんやけどね」
 黒龍の言葉に頷きながら、ヨルはモミの木に飾られた色とりどりのオーナメント一つ一つを興味深そうに観察している。
「この飾りには一個一個意味があるらしいで」
「え、そうなの?」
「うん。例えばこの紅い玉」
 指さすのは枝から吊された艶やかな玉。
「これはエデンの園の知識の実……アダムとイブが食べたりんごを表してるんやて。『永遠』の象徴なんだとか」
 それから、と今度はロウソクの飾りを指す。
「これは『世界を照らす光』を表してる、とかな」
「じゃあこれは?」
 ヨルが指さしたのはツリーのトップに飾られた一際大きな星。
「ああ、これはな。トップスター言うて人間が神の元へ辿り着くための『導きの星』や」
「へえ……黒よくそんなこと知ってるね」
 感心した様子のヨルに、黒龍は笑いながら。
「神話とか集めるの趣味やからね」
 言いながらツリーに飾られた赤いリボンを一つ取って。
「これ、ヨル君にあげる。お守りなんやで」
「そうなんだ。ありがとう」
 渡しながら内心でこっそり。
(赤いリボンは互いの愛が永遠の絆で結ばれる……ってことでな)

 そこでヨルはふとテーブルへ視線を移すと、「あ」と声を上げる。
「ケーキ……もう買ってあった?」
 置かれていたのは、ふわふわのカフェオレケーキ。以前ケーキ屋で見かけた時に、自分が美味しそうと言ったものだと思い出しながら。
「うん、ヨル君好きそうやったから」
「俺もケーキ買ってきたんだ。黒の誕生日にって思って」
 差し出したのは、苺のショートケーキ。それを見た黒龍は笑いながら。
「両方食べたらええやん。あ、ボクはもちろんヨル君が買ってきてくれた方食べるけどな」
 実はヨルがケーキを買ってくるだろうと言うことは、予想していた。前に「黒ってどんなケーキが好きなの?」と聞かれたことがあったから。
 それでもケーキを買ってきたのは、誕生日とクリスマスを両方祝える嬉しさと、何よりヨルがショーウィンドウの前で「これも美味しそう」と発言していたから。
「早速食べる準備しよか〜」
「じゃあ俺、カフェオレ淹れてくる」
「ええの?」
「うん。ちょっと自信ありだから期待してもいいよ」
 そう言ってヨルはキッチンに立つ。お湯を沸かし、予めカップを温めながら。
(……上手く行くかな)
 何度も何度も練習した淹れ方。
 目標にしているのは、以前黒龍と共に月の輝く洋館で飲んだもの。あんなに美味しいカフェオレを飲んだのは初めてで、直接教えてもらわなかったのを後悔したほどで。
 その味をいつか再現できることを夢見ている。

「――ん、なかなか上出来」

 淹れ立ての香りが、室内に満ちる。湯気の立つカップを手にし、黒龍の元へと戻り。
「はい。これ、俺からのプレゼント」
 差し出したカフェオレを黒龍は嬉しそうに受け取る。
「ありがとね。なんか飲むのがもったいないなあ」
「おかわりはまた淹れるから。冷めないうちに」
 そう言われ、そっとカップへと口を付ける。珈琲豆の香りと優しい甘さが、口いっぱいに広がっていく。
「……うん。今まで飲んだ中で一番美味しいな」
「そっか。ならよかった」
 大事そうにカフェオレを飲む黒龍を見て、ヨルも満足げに笑むのだった。

●誓う

 二人はその後、買ってきたケーキを食べたりたわいの無い会話に花を咲かせたりと、ゆるやかな時間を過ごした。
 話題が依頼の思い出に移った時のこと。
「そういやあの傷を受けてから、だいぶ経ったんやなあ……」
 ふと何気なく口にした黒龍の言葉に、ヨルがわずかに反応を示す。
「傷……ってあの時の?」
「うん。ヨル君を護れた時のな」
 そう言って胸元に手を当てる。彼の胸に未だ残る十字傷は、以前ヨルを庇った時に受けたもの。敢えて消していないのは、愛する者を護れた証として刻んでおきたかったから。
 対するヨルは、わずかに瞳に影を宿し。
「俺は黒のこと大事に思ってるから……傷ついて欲しくなかったよ」
「うん、わかってる。だからあれからお互い庇い合うのはやめようって約束したんやしな」
 それでもその約束を守れなかったのは、自分なのだけれど。
「あの時は辛かったわぁ。ヨル君数日間ずっと側にいても口聞いてくれへんかったし」
「だって……黒はすぐ無茶するから……」
「ごめん、ごめんな。次はちゃんと守るから」
 そう言って笑いながらも、黒龍は思う。
 もしまたヨルの身に危険が及ぶようなことがあれば、自分は迷わず庇いに行くのだろう。
 そのことでどれほどヨルを傷つけ、恨まれようとも。

 ヨルを失う事に比べれば――全ては些細な事なのだから。

「あ、俺カフェオレのおかわり淹れてくる」
 そう言ってヨルは再びキッチンに立つ。運ばれてきたカップをテーブルに置き、おもむろに切り出す。
「――黒、改めて誕生日おめでとう」
 龍をも思わせる紅いまなざしに向け、微かに笑む。

「黒が生まれて来てくれて、俺、嬉しいよ」

 黒龍は、一瞬呆けたようにヨルを見つめた。その表情には、驚きと歓びが入り混じっている。
「……それ、本気で言うてくれてるの?」
 頷くヨルを、思わず抱き締める。
「……黒、どうしたの?」
「ごめん……抑えきれんかった」
 しばらくの間ヨルの体温を確かめると、翡翠色の髪に口づけをする。そして額に、頬に口づけをした後――そっと唇を重ねた。
 鼓動が早くなる。
 ヨルは黙ったまま、じっと動かない。
 やがて黒龍は身体を離すと、ヨルの指にはめられた『契約』の指輪をそっと一撫でし。
 自身とよく似た紅い瞳に向けて、告げる。

「ヨル君のこれからの人生、ボクと一緒に生きて欲しい、色鮮やかな空を一緒に見続けたい……最期まで、ずっと」

 初めて会ったときから、ずっと惹かれていた。親しくなって、その想いはより強いものとなった。
 ヨルの瞳に彩りを添えたくて、その変化を独り占めしたくて。
 これからの時間を、命尽きるまで共に在り続けられたなら。

 それは掛け値無しの、プロポーズの言葉。

 対するヨルは、不思議そうに首を傾げた後。

「……? 俺、とっくにそのつもりだったけど」

 黒龍といる時間はとても楽しい。自分にとって大切で失いたくない相手、それ故に。
「もっと一緒に世界を見られたらって、俺も思ってるよ」
「そっか……うん。ありがとう……ヨル君、ありがとう」
 実のところ、ヨルは恋愛感情がよくわかっていない。普段のキスをスキンシップの一環だと捉えていることも、黒龍の告白を誓約の申し込みだとは気付いていないこともわかってはいる。
 けれど、共に生きてくれることを承諾してくれた。

 今はそれだけで、十分だった。
 
「今年のボクの誕生日はステキな日やな。ヨル君が傍にいてくれる。ボクは幸せ者や」
 そう言ってもう一度唇を重ねる。
 ほんの少し、カフェオレの味がした。

●祈る

 夜が更け、二人は一緒のベッドに入ったままのんびりおしゃべり。
 ツリーを眺めて今度はどこに行こうかとか、何を見ようかとか、そんな楽しい話をとりとめなく。
「ボクな。ヨル君の人生にボクと過ごした鮮やかな時間をプレゼントしたいと想ってる」
「うん。俺もだよ」
 互いの瞳に映るカレードスコープが彩り豊かでありますように。
 かけがえのない瞬間を、共に見つめていけますように。
 二人は願い、祈り合う。
 気がつけばいつの間にか抱き合ったまま、眠りに落ちる。伝わる相手の体温と心音に、安心を覚えながら。

 眠った二人の枕元。
 下げられた二つの靴下からのぞくのは、こっそり入れられたプレゼント。
 片方にはシロイルカのついたマフラー。黒龍がヨルの為に選んだもの。
 そして――
 もう一方には、小さな箱。
 中に入れられているのは、ヨルが黒龍の為に探した『契約』の指輪。白地に紅い炎が描かれており、ヨルの指にはめられたものと全く同じデザインのものだ。

 ――この指輪を贈ると、ボクらの関係は末永く続くと言われてるらしいで。

 いつか二人で、導きの星を探しに行こう。

 黒龍に渡された指輪を、ヨルは今でも大切にしている。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/種族/ジョブ/オーナメント】

【jb3200/蛇蝎神 黒龍/男/24/悪魔/ナイトウォーカー/リース】
【jb2630/七ツ狩 ヨル/男/14/悪魔/ナイトウォーカー/リボン】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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Merry christmas & Happy birthday!

愛の振れ幅は人によって違うものですが、最終的に互いに心の帳尻が合っていればそれでいいのかもしれない。
そんなことを、時々考えます。
二人にとって特別で、幸せな日。
楽しんでいただければ、幸いです。

※なお、冒頭に個別パターンが存在しています。
winF☆思い出と共にノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年12月24日

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