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『Always with you 』
嵯峨野 楓ja8257

●朝の街、待つ時間
 凛と冷え切った大気が街を包んでいる。
 朝から街は何処か賑やかで、喧噪に浮き立つ心を嵯峨野 楓は隠せずにいた。
 初めてのクリスマスイブ。
 勿論、クリスマスは歳の分だけ迎えてきた。だけれど、恋人と過ごすクリスマスなんてのは初体験。
 去年は『リア充がゴミのようだ』だなんて、映画の台詞を捩って毒吐いていたけれど。
「――けれど、悪くは……ない、よね」
 恋人と過ごすクリスマス。悪くはなんて、ううん、違う。すごく嬉しくて楽しみで。だけれど、ちょっと照れくさくて。
 そんな照れを隠すようにして、携帯電話の待ち受け画面に瞳を移す。じっと眺めた先の待ち受け画面の時計が示すのは約束の時間の5分前。
 時間を示す数字は、浮き足立つ心に反してちっとも進まないようだった。
「まだ、かなぁ」
 早く逢いたい。だけれど、待ってる時間もいい。
 時間よ過ぎろ、けれど楽しみに待つ時間もよくてゆらゆらと揺れる恋心は不思議と心地良い。
 恋すれば、何だって好きになれる――もしかしたら、何よりの魔法なのかもしれない。
 ほうっと吐いた息は白くとけた。

●朝の街、足を進める
 街には沢山の人が溢れている。
 いつもより何処となく浮かれ賑わう街並みは喧噪に満ちていた。
 そんな通りを歩く桜木 真里は足も段々と早くなってゆく。
(楓と、クリスマスだからね)
 脳内に恋人の姿を思い描きながら、思い出すのは去年は依頼のご褒美にと遊園地パーティーに行った時のこと。
(そういえば、あの時はまだ――)
 だけれど、その真里の思考は止む。
 時間ぴったりに目的地に着いた真里。その視線の先には携帯電話の画面に視線を落とす楓の姿。
「ごめん、待ったかな?」
「あ、ううん。時間ぴったりだし、私も今来たところだから大丈夫だよ?」
 いや、絶対今来たところというのは無いだろうと内心思う真里。しかし、楓は笑って言う。
「あはは、なんか夏祭りの時と逆だね」
「ああ、そうだったね……」
 言われて思い出す。確か夏祭りの時は真里の方が早く着いて。
 待たせてごめん、なんて言うのは違うから。
「……じゃ、行こっか」
「うん!」
 差し出した真里の手を笑顔で握る楓。

 赤と緑のクリスマスカラー。陽気で軽やかに歌い流れるのはクリスマスソング。
 浮かれる街並みを手を取り合い、歩き出した。

●クリスマスムード一色の街で
「うーん。……とはいえ、まず何しようか?」
 頬に人差し指をあてて、うーんと考える楓に対して。
「この近くに大きなショッピングセンターがあるんだ、そこ行ってみない?」
 余裕のある落ち着いた表情で真里は提案する。
 実は前日にこっそりと調べていた。賛成と頷いた楓の手をひいて、ショッピングセンターを目指す。
 そして。
「お、大きいね……」
 其処は入り口からして巨大だった。入り口近くの案内板を見ると、どうやら200店舗以上が入る大型商業施設のよう。
「気になるお店はあるかな」
「うーん……」
 真里に訊ねられて、じぃっと身を屈めて、案内パネルとにらめっこする楓。
「うーん……そうだね。雑貨屋さんが気になるかなぁ……」
 とはいえ、案内板だけじゃどんな雰囲気か解らないよね。と楓は言う。
「ゆっくりと見て回ってみようか」
「うん!」
 外と同じようにショッピングセンターも沢山の人で賑わっていた。
「なんか、良い物無いかなー」
 ゆっくりと歩きながら、気になるお店に立ち寄っては、一通り見て出る。
 それを何回繰り返した頃だろう。ロマンティック雑貨を扱う雑貨屋に入った時だった。
「……あ、この対になってる硝子の写真立てとか可愛いくない?」
 そんな言葉とともに、楓が手に取ったのは翼の形をした硝子の写真立て。合わせると大きく翼を広げた鳥の形になる。
「そ、その……あの、さ。お揃いとかど、うか……な」
 もじもじと上目遣いで見つめてくる楓に、真里は微笑み。
「賛成。お揃いって、なんだか嬉しいよね」
「ほ、ほんと!」
 真里のそんな言葉に楓はすごく嬉しそうに笑う。

 やや離れた場所に居た店員はそんな様子を微笑ましく眺めていた。

●昼下がり、甘い甘いひとときに
「クレープワゴンはっけーん! 真里ー、食べてこー」
「いいね。丁度小腹も空いてきたしね」
 何処からか香る甘い匂い。その先にクレープワゴンを見つけた楓に真里は頷く。
 近付いたふたりに店員は微笑んで。
「どれにしますか?」
「私はイチゴの奴ー! 真里はどうするー?」
「じゃあ、俺はチョコバナナでお願いします」
 目の前で甘い香りを立てながら焼かれ、巻かれていくクレープ。
 出来上がったクレープをお店の人から受け取って、近くのベンチへと腰掛ける。
 上機嫌でクレープを頬張る楓を微笑ましく眺めながら、。
「これも食べてみる?」
「え……うん!」
 やや少し照れの様子を見せたけれど、満面の笑みで楓は頷いて口を開ける。
 そのまま、楓の口へと運ぶと美味しかったのかクレープよりも甘い笑みを見せた。真里もしあわせそうに眺めて、気付く。
「……っと、楓」
 ん、何?と再びきょとりと首を傾げた楓。真里は少しだけ顔を緩ませて。
「ほっぺた、ついてるよ?」
「え?」
 振り返った楓の頬についていたクリームを、真里は人差し指ですくって舐めた。
 瞬間、手の中にあるクレープのイチゴよりもなお赤く、楓の顔が染まっていく。
「ちょ、ちょっと……!」
 口を開き何かを言おうとした楓。しかし、真里は更にクレープをスプーンですくい、楓の口へと放り込む。
「むにゃっ」
 もぐもぐ。しまった、反射的に味わってしまった。しかも、あまりのおいしさに頬が緩んでしまった。
 そんな楓の様子に真里は思わず破顔する。
「……もー。仕返しだー!」
 笑う真里の口に、同じようにスプーンをつっこむ楓。
「ん……ありがとう」
 しかし、真里はふわりと素直に笑った。

 ――なんだろう。ちょっと、敵わないや。

 悔しいような、嬉しいような。でも、悪くはなくて楓は満足げに笑う。

●無窮の煌めき、天と地の星々の中で
 暮れる陽の光は最後に優しい茜の色を残し、そして世界は静かな藍色へと変わる。
 ぽつり。また、ぽつりと踊り出すのはイルミネーションの灯り達。
 まるで、地に輝く星達のよう。宵空にもぽつりと輝き歌い出すのは天の星。
「……綺麗だね」
 思わず漏れ出したたのは、真里の呟き。
 ひとつひとつは小さな光。しかし、それが集まって幻想的な光景を織り成す。
 何気ないと言えばそれだけなのかも知れない。だけれど、なんだかそれもひとつの奇跡のように感じるからこその人の心を揺らすのかもと、こっそりと思ってみたりもして。
「うん。昼間も賑やかで楽しかったけれど、夜になるときらきらと綺麗で神秘的だねー」
 わたしは、それも好きだな。言葉を続けた楓に真里は頷き。
「俺もだよ」
 のんびりとそんな言葉を返したら、楓は少しだけ目を細める。
「でも、この時期にしか見られないのは、ちょっと寂しいような……」
「うーん、でも――だからこそ、俺は良いんだと思うな。特別なんだし」
 きらきらと輝くイルミネーションも、星々のような光景にうっとりとする
 全てが特別なものだから、特別であることで余計に素晴らしくも感じたりするのかもしれない。
「そうだね。全部が……っていうか寒っ!」
 吹き抜けた空っ風。突き刺すような冷たさを孕んだ大気が吹き抜けて、思わず楓は身を震わせる。
「暖をを取らせろー」
 そして、ぱふりと寄りかかるようにして楓は真里にくっついた。
 繋いだままの手をそのまま真里のポケットへと突っ込んだ楓が得意げな様子で言った。
「私寒がりだから、ね? あったかいでしょ」
 思わず驚いた真里が、楓を見ると何だか幸せそうな表情を浮かべていた。
 寄り添いくっついて、自分のことを見上げながらへにゃりと緩みきった顔で笑う楓。その笑顔につられて真里も微笑む。
「そうだね。確かに暖かいよ」
 こういうのも良いよね、なんて言いながら真里は空を仰ぐ。
「あ……」
 呆然と吐き出された真里の呟き。
 楓はきょとりと首を傾げ聞く。
「どーしたの?」
「雪が降ってきたみたいだよ」
 真里の声につられるようにして同じように見上げれば、真っ白な粉雪がちらちらと舞い始めていた。
「お、ほんとだ。道理で寒いわけだね」
 言葉とともに吐き出された白い吐息は粉雪の中に溶けていく。
 星々を掠めるように、滲ませるように降りしきっている白い雪達は光達を暈かすように。
「……うん、やっぱり綺麗だねー。寒いのは苦手だけどこういうのは悪くないかも」
 空を見上げた楓の頬に雪が触れて、音も無く溶けた。
「そうだね」
 ホワイトクリスマス。真里は何だか嬉しくなる自分を感じていた。だけれど、気付いたのかどうか楓は引っ張り指す。
「あ! あそこ、観覧車あるよ。折角だし乗らない?」
「うん、行こう」
 頷いた真里。少しだけふたりの歩くスピードも早くなる。
 辿り着いたふたりは乗り込んで、静かに動き出す観覧車に身を任せる。
「なんだか、懐かしいね……」
「ふふ。うん、去年もこうやって二人で抜け出して乗ったよね」
 思い出すのは丁度一年前のこと。
 ご褒美で遊園地のお城パーティーへと出かけた時に、こうしてこっそり二人で抜け出して観覧車に乗った。
「俺も楓が手を取ってくれて嬉しかったよ。誘う時はすごく緊張したけどね」
「わ、私も誘われた時、凄く驚いたけど……嬉しかったの」
 もう一年も前のことだけれど、だけれどまるで昨日のようにあの日見た花火は鮮明に思い出せる。
 そう言って楓はふわりと笑おうとしたけれど、何だか急に照れくさくなって窓の外へと目を向けた。
 そんな楓の横顔を見つめながら、ふと想う。
(あの時には、もう好きって気持ちの自覚はあったけど伝えてはなかった)
 だから、ドキドキの中には不安もあって。それ故の現在。少し不思議で嬉しくて。こうやって、横顔を見ている時も嬉しくて。
 この気持ちに名前を付けるとしたら、きっとしあわせ、だろうか。
 改めて。
「一年って早いね」
 もう、あれから1年が経っていた。
「きっと、そう感じるのは楽しかっただね――ありがとう」
 急に真里がそんなことを言い出すものだから、きょとりと首を傾げる楓。
「楓、君が居たからだよ。ありがとう」
「……わ、わたしも、楽しかったし……その、ありがとう」
 何だか気恥ずかしくなってしまう。
 大きな観覧車は丁度その時に頂上を通り過ぎた。そのまま地上へと降りるまで言葉は無かった。

「ねぇ、向こう行ってみない?」
 観覧車を降りて、真里が指したのは水辺の方角。すっかり忘れていたけれど臨海公園だった。
 楓は頷き歩きだそうとした。その手をさり気なく真里は握って、ゆっくりとした歩調で海辺を目指す。
 傍らにちらりと見えた時計台は既に午後10時を差していた。通り過ぎる人々達も自然と恋人達の姿が多くなっていく。
「お、おー!」
 そして、水辺に近付いた瞬間。楓は目の前の光景に見とれた。
 思わず手を離し駆けだして、柵に掴まり眺める。
 ビルや観覧車、街灯やイルミネーション。街の様々な灯りが澄んだ夜の水面に映り揺らいでいた。
「さっき、観覧車から見えたんだ」
 綺麗だよね。真里がそう呟くと背を向けたままの楓が頷いた。
「楓」
「ん?」
 ふと、真里の呼び声に楓はサイドテールを揺らしながら振り向く。
 その瞬間、真里は携帯電話のシャッターを切った。まるで瞬間を切り取るかのように。
「ちょ?! え!」
 写真を撮られたことに気付いた楓は慌てて真里から携帯をひったくろうとする。しかし、ひょいっと携帯を掲げた真里は悪戯っぽく微笑む。
「今日買った写真立てに入れようと思ってね」
「まったくー、どうせ撮るなら不意打ちじゃなくておもっきり可愛いの撮ってよ。私にも心の準備というのがですねー」
 頬を膨らませて、照れ隠しなのか冗談めかして言う楓に真里は告げる。
「いいじゃないか。いつだって、選べないよ」
 だって、楓はいつだって可愛から。続く想いは言葉にはしない。

 何気ないことで笑いあえた。ともに居るだけで楽しい。
 一緒にいる時間を過ごして、好きという想いも積み重なっていった。
(それは、今日もこれからも、ずっと……)
 聖なる夜に、特別な君と。続く日常のアルバムに今日という日も。
 きっと、もっと、ずっと好きになってゆく。
「また、来たいね」
「……うん」
 静かな呟きは、凛とした静けさの中に溶けてゆく。
 未来のことなんて誰にも解らない。でもきっと、全ては知らない方がいい。だけれど、願う。
((――来年も、一緒に))
 だって、想うふたつの心は同じなのだから。
 言葉にしなくても、出来なくても。踏み出して、形にしてしまったら壊れてしまいそうな想いが怖くても。
 積み重ねてきた日々は消えない。創りあげてきた絆は変わらない。

 絶対なんてないんだから、ただ信じよう。
 きっと、それだけで、強くなれるから。

「「メリークリスマス」」

 交わした言葉。燦めく光達が次々と通り過ぎてゆく。
 無垢な祈りのように純粋な白雪は、澄んだ夜の海へと溶けていった。


――With love at Christmas... and always.





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja5827 / 桜木 真里 / 男 / 20 / ダアト】
【ja8257 / 嵯峨野 楓 / 女 / 19 / ダアト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 メリークリスマス、水綺ゆらです。
 じぃんっと風も冷たくなってきた今日この頃、気付けばもう今年も残すところ後1週間、早いものですね。
 クリスマスの時期が来ると、今年ももう終わりなんだと感じて、少ししんみり。過ぎるといよいよと寂しくなって。
 普段どうでもいい時の流れが急に恋しくなったりして不思議です。

 今年もあと僅かですが、少しでも素敵な想い出を残せたら!
 この度はご発注有難う御座いました!
winF☆思い出と共にノベル -
水綺ゆら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年12月24日

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