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『冬の日の贈り物――を買いに 』
亀山 淳紅ja2261

 商店街を歩けばクリスマスキャロルが聞こえ、街のあちこちが赤と緑で彩られていく年の瀬のある日。
 その日、亀山 淳紅は休日を満喫していた。すなわち惰眠を貪っていたのである。
 天魔との戦いでの疲労はなんだかんだと蓄積されている。休みの日にたっぷり眠って、次の英気を養うのだ。
 ――と、そこへ。
 ジリリリリ! ジリリリリ!!
 少し古風な着信音が、スマートフォンから流れる。
(眠ってるんやから、マナーモードにしておけばよかったなあ)
 そんなことを思いながら、寝ぼけ声で電話にでた。
「あー、もしもし〜、俺だけどさ」
 その何処かのん気にも聞こえる声に、淳紅の背はピッとなる。声の主は姉の恋人、百々 清世だったからだ。さすがに無下に出来る相手ではなく、少々慌ててしまう。
「亀ちゃん暇? プレゼント一緒に買いに行こーぜ」
 そして待ち合わせの場所と時間だけ決めて、電話は切れた。
 この時期にプレゼントというからには、恐らくクリスマスプレゼントだろう。淳紅自身、恋人へのプレゼントに悩んでいたところだったから渡りに船である。
(よし、そうなったら……)
 ワクワクしながら、淳紅は支度を始めることにするのだった。


 待ち合わせの場所はショッピングモール前のモニュメント。
 待ち合わせ時間の五分前には、淳紅は約束の場所に到着していた。突然の電話で起こされたとはいえ、相手は大切な姉の彼氏。そして淳紅自身も慕っている先輩の一人である。五分前行動も当たり前、というわけだ。
 ただ、相手がそれをどう思っているかはまた別問題で。
「おー、亀ちゃん。待たせてごめんね〜。って、亀ちゃん、寒くね……?」
 時間には相変わらずルーズな清世である。まあ、それはある程度予想できることではあったのだが、しかしながらこの寒い中で待っていたわけで、淳紅の頬は寒さで紅潮していた。
「……ああ、そら寒いでしょうよ……でも自分も寒かったですよ? 頭に雪も積もってますよ?」
 例年よりも一足早い雪が、ちらちらと降っていたのである。
 首元につけているマフラーをさらにぎゅっと巻きつけ、小柄な淳紅は震えながら、やや恨めしそうに関西弁を繰りながら清世を見つめる。しかし清世という人物はそれでも妙に憎めないところのある稀有な青年で、淳紅の頭に積もった雪を軽く払ってやると悪びれた様子もなく
「たしかにこりゃマジ冬だわなー。ごめんごめん、寝坊したん」
 と、へらりと笑う。その顔に悪意のようなものがないからこそ、淳紅は怒る気にもなれず、むしろどこか愛嬌のある先輩として慕ってしまうのだ。
「何やあったんちゃうかって、心配したんですからね?」
 少年はそう言うと、笑顔を取り戻してとりあえずは少しでも温かいところへと向かうことにした。

「……で? プレゼント、ゆーんはうちの姉へのクリスマスプレゼントですか?」
 淳紅も可愛い恋人を持つ身である。そういうことはなんとなくだが想像はつくらしい。
「そそ。直接本人に聞くわけにもいかねぇじゃん? 弟の亀ちゃんなら、好みとかわかるんじゃねぇかなって」
 たいして思いつかねぇんだわ、とへらりと笑う清世。対する淳紅はたしかにきょうだいであるから、普通の友人などよりはうんと姉の好みは判っているつもりだ。
「……んー、そうですねえ。この間、もうちょい大人っぽいデザインの防寒具が欲しいーたらどーたら言うてたような?」
 姉の発言や行動を思い返しながら、淳紅はポツリと呟く。彼自身も姉と妹、そして恋人のぶんのプレゼントを見繕うつもりらしい。
「防寒具……か。アクセとかでもいいけど、そういうほうが普段使いにもなるし、いいかもしれねぇな」
 ふむふむと顎をしごきながら、清世は頷いた。


「わぁ、ここのマフラー、色とりどりできれいやなぁ!」
 淳紅が目ざとく見つけたのは、ファッション小物を中心に扱っている、女の子がいかにも好みそうな雑貨店。彼が声を思わず上げたとおり、マフラーや手袋、帽子はもちろんのこと、ケータイやスマホのアクセサリ、こじゃれた文房具やちょっとしたアクセサリー、ルームウェアのたぐいも売っている。
 もちろん女性向けばかりというわけでなく、ユニセックスな作りのアイテムも多いためか、客層には結構男性も見受けられた。
「んー、これとか、似合いそうやなぁ」
 シンプルな作りだがどこか愛らしい、最近定番のマフラー手袋を見て淳紅が言えば、清世も口元を少し緩める。
「そうだな〜、似合いそう。つか俺も寒い、自分用にも色違い買っておこ」
 自分用にと清世が選んだのは深い青。彼女用には彼女の瞳の色に合わせた緋色である。
(ももにーさん、さらっと自分用の色違いも買いおった。イケメンはどんな臭いことやってもサマになって羨ましいわー……)
 心のなかで淳紅がこっそりつぶやくが、まあそれは清世には気付かれなかったようで。
「俺も折角やし、ここで皆のプレゼント探そか」
 何しろ男女ともに欲しくなりそうな小物類がたくさん売っている店である。
 ――みんなは喜んでくれるやろか。
 大切なひとたちの笑顔を思い浮かべながら、淳紅もプレゼント選びを始めたのだった。

 やがて淳紅が恋人へと選んだのは子猫のデザインのブローチ。また、姉と妹には色違いのルームソックスを用意した。気軽に使えるもののほうが、たしかに家族という関係では渡しやすいだろう。
「みんな喜んでくれるやろか?」
 淳紅がポソリと口にすれば、
「亀ちゃんがみんなのことを思って買ったプレゼントなら、ダイジョーブじゃね? それよりも俺腹減ったー、なんか食おうぜ」
 清世は人生の先輩として(?)そんなことを言いつつ、空腹を訴える。
 スマートフォンの時計を見ればたしかに休憩を取るのにちょうどいい時間となっていた。結構な時間を雑貨店で過ごしていたらしい。
「確かあっちの方にフードコートがあるはずやから、そこでなんか食いましょうか。俺も言われてみたら、腹減ってきちゃいました」
 淳紅は照れくさそうに笑った。


 ランチタイムはやや過ぎていたが、それでも年の瀬のフードコートは程よく賑わっていた。
「ももにーさん、お水持ってきましたでー。ここ、ラインナップも豊富やけど、何食べます?」
 何かと気の利く後輩・淳紅が、先に席も確保した上でニコニコ笑いながらおてふきなども持ってくる。後半は淳紅のほうが付き合ってもらったような形になってしまったので、このくらいのお礼はして当然と思っているのだ。
「あ、たこ焼き! 俺あれにしよっかなー」
 見ればなるほど、たしかにそちらには有名なたこ焼きチェーン店がある。あああのお店ですか、と淳紅は頷くと、
「あの店やったらたしかアプリに割引クーポンがあったはずです。ちょい待ってください、出しますんで」
 慣れた手つきでスマホを操作するあたりはやはり現代っ子だ。
「あ、じゃあ俺これにしよ」
 スマホのアプリ画面に書かれているメニューを見て、清世が指さしたのはイタリアンな雰囲気のチーズ&トマトバジル。淳紅も明太マヨ味のたこ焼きを選んで、買ってくる。
「おー、これ予想以上に美味しい。そっちはどんな感じー?」
 清世は渡されたチーズとトマトの風味豊かなたこ焼きをモグモグしつつ淳紅に聞く。
「こっちもうまいですよ。何ならひとくち食べます?」
 淳紅がそう言ってみると、清世は早速口を開けて待ち構えている。思わずくすりと笑うと、淳紅は程よくさめたたこ焼きを、ヒョイッと清世の口に放り込んでやった。


「あ、ゲーセンや」
 目的の物も買い終わり、お腹もそれなりに膨れたところで、淳紅の目に飛び込んできたのはゲームセンター……の、リズムゲーム、いわゆる音ゲーだった。
 音楽には特にこだわりを持つ淳紅は、清世にそれらをプレイしようと提案する。
 清世も、ゲームセンター自体は嫌いじゃないし、音ゲーだってやらないわけじゃない。淳紅のお手並み拝見、といった顔で、その意見に賛成した。
 ……数十分後。
「ヤッベ、亀ちゃんマジうまなんですけど……」
 清世は生ぬるい笑みを浮かべるしかなかった。
 何しろどのリズムゲームをやっても、あっさりハイスコアをマークしてクリアしてしまうのだ。しかも本人はいかにも楽しそうに、
「ももにーさん、これもおもろいでー!」
 と笑顔を振りまく始末。しかもその玄人はだしな腕前に、ギャラリーもついてしまうような状態であった。
「亀ちゃんすげーな。そうだ、今日のお返しに一緒にプリントシール作らね?」
 すると淳紅も嬉しそうに頷いて、プリントシールの撮影マシンに二人して雪崩れ込む。ポーズを確認しつつ、二人はとびきりの笑顔で仲良しっぷりをアピールした。そして撮影後のデコレーションは清世が本領発揮とばかりに可愛らしくスタンプやシールをデコレーションしていく。
「どうよこれ。かわいくね?」
「おおー。ももにーさんのセンス、ええなあ」
 二人して満足したかのように笑いあい、プリントシールを分け合った。


 そんなことをしているうちに、気がつけばもう夕方。
 エントランスの向こうの空はすでに夕闇色だ。
「亀ちゃん、今日はありがとね〜」
 清瀬が気分良さ気に礼を言うと、淳紅もいやいや、と首を横に振る。
「俺もごっつ楽しませてもらったんで、おあいこです」
 と、清世はポケットからゴソゴソと小さな包みをふたつ取り出した。
「これは妹ちゃんに。キャラクターもののポーチだけど」
 最近人気のクマのキャラクターのものらしい。思いがけない心配りに、淳紅も礼を言う。そしてさらに、
「あと、はい。これは亀ちゃんに。ゲーセンで取ったストラップだけどねー」
 見れば淳紅の好きな音楽記号をあしらったストラップだった。さすがにこれには声もでない。
「お、おおきに、ももにーさん」
 言葉と同時に深々と礼をして、そして笑う。
「ん〜ん。付き合ってくれたのは亀ちゃんだしね。今日のお礼」
 こういうマメなところが、嫌われないコツなのかもしれない。清世はいつもの様に、笑っている。
「それじゃあ、ももにーさん。今日はホンマにおおきに!」
「こっちこそ、ありがとな」
 二人の青年はそう言い合って笑う。
 クリスマスはもうすぐ。
 きっと――素敵な日になるだろうと、思いながら。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2261 / 亀山 淳紅 / 男 / 大学部一年 / ダアト】
【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 大学部四年 / インフィルトレイター】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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今回は発注ありがとうございました。
冬の日の買い物、楽しませて書かせてもらいました。
恋人に素敵な思いが伝わるといいですね。
では、メリー・クリスマス!
winF☆思い出と共にノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年12月24日

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