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『Winter! ― ニャンてトラブル☆クリスマス ― 』
黒・冥月2778

1.
 冬の気配。
 木枯らしが街を駆け抜ける。頬に冷たい小さな白い雪。
 今年の終わりと来年の始まりが近づいてきている。
 楽しいイベントが盛りだくさん。
 まずはクリスマス。モミの木にたくさんの飾りをつけて、お祝いしよう。

「このクリスマス、恋人に最高のサプライズを贈りませんか?」
 そんな謳い文句に急いで歩いていた草間武彦(くさま・たけひこ)は足を止めた。
 そこにあったのは綺麗に輝く色とりどりの指輪。
「いかがですか? とても喜ばれること請け合いですよ。この指輪は…」
 女店主の言葉を聞き流しつつ、草間は既に物色モードだ。
 普段は黒系が多い彼女だが、たまには透き通った光り輝くものでもいいんじゃないだろうか?
 …キュービックジルコニアだろうか?
 こんな露店で売っているような代物にはとても思えないほどの綺麗さだった。
「これを1つ。ラッピングしてもらえるか?」
「…あ、はい。喜んで」
 女店主は説明をやめて手早くラッピングを始める。
「説明書きをきちんと読んでくださいね」
 そう言った女店主の言葉は、草間には聞こえない。
 この指輪をはめた彼女の姿が早く見たくて、早々に立ち去って行った…。

「今日は楽しかったわ」
 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)は漆黒の髪を揺らして微笑む。
 クリスマスデートは喜んでもらえたようだ、草間はそう確信した。
 最後の〆。これが肝心だ。
 草間は懐から指輪の入った箱を取り出す。
「今日の記念に、これを受け取ってくれないか」
「え?」
 頬を赤く染め、照れながらも冥月は嬉しそうにそれを開ける。
 出てきたのは光り輝く素敵な指輪。
「ありがとう…つけてみてもいい?」
 目を細めて幸せそうな笑顔を見せる冥月。
 買ってきてよかった! これが俺の生きる道…!
 草間は内心そんなことを思っているのを悟られぬように、クールに微笑む。
「俺がつけてやるよ」
 そう言って、草間はまるで神聖な儀式のように指輪を冥月の左手薬指にはめる。
「本当に…しあわ…」
 ウルウルとした瞳。照れた姿もまた可愛い。
 この後はアレか? お持ち帰りコースか?
 なぁんて考えていた草間だったが、ここで思いもよらぬことが起こった。

 冥月が…目の前から突如いなくなった…。


2.
 草間の目の前に闇が広がる。
 ぱさりと何かが落ちる音がして、草間は下に目を落とす。
 …冥月の着ていた服だ。こんな暗がりだろうと見間違えるはずがない。
 どこに…冥月はどこに行ったんだ?
「冥月…? 冥月!?」
 思わず大声で呼んだ草間に『にゃーん』と答えるものがいた。
 それは冥月の服の下から出てきた黒い猫。
「…冥月か!?」
『にゃーん』
 黒猫はまた鳴いた。
 草間は急いで黒猫を抱き上げる。
「なんでこんな姿になっちまったんだ!?」
『にゃ〜…ん!』
 バリバリバリ!
「うわっ!? いって! なにすんだよ!」
『にゃにゃにゃにゃっ!』
 冥月のネコパンチは草間の顔にクリーンヒット!
「…俺が悪いってか。まぁ、そうだよなぁ…指輪はめたタイミングだもんなぁ」
『にゃ』
 冥月がコクリと頷く。草間ははぁ〜っと大きなため息を漏らしたが、頭を振ると立ち上がった。
「とにかく、指輪買った店に行ってみるか。何か手がかりくらいはあるだろ」
『にゃにゃっ』
 冥月の服を拾い上げ、黒猫の冥月を抱きかかえると草間は走り出す。
 目指すはあの露店の指輪屋だ。
 まだあそこにいてくれるといいんだが…そんな不安を吹き飛ばす勢いで、草間は走った。

 …しかし、辿り着いたそこに店はなかった。
「すまないが…ここで指輪の露店を開いていた人間を知らないか」
 近くの店に入って聞いてみたが、よくわからないと言われた。
「…まいったな」
 草間は考え、方向を変えて走り出す。
 人間を猫に変えるなんてのはおそらく魔術かそれの類だろう。
 それならば、蛇の道は蛇である。
 まずはアンティークショップ・レンへと足を向ける。
「見たことのないまじないだねぇ」
 首をひねって、お手あげのポーズをされた。
 ならば!
 と、高峰心霊研究所に足を向ける。だが…
「心霊…とは関係ないみたいね? そう…なにか、面白い波動を感じるわ」
 面白いとはいったいどういうことなのか?
 それを聞いてみたが、所長は笑って答えなかった。
 最後の頼りは月刊アトラス編集部…できればここには来たくなかったが…。
「ボツ! やり直し!!」
「ひっぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 …ダメだ、は、入れそうにない。

 草間の無い知恵は、底を尽きた。


3.
 ザーーーーッと水の音が絶え間なく響く公園の噴水の縁に、草間は腰を下ろした。
「どうすりゃいいんだ…」
 ぽつりとそう呟き、草間は頭を抱えた。
『にゃあーん』
 冥月は草間の頬をぷにぷにの肉球で撫でた。
 精一杯慰めているつもりだった。
「すまない、俺のせいで…」
『にゃあーん』
 冥月がまた一鳴きした。
 すりすりと顔を摺り寄せて、気持ちよさそうに目を瞑る冥月。
 草間はそんな冥月を抱きしめた。
「俺の怪奇体質なんか諦めてる…か。いつかって…だけど、俺は今おまえに戻ってほしい」
 まるで会話しているかのように、草間は冥月にそう語りかける。
『にゃあーん』
「…落ち込まないわけないだろ?」
 寂しそうに草間は笑うと、冥月の顔をじっと見つめた。

「もし、おまえが一生その姿でもずっと俺は傍にいる。愛し続ける。だから…冥月、おまえもずっと俺の傍にいてくれ」

 精一杯の告白だった。
 懺悔ではない、純粋に一緒にいたいと思った。
 姿かたちでなく、冥月だから愛していた。
 草間は猫になった冥月にそっとキスをした。

 王子様のキスで、王女様は本当の姿を取り戻した!

「きゃっ!?」
「冥月!? 元に戻った!」
 元の姿に戻れたことと、寒空の下に真っ裸になってしまった事で2人は軽いパニックになった。
「服! 服!」
「待て待て! ここはやっぱり喜びのハグを…」
「何バカなこと言ってるのよ!」
 草間のバカな発言を冥月はいなしながら、慌てて服を着た。
 誰かに見られたら、あらぬ誤解を受けかねなかった。

「あら、先ほどは指輪をご購入ありがとうございます。サプライズは成功しました?」

 不意に女の声がした。
 見るとそれは…あの指輪を売っていた女店主であった。


4.
「おい! あの指輪どうなってるんだ! はめたら猫になったぞ!?」
 草間が詰め寄ると、女店主はビクッと一歩下がった。
「せ、説明したじゃないですか。それに説明書を読むようにと…これ、一種のジョークグッズですよ?」
 冥月は草間から貰った指輪の箱を取り出し、箱の裏に張り付いた説明書を見つけて読み始めた。

『1.指輪装着者は動物に変化します(場所と時間を考えましょう)
 2.指輪装着者を元に戻すにはキスをする必要があります(愛のある口づけをお願いします)
 3.効果は5時間ほどで自然に消えます
 4.指輪をはめる指によって動物の種類は変化します(試してからのお楽しみ)』

「…ね? 書いてありますでしょ?」
 困ったように言う女店主に、草間は納得したように頷いた。
「だから安かったのか…」
「だって、所詮おもちゃですから」
「…いくらだったの?」
 冥月がふと疑問を口にする。草間はぎこちなく冥月を見て笑う。
「500円」
 …………
「安く済ますな! 私への愛はワンコインか!!」
 草間、スローモーションのように空へと飛んだ…。
「あなたも! こんなもの売りつけないのよ!」
「え、でも人気商品なんですよ…?」
 心外だというような顔をして女店主はオロオロしている。
「…ちなみに、この4番だが。実際どんな動物に変身するんだ?」
 復活した草間が女店主に訊く。
「何訊いてるのよ!」
「それは…実際に試していただいた方が楽しめると思います」
 にっこりと笑う女店主に草間はイヤ〜な視線を冥月に送る。
「ちょ…何考えてるのよ…」
 じわじわと迫りくる草間に、冥月は身構える。
「や、やめ…て…」
 草間の目が本気だ。どうしよう…どうしよう…!
 思わず目を瞑り、冥月は思いっきり草間に向かって手を突き出した!

『モォ〜〜〜…』

「…え?」
「あら〜…牛だったんですねぇ…」
 冥月の目の前には明らかに、見紛うことなく、見事な牛が1匹。
「うふふ。これ以上、恋人さんたちのお邪魔しちゃいけませんね。メリークリスマス!」
 女店主は楽しそうに、夜の闇に溶けて行った。
『モォ〜〜…』
 冥月は牛を見る。牛も冥月を見る。
「…どうしようかしら…ねぇ?」
『モォ〜〜…』
 吹き出しそうな笑いを堪えながら、冥月はもう少しこのままでいようと思った。
『モォ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!』

 こうして王女様は、少しだけ王子様に仕返しをしたのでした…!



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 黒・冥月 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はご依頼いただきましてありがとうございます。
 不思議の指輪! 魔法の指輪ですね♪
 2人のデートが楽しいものであったのなら良いのですが…どうなんでしょうね?w
 シリアスな草間もたまにはいいものですねw
 ご依頼ありがとうございました!
winF☆思い出と共にノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年12月24日

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