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『White's WORLD 〜アルマ・ムリフェイン〜 』
アルマ・ムリフェイン(ib3629)

 シンシンと降り積もる雪。
 見渡す限りの雪景色に、ひっそりと輝く星たち。
 足跡の無い白の世界はまるでどこか別の世界へ誘うようだ。

――今日はクリスマス。
 あなたは誰と、どんな風に過ごしますか?

 * * *

 これは本当にあったかもしれないし、なかったかもしれないお話。
 春はまだ遠く、桜の蕾すらも枝に付かないそんな折。遥か彼方に温もりを抱く季節に降り続ける雪。その白を眺めながら、銀の輝きを放つ少年が足を止めた。
「空も大地も真っ白……こういうのを、なんて言うんだっけ」
 降り続ける雪がもたらした白銀の世界。それを見詰めた後に振り返ったアルマ・ムリフェイン(ib3629)は、億劫そうに歩いてくる天元 恭一郎(iz0229)を見た。
「恭一郎さん。『くりすます』に降る雪ってなんて言うんでしたっけ……?」
「何で僕に聞くんですか……そう言う事は東堂さんに聞いて下さい。ただでさえ買出しなんてさせられて機嫌悪いんですから、察して下さいよ」
 はあ。と大仰に零された意気に、ピッと肩が竦む。そうして前を向き直るとアルマの尻尾が大きく揺れた。
「……先生に買出し頼まれたこと……そんなに、嫌なのかな?」
 自分ならこうして喜んで買出しに行くのに。そう零して小走りに歩き出す。
 今日はジルベリアで言う所のクリスマス。
 浪志組の屯所では、春に行われた陽の祭りの冬版として星の祭りが行われている。
 提案者はアルマで、屯所の責任者である東堂・俊一(iz0236)は彼の案に乗って場所の解放と準備を行ってくれた。
「あ、恭一郎さん! あのお菓子、買って行きませんか? あれなら塾の子達も一緒に食べられますよ……!」
 思わず足を止めたアルマが指差すのはクリスマスケーキの並ぶ店だ。良く見れば残りは僅か。
 その全てを買えば、祭りの為に集まった子供たち全員のお腹を満たす事が出来るだろう。
「……君、あれだけの数、持てるの?」
 今でさえ荷物がいっぱいだ。そう視線を寄越した恭一郎にアルマの視線が落ちる。
 確かに東堂に頼まれて買出しに出て以降、あれやこれやと買い過ぎた。正直言えばこれ以上持てないが、それでもアルマには如何しても通したい我があった。
「持ちます……だから……!」
 じっと見上げる緑の瞳に恭一郎の長い息が落ちる。そうして歩き出すと、彼は店主に残りのケーキを売ってくれるよう頼み始めた。
「ケーキの箱は、後ろで尻尾を振っている狐君に持たせてください。まあ、持てそうもなければ1つくらいは持ちます……ええ、勘定は浪志組の東堂宛でお願いします」
 やれやれと溜息交じりに会話を進める彼の姿に笑みが零れる。
 初めて言葉を交わし、共に刃を振るった相手。その初対面で怪我を負わせてしまった事をアルマは今でも覚えている。だから頭が上がらないのかもしれないが、それ以上に頭が上がらないのは……。
「……何でだろう?」
 1人零して首を傾げていると、荷物の上にケーキの箱が2つ乗った。
「何をぼうっとしてるんですか。さっさと行きますよ。僕は一時も早く真田さんの傍に戻りたいんですから」
 そう言ってサクサク歩き出す彼に、慌てて歩き出す。そうして雪の中を歩いてゆくと、2人はクリスマスの装飾に彩られた屯所の門を潜って行った。

   ***

 夜になり、雪は更に降り積もり、辺りを真っ白に染めて行く。その姿はまるで春に咲く桜の花びらのよう。
 アルマは両の手で酒の乗った盆を持ったまま足を止めると、縁側から臨める景色に目を細めた。
「……ホワイトクリスマス……」
 さっき、東堂から教えてもらった。
 クリスマスに雪が降る事を、ジルベリアではそう言うそうだ。
「やっぱり、先生は物知り……♪」
 誇らしいような嬉しいような、なんだかくすぐったい気持ちに笑みが零れる。その上で冷たくなった鼻先に片手を添えると、アルマは僅かに瞼を伏せた。
 長い長い冬。
 これが抜ければ春が来る。
 そして春が来れば、屯所の庭には桜が咲き誇り、新たな季節を楽しむように隊士たちが稽古に励み、治安維持の為に声を上げるだろう。
「今は冬……力を蓄えて、大きくなる為の季節……」
 東堂と出会ってから本当に色々な事があった。良いことも、悪いことも、それこそこの数年に人生が凝縮されているような、そんな時間を過ごしてきた。
「これからも、先生やみんなと一緒に……楽しく過ごせたら良いのに……」
 そう零してハッとする。
「良いのに……?」
 何故希望系なんだろう。
 これからも良いに決まってる筈なのに。そうなるように頑張る筈なのに。
(……僕、何か……)
「アルマ君」
「!」
 突然かけられた声に振り返る。
 其処に立っていたのは、外套を手に微笑む東堂だ。
 彼は鼻先を紅く染めたアルマに近付くと、彼の背にそっと外套を掛けた。
「子供たちに贈り物をした後から姿が見えないので心配しましたよ……おや、それは?」
 東堂はアルマの持つ盆に目を落とすと、何かを察したのかフッと笑んで彼の頭を撫でた。
「あ、えっと……師走っていうし……先生、疲れてないかな、って」
 頭を撫でる感触に擽ったそうに首を竦めて笑う。
 最近では浪志組も落ち着いて来たからか、東堂が忙しそうにしている機会は減った。それでも年の瀬が近付くと色々用事がある様で――
「昨日も、帰り……遅かったですよ、ね?」
「知ってたんですか。実は支援先の方と話が合いまして、言葉を交わすうちに朝に……私もまだまですね」
 クスリと笑う東堂は、アルマの頭をぽんぽんと叩くと、そっと手を下げて庭の雪を眺めた。
「良く降りますね……部屋でお話しながら飲みますか?」
「! 良いんですか!」
 パアッと目を輝かせて振り上がった尻尾に我に返る。
(あ……先生に気を使わせちゃった、かも……)
 嬉しさのあまり自分の感情が先に出てしまった。
 その事に頬を染めるが、東堂は気にした様子もなく、寧ろ微笑ましく瞳を緩めると、彼に優しい頷きを向けた。

   ***

 時折、降る雪が雨戸を叩く中、アルマは果実酒を、東堂はアルマが用意してくれた熱燗を手に今日1日の功を労うように言葉を交わしていた。
 そんな折、ふとアルマの視線が落ちる。
「……先生。僕も、プレゼント……ねだって良いですか?」
 さっき塾の子供たちの枕元に贈り物の箱を置いた。
 これはクリスマスの夜に、サンタクロースという老人が子供たちに贈り物をすると言う話を聞いたため。
 普段は親を恋しがらない子供たち。けれどこの子たちにも親を恋しがる気持ちはある筈。
 だから少しでもその気持ちが和らぐように。そんな願いを込めて贈り物を置いた。
 その時に思ったのだ。
 自分も、東堂から何かを貰いたい、と。
 何故そう思ったのか。何故今なのか。それは自分でもよくわからない。
 それでもどうしてだか、彼から贈り物が欲しいと思ったのだ。
「構いませんが……大したものは持っていませんよ?」
「あ、物じゃなくて、質問みたいなの2つ、聞いてほしくて」
「質問ですか?」
 意外な言葉に東堂が目を瞬く。
 それを受けて頷くと、アルマは果実酒の器に視線を落としてポツリ、呟く。
「えっと、その……恭一郎さんと、仲、悪いんですか?」
「恭一郎君と、ですか?」
 予想外の言葉に東堂の目が微かに見開かれる。
「あ、はは……。気になってて……?」
 やはり聞かれたくない事だっただろうか。
 思わず目を知らしたアルマの耳に、東堂の苦笑を滲ませた声が届く。
「アルマ君も知っての通り、私は陽の祭で恭一郎君を利用していますから、きっとそれで仲が悪く見えるのでしょうね」
 陽の祭り。その裏で東堂は恭一郎にアヤカシ退治を頼んだ。それは彼のある計画の為、どうしても必要な事だった。
「祭りを催したのは浪志組が親しみやすいと印象付ける為……そして、数多の信頼を得る為……その一歩としてあの祭りはありました」
 光の裏には闇がある。その闇に惹かれて訪れるアヤカシ。けれどそのアヤカシは――
「せ、先生! 次の質問、良いですか?」
 脳裏を過った不穏な気配。
 それを振り払うように思わず声を発するアルマに、東堂は穏やかに頷いて見せる。
(なんだろう……さっきから、何か……)
 何かが引っ掛かる。
 でもそんな事よりも、東堂に確認したい、一番大事な事がある。
 アルマは果実酒を机の上に置くと、真剣な表情で東堂を見た。その表情に東堂も手にしていたお猪口を机の上に置く。
 そして、
「先生って呼んでて今更変かもしれないけど……。……先生の門下として、『師』と仰いでいいですか?」
 はじめは周りの皆が、東堂を先生と呼んでいたからそう呼んだのかもしれない。でも今は違う。
「僕は、先生を尊敬しています。先生の志や……先生の優しいところ……僕は未熟で、駄目なところもいっぱいあって……」
 でも。
 そう言葉を切ると、真剣な眼差しが東堂を射抜く。
「僕は、先生のような人になりたいです。そしていつか……いつか先生と――」
「構いませんよ」
 いつの間にか身を乗り出していたアルマの頭に東堂の手が優しく触れる。
「アルマ君のしたいようにしてください。私はそれを見守るだけです」
「……先生?」
 ふと顔を上げた先に見えた寂しげな瞳にアルマの耳が垂れる。そして何かを言おうとした瞬間、言い表せぬ眠気が襲ってきた。
「あ、れ……? なん、だろ、う……」
 ぐらりと揺れる体に温かな感触が触れる。
 それが東堂の腕だと気付くと、アルマは霞みかける眼で東堂の事を見上げた。
「先生……僕……」
「……眠りなさい……いつか、あなたと言う幹が大樹となり、浪志組という箱があなたの船となったら、その時はまた会いましょう……」
 薄れゆく意識の中で東堂の言葉だけが耳に残る。その事に抗うように手を伸ばすと、何かが触れた。
「……どうか笑顔で……」
 手に触れた何かを握り締めた瞬間、意識が途切れた。

――そして目が覚めた時。
 アルマは枯れた桜の枝を手にしていた。その肩には誰が掛けたのか、大きめの外套が1つ。
「……今のは……」
 夢? そう問い掛けるが答える者は居ない。
 アルマは手にしていた枝に目を落とすと、僅かに目尻に浮かんだ涙を拭うようにして立ち上がった。
「もうすぐ朝餉の時間かな! 急いでお手伝いに行かないと……!」
 そう言って笑顔を零す。
 天儀を去った東堂。その彼との約束は『笑顔でいること』だ。
 アルマは桜の枝を着物の帯に挿すと、元気よく部屋を出た。
「朝だー!」
 叫び、屯所の中を駆ける彼に、何処からともなく怒声が響いてくる。それに笑い声を零すと、屯所に新たな朝が舞い降りた。
 元気な銀狐の声と共に……。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib3629 / アルマ・ムリフェイン / 男 / 16 / 吟遊詩人 】

登場NPC
【 iz0236 / 東堂・俊一 / 男 / 27 / 志士 】
【iz0229 /天元 恭一郎/ 男 / 28 / 志士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは『winF☆思い出と共にノベル』のご発注、有難うございました。
如何でしたでしょうか。
何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
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舵天照 -DTS-
2013年12月25日

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