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『メリークリスマス・鍋! 〜ゴチになります 』
百々 清世ja3082


●クリスマスのお誘い

 身を切るように冷たい風が吹き抜けていく。
「うっさむ……しぬ」
 百々 清世は思わず身をすくめた。
 必要に迫られて買い物に出たが、余りに寒い。
 だが街は赤に緑に金銀の彩りに埋め尽くされ、どこか暖かく華やかな雰囲気に包まれていた。
 それを見て歩く人々の顔も、どこか優しげに見えるのだ。
「ま、クリスマスだしねー。こーゆーの見るのもいっか……ん?」
 取り出した携帯に表示された名前に、清世はすぐに通話ボタンを押す。
「あ、こっしー?」
『あ、もしもし、突然電話してすまない。今、暇か?』
 矢野 古代が妙に真面目くさった様子で切り出した。
「ひまひまー、どしたん?」
 ほっとして頬を緩める古代の気配が電話の向こうから伝わる。
『そうか、暇か。それなら、良かったらうちで鍋パをしないかと思ってな』
「鍋パ! もち行くに決まってんじゃん。ゴチでーす!」
 清世が嬉しそうに即答すると、古代が何故か申し訳なさそうに付け加える。
『……突然で悪いな。その、予定とかなかったのか? あ、クリスマスだしな、ケーキとビールも頼む。悪いが立て替えておいてくれ、後で必ず払うから』
「まかせとけ! で、ケーキ何人分? ジュースとかコーラとかいらねぇの?」
 話はすぐにまとまった。清世は軽い足取りで買い出しへと向かう。


●いざ買い出しへ

 にぎわう街の中でもひときわ多くの人が出入りする店へ、清世は迷うことなく入って行く。
 店内では子供から大人まで、皆がニコニコ笑っていた。
 一方で店員は笑顔が張り付いたような状態で忙しく働いている。クリスマスの当日目がけて持てる力全てを注ぐ店、ケーキ店だ。
 ホールのケーキはほとんど売り切れていたが、サンタクロースやトナカイの飾りが乗ったカットケーキはまだショーケースに並んで連れ出してくれる人を待っていた。
「お決まりですか?」
 応対する店員の女の子に、清世はとびきりの笑顔を向ける。
「んー、どれも美味しそうで迷ってるとこ。お土産なんよね、おすすめとかある?」
 その親しげな口調につられ、相手が作り笑いではない素の笑顔を浮かべた。
「そうですね……」
 好みなどを確認しながら、そして色んな味が楽しめるよう小さめサイズのものを選んで幾つか詰めて貰うと、箱の中はクリスマスらしく賑やかになる。
「おいしそー。どうもありがとねー!」 
 サービスのキャンドルもつけてもらい、清世は可愛い箱を下げて店を出る。
「あとはっと。俺用のチューハイと、こっしーのビールか。しかし娘ちゃんいねーのかーちょい残念」
 自由気ままに日々を生きる清世が『俺の財布・新入り』と呼ぶ古代には、同居している可愛い義理の娘がいる。家で彼女と会うのも楽しみだったが、居ないのならば仕方がない。
「ま、その分、娘ちゃんに見せらんねーこととかもありかー」
 清世は悪戯っぽい笑みを浮かべた。


●鍋が待ってる

 連射の隠しコマンドで何かすごい効果が起きそうな勢いで、チャイムが鳴った。
「お? 来たか」
 古代はすぐに玄関に向かう。
「パパー、あーけーてー」
 外から聞こえる清世の声に、ドアを開けつつ苦笑する。
「さすがに百々さんが息子というのはちょっとおかしくないか?」
「えー、だってこっしー、なんかパパ感あるしー。お邪魔しまーす」
 重い飲料と崩れやすいケーキを清世が器用に持ち込む。
「パパ感……?」
 首をかしげつつも、古代は清世が脱ぎ捨てた靴を几帳面に揃える。そしてすたすたと部屋に入る清世の後を追っていく。
「重いのにすまなかった。あ、上着預かろう」
「えー? その辺に置いときゃいいよ」
 背後に回り清世がコートを脱ぐのを手伝う古代。
 そのコートを丁寧にハンガーに掛け、マフラーもきちんと伸ばしてセットする古代。
 どこか浮き浮きとした風情で、そのハンガーを壁の衣文掛けにつるす古代。
「あ、準備できてるぞ。寒いだろう、炬燵にあたるといい」
 そのいじらしいまでの甲斐甲斐しさに、清世は複雑な表情を浮かべた。
「えーと、なんだろこれ、新婚ごっこ……?」
「どうしてそうなるんだ」
 古代は清世よりもっと複雑な表情を浮かべる。

 暖かい炬燵に差し向かいで座ると、古代が用意していた鍋の蓋を取った。
 白い湯気がふわりと広がり、出汁の香ばしい香りが鼻をくすぐる。
「すぐに煮えるから、先にその辺の食べててくれ」
 古代が真剣な顔で言った。鍋、それは一見簡単そうに見えて、奥深い料理。
 程良く煮立った割下に鶏肉をそろりと入れ、浮かぶ灰汁を穴開きお玉でそっと掬う。
 その慣れた手つきをチューハイ片手に、清世が面白そうに見ていた。
「やー、やっぱなんかこっしー、良い奥さんになれそーだわ。この前菜もおいしーし、ほんと料理上手いねー」
「ん、ありがとな。でも俺婿じゃないか?」
「俺が嫁の訳ないじゃん」
「あれ、そういう……あれ???」
 何か腑に落ちない物を感じつつ、古代は煮えた具を取り分ける。
「まあいいか。ちょうどいい具合だと思うぞ、冷めないうちにどうぞ」
「いっただきまーす」
 清世は早速箸をつける。


●甘い、甘くない?

 暖かい鍋でお腹が満たされ、程良く回るアルコールに気分も緩む。
 つけっぱなしのテレビはずっとクリスマスソングを流し続けていた。
「クリスマスか……」
 古代が噛みしめるように呟いた。
「そいえば娘ちゃん、どうしたのー?」
「ああ、約束があるらしいんだ。パパ大好きーなんて言ってても、結局そんなもんだよな。どうも最近付き合いが悪くなって……」
 どんよりとした目で古代がグラスを見つめる。
「えーでもそんなもんでしょ。あ、でもデートって相手男? 大丈夫ー?」
 酔いが回った清世は内容をよく聞いていたのか聞いていないのか、ついうっかり口を滑らせた。
 その瞬間、異音。
 古代が手にしていた菜箸を握りつぶしたのだった。
「はは……俺は、娘を信じてるからな……!」
 砕けた菜箸も震えながら笑っていた。清世は若干酔いが醒めたような気分になり、話題を変える。
「えーと、ちょっと煙草。ベランダ行くわ」
「ああ、気にするな。俺も吸うから」
 古代は灰皿をすすめ、腰を上げた。
「と、飲み物が足りないな」
 折れた菜箸を握ったまま古代がキッチンに姿を消す。

(あーびっくりした)
 世の中には冗談にしていいことと悪いことがある。だが清世はそういうことはすぐ綺麗に忘れる。
(でもこっしーだって男の子じゃん?)
 ついでに片づけものをしているのか、キッチンから水音がするのを確認し、清世はそっと炬燵を抜け出す。
(真面目そうな顔してっけど、やっぱそーゆーのって普通あるじゃん?)
 テレビ台の下、戸棚の裏側、四つん這いの姿勢でもぞもぞ覗き込む。

「そろそろケーキ貰おうか。コーヒー淹れてきたぞ。……って何してるんだ」
 戻ってきた古代は危うく手にしたトレイを取り落としそうになった。
「こっしー、こーゆー娘タイプなんだー」
 テレビならここで『あはぁん♪』という効果音が入るところだろうか。
 清世が笑いをこらえながら、グラビア雑誌を広げて見せる。
「ちょっと待て……どこから……いや、それはたまたま、他の記事に興味があって……!!」
「えー、だって袋とじのとこ切ってあるじゃん? あ、娘ちゃんには内緒にしておいてあげるし。俺ってばマジやさしーわー」
 古代は口をパクパクさせるが言葉が出てこない。
「あ、ケーキー! 俺チョコのね!」
 開いた雑誌を持ったまま、清世が親鳥に餌をねだる雛のようにパタパタ手を振る。
「とりあえずそれは、目に入らないところに片づけておいて欲しい……」
「わかった。はい、大事な物だもんな」
「いやだからそうじゃなくて」
 手渡された雑誌を炬燵布団の下に押し込みつつ、古代もケーキを選ぶ。
 フォークを手にした清世は、そのケーキをじっと見つめた。
「ん? どうした?」
 視線に古代が気付き、顔を上げた。
「うーん、そのモンブランも美味しそうだな……って思って」
「ああ、良かったらそっちから掬っても……」
 言いかけた時には清世が嬉しそうに口を開けていた。
「あーん♪」
「……はい、あーん」
 俺はクリスマスの夜に一体何をしているのだろう。
 突如、根本的な疑問が古代の胸に湧き上がる。
 だがそんな事を気にしても始まらない。何を見ても何をしても、ニコニコ嬉しそうに笑う清世の顔を見ているとそう思えた。
「んじゃお返しするー。はい、あーん」
「あーん……」
 娘に見られたら何と言われるだろう。それだけは少し気になる古代だった。


●お布団敷いて

 あれこれと話し込んでいるうちにずいぶん遅い時間になっていた。
「あーもうこんな時間か。そろそろ娘ちゃん迎えに行かなくていいの? その時一緒に出るわ」
「ああ、いや大丈夫だ。向こうに娘も泊まるらしいし」
「あれー泊まりなんだー。だいじょ……」
 言いかけて清世は言葉を飲みこむ。これ以上は流石にヤバい。
 古代のこめかみが僅かにひくひくしている。
(なんというか、ここで百々さんが帰って一人になったら……)
 あれこれ考え込んでしまい余計にまずい気がする。
 というわけで、古代は敢えて明るい声と笑顔を清世に向ける。
「まあそんな訳だから、予定がないなら泊まってくと良い。今から帰るのも面倒だろう」
「わーい、じゃあ泊まるー! ベッド貸してー」
「あ、すまん、俺は布団派でな……」

 風呂をすすめている間に、古代は続きの部屋に布団を広げた。
 態々別の部屋に寝かせるのも申し訳ないような気もしたので同じ部屋に寝ることにしたのだが。いざ敷いてみると、二つ並んだ布団にはなんとも妙な迫力があった。
(……何だろうな、この雰囲気)
 古代は困惑した。
 いや、自分には何も思う所はない。それは間違いない!
 しかし結局古代は、並べた布団を少し引き摺って隙間を開けてみる。
「パパー、風呂お先ー! おー布団じゃん」
 古代の気も知らず、清世が布団の上にダイブし転がった。
「こっしーも寝る?」
「ああ、先に寝てていいぞ。風呂行って来る」
 古代が電気を消すと、清世はその手元をじっと見ていた。
「こっしー」
「何だ?」
 布団の中から手招きする清世の傍に、古代がしゃがみ込む。
「めりくりー。おやすみ」
 不意打ちのようなおやすみのキスだった。
「……メリークリスマス。おやすみ。また明日」
 古代は戸惑いながらも、少しだけ娘のことを思い出していた。
 どうにも逆らえない相手が、また一人増えたようだ。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / ゴチになります 】
【jb1679 / 矢野 古代 / 男 / 34 / お財布(新入り)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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メリークリスマス! ということで当日になりました。
男二人のクリスマスですが、これはこれで楽しそうです。
新しいお財布さんは懐が広そうな方とお見受けしました。これからも色々と面白いことがありそうですね。
尚、二つ目の段落『●いざ買い出しへ』の部分は、一緒にご依頼頂いたものと対になっております。併せてお楽しみいただければ幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
winF☆思い出と共にノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年12月25日

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