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『サンタクロース達の愉しみ 〜機械仕掛のトナカイは走る 』
仁科 皓一郎ja8777



 身を切るように冷たい風が吹き抜けていく。
 仁科 皓一郎はその風に乗るようにバイクを走らせた。
 クリスマスが近づく街は赤に緑に金銀の彩りに埋め尽くされ、どこか暖かく華やかな雰囲気に包まれていた。
 それを見て歩く人々の顔も、どこか優しげに見えるのだ。誰かの為に何か素敵な贈り物を探しているのかも知れない。
 フルフェイスのヘルメットの中で、皓一郎の口元も僅かに緩む。
(まあ俺も、ちっと似たようなモンかもしれねェがな)

 ついさっき、カレンダーを見てふと気付いたのだ。
「あー……?」
 もう少なくなった残り日数の中に、悪友の顔が過る。
「アイツの誕生日、だっけ」
 最高の悪戯を思いついたという顔で晧一郎はニヤリと笑う。
 ついでにもう一つ、思いつく仕掛け。
 別の顔を思い浮かべ、時計を見る。ちょうどいい時間だった。

 バイクを停めたのは学園の高等部の前。
 煙草に火をつけ、暫く中から出て来る顔を暫く眺めていると、明るい茶色の髪が目に入る。
 どこか上の空のその表情は、晧一郎には絶好の獲物に見えた。




「よう。シケたツラしてんな、おまえさんらしくもねェ」
 不意に呼びかけられ、友真がびっくりしたように眼を見開く。
 声の主は、咥え煙草でバイクに凭れかかる晧一郎だった。 
「あれ、こーさん?」
 友真の顔がぱっと明るくなり、いつも通りの友真になって駆け寄って来る。
「やっほー、こんなとこで珍しいやん? 寒いのに誰待ってるん?」
「あー、待たされたンだが、今やっと来たみてェだ」
 そう言って晧一郎がニヤリと笑った。
「え? もしかして待ってたのって……俺?」
「おう。面白ェ話、乗らねェか」
「乗る乗る!」
 即答の友真に、尋ねた晧一郎の方が逆に面食らってしまう。
「まァいいわ。とりあえず乗れよ」
 苦笑いでバイクを指した。
「はーい♪」
 渡されたヘルメットを被りしっかり固定すると、友真はバイクの後部に跨る。
「落ちンなよ?」
 小気味良い起動音と共に、二人乗りのバイクは矢のように走り出す。

 年末の人出にごった返す車列をよそに、バイクは街中をすり抜け、海沿いの幹線道路に出る。
 冬の海風は冷たいが、小春日和の陽光に波は煌めいて眩しい程だ。
 友真はその光に目を細めつつ、やっと肝心なことを思い出した。
「せや、こーさん……面白い話て俺をデートに誘う事やったんです? ……ってそんな訳ないの判ってます冗談です」
 一人でボケ、一人で修正する友真。
「ってゆーかちょっと俺、こーさんの顔みて思い出したことあって!」
「ん? なンだ?」
 背中を伝ってダイレクトに響く声。
「もうじき、誕生日やなって思って!」
 どうやら友真も同じことを考えていたらしい。晧一郎はこの年下の友人を面白い奴だと再認識した。
「あァ、おまえさん誘ったのそれだ。アイツの驚く顔、見たくねェ?」
「見たい見たい! 一緒にすっごいプレゼントえらぼー! よっし、そんじゃショッピングセンターまでひとっ走りお願いしまーす!」
「わかったわかった。わかったから手ェ離すんじゃねェぞ」
「……何でわかったんですか」
 いぇーい! の形に挙げていた片手をそっとおろし、神妙な顔で友真が掴まり直した。
 二人のサンタクロースを乗せ、バイクはトナカイが空を翔けるように快調に速度を上げていく。




「うわー……すごい人やなあ!」
 友真の口が半開きになる。
「まァこの時期だしな。しゃあねェわ」
 晧一郎は苦笑いで友真を先へ促す。
 駐輪場がいっぱいだった時点で予想はついたが、ショッピングモールのエスカレーターから見下ろすと、通路にも広場にもいっぱいに人の頭がうぞうぞとうごめいているように見えた。
 吹き抜けの真ん中には電飾のコードを一杯に巻きつけた大きなモミの木。
 その周りにはクリスマスマーケットの屋台も並ぶ。
「うわ、なんやろ、めっちゃいい匂い!」
 あちらこちらを物珍しげに見渡していた友真が、鼻をひくつかせた。
 屋台には食べ物のコーナーもあり、様々な香りが通る人を誘う。
「やっぱりクリスマスは鶏やんなー……めっちゃ美味しそう……」
 持ち帰り用の丸焼きから、その場で齧るナゲットまで、出来たて揚げ立てで実に魅惑的だ。だがそこに漂う、全く別の甘い香り。
「うそん……なんでクレープの匂いって、こんな暴力的なん……?」
 吸い寄せられるかのように、ふらふらと友真が歩きだした。
 甘いモノの誘惑に対する抵抗判定値は相当低いらしい。晧一郎の存在を一瞬忘れたかのように、極めて自然な動作で注文している。
 暫く友真の好きなように歩かせ、黙ってその様子を観察していた晧一郎だったが、ここでついに噴き出しそうになる。
「ほんとおまえさん、面白れェわ」
 友真が慌てて振り向いた。
「えっ……クレープって見たらなんか食べたくなりませんか。冬場は甘いもんがいつもより美味しいですし!」
「冬に限らず、おまえさんの、主食だろ? あァ、俺はイイわ、こいつの分だけ」
「えっ」
 さり気ない動作で支払いを済ませる晧一郎に、友真は目を白黒させる。
「ほら、できたみたいだぜ。受け取れよ」
「えーと……めっちゃ嬉しいですお兄さん、有難うございます。ポチと呼んでください」
 まさか奢ってもらえるとは思ってもみなかった友真が、ここは素直に厚意に甘えることにする。
「なンだそりゃ」
 晧一郎がそっけない口調に似合わず、穏やかな様子で目を細めた。

 ベンチに腰掛け、友真は少し遠慮がちにクレープに齧りつく。
 だが優しい甘さと幸福な香りに思わず陶然となる。
「……美味いか?」
「めっちゃ美味しいです……! あ、こーさんも食べる? よかったら俺のんあげるけど」
「あー……くれンならありがたく」
 甘い物が嫌いなわけではないので、一口だけ。
「で、本題。どうすっかねェ……」
 このショッピングモールなら大概の品は揃うだろう。その分漫然と回っていては目移りして、一日中かかっても決まりそうもなかった。
「どうしよかねぇ……香水とか?」
「あー、アイツ好きそうなカンジだな。その辺はおまえさんに任すわ。俺だと酒になっちまうしよ」
 そして酒は別方面からクレームが入りかねない。晧一郎は別の顔を思い浮かべ、またふっと笑う。
 友真はクレープを端っこまできちんと食べながら、まだ思案していた。
「うーん、でも今恋人さんと一緒に住んでるしな。一緒にどうぞーて、紅茶とクッキーのセットなんかもええかなって」
 彼の祖国で愛されるのは芳醇な香りが漂う穏やかな時間。
 きっと暖かい紅茶を前に、彼はひとしきりいつもの祖国愛を語るだろう。
「……アイツに似合いそうだな」
 晧一郎が頷いた。




 この時期は紅茶店も大いにごった返す。人ごみに混じってプレゼントを探すだけでも一苦労だ。
「うわー、どうしよ。こっちも良さそうやしなあ……こーさんどう思う?」
 女性客の多い店内では、頭一つ飛び出た晧一郎を探すのは割と楽だったが。
「アイツ、拘り持ってるしねェ。特に、こういうモンには煩そうだ」
 苦笑いを浮かべていた晧一郎だったが、悩んでいても仕方ないので助っ人を頼むことに決めた。どうにか手の空いた店員を捕まえてアドバイスを求める。
 候補の中からあれでもないこれでもないと悩んだ挙句、この時期らしい甘い香りのクリスマスティーと、最高級のダージリンに決めた。それにその店オリジナルのショートブレッドをいくつか、木箱に詰めて貰って本体はようやく完成。
 深紅の包装紙に、リボンは金色。これはもう、この時期でなくても決まりだろう。
「これ、つけとくか」
 晧一郎が何処で見つけてきたのか、造花のバラを手にしている。
 勿論、色は赤。凛と高い花姿はまるで生花のような出来栄えだった。
「あーすっごい喜びそうやな! すいませーん、これもお願いしますぅー!」

 こうしてどうにか目的を果たした頃には、随分遅い時間になっていた。
 友真は死にそうな顔で店を後にする。が、そこで足を止めた。
「あー、なんかどっと疲れた……って、ええ……っ!?」
 目に飛び込んできた光景にしばし呆然とする。
 昼間ぱっとしなかったクリスマスツリーは、暗い空の下で無数の灯りを纏い、魔法にかけられたように輝いていた。
「……あァ、クリスマスだからな。点灯すると、なかなかのモンだねェ」
「すっご……なんか嘘みたい……」
 吸い寄せられたようにツリーを見つめる友真があんまり真剣だったので、晧一郎は暫く声をかけずにいた。

 再びヘルメットを被り、バイクの後ろに跨る友真に晧一郎が言った。
「折角だ、ちょっと寄り道すっかね」
「ええけどどこ行くん?」
 返事の代わりにバイクは走り出す。
 日が落ちて暗い海を横目に暫く走り続けると、展望台が見える。
「うわあ、すごい、何アレ……!」
 海を望む展望台は、穏やかな白と清らかな青の光に満たされていた。
 道路脇にバイクを停め、暫し眺める。
「派手なイルミネーションだねェ。でもま、この時期には、こういうのもいいンじゃね?」
 暗がりに、煙草の先に灯る赤い火がぽうっと浮かび上がった。


「この辺りでいいや、サンキュ」
 家の近くでバイクを止めて貰い、友真はヘルメットを返した。
「今日は色々と楽しかったわ、ほんまサンキュな!」
 晧一郎はその無防備な笑顔がいかにも友真らしいと思う。
 退屈凌ぎの気まぐれでやって来た学園には、最初に思っていたより色々な物が待っていた。
 誰かの誕生日を気にしたり、他の誰かを誘ってプレゼントを探しに人ごみに出かけたり。意外と世の中には、退屈を紛らせる物が沢山あったのだ。
「こっちも一日、楽しかったわ。最近寒いしよ、風邪、気ィ付けろ?」
 晧一郎が友真の柔らかな髪をくしゃりと撫ぜた。
「うん、ありがと。こーさんも帰り気をつけてな!」
 友真は晧一郎の大きな手の感触に、そして瞳に浮かぶ優しい光に嬉しくなる。
 そっけなく見えるけれど、男友達らしい率直さがとても心地いい。そして偶に見せる悪戯っ子の様な表情は、何か宝物を見つけたようで楽しくなる。
「んじゃ当日ー。楽しみにしてるな!」
 次のワクワクはもう少し後で。
 赤いブレーキランプが見えなくなるまで、友真は手を振るのだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6901 / 小野友真 / 男 / 18】
【ja8777 / 仁科 皓一郎 / 男 / 26】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、素敵な企みのノベルをお届けします。
ご依頼のコメントに嬉しさの余り心臓が止まるかと思いましたが、今回で期待を裏切っていないことのみ念じております。私の方こそ、毎回楽しく書かせていただいて有難うございます。
尚、最初の部分が一緒にご依頼いただいた分と対になっております。併せてお楽しみいただければ幸いです!
この度のご依頼、誠に有難うございました。
winF☆思い出と共にノベル -
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エリュシオン
2013年12月26日

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