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『Santa Claus is coming to ... 』
彪姫 千代jb0742


 ふわっと息を吐きだせば、真っ白な形となって消えてゆく。
 街も学園もイルミネーションに彩られ、行き交う人々はみな楽しそうに白い息を吐いている。

 季節は、クリスマス。

 浮足立つようなBGMの中、しかしこの世の終わりを迎えるかのような顔で歩く少年の姿があった。
 彪姫 千代。彼は今、重大な危機に直面していた。
 いつもならアウルの力で御機嫌に揺れている尻尾アクセも、今ばかりはショゲている。
(俺、全然気づかなかったんだぞ……)
 去年のクリスマスは楽しくて、楽しかったから、うっかり忘れていた。
 寝て起きたのが自分の寝床ではなかったからかも、くらいに考えていた。正直に言う、そこまで考えても居なかった。

『……サンタクロース? ああ、来た来たー』
『……うん。思ってたよりいいもの貰っちゃったよね!』
『あははっ 今年も楽しみっ』

 千代の問いへ、友人たちは少し考える風にして陽気に答えた。
 ――なんということだ。
 去年、千代のもとへは、サンタクロースは来なかった!!

「お、千代ー。さすがにこの季節、外でも何も着ないと風邪ひくぞー?」
「!! と、父さ……!」
 天然元気に育った千代は、様々な理由が組み合わされた結果、冬だろうがクリスマスだろうが常に上半身には何も着ない。いわゆる半裸である。
 最近では友人知人も慣れてしまい『着ろ』と言われることもめっきり減っていた。
 ああ、そういえば去年は、そんなことでも楽しく騒いでいたっけ。
 父と呼び慕う筧 鷹政を前にして、千代の不安は遂に決壊、その場で号泣してしまった。
「どした!?」
「父さん、あんなあんな……」
 逞しげな外見に反し、千代は幼い、というか純粋、というかどこかズレている。
 他者と比べても仕方ない。千代は千代だと割り切っているけれど、鷹政も流石に驚く。

「サンタさんが去年俺の所に来てくれなかったんだぞ! 俺悪い子なのか!?」


 さて、詳しく経緯を聞き出すことが、できるだろうか。




 とりあえず、ゆっくり話せる場所……ということで、安く済ませられるファミレスへ。
 ホットコーヒーの湯気の向こう、勢いよく料理の皿を重ねてゆく千代の姿に、安心と不安を重ねてゆく鷹政ではあるが。
「で、去年は友達のところにはサンタが来た、と」
「おー……」
「そういや、去年は俺の家に泊まったんだもんな。サンタさん、千代の場所が解らなかったのか」
「おー!! 父さんも、そう思うか!?」
 ぴくり、尻尾アクセに元気が少しだけ戻る。
「いっぱいの食べ物かかえて、サンタさん迷子にさせちゃったんだぞ……。やっぱり、俺、悪い子なんだぞ……」
「……。ごめん、食べ物が、何だって?」

「おー? サンタさんは、毎年クリスマスに食べ物を配ってくれるんだぞ! 『まずしい子をかわいそうにおもって』ってばあちゃんが言ってたんだぞー!!」

 例。
 マグロ1匹。自然薯50本。みかんダンボール13箱。じゃがいもダンボール24箱。等々

「そんでなそんでな、それをばあちゃんや近所の人たちと分け合うんだぞ! 幸せのおすそわけ、ってやつだな! ウシシシ!!」
 なんか違う。
 鷹政は思ったが、嬉しそうに鼻の頭をこする千代を前に飲み込んだ。
 クリスマスのルールは、家庭ごとに違うものだし。
 例えば自分は―― 思い出して、蓋をする。
 双子の姉がいるから、幼い頃から上京するまでの間、常に騒がしかった。くらいで蓋をする。
 いずれにせよ、どんな形であっても楽しみなイベントだったことには間違いない。
 それは千代も同じなのだろう。
 サンタさんを信じている相手に、事実を突きつけるのも大人の仕事ではないな、と考える。それから。

「……うん? 去年、海に飛び込んだのって、自分でサンタ役をしようってことだったのか?」

「おー!!! クリスマスだからな! げんちちょうたつ出来るものがマグロだったんだぞ!」
 港で出くわし、マグロを獲るのだと言い放った千代へわけのわからぬまま海へ共にダイブしたのはちょうど一年前の事。
 そこから、近場の鷹政の家へ行くことになり、賑やかなクリスマスとなったんだっけ。
「なるほどわからん」
 繋がったような、繋がらないような。
「千代は良い子だよ。そうやって、一緒にクリスマスする子の為に、サンタさんしようと思ったんだろ?」
「…………おー……。でもでも、今年も来てくれなかったら」
(サンタさんは良い子のところにしか来ないから、そしたら俺、悪い子なんだぞ……)
 悪い子だったら、父さんに嫌われてしまう。
 根っこにあるのは、その一心だった。
 それは千代は口にできないし、鷹政が気づくことも無い。
「けど、サンタさんが来るために良い子になるっていうのは違うしな」
「おー……? そうなのか……?」
「一年間、良い子にしたからサンタさんが来るんだろ」
「おー……」
 そうなのかもしれない。
 サンタさんが来てくれるなら、恥ずかしくても服だって着ようと思っていたのに。
(そんなことを考えるから、俺、悪い子なのか……?)
「え!? 今の泣くところ!!?」
「だってな、だってな……。俺、ぜんぜん良い子じゃないんだぞ……」
 ほとほとと涙を落とす千代を前に、流石の鷹政も狼狽える。
 いつになく、臆病な姿。
 いや、それならば少し前にも目にしている。

 雨の降る日、何も言わず自分へしがみついてきた朝。
 鷹政も理由は問わなかったし、本人が積極的に話すことも無かった。

 今まで、祖母と二人で暮らしてきたという。学園へ来て一年余り、生活環境の変化が、少しずつ影響してきているのだろうか。
 撃退士としての生活にそのまま馴染む者も居れば、歪みや不安を内包したまま、あるいはここへ来たことで『形』と出る者もいる。
 思春期ともあれば、然もありなん。
 その辺りを極めて平和に、恐らく平和に過ごしてきた鷹政としては、気の利いた言葉を掛けることはできない。
 かといってベタベタに甘やかしたり、不安を丸ごと無視するようなことも違うと思う。
「んー。じゃあ、そうだな。今年は、友達でもなく、色んな人の為のサンタさんをしてみるか」
「……おー?」
「合格したら、千代はサンタさん卒業かもしれないぜ。サンタさんが来るのを待つ『子供』じゃない、ランクアップってことだな!」
「おおお!?」
「かっくいー、ってことだ」
「やる! やるんだぞ!!!」
 勢いよく立ち上がると、積み重なった皿や鉄板が床へと雪崩のように落ち、凄惨な清算を思い浮かべて鷹政の笑顔は引き攣った。




「父さん…… どうしても、なのか」
「ああ。どうしても、だ。サンタさんの宿命だ」

 当日飛び入りで掴めるアルバイトといえば、サンタコスチュームでのケーキ売り切りが鉄板である。
 寒風に吹かれても、千代なら平気だろうくらいのつもりで探してみたら、ケーキを含めた、オードブルなどのデリバリーに空き枠があると知り、一も二もなく飛び込んだ。
「は、恥ずかしいんだぞ……」
「美味しいケーキを、皆に届ける大事な仕事だぜ」
「お。おー……」
 サンタ服より真っ赤な顔で、涙目でふるふるしている千代は、少々レアかもしれない。などと。
 少々狭いがデリバリー用のバイクの後ろに千代と料理を乗っけて、鷹政は軽快に街中を走る。
 お宅訪問と料理の受け渡しは、千代の担当。
 初々しいサンタの来訪に、お客たちは笑みを返してくれた。
 ありがとう、と、お疲れ様。
 面と向かって、千代にだけ掛けられる言葉。
 ここまで運んでくれたのは鷹政だし、料理を作っているのは見知らぬ人たちだ。
 そんな人たちの分まで気持ちを貰った気がして、言葉を掛けられるたび、少しずつ『嬉しい』が重なっていく。

「あ、雪降ってきた」
「おー!!!!」
「わっ、身ィ乗り出すな、コケるぞ!!」
「ウシシシシシ!!!」

 たっくさん働いて、バイト料にプラス・ケーキを貰った。
 父さんと食べろよ、とお店の人が笑っていった。




 もし、今年の夜にサンタさんが来なくてもさ。
 寮へ送り届けながら、鷹政が話しかける。
 雪がちらほら降っていて、イルミネーションの美しさを際立たせていた。
「千代なら大丈夫って、サンタさんからのメッセージだよ、きっと」
「おー……。悪い子だからじゃ、ないのか?」
「悪い子だったら、こんなに一生懸命、お仕事しないだろー。サンタ服、恥ずかしかったのに頑張ったな」
「おー! 俺、頑張ったぞ!!」
「えらいえらい。サンタさんじゃないけど、俺からご褒美をやろう。……何か、欲しいものあるか?」
 ――高いものと大量なものはパスな、そう添えて。
「おー? 俺の欲しいモノはもうあるからいーんだぞー!」
「……そう、か?」
「あんなあんな、父さん」
「うん」
「メリークリスマス! なんだぞー!!」
「うわ、千代、お前、ケーキの入った箱持ったまま!!!」

 ご褒美でもらったケーキの箱を持ったまま、千代は何より欲しいモノへと抱き付いた。
 全力で甘えても許してくれる人。
 父さんと母さんなら学園に居る。ここにいる。
 仕方がないな、と言いながら、抱き留めてくれる人がここにいる。


 メリークリスマス、どうか楽しい夜を。




【Santa Claus is coming to ... 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb0742 / 彪姫 千代 / 男 / 16歳 / ナイトウォーカー】
【jz0077 / 筧 鷹政 / 男 / 26歳 / 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました。
『サンタが来ない!?』をテーマに、昨年の思い出も絡めて、お届けいたします。
楽しんでいただけましたら幸いです。
winF☆思い出と共にノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年12月27日

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