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『狩人たちは恐れない ―探偵と、刑事と、怪盗と― 』
雨宮 歩ja3810)&有田 アリストテレスja0647)&雨宮 祈羅ja7600)&エリアス・ロプコヴィッツja8792)&志堂 龍実ja9408)&ヴィルヘルミナjb2952

●君子は豹変す
 人というものは、何かしらのきっかけで、変わってしまうことも別に珍しい話ではない。
 変わり具合もほんの少しだけ変わることもあれば、大きく変わることもある。また、よい方へ変わる場合もあれば、逆に悪い方へと変わってしまう場合もある。
 どうやらそれは『怪盗』などと呼ばれる者にも当てはまるらしく、近頃その怪盗について別方向で話題になっていた。
 曰く、手口がどうやら変わってきたようだ、と――。

●怪盗も豹変す?
 怪盗V・V(ヴイツー)と呼ばれる者が居る。獲物となる宝石を華麗に盗み出したかと思うと、何故だか分からないが後に――最短では盗み出した直後ということもあった――その宝石を返してくるという真似をする怪盗だ。そんな不可思議な行動を取る怪盗が、世間の話題にならないはずがない。盗み出すスリルを求めているのだと言う者もあれば、いやいや何やら深い理由があって犯行を繰り返しているのだなどとロマン溢れる発言をする者も居る。とかく、世間というものは様々に言うものである。
 が、近頃はその話題の内容に異変が起こっていた。最初はあれだった、宝石以外の物も盗み出した、ということである。まあ怪盗だ何だと呼ばれていても、括りとしては盗みを行う者だ。別に宝石専門にしか盗みませんと公に宣言している訳でもなかったのだから、宝石以外の物を盗んでもおかしくはない話ではある。なので世間も、『ああ、宝石以外の物も盗むのね』といった程度の反応に過ぎなかった……その時は。
 しかしその内容が、やれ建物の一部を破壊したとか、警備員や警察官のみならず狙われた場所に居た一般人たちを酷く負傷させたとか、同じビル内の離れた階同士にある物がほぼ同時に強奪されただとかになってくると、世間の反応も『怪盗V・Vは手口を変えたのか?』というものに次第に変化していった。
 はてさて、怪盗V・Vにいったい何が起こったというのであろうか?

●奇妙な依頼の手紙
 そんなある日のことだった。同様の内容である手紙が、2カ所に届いたのは。
 1通は探偵・雨宮歩の居る音桐探偵事務所へ、そしてもう1通は同じく探偵・志堂龍実の元へ。もちろん手紙がそれぞれに届いた時には、自分の所以外にも同じ内容の手紙が届いていたとは知るはずもなく。
 さて、そんな手紙を受け取った反応だが――まずは龍実の方から見てみよう。
 この手紙の封を切ったのは助手の雨宮祈羅であった。封を切ると、中からほのかに独特の香りが漂ってくる。
「あっ」
 祈羅は短く言葉を発すると、すぐに封筒の中に入っていた便箋を取り出し、裏表両面に何度も自身の鼻を近付けていた。
「どうしたんです?」
 その祈羅の行動を見て、訝しげに尋ねる龍実。
「あ、うん、龍実ちゃん。何かね、便箋に香水を振りかけたかしてるみたいで」
 と、便箋を龍実へ見せながら祈羅が答える。
「香水……ですか?」
「うん。この香りは、うちが持っているやつだねぇ」
 再度便箋を鼻の下に持っていき、こくこく頷きながら祈羅が言った。そして龍実に促され、便箋の内容を読み上げるのだが――その前に、歩の方も見てみることにしよう。
 歩はといえば、自身が手紙の封を切っていた。同じく、中からはほのかに独特の香りが。
「…………?」
 歩は一瞬目を細めると、封を切ったままの手紙の中をしばしじっと見つめていた……思案顔で。
 ややあってから便箋を取り出し目を通し始めると、ぼそりと歩はつぶやいた。
「……なるほど、ねぇ」
 常日頃の気怠げで皮肉げな歩の笑みが、ほんの一瞬深くなったように見えた。
 両者の手元に届いた手紙の内容は、簡単に言えばこういうことであった。『昨今の怪盗V・Vによる事件について、洗いざらい調査してほしい』と。
 だがしかし、便箋には依頼人の名前が書かれていない。封筒に目を戻しても、差出人も書かれていない。依頼料については、明日到着する手紙に小切手を同封しておく旨が記されているのみ。では調査結果の送り先はといえば、後日連絡するとあるのみ。普通に考えれば怪しい手紙であり、いたずらであろうとも思われる内容と言えよう。
 ところが実際に翌日、小切手同封の手紙が両者ともに届いてしまったのだから驚きだ。こうなると、調べ始めない訳にはいかない。
 かくして両者は、かつて相見えた怪盗V・Vについて、改めて調査を行うことになったのであった……。

●白い探偵の憂鬱
 龍実は対怪盗V・Vの陣頭指揮を取っている刑事の有田アリストテレスと連絡を取り、協力しつつ調査を行っていた。
「…………妙だな…………」
 そんなある日、調査ファイルから顔を上げた龍実が、深く息を吐き出しながらぽつりとつぶやいた。
「んっ、何が?」
 別のファイルを読み込んでいた祈羅が、そんな龍実のつぶやきに反応する。
「アイツですよ……怪盗V・V」
 ファイルを指先でコツコツ突く龍実。
「アイツは……単独で動くイメージがあったのですが……」
 と言う龍実の脳裏にあるのは、先日相見えた時のこと。あの時は、単独で動いていたと思うのだが……?
「でも、どう考えても複数人居ないと無理な事件もあったしねぇ」
 調べた事件の内容を、頭の中であれこれ引っ張り出しながら祈羅は言葉を返す。
「離れた階の物を、同時に奪うなんて1人じゃ無理だよ。あ、分身の術が使えるなら出来るかもだけど」
「分身の術は論外ですね」
 龍実がばっさりと切って捨てた。
「それにあれです、宝石以外の物にも手を出すようになったことですよ。それも、予告以外の品に」
 龍実が言うように、以前は予告した宝石のみを盗み出していた。が、最近は予告した宝石を含め、下手すれば盗れる物は一切合切盗んでいっていた。これもまた、ケースによっては単独だとは考えにくいこともあった。
「でも宝物は、宝石だけではないからねぇ……」
 しみじみとそう言ってから、じーっと龍実を見つめる祈羅。
「……何か?」
 何やら含む所がある視線に耐え切れなくなった龍実が口を開くと、即座に祈羅は答えた。
「龍実ちゃん、女装したら十分奪う価値あると思うよ?」
「……それは誰が得するんだ、誰が!」
 龍実のその怒りはごもっとも、である。
「これはちょっと、別方向でも調べてみないといけませんかね……」
 ふう、と溜息を吐きながら龍実は言った。有田との協力以外にも、並行して調べることは少なくなかった。

●気になることは共有しよう
「――と、そんな感じの微笑ましい出来事もあってねぇ」
 携帯電話の向こうで、祈羅の明るい声が聞こえてくる。
「おかしいな、僕の知らない間に『微笑ましい』の意味って変わったんでしょうかね? きみも灰色の脳細胞を使ったらどうです?」
 などと祈羅に対して、少し険がある様子で返しているのは、歩の助手を自任するエリアス・ロプコヴィッツである。エリアスが居るのは、膨大な書籍に囲まれている自室であった。
 本来であれば、歩のそばで得られた証言や手がかりなどを元に、ああだこうだと自らの推理を披露して歩の助けにならんとする所であるのだが、今は非常に時期が悪かった。以前怪盗V・Vと相見えた時の騒ぎはエリアスの母親の耳にも届いてしまい、以来監視の目が厳しくなっていたのである。なので現在の所は、エリアスは自室から――安楽椅子探偵的に――歩の推理を支援しようとしていたのだ。
 そんな事情も事情だから、ついつい祈羅への返答も険があるものになってしまう。つまりは現場に出られなくて拗ねてるのだ、エリアスは。
「褒めたんだけどねぇ……あっ、そんなことよりも! ちょっと思ったことがあったから、エリアスちゃんにも話しておこうと思って。龍実ちゃんにはもう話したんだけどね」
 祈羅が言うには、調査によって手口の違いや単独か複数人かの違いなどが浮上してきたけれども、同じことが分かっているであろう警察がどう考えているのかが見えてこない、ということだった。
「同一だと考えているのか、それとも別口だと思っているのか……」
「モンデュー! それは興味深い」
 祈羅の言葉に大きく頷くエリアス。警察がどう考えているのか見えてこないということは、警察は以前から大きく内容を変えることなく同様に動いているのだろうと推測出来る。それはすなわち、『捜査内容を大きく変えるような発見が、警察内では未だない』ということではないだろうか?
「やっぱり手がかりが足らないのかなぁ……。ね、エリアスちゃん、現場回って手がかり探してみない?」
「猟犬じゃあるまいし!」
 現在、現場を回ることなど出来やしないエリアスが、即座に祈羅へ切り返した。
「……ああ、その代わりといってはなんですが、宝石に関する逸話をいくつかお教えしましょうか?」
 そしてふと何かを思い付いたか、エリアスは分厚い書籍を1冊持ってきて、祈羅へと話し始める。
「まずはあの『ホープダイヤ』について――」
 ……何の話をする気だ、何の話を。

●言葉の裏に隠れていること
「……と、そんな感じですよ?」
 事務所に居た歩の耳に、携帯電話越しのエリアスの報告が聞こえていた。先の祈羅とのやり取りを含め、自らの現時点での推論とともに伝えていたのだ。
「警察の考えですかぁ……なるほどぉ……しかしですねぇ……」
 歩はそこまで言ってから、一旦携帯電話を耳から離し、ゆっくりと首を回してから、改めて携帯電話を耳に当てて、次の言葉を静かに言い放った。
「そういったことは些細なことですよぉ」
「……え?」
 思っていたのと違う反応が返ってきたからか、若干怪訝そうな声でエリアスが聞き返してくる。歩が言葉を続ける。
「ああ、1つだけ言っておきますかねぇ……ボクの邪魔はしてくれるなよぉ」
「邪……」
 エリアスが何か言おうとするのを制するがごとく、歩はさらに言葉を重ねた。
「そう、ボクの邪魔はしてくれるなよぉ。ボクの、ねぇ」
 何故だか『ボクの』と、念を押すかのように言った歩。ややあって、携帯電話越しに弾むようなエリアスの声が聞こえてきた。
「モンデュー! ボン、仰せの通りに」
 ……どうやら歩が何を言わんとしていたか、エリアスも理解した様子である。
 そんな電話を切ってから、歩は机の引き出しを開けて中をちらと見て、すぐにまた閉じた。
「まあ……切れるカードは多いに越したことはないですかねぇ……」
 ぼそっと歩がつぶやいた。さてさて、引き出しの中にはいったい何があったというのだろうか。

●警察の困惑
 歩や龍実たちが調査を行っている間にも、またしても怪盗V・Vによる予告状が届いていた。次なる目的は、とある美術館が所蔵する『女王の首飾り』であるという。
「またしても、同じ予告状……か」
 その情報を受け、やれやれといった様子でそう言い放ったのは有田だった。
「…………今度も偽者か?」
 少し思案してから、有田は言った。その言い方は明らかに、『怪盗V・V』を名乗る存在が1つではないと認識しているものだ。
 それはそうだろう、有田は何度となく怪盗V・Vを追い続けているのだ。最近手口が変わってきていることに対して、違和感を抱いても不思議ではない。本物の怪盗V・Vではない、偽物の怪盗V・Vが居るのではないかという考えに至るのも自然な流れであろう。だがその疑念を阻む物証が、予告状の存在だった。
 ――同じなのだ。予告状の大きさ、材質、デザイン、使用文字……全てにおいて、鑑定上ほぼ同一という見解が出されていた。
 そもそも、事件が起こったからといって警察は全ての情報を世の中に向けて出しはしない。犯人を特定するのに重要な『犯人しか知り得ない情報』は秘匿される。怪盗V・Vの事件も例外ではなく、先に挙げた予告状の大きさや材質といった情報はマスコミにも流れていないのだ。ゆえに、鑑定上ほぼ同一と判断された予告状を出してくる相手は同一である、と考えざるを得なくなってくる訳だ。
 しかし最近の手口には、それまでと比べて違和感がある。つまり、警察としては決定打に欠けるのだ。それが外から見ていて、警察がどう考えているか分からなく思えてしまうのである。龍実と協力をしている有田ではあるが、この辺りのことについては話していなかった。
「まあいい。何者が現れようが、今度こそ捕まえるだけだ! 絶対にな!!」
 大きく開いた左の手のひらに、強く右の拳を叩き付けながら有田は言い放った。

●探偵と刑事と怪盗が一堂に会する日
 予告状で指定された当日がやってきた。
 美術館の内外では、いつものごとく有田が選りすぐりの部下である警官隊たちに矢継ぎ早に指示を与えていた。以前、怪盗V・Vが有田に変装していたことがあったが、以来周囲はより厳重に警戒されるようになっていた。
 そんな有田の元へ、龍実と祈羅がやってきた。
「今日はどうぞよろしく。それで、例の件は……」
「ああ、そのつもりで動かしている」
 龍実と有田の間で、短いやり取りが交わされる。どうやら事前に何かコンセンサスが取れていた様子。
「あのね、みんなから話を聞いているうちに、1つ推理が組み上がったの」
 と、突然そんなことを言い放つ祈羅。誰の返事も待たず、その推理とやらを話し出す。
「怪盗V・Vが宝石を盗み出すのには、とある理由があるんだよ。そう、狙いは宝石じゃない!」
「……宝石じゃないなら、何が狙いなんだ?」
 有田が推理の続きを促すと、祈羅は満面の笑みを浮かべてビシッと言ってのけた。
「ズバリ、呪い! 怪盗V・Vは呪いを祓うのが目的だから、後で宝石を返している訳なの!」
 ……明らかにこの推理、エリアスからの知識が影響していた。
「最近盗まれた宝石は、返ってきてない訳だが……」
「それは、宝石以外の物を盗む理由にはなっていません」
 妙な所に着地した祈羅の推理に対し、冷静に突っ込みを入れる有田と龍実。祈羅は少し思案してから答えた。
「最近のは呪いが強大でまだ祓えてなくて、他の物を盗むのは……解呪費用にしている?』
 それは無理があり過ぎる。
「言ったよな、邪魔だけはするな、邪魔だけはと」
「……すみません、すみません、すみません」
 大きく溜息を吐いて頭を振る有田へ、何度も龍実が頭を下げていた。
「……真面目に考えたんだけどなぁ……?」
 祈羅はそう言って口元をへの字に結んだ。きっとエリアスからの知識がなかったら、もう少しよい方向へ推理は向いていたであろう。
 少し離れた場所では、そんな3人の様子を腕組みしながら歩が眺めていた。いつものごとく、気怠げで皮肉げな笑みを浮かべて。
 そんな歩の様子に気付いた龍実は一瞬真顔になって軽く会釈してから、歩が居るのとは反対の方向へ向かおうとした。どうやら、同じ探偵として対抗心がある模様。
 その時である――警官隊が交戦状態に入ったという報告が入ってきたのは。

●本物は無粋にあらず
 報告を聞くなり、即座に同じ方向へ駆け出していく有田と龍実。どこで交戦状態になっているか聞いてもいないというのに。
 実は――2人とも、交戦状態になっている場所の見当はついていたのである。事前の話し合いによって、美術館周囲の警備において、ある区画だけ空白域をわざと作ることを決めていたのだ。そして警官隊の中で隠密行動に長けた者たちを空白域の屋内に配置しておいた所、相手がまんまと引っかかってくれたという訳だ。
 出遅れた祈羅も2人を追いかけようとしたのだが、ふと歩が気になって見てみると、歩は1人『女王の首飾り』のある部屋への廊下を曲がっている所だった。そして聞こえる駆け出す歩の足音。
 何事かと思い慌てて祈羅も追いかけ廊下を曲がると、『女王の首飾り』のある部屋の前を警備していた警官たちが揃って昏倒していたではないか!
「無粋な物を持ち出してきたものだね。私は粋に、厳しい警戒を正面から突破してきたというのに」
「動かないでくださいよぉ。お前が宝石を獲るのとボクが引き金を引くの、どっちが早いかなぁ?」
 部屋の中からは、誰かと歩の会話が聞こえてきていた。遅れて祈羅も部屋に飛び込むと、そこには『女王の首飾り』に銃口を向けた歩と、怪盗V・Vと思しき者とが睨み合いをする光景があった。明らかに、第三者が口を挟めるような雰囲気ではない。
「……せっかく手柄を立ててもらおうかと思っていたのだけれども」
「ボクが知りたいのはお前の狙いとか諸々。偽物や宝石には興味はなくてねぇ。悪いねぇ、依頼人さん」
「ほう……何故、私が依頼人だと?」
「香りという署名があったからねぇ。以前の、香水の」
 その歩の言葉を聞いて祈羅がハッとした。あの便箋から漂っていた香りは、そういうことだったのだ。
「探偵に正式な依頼をする時は契約書が必須だよぉ」
「では、今度からそうすることにしよう」
 淡々と言葉を交わし続ける歩と怪盗V・V。両者ともに相手の出方を窺いつつの会話である。
「狙いは?」
「……知りたいかね? 私が求めるのは王律鍵を飾る原初の宝石さ。そこにある『女王の首飾り』は持ち帰らせてもらおう。なに、目当ての物でなければお返しするよ」
 怪盗V・Vがそう言った時だった、部屋の外から爆音が聞こえてきたのは。悲鳴を上げてその場にしゃがみ込む祈羅に、歩が一瞬気を取られてしまう。次の瞬間、部屋中が煙幕に包まれてしまった!
「では去らばだ、探偵諸君! はははっ……ふははははっ……はははっ……!!」
 次第に遠ざかっていく怪盗V・Vの笑い声。煙が晴れた時、部屋からは『女王の首飾り』はすでに失われてしまっていた……。

●後日談
 それから数日後――音桐探偵事務所にて。
「それで、結局どうなったの?」
 事務所に遊びに来ていたヴィルヘルミナが、歩に事件の顛末を尋ねた。
「捕まえましたとも……偽物は」
 歩に代わり、何故かこの場に居る龍実が憮然とした表情で答えた。実は龍実、祈羅に行き先を知らされずここに連れてこられてしまったのだ。
 偽物はやはり複数人で動いていて、宝石以外の物を盗んでいたケースは全てこの偽物の仕業だったと判明した。そして一番の謎であった予告状のことなのだが――。
「どうも、警察の中に情報を漏らしたのが居たようですよぉ?」
 そう言って歩はヴィルヘルミナを見た。龍実が補足説明した所によると、偽物の仲間の女性が記者を装って接触し、あれやこれやの手段を用いて予告状に関するデータを得たのだそうだ。
「で、盗まれた『女王の首飾り』も昨日無事返ってきたんだよねぇ」
 祈羅が言うように、『女王の首飾り』は昨日美術館の玄関前に返されていた。すなわちそれは、怪盗V・Vの求める物ではなかったということだ。
 などといった話をしていると、久々にエリアスが事務所へとやってきた。母親の監視が緩んだので、長居は出来ないが顔を出しにきたのだそうだ。そして、事務所のポストに入っていた手紙を歩へと手渡した。
 手紙の封を切ると、中からは例の香水の香りが漂ってきた。これでもう、差出人は分かった。
 便箋に書かれていたのは、短い一文のみであった。
『調査結果、送るに及ばず』――と。

【おしまい】
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
高原恵 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年12月27日

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