▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『天儀、神楽の都。冬の一日 』
ジャミール・ライル(ic0451)

 ぼんやりと、天井を眺めていた。
 窓から差し込む、冬の傾いた日差しが、それでもゆっくりと昇って行くのを感じながら。
 気だるい手足を、寝具に投げ出したまま。
 ぼんやりと、天井を眺めていた。
 ――……暇だ。
 頭の中で不満を言うこと何度目だろうか。どうにも、こうしてだらだらしているだけではこの状況は一向に改善しそうにないと、ジャミール・ライル(ic0451)はようやっと認めることにした。
 珍しく、誰かと会う予定もないし誰かが会いに来る様子もない。
 ……。
 もうしばらく、布団の上でごろごろと過ごしてみるが、暇を持て余すのもそろそろ限界だった。
 仕方がない……何処か出かけるか。
 ようやく決心して、這い出すように布団から起き上がる。
 そういえば先日、仲良くしている女の子から教えてもらった甘味処があったっけ?

 冬。寒いけれど、風は穏やかで、柔らかな日差しが降り注ぐこの日。
 ジャミール・ライル(ic0804)はこうして、神楽の都、その中心へと足を向けたのだった。



 そんな、適当な気持ちで訪れただけの甘味処は、ジャミールの想像をはるかに超えて賑わっていた。
「なにこれ、人気店なの……?」
 思わず呟く。
「お客様一名様ですか? ……ご相席でよろしければすぐにご案内できますが」
「あ。はい。じゃあそれで」
 突っ立っていたら、店員にそう声をかけられた。待たないんだったらいいか、と、ジャミールは快諾する。
 可愛い子と一緒だったらなおいいな……、なんて、やはり、気楽に考えていたのだが。
 ……なにこの役得。
 そこには、期待していた以上の子がいた。つい、真顔になって見つめる。小柄で愛らしい少女。銀の長い髪から、ピンと猫の耳が覗いている。大人しく、控えめな印象。リズレット(ic0804)という名前は、このもうちょっと後で知る。
 その少女がこれまた可愛らしく、ぺこりとお辞儀をしてきた。相席の了承と見做していいのだろう。有難くその正面に座らせてもらう。
 ジャミールが暫く彼女を見つめていたように、彼女の方も暫くジャミールを見つめてきた。……単純に、己の装いが珍しいのだろう。開拓者の多いこの街とはいえ、アル=カマルの服装はやはり目立つ。
 ――……のだが、それだけだろうか? 彼女を見ていると、何か引っかかるものがあるような。
 ジャミールがふと疑問に思った時、少女はそっと、店内を見回すようにして彼から視線を逸らした。様子を見るに、これも深い意味はあるまい。単にじろじろ見るのが失礼だと思ったんだろう。
 だがジャミールとしては、目の前の可愛い女の子を無視するなどと言うもったいないことが出来るわけがない。相手に引かれない程度に、それとなく様子を窺わせてもらう。
 必死で抑えてはいるようだが、注文した甘味への期待が漏れでているのがなんとも愛らしい。店員がそばを通るたびに、自分のが来ただろうかと、その猫耳がピクリと反応しているのだ。そんな彼女を見ていると、ごく自然に穏やかな笑みが浮かぶ。ふと、彼女と視線が合って、どこか苦笑気味に、微笑み返してくれた。うん、この顔も可愛い。
「お待たせいたしました。今月の新作甘味の盛り合わせになります」
 そこで、彼女の前に、菓子が運ばれてくる。盛り合わせ、とあって、さまざまなお菓子が一口大で色々と置かれている。ちょっと風変わりかな? と思っていたら、この店は、開拓者向けに様々な地方の技術を取り入れた品を出すのだと、この時初めて知った。
「いただきます」
 小さく、告げてから、彼女が菓子に手をつけ始めた。もともと上品な印象はあったが、卓上の所作からも、やはり育ちの良さがうかがえる。
 いやまあ、彼女が食べている様子から、一番に伺えるものと言ったらそれよりも。
「……美味しそうに食べるねえ」
 思わず声に出てしまうくらい。彼女が食べる姿は本当に美味しそうだった。
「――……!!?? は、あ。いえ、そのっ。ひ、久しぶりで、あのっ……すみません……」
 いきなり声をかけられたせいだろうか? 予想していた以上にテンパった反応。いや、がっついてたように見えたとかそんなんじゃないから、と苦笑して。
「え? いや謝る必要なんて全然ないけど。いい顔だったよ? 見ててこっちが幸せになるくらい。……あーすいませんおねーさん。俺にもこの子と一緒のくださーい」
 そうして彼も、彼女と同じものを注文することに決めた。本当に、美味しそうに見えたからだ。
 一瞬彼女の瞳に躊躇いがちな色が浮かんだが、すぐに微笑に変わった。うん、きっと彼女もお奨めだと思ったんだろう。
 ふむ。この空気は、話しかけられそう、かな?
「ところで君…どっかであった事無い? なぁんか、見た顔な気がするんだよねー……」
 そう言えば、先ほど引っかかった疑念を思い出して、相手に聞いてみる。
「え?」
 返ってきたのは、戸惑った声。ただ、「何言ってんだこいつ」と言う感じではなく、彼女自身にも、何か引っかかりはあるが思い出せない、と言う感じだった。
 食べる手を止め、口元に手を当てて暫く彼女が考え込む。
 そのしぐさもやっぱり可愛いんだけど、ただ、彼としてはなんとなく気になった程度のことをあまり深刻に考えられるのも気が引ける。
「ま、そんな深刻な顔で思い出さなくてもいいよ。いつか会ったことより、今日こうして会えたことの方が重要だし?」
「そうですか……? そう、かもしれませんね」
 努めて明るい声でそう言うと、また彼女はそう言って笑ってくれた。うん、なんとなくで言った言葉だけど、我ながらちょっといいこと言ったんじゃないだろうか。今日会えたことこそが大事。だからこの出会いを、無駄にしないようにしたい。
 話題を変えようと雑談を持ちかけると、上手く相手も乗ってくれた。元々、初対面の相手と打ち解けるのは得意だ。丁度良く、自分のところにも菓子が運ばれてきたことだし、これにも上手く会話の潤滑剤になってもらおう。
「そーいや、名前なんてゆーの? あ、俺はジャミールね、踊り子さんでーす」
「あ……リズレットと申します」
 ほら、なんだかんだこうやって、名前を聞きだすことにも成功。
 ……自分が手慣れているのもあるが、少々相手も警戒心が薄いかな、と、ジャミールは感じた。とはいえ彼に、目の前の彼女に「悪さ」をする気はあまりない。彼女の持つ雰囲気が、ごく自然に「優しくしたい」と思わせるものだからだ。

「……あ」
 そのさなか。ごく普通に食べ進めていたリズレットが、ふと声を上げて手を止めた。
 声は、自分に向けられたものではない。思わず出てしまった、といった風情だ。それも、おそらく感動系。
 ついこぼれたようなその声に、つい顔を上げて、彼女の方を見て。
「ホント、幸せそうに食べるよねえー……」
 そして、つい彼も、正直に己の想いを零していた。
 今、しみじみと味わう彼女の姿は、本当に、本当に幸せそうで。今日一番、綺麗に見えた。うん、ずっと「可愛い」と思ったけど、この時の彼女は、綺麗に見えた。
「はい。……とても、美味しいです」
 半ばぼんやりしているところに声をかけて、また慌てるかな? と思ったら、意外に返ってきたのは穏やかな声。
「いろんな味があって、とても美味しいですよね……ジャミールさんは、どれが一番おいしいと思いましたか?」
 それは何気なくなんだろう。本当に何気なく聞かれて。偶々、その瞬間、彼が口に入れていたのは丁度、アル=カマルの味がする菓子だった。地方特有の香辛料。……独特の風味は、この国においては人を選ぶと店の人は理解しているのだろう。彼からすると、だいぶ控えめに使われている。
「うーん?」
 かくりと、首をかしげて考えた。どれが一番うまいか、か。
「んー。どれが一番、て決めるものでもないかな。むしろ、色々あるなら、その違いを楽しむ系?」
 そう答えたのは、多分、故郷の味が、彼にとっては物足りないものだったから。ではない。
 どれも美味しい。こうして並べると、違いが分かるだけに、そのぶん楽しい。そう思うのも、紛れもなく、本音。
 ただ、本質を言うならば。彼はつまり、全てを愛することが出来る。……そして逆に、一つのものに深く心を捕らわれる、ということもないのだ。故郷の土ですら、彼の心を縛ることは叶わない。
「な……なるほど……そんな考え方がっ……」
 もっとも、彼自身はそこまで考えての言葉ではない。ただ思ったままの言葉を言っただけで、……それに対し、彼女はやたら感銘を受けたようで。申し訳ないやら面白いやら。
「……ちなみに、リズちゃんが一番気に入ったのってどれなの?」
「あ……えっと……それです……」
 恥ずかしがる彼女をフォローするように聞いてみると、まだ手をつけていなかった一つを指されたので、せっかくなので食べてみる。
 ふかふかの食感と優しい甘さ。うん、彼女みたいな、こっちも優しい気持ちになるような、そんな味。
「うん。いいね。これも美味しい」
 にっこり笑うと、彼女も嬉しそうに微笑み返してくれた。
 ……うん。その顔、もう少し、見ていたいなあ。
「君って甘いモン好きなの? んー……そだ、この後暇なら、このへんの美味しいお店案内しようかー」
 まだ、別の女の子から教えてもらって、言ってない店が何軒かあったはず。何となく思い返しながらジャミールは誘う。
 ……女の子から教えてもらった店を、別の女の子を誘うために使う、ということに対して危機感や悪びれる様子は、ちなみに、まったく、ない。
「え? ええと、そうですね……甘いものは、大好きです」
 リズレットはリズレットで、やはりどこか警戒心の薄い感じでそう答えて。

 かくして本日は、偶然出会った二人の、甘いもの巡りの日となったのだった。



 天儀、神楽の都。冬の一日。
 二人が歩く街を、穏やかな風が通り抜けていく。
 どこから来て、何処へ吹く風なのか。気にすることなく彼もまた世界を渡る、その中で。
 こんなラッキーな出会いがあるなら暇な日も悪くない。

 そんな、冬の一日の話。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ic0451 / ジャミール・ライル / 男 / 24 / ジプシー】
【ic0804 / リズレット / 女 / 14 / 砲術士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お待たせいたしました。
甘味処で偶然出会った二人の話、ということで、そこからどのようにキャラクターと物語を紡いでいくか……
と、無い知恵を絞ったところ、このような形でまとめさせていただきました。
キャラクター描写について、ご不満な点がございましたら、遠慮なくお申し付けください。

この度は、ご発注ありがとうございました。
winF☆思い出と共にノベル -
凪池 シリル クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年12月27日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.