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『White's WORLD 〜ベルナデット東條〜 』
ベルナデット東條(ib5223)

 シンシンと降り積もる雪。
 見渡す限りの雪景色に、ひっそりと輝く星たち。
 足跡の無い白の世界はまるでどこか別の世界へ誘うようだ。

――今日はクリスマス。
 あなたは誰と、どんな風に過ごしますか?

 * * *

 ザク、ザク……ッ。

 降り積もった雪の上を歩く2つの影。その影が作り出す足跡を追うように1羽の兎が駆けて行く。
 その様子を見止めたほとりが思わず声を上げる。その瞳が僅かに輝いているようだが、この辺、気のせいではないだろう。
「ベルナデット、見たかしら?」
 微かに声を弾ませて振り返る義姉に、ベルナデットの首が傾げられる。その様子に「今、兎がいたのよ」と言葉を添えると、ベルナデットの赤の瞳が瞬きながら周囲を見回した。
「! 本当だ。足跡が残ってるね」
 転々と勢い良く付いた足跡に、ベルナデットの頬が緩む。そうして足跡の先を眺めるように目を動かすと、彼女の睫毛が揺れた。
「あれ? もしかしてあそこ、集落があるかな?」
 ベルナデットの視線の先。
 転々と付いたウサギの足跡を追うと、雪煙に霞む集落が見える。それにほとりも目を瞬くと「ふむ」と首を傾げた。
「そう言えば、ここにくる途中で寄った町で『クリスマス』って言う風習を聞いたのよね」
 覚えてる? そう問いかけるほとりにベルナデットが頷く。
「確かジルベリアの風習だったよね。いろんな飾り付けをして、聖なる夜をお祝いするって聞いたけど……」
 想像して首が傾げられる。
「折角だし行ってみない? もしかしたら何かわかるかもしれないし」
 そう言葉を発したほとりにベルナデットが頷く。
 彼女たちは血の繋がらない姉妹だ。とは言っても、その仲は血の繋がりを持つ姉妹と同じ――否、それ以上に良い。
 今もベルナデットの失った記憶を探す為に2人きりで旅をしているのだから、それは間違いないだろう。
「ねえねえ、お義姉ちゃん。この前の依頼で貰った路銀、余ってたよね?」
 確か先の町で、開拓者ギルドを通して受けた依頼の報酬が残っていた筈。そう問い掛けるベルナデットにほとりが「うん」と頷く。
「そのお金で甘い物食べれるかな?」
「あ、良いわね。前の町では少し食べ足りなかったし、美味しい甘味があると良いけれど」
 甘い物をお腹いっぱい食べて、大好きな猫を愛で、そうして次の町へ行って依頼を受ける。
 時折、こうして資金に余裕があれば、別の町でそのお金を使う。
 そんな気ままな旅が2人はとても気に入っている。だから今回の町でも、そんな気ままな旅が待っている……そう、思っていた。

   * * *

 赤と緑と黄色の球体。
 それらが飾られる巨大な樅ノ木の前に、ベルナデットとほとりは立っていた。
「大きいねぇ」
 思わず声を零したベルナデットにほとりも頷く。その目は樅ノ木に釘付けで、彼女はそこに積もる雪に目を細めると、手が触れられる距離にある飾りに手を伸ばした。
「すごく素敵ね……赤と緑と黄色の球が、キラキラしててお星さまみたいだわ」
 そっと触れた飾りはかなり冷たい。けれどその冷たさが、まるで星を掴んでいるようで嬉しい。
「あ、お義姉ちゃん、あそこに大きなお星さまがあるよ」
 スッと伸ばした指先に、巨大な星の飾りがある。樅ノ木の先端を飾る星からは、流星を思わせる布も幾重か伸びていた。
「綺麗だね……」
 ほとりがそう呟いた時だ。

『きゃあああああ!』

 突如2人の耳に悲鳴が届いた。
 それに反射的に顔を上げたのは、ほとりだ。咄嗟に携えていた弓を引き抜き、悲鳴の方へ体を向ける。
 するとその隣では、ベルナデットが微かに遅れて刀に手を伸ばすのが見えた。
「ほとりお義姉ちゃん」
「うん、行こう」
 2人は僅かに頷き合うと、勢いよく雪を蹴って走り出した。そうして辿り着いたのは、村の入り口だ。
「な、に……あれ」
 思わず声を上げたのはベルナデットだ。
 そんな彼女の左横に立ちながら、ほとりが呟く。
「雪だるまのようね」
 そう。2人の目の前に現れたのは、巨大な雪だるま。しかもその雪だるまは如何いう訳か1人で動いている。
 その証拠に――
「ゆっきだるまーーーん!」
「……何か変な声で鳴いてる」
 ポツリ、零されたベルナデットの声。けれどその視線は呆れるどころか、少しだけ険しく辺りを見回している。
 それを確認してベルナデットの目も注意深く辺りを見回す。そうして感じ取った気配に声を上げる。
「ほとりお義姉ちゃん……あの雪だるまの後ろにも、何か反応があるよ。もしかしたら」
「うん。あの雪だるまは複数いるみたいね。ベルナデット、いけそうかしら?」
 流石は歴戦を勝ち抜いてきた開拓者だ。これくらいの状況では混乱すらしない。
 ベルナデットは掴んだ刀の柄に力を込めると、唇を引き結んで頷く。その表情が微かに怒りを思わせるのは気のせいではない。
「お義姉ちゃんとの楽しい時間を邪魔した事、後悔させてあげる」
 折角の姉妹水入らず。その時間を邪魔した事は万死に値する。
 ベルナデットはそう口中で零し、トンッと大地を蹴った。それに合わせて雪が舞い上がり、ほとりの腕が掲げられる。
「ベルナデット、全力で壊しちゃって!」
 言うと同時に放たれた先制の矢が雪だるまの頭部を貫く。その瞬間、氷の礫のような雪が拡散し、ベルナデットの頬を掠めた。
「っ!」
 ツウッと頬を伝う鮮血に目を細め、一気に雪だるまの頭部を薙ぐ。
「これはっ!」
 思わず目を見開いて後方に飛び退く。
 直後、弾けた雪だるまの頭部が、まるで氷の爆弾のように目の前に着地したのだ。それに合わせて、大地にあった雪が一気に凍る。
「凍結効果のある敵みたいね。壊せばその分だけ攻撃にもなるのかしら」
 見た目に反してかなり厄介だが、撃破自体に苦労はしなさそうだ。
「ベルナデット、村の塀を使って攻撃を防ぐと良いわ。攻撃は私に任せなさい」
 何か策があるのだろうか。
 片目を瞑って見せるほとりに目を瞬き、それでもベルナデットは頷きを返す。
「お義姉ちゃんを信じる……お義姉ちゃんは、間違ったこと言わないもの!」
 今まで築いてきた信頼関係があってこその言葉。
 ベルナデットは村の入り口に迫る他の雪だるまの元へ駆けると、擦れ違いざまに一刀を浴びせて行く。
 その度に傷が増えるのは致し方ない。
 それにここを抜け、塀の反対側に回る事が出来れば、後はほとりが何とかしてくれるはずだ。
「もう少し……もう少しで……」
 白い息が頬を掠め、赤の瞳が目指す先を据える。
 そしてあと一歩で目的の塀の裏。そこまで来て彼女の足が止まった。
「嘘っ!?」
 声を上げた彼女の前には、先程までの大きさとは比べ物にならない巨大な雪だるまが立っている。これには快進撃を続けていたベルナデットの足も止まった。
「……どうすれば……っ!」
 混乱に止まりかけた思考を動かす。
 その上で同じように止まった足を動かそうとした所で、雪だるまの口が開かれた。
 そこに見えたのは、真っ赤に輝く核のような物。それを目にした瞬間、ベルナデットは叫んだ。
「ほとりお義姉ちゃん、口を狙ってーーッ!」
 祈りと、願いと、期待。
 それら全てを篭めて叫んだ時だ。

『ゴォオオォォオオオッ!』

 雪と風を纏う、薄緑色の衝撃が訪れる。
 衝撃は障害物である壁を抜け、迷う事無く雪だるまの頭部を貫いた。その瞬間、

『パァァアアンッ!』

 硝子玉が弾けるような音が響き、目の前にいた雪だるまが散った。
 それを受けたベルナデットが呟く。
「……痛く、ない」
 雪だるまを形成していた雪は、先程まで凶器のように鋭かった。けれど今は如何だろう。
 パラパラと舞い散る結晶は、痛いどころか柔らかくてくすぐったい程。しかもその光景があまりに綺麗でベルナデットは呆けたようにその光景を見詰めた。
「雪みたいね」
 不意に響いた声に振り返ると、ほとりも感心したようにこの光景を見詰めている。そして彼女は、舞い降りる結晶から義妹へ目を向けると、彼女の頬を流れる血に手を伸ばした。
「怪我、しちゃったわね」
 痛くない? そう問い掛ける義姉に銀の髪が柔らかく揺れる。
「うん。お義姉ちゃんが倒してくれたから……ありがとう」
 そう言って笑った彼女に、ほとりは思わず頬を緩めて「こちらこそ」と言葉を返した。

   * * *

 夜の帳が落ち、辺りがクリスマスの賑わいに包まれる頃、ベルナデットとほとりは宿の女将から申し出で、村に在る唯一の温泉を楽しんでいた。
「ふあ……気持ち良い♪」
 長い髪を頭上に束ね、首元までお湯に浸かったベルナデットが声を上げる。その隣では、悠々と足を伸ばしてお湯に浸かるほとりの姿もある。
「もっとちゃんと浸からないとダメだよ。さっきくしゃみしてたし、風邪を引かないようにしないと」
 温泉宿の女将が声を掛ける前、ベルナデットは散々浴びた雪にくしゃみをしていた。
 まあ、あれだけ氷の礫を浴び、最終的に雪の結晶を全身に浴びていたのだから仕方がない。
「もう大丈夫だよ」
 心配性なんだから。
 そう声を零してベルナデットの目が細められた。そんな彼女が見詰めるのは、温泉に浮いたお盆だ。
「ねえねえ、お義姉ちゃん。そろそろ飲んでも良いでしょ?」
 甘えるように向ける視線。
 それを受けたほとりもお盆の上に目を向ける。
 ぷかぷかと湯船に浮かぶ盆の上。其処に乗せられているのは、この地で有名だと言うシャンパンだ。
 シャンパンはクリスマスには何処の家庭でも飲むらしく、ここでは……と言うか、ジルベリアでは結構有名な飲み物らしい。
「確かお酒って言ってたから、飲みすぎないようにしないとダメね」
 温泉に入る前、女将がお礼にとくれた物だ。
 その時に、シャンパンを初めてだと告げた2人に女将が添えてくれた注意が今の言葉。
 お酒を温泉で楽しむときには、ほどほとに……。
「うわぁ。何だかぶくぶくしてるね」
「これは炭酸って言うらしいわよ。飲むと、シュワァってするらしいわ」
 陶器のコップに注がれたシャンパンを興味深そうに見詰める瞳。彼女等は手にしたコップを軽く合わせると、意を決したように口に運んだ。
「! けほっ……ッ、…な、なにこれ……」
 ベルナデットはそう言うと、自らの喉に手を添えた。
 しゅわしゅわと喉を通る炭酸の刺激に驚いたらしい。目をパチクリさせながら、不思議な物を見る様にコップの中を見詰めている。
 対するほとりはと言うと、
「美味しい……♪」
 ふわっと微笑んだ彼女に、ベルナデットの目が落ちる。
「もう少し落ち着いて飲んでみたらどうかしら。慌てないと、ゆっくりと」
 ね? そう指南するほとりに、ベルナデッドがいま一度シャンパンに挑戦する。
 そして改めてゆっくり味わった結果、彼女の頬も柔らかく綻んだ。
「……美味しい、かも?」
 まるで猫の様にチロチロとシャンパンを舐める彼女に、ほとりが優しく笑い掛ける。
 愛しくて可愛い、大事な義妹。
 この妹の為に旅をしているけれど、実際には自分の為である意味合いも強いかもしれない。そう思うと、より一層この旅が愛おしくなる。
 ほとりは笑みを深めると、優しい仕草で彼女の髪を撫でた。
「ベルナデットは可愛いわよね」
「お義姉ちゃんの方が可愛いと思うけど」
 行き成りどうしたんだろう? そう首を傾げる彼女に笑い掛け、ほとりは改めて盆に手を伸ばす。
「そうだったわ。こっちも食べてみましょうよ」
 言って差し出したのはブッシュドノエルだ。
「甘くて美味しいって、女将さんが言ってたわよ」
 シャンパンを貰う際に、これも貰っていたのだ。
 ひと口の大きさに切って、ベルナデットの前に差し出すと、彼女の口が躊躇いがちに開かれる。
 そうしてひと口食べると、彼女の頬が淡く紅潮した。
「美味しい♪ お義姉ちゃんも食べてみて!」
 今度はベルナデットの番だ。
 彼女はほとりがしてくれたようにひと口大にしたブッシュドエルを差出すと食べるように促す。
「本当、美味しいわね♪」
 綻んだ2つの笑顔。
 ベルナデットとほとりは、酔いが訪れるその瞬間まで、シャンパンとブッシュドノエル、そして好意である温泉を楽しんだ。
 そして温泉を出る際に、完全に火照ったベルナデットが囁く。
「ねえ、ほとりお義姉ちゃん。年明け前には、一度一緒に天儀に戻ろうね」
 そう告げた彼女に、ほとりは今日見せた笑みの中で一番綺麗な笑みを見せて頷いたのだった。

―――END



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib5223 / ベルナデット東條 / 女 / 16歳 / 志士 】
【 ia9204 / 茜ヶ原 ほとり / 女 / 19歳 / 弓術士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは『winF☆思い出と共にノベル』のご発注、有難うございました。
如何でしたでしょうか。
何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
winF☆思い出と共にノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年12月27日

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