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『母との再会 』
綾鷹・郁8646)&綾鷹・澄(8720)&草間・武彦(NPCA001)

「現在地球は内部が凍結し、萎縮状態にある。このままでは地球は歴史上最悪、最大の巨大地震により瓦解は免れないだろう」
 旗艦USSウォースパイト号の艦橋では、艦長が地球の現在の状況について以上の様な話し合いをしていた。
 艦長をはじめ、地質学者夫婦は互いに顔を突き合わせ、この非常事態に対する策を練っているのである。
「何とか再燃させなければ……」
 眉間に深い皺を刻み、唸る艦長。その艦長に綾鷹・澄は一つの案を提案する。
「今回の非常事態に関して、艦砲射撃で地球の中心核まで穴を開け再燃させる方法が良いかと思います」
「艦砲射撃で?」
「はい。荒業になりますけれども、それが一番手っ取り早い方法だと思います」
 至って真剣な眼差しで澄は艦長を見つめ返した。
 艦長はその澄の顔を見つめて、険しい表情のまま小さく頷いた。
「分かった。今我々に出来る良策がそれなら、その方法でやるしかないでしょうね」
 そんな艦長の側に控えていた郁は、一言も言葉を発することなく彼女達のやりとりを見つめる。そして何よりも澄の姿をじっと見つめていた。
 会った事もない人物ではないのに、なぜか気になる。それがなぜなのかは分からないが、彼女の存在が郁にはやたらと気になった。

       ****

 在りし日のベル植民地。医者夫婦が水晶生命体の奇襲を受け、脱出を試みていた。
『あの子達を置いてなんて行けないわ!』
 脱出用の船が定員オーバーで、その時夫婦が試作中だった共感能力者姉妹をその場に放置する事で二人はもめていた。
『あれはまた作ることが出来る。データは持ってきているんだ。何も心配は要らない』
『違うわ! あの子の存在はあの子でしかないのよっ!』
 意地でも食い下がってくる澄に対し、夫の目は酷く冷淡なものだった。
 非常に冷め切った瞳を澄に向け、これ異常ないほど冷酷な言葉を吐き捨てる。
『あれと生身の人間である自分の人間と、どっちが大事か良く考えろ』
 夫は問答無用で澄を引き寄せ、結果、夫婦は姉妹を放置して行ったのだった。

                  *****

 会議後、澄は副長室へとやってくると、郁は突然の来訪に驚いていた。
「な、何ですか?」
「……あなたに話しておきたい事があるんです」
 そう言うと、澄は躊躇うことなく郁を見据え、はっきりとした口調で話を切り出した。
「私はあなたの継母で、ベル植民地であなたの改造に関わったわ」
 思いがけない言葉に、郁は驚きを隠せなかった。郁にはその時の記憶がまるでないのだ。
「嘘……」
「嘘じゃないわ。ベル植民地が水晶生命体の奇襲を受けて、我々は脱出を試みた。試作中だった共感能力姉妹……あなたを残して……」
 郁の視線が動揺に揺れ、落ち着きなくさ迷わせる。そして、ポツリと呟くように口を開いた。
「お父さんは……死んだわ……」
「え……?」
 思いがけない言葉を聴いたのか、今度は澄が動揺する番だった。
 彼女は脱出の後、仕事依存の夫と離婚したのだ。それはもちろん、脱出の船が満席と言う理由で放置した郁の件でもめた事だったのだ。
 ぎゅっと拳を握るとふいに閉じていた瞳を開き、郁に真っ直ぐに向き合う。
「あの日、私たちはあなたの件で脱出した後に離婚をしたわ。私はあなたを置いてなんていけなかった……」
 澄の言葉を鵜呑みにするにはまだ信用しきれない。それでも、父の死を知った時の澄の動揺は本物だった。
 そして憂いを込めた瞳で見つめるあの眼差しも、嘘だとは思いにくい。
 半信半疑だった郁は草間武彦を雇う。
「彼女の遍歴が事実なのかどうか調べてほしいの」
「分かった」
 草間はその後すぐに澄の遍歴について細かいところまで調べ、すぐに郁の元に結果が届けられる。
「彼女の遍歴は事実だな。嘘はついてねぇよ」
 彼の言葉に、郁は小さく頷いて澄を見据えた。
「……ねぇ……身の上話を聞かせて……?」
「あたしの?」
 突然乞われたその話に澄は目を瞬かせると、郁はきゅっと口を引き結びこくりと頷く。
 そんな彼女の様子を見て、郁は自分の話したことが嘘じゃなかったと言う事をもう分かっているのだと察すると、軽く息を吐いて身の上話を話し始めた。
「そうね。じゃあ、まだ小さかったあなたの話をしましょうか」
 やんわりと微笑む澄を、郁は上目遣いに見つめる。
 そんな彼女を優しく見やりながら、ゆっくりと一つ一つ話はじめる。
「あなたは自分の思い通りにならないと、すぐ癇癪を起こす子だったわ。そんな時はどんなに宥めても駄目だった」
 懐かしそうに話す澄の姿を見ていると、なんと優しい雰囲気を持った人なのだろうと思う。
 話す言葉の一つ一つが温かくて、とても優しい。
 彼女の話を聞く事が、郁は知らず知らずに心地よい物になっている事に気づかなかった。
 話を進めるうちに、ふいに澄が何かを思い出したように小さく笑い出す。
「あぁ、そうそう。そう言えばこんな事もあったわ。共感能力が未熟だった頃のあなたは、老若男女問わず無差別に求愛していたのよ。それを止めるのが本当に大変だった」
「……え……やだ、そんな……」
 頬を赤く染め、慌てふためく郁に澄はくすくすと笑った。そしてふと視界の端に映ったイラストに興味を示した。
「あなたは絵を描くのが上手なのね」
 ふと思い出したようにそう訪ねると、郁は躊躇いながらも小さく頷いた。
「ね? 一緒に描いてみましょうか」
 促されるままに郁はペンを握って描き始めると、澄も共に描き始める。
「やっぱり上手ね。知ってる? 画才を与えたのは夫の案だったのよ……」
 嬉しそうに微笑み、目尻に涙を滲ませた。
「立派に育ったわね……」
 そうして微笑む澄に、郁の胸はチクリと痛むものがあった。
「昔、私は機械で娘を作った事があるの。すぐに死んでしまったけど……。あなたの、孫ですね」
「え……?」
 力なく微笑む郁に、澄は驚いていた。
「それから……もう一つ。あなたに告白しておくことがあります……。ステイン化した姉を、私が自分で殺めました」
「!」
 澄は一瞬言葉を失ったが、すぐに首を横に振る。
「……本当言うとね、あなたたちを放置したのは、凶暴化する懸念があったからなのよ……」
 ごめんなさい。と謝る澄に郁はボロボロと涙を溢れさせ、やがて二人は身を寄せ合って泣いたのだった。

*****

 作戦実行の時が来た。
 当初の予定通り、地球内部に向けての艦砲射撃。激しい爆音を上げて発射されたが地表に付いた傷は浅すぎた。急ぎ核爆弾を設置することになる。
 追加の爆破作業を行うべく、澄の夫が作業に当たっていたが地面は余震で揺れ、落盤の恐れがあった。
 激しい揺れに、浅いとは言えかなりの深さのある穴の中に入って作業していた夫は、冷や汗を流し作業に当たるが、機器が不調で上手く作動しない。
 その時、強い余震が起きた。夫が上空を見上げるが早いか、落盤し彼は骨折をしてしまう。
 医務室へ運ばれた夫は、苦しげに呻いていた。そんな彼の姿を見ていた澄はすぐさまその場に立ち上がる。
「あたしが現場を指揮するわ」
 すぐに現場に降り、現場を夫がてこずっていた機器を一瞬で直してしまった。その瞬間、再び余震により落盤が起きて澄は腕を負傷する。
 その傷口には僅かに部品が覗き見えた。
 それを見た郁は怪訝に思い眉根を寄せる。
「何……あの人は化け物……?」
 郁は隣にいた草間にすぐさま調査を依頼した。が、彼が調査した結果、澄はただの人間だと言う。
 郁は眉根を寄せたままふと考える。
 これ以上あの場にいれば、再び落盤が起きる。その時は……。
 きつく拳を握り締め瞳を伏せた。
 そして再度の落盤。崩れ落ちる岩を前に、郁は澄を見捨てたのだった。


 その後、掘り起こされた穴から、意識を失った澄が救出される。
 担ぎ込まれた澄は、誰の目から見ても分かる機械人間だったのだ。
「やっぱり……」
 郁は小さくそう呟くと、憂いを込めた目を向ける。
 やがて澄の中から前夫が隠した遺言チップが発見される。それは3D映像となっており、再生可能な状態だった。
 それを再生させると、そこには今は亡き医者が心情を吐露していた。
『別れても妻が好きだった……。だからこそ、私は澄の人格を共感能力経由で機械人間に移したんだ。遺志が伝わらず残念だ』
 記録されていたのはここまでだった。
 艦長室へ移った郁と艦長らは、今後彼女に真実を告げるべきかどうかの話し合いを続けていた。
「あの人は、自分の事を人間だと思っているわ」
 郁は先の会話でそう感じていた。とても人造人間だとは思ってなどいない。
 郁にしてみればショックは大きいが、本人が知らない以上そっとしておくべきだと思っていた。
「あなたにしてみれば衝撃的なことでしょうけれど、同じ共感能力者として理解しあえるはずだわ」
「知らないなら、そのまま普通の人間でいさせてあげて欲しいんです。本人も知らない事を告げる方がよほど酷だわ」
 郁の強い意見に、今回の事は澄には知らせない事でその場は落ち着いたのだった。


 やがて澄は意識を取り戻した。そんな彼女の側にいた郁は泣き出しそうな顔で微笑む。
「良かった……。怪我は治ったわ」
「……郁……」
 郁は澄にすがりつく。彼女は澄を生身の人間として接した。
 そして任務は成功し、澄と離れ離れになる時がやってきた。が、郁は彼女の手を離せずにいる。
「お願い。せっかくこうして再会できたんだもの。ここに留まって欲しいの」
「……郁」
 澄としても、ようやく再会を果たせた娘とこれっきりにはしたくなかった。
「分かったわ……」
 にこりと微笑み、頷き返すと郁は心底嬉しそうに顔を紅潮させて澄に抱きついた。
「嬉しい! お母〜さ〜ん! これから甘えていい?」
「ふふふ。大きくなったのに、甘えん坊さんね」
 澄は郁を抱きとめた。
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東京怪談
2013年12月30日

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