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『☆冬の恋人達の一日☆ 』
樋渡・沙耶ja0770

 麻生遊夜と樋渡沙耶が通う学校が冬休みに入った後、二人は一緒に出かけた。
 向かった場所は、沙耶の実家の樋渡家。樋渡家は学園から遠い場所にある為に沙耶は普段、両親と離れて一人暮らしをしている。長期の休みの時には実家に帰ることにしているのだが、今回は恋人である遊夜も一緒だ。
 その理由は沙耶の恋人になった遊夜を両親に紹介する為――である。
 無事に両親に挨拶を済ませた後、一足先に帰る遊夜を見送る為に沙耶も一緒に家を出た。
 しかしまだ帰るには時間が早かったので、沙耶のオススメのカフェで休むことにする。
 遊夜はホットコーヒーを一口飲んだ後、深いため息を吐く。
「ぷはぁ〜。ようやく一段落、かね? ……ふぅ。やっぱ俺、緊張してたんだな。肩が凝ってらぁ」
「ふふっ……。遊夜さん、動きがぎこちなかったです……」
 いつもは明るい遊夜だが、流石に沙耶の両親の前では真剣な顔付きになっていた。その上、体の動かし方がまるでロボットのように固まっていたことを思い出し、沙耶の顔には笑みが浮かぶ。
 遊夜は肩を拳でトントンと叩きながら、弱々しく微笑んだ。
「いや〜、でも沙耶さんの両親に仲を認めてもらって、本当に良かったよ。特に親父さんは沙耶さんから聞いた限りじゃ娘を溺愛しているみたいだし、俺なんか認めてもらえないだろうな〜って思ってたんだけど」
「……まあ確かにウチの父は沙耶からバレンタインチョコを作って送って貰う為に、チョコの材料と返送用のダンボールと着払いの伝票を送ってきたことがありましたが……」
「クククッ。親の愛は麗しいものだが、沙耶さんと付き合っている俺にとっちゃあ倒すのが難しい敵やなぁ」
「敵、ですか……?」
 遊夜の言葉の意味がイマイチ理解できず、沙耶は首を傾げながらも温かい紅茶を飲む。
「でも母には前もって、遊夜さんを紹介することは言っていましたから……。父は突然のことで驚いたでしょうけど、母が味方してくれて良かったです……」
「……確かに親父さん、沙耶さんが俺のことを紹介した途端、鬼の形相になっていたな」
 遊夜は沙耶の父とはじめて顔を合わせた時のことを思い出し、遠い目になった。
 もしその場に日本刀があれば遊夜に斬りかかりそうな殺気も放っており、それとなく母が制してくれたおかげで何とか父は正気を保っていたようなものだ。
「父が取り乱して一時はどうなるかと思いましたけど、何とかなりましたね……。……でも『健全な付き合いをするように』と念を押されましたが……」
「まあ沙耶さんも俺もまだ学生だしな。恋に夢中になっていろんなことを疎かにしちゃいけないっていう、人生の先輩としてのアドバイスやろう?」
「そう……ですね。でも今まで両親に遊夜さんのことを秘密にしていた罪悪感がありましたけど、これでスッキリしました……」
「だな。とりあえず一山越えたし、次はクリスマスやな」
「はい……。安心してクリスマスを迎えられますけど……どこに行きましょうか? ……でもどこも人がいっぱいで混んでいそうですし、部屋でゆっくり過ごす方が良いですか?」
 恋人らしく甘い話題に移ったというのに、何故か遊夜は複雑な表情を浮かべている。
 不安になった沙耶は、少し身を乗り出して遊夜に問いかけた。
「あの……やっぱりどこかに出かけた方が良いですか?」
「んっ? ああ、違う違う。クリスマスを俺と過ごすってことは、早めに実家を出るんやろ? ご両親、少し残念がるんじゃないかと思って」
 両親は沙耶を溺愛している上に一緒に過ごせる時間が少ないので、恐らくクリスマスを一緒に過ごしたく思っているだろうことを、遊夜は考えていたのだ。
「でっでもホラ……、クリスマスってイヴと当日と二日間、ありますから……。だから一日を遊夜さんと、もう一日を両親と過ごせば……大丈夫、です。……多分」
 言いながらも沙耶は、自信なさそうだった。
 両親が来年の始業式前日まで引き止めそうなことを、二人は口に出さずとも簡単に想像できていたのだ。
「……やっぱりクリスマスだけ、あちらに戻って遊夜さんと過ごす……ということで良いですか?」
「うん、それで良いよ。俺は沙耶さんと過ごせれば良いし」
「ごっごめんなさい……」
「いやいや。俺だって沙耶さんの両親が悲しむ顔は見たくないからな。親孝行すると良いよ」
「はい……」
「さて、それじゃあ今度こそクリスマスの話をしようか。俺は映画を見に行きたいと思ってたけど、確かにクリスマスは混みそうだなぁ。DVDを借りて、部屋で見ようか? テーマがクリスマスの映画DVDを見れば、気分も盛り上がるだろう」
「そう、ですね……。じゃあケーキや料理は、沙耶が頑張って作ります……」
「うん、俺も手伝うよ」
 二人はしばらくの間、クリスマスの過ごし方について話し合った。
 しかし外が暗くなっていくことに気付き、二人はカフェを出て駅に向かうことにする。
 二人は外に出ると、どちらかともなく体を寄り添った。
「……遊夜さんは沙耶と会えない間、何をして過ごすんですか?」
「ん〜、そやねぇ。今言うのも気が早いかもしれないけれど、正月にまたこっちに来る為にアルバイトでもしていようかな。はじめて会って一ヶ月も経たないけれど、沙耶さんのご両親に年始の挨拶をしといた方がいいだろう?」
「お正月も会いに来てくれるんですか……? それなら両親と一緒に、初詣に行きましょう……。……今から楽しみになってきました」
 沙耶は嬉しそうに頬を赤く染めるが、遊夜は父が不機嫌になるのを思い浮かべて、顔が引きつってしまう。
 父が季節のイベントを家族だけで過ごすことを望んでいることが分かっているものの、それでも少しでも家族付き合いを増やしたいと遊夜は思ってしまった。
 自分の腕に甘えるように身を寄せる沙耶は、恋する少女の顔になっている。彼女との将来を考えれば、今のうちに両親と仲良くしておきたかったのだ。
「遊夜さん、どうかしました……? 沙耶の顔に、何かついています……?」
 沙耶は遊夜の視線に気付き、自分の顔を手袋をした手でペタペタと触る。
「いや、出会ってもう二年になるんだなぁって思って。恋人になって一年半……。最初は年齢差を激しく気にしていたけれど、今はようやく周りにも『恋人』に見られるようになって良かったとしみじみ思ったんだ」
 付き合いだした当時は一緒に出かけても、周囲からは『兄と妹』に見られることが多かった。沙耶は自分が小柄なせいだと思っていたが、遊夜は自分が老けているのではないかと真剣に悩んだものだ。
「もうそんなに経っていたんですね……。遊夜さんと一緒にいると楽しくて……、あっと言う間に時間が過ぎちゃいます」
「そっか。……じゃあもうちょっと我慢しとくかな〜。いや、でも早いうちに言っておいた方が……」
 真剣な顔でブツブツと呟く遊夜を見上げて、沙耶は不思議そうに首を傾げる。
 しかし駅前に到着すると、沙耶は遊夜の腕をグイグイと引っ張った。
「遊夜さん、もう駅に到着しましたよ……」
「へっ? うをっ!? ホントだ!」
 ここまで来るのに、遊夜はずっと独り言を呟いていた。
 何となく声をかけづらくて、沙耶は遊夜の体に引っ付きながら、ここまで無言で連れて来たのだ。
「……何か悩みがあるなら、言ってくださいね? 今日からクリスマスまで、会えないんですから……」
「そう、だよな。んじゃ、クリスマス前に言っとく」
 遊夜は決心がついたように、改めて沙耶と正面から向かい合う。
 そして優しく微笑みながら、こう告げた。
「沙耶さん、今までは恋人として付き合ってきたけれど、少し変えてもいいかな?」
「えっ……?」
「これからは結婚を前提として、俺と付き合ってください」
 そう言って遊夜は優しく沙耶を抱き締めて、耳元で囁く。
「……もしOKなら、クリスマスのプレゼントは婚約指輪をあげたいんだけど……」
 少し情けない声は、いつもの彼らしくはなかった。
 けれどその言葉はぬくもりをもっていて、沙耶の心にじんわりと染みていく。
「……プレゼントの内容は……当日まで、秘密にしておくのがいいんですよ……?」
「ゴメン。でもしばらく会えないと思うと寂しくてさ。で、どうかな?」
 少し体を離して顔を見ると、沙耶は眼を潤ませながらも少し怒った表情を浮かべている。
「……沙耶が断る理由なんて、あると思いますか?」
「あっ……ははっ! ありがとう、沙耶さん。少し早いけど、最高のプレゼントを貰った気分だ!」
 満面の笑みを浮かべて沙耶を再び抱き締める遊夜だが、沙耶の眼に鋭い光が宿っていることに気付いていない。
「――じゃあ遊夜さんのクリスマスプレゼントは、もういらないですね……」
「えっ!? いっいや、その……こういうのはまた別と言うか……」
 アタフタと取り乱す恋人の姿を見て、沙耶はニヤっと笑う。
 自分ばかり驚かせられてばかりいるのは気に食わなかった為、ちょっとしたイジワルが成功したことに大満足した沙耶であった。


☆恋する乙女の悩み
(遊夜さん、今頃家に着いたでしょうか……?)
 夜、両親が用意したご馳走を食べながら、ぼんやりと沙耶は考える。
 プロポーズ一歩手前の告白を受けて夢見心地のまま家に帰ると、両親に熱烈な歓迎を受けて少し頭が冷えた。
 両親に教えた方がいいのかもしれないと思ったが、今の二人を見ていると言わない方が遊夜の為であると結論が出る。
 何より父は『健全な付き合い方を』と言っていたし、遊夜も『お互い学生だ』とも言っていた。
 恋に夢中になることを父は許していないようなので、自分と遊夜が学校を卒業するまでは婚約の話もできないだろう。
(となると、少なくとも沙耶が高等部を卒業するまでは内緒の話になるってことで……。いや、沙耶が大学部に進学したら、また話は伸びそう……)
 できれば沙耶が高等部を卒業した後、遊夜は両親に改めて報告をと思っているだろうが、父は何だかんだと婚約話を延長させそうだ。
 両親のことは大切で大事で大好きだが、確かに遊夜の言う通り、『恋人の敵』は『親』なのかもしれない。
(それでも母は沙耶の味方をしてくれそうだけど……。でも遊夜さんのことを母が父に説得する時に、聞こえたんだよね……)
 母は遊夜の顔を見て、『この人が沙耶の近くにいれば、軟派な男達は寄って来ないだろう』と父に耳打ちしていたのだ。
 確かに遊夜と一緒に歩いていると、男に声をかけられることはない。それは事実なのだが……イマイチ納得はできなかった。
(案外、分かりやすい父よりも、分かりにくい母の方が、難しい敵なのかもしれない……)
 それでも自分達の敵になる理由が、沙耶を大事に思っている為であることを沙耶自身、よく分かってはいる。
(とりあえず、クリスマスのことだけ考えよう……。遊夜さんにちょっとイジワルしちゃったし、喜ぶ物、あげたいな……)
 かすかに微笑みながら窓の外に視線を向けると、白い雪が音もなく降り始めていた。

<終わり>


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1838/麻生 遊夜/男/大学部2年/インフィルトレイター】
【ja0770/樋渡・沙耶/女/高等部1年/阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびはご依頼していただき、ありがとうございました(ペコリ)。
 『☆』の部分から個人ストーリーとなっていますので、お二人分を読んでいただければと思います。
 良いクリスマス・年末年始・お正月を迎えられると願っております。
winF☆思い出と共にノベル -
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エリュシオン
2013年12月30日

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