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『ポインセチアの祝福 』
小野友真ja6901

「あ……雪だ」
 窓外にちらつく六花を見て、月居愁也は呟いた。
 さっきまではただの曇り空だったのに。いつの間に、降り始めたのだろう。
「ああ、降ってきたのか。通りで冷えると思った」
 同じく窓の外に視線をやった夜来野遥久が、微かに笑む。
 ここでは滅多に雪を見られないこともあり、なぜだかつい眺めてしまう。
「あ、降り始めたんやー! ホワイトクリスマスやんな!」
「わあ、ほんとだ……積もるかな?」
 普段見ない雪にはしゃぐ小野友真と西橋旅人の隣で、加倉一臣が笑む。
「いいイブになりそうだな」
 心浮き立つ予感は、もうすぐに。
 
 愁也と遥久の自宅である「705号室」に集まったのはいつものメンバー。気心知れた仲間同士で、クリスマスパーティをするためだ。
 迷子防止に一臣と友真が旅人を迎えに行っている間に、愁也と遥久は買い出し。
 集合した後は全員で部屋を飾り付けたり、料理をしたり。
 たわいのない話をしながらの準備は、それはそれで楽しくて。
「タビット……聞いてくれ」
 一臣はグラスを並べていた旅人に、やたら真剣な表情で話しかける。
「前に俺が教えたバレンタインの正しい過ごし方を覚えているだろうか」
 一臣が教えたのは通称『闇のサバト』。闇チョコフォンデュと言う悪魔の催しを決行し、旅人が「ドライアイス入れた奴ちょっと出てこい」とマジ切れしたのはいい思い出。
「あの時の旅人さん凄かったよなー……」
 愁也が遠い目をする横で、旅人は顔を紅くする。
「そ、そういやそんなこともあったね……」
「実はな、タビット。あれはクリスマスにも必要なものなんだ」
「えっ……?」
 目を白黒させる旅人に向かって、告げる。
「その為に俺たちは既に準備をしてきた。そうだな? 友真」
「うん、クリスマスにサバトを提案される日が来るとは、流石の俺も思っていませんでした」
「と言う訳だ、タビット」
 生暖かく微笑む友真をよそに、一臣は高らかに宣言。

「今宵は奇跡が舞い降りる聖なる夜だ。イヴの魔宴(クリスマスサバト)に祝福を!」

●と言うわけで準備開始
 
「加倉……西橋殿に間違った知識を披露するなとあれほど……」
「だってサバトやりたいじゃん! 楽しそうじゃん!」※27歳
 ため息を吐く遥久に一臣は必死に反論。その隣では既に順応したポジティブ友真が、きりりと。
「まあ俺は面白いなら何でもええけどな! あと年少者にプレゼントはありますか」
「クェ(そっとスルメを差し出す)」
「うわぁ半蔵、それ俺も欲しい!」
 黒鷹からスルメをもらって大喜びの愁也を見て、旅人が微笑む。
「そう言えば愁也君、スルメとケーキ一緒に食べるの好きだったよね」
「いや旅人さんそれは大いなる勘違いかな……あ、でもこれサバトに使えるんじゃね?」
「そっか、火ぃ点けたらめっちゃ香ばしくなるな!」

「……まあ、楽しそうだからいいか」

 遥久は思考放棄した。

 こうして彼らは(サバトと言う名の)クリスマスパーティをはじめる。
 海鮮ちらしに、色とりどりのサラダやオードブル。キッチンからは香ばしい匂いが立ちこめる。
「やっぱチキンは欠かせないわな」
 一臣がオーブンから取り出してきたのは、お手製のチキン。
「わあ、いい香りだな。美味しそう……!」
 嬉しそうな旅人の隣で、半蔵も眼を輝かせている。
「あ、半蔵はだめだよこれは」
「クェ!?」
 明らかにうなだれた黒鷹を見て遥久が苦笑しながら。
「半蔵殿にはこちらを準備していますよ」
 差し出された生肉に、半蔵復活。
 飲み物はシャンパンにワインにノンアルコールカクテルやジュース。
「じゃーん、クリスマスと言えばケーキ!」
 ここで愁也が大きなショートケーキを出してくる。美味しいと評判のお店で一ヶ月も前から予約していたものだ。

「よーし、じゃあケーキも登場したことだし、そろそろサバトを始めるか!」

 一臣が照明を落とし蝋燭に火を点すと、ケーキに立てていく。徐々にその本数が増えていく中、おもむろに遥久が数本を手にし。
「加倉、どうせならこうするべきじゃないのか」
「おい遥久これどう見ても魔方陣ですよね」
 遥久が立てた蝋燭は、円形のケーキに見事な魔方陣を描いている。一臣は微笑みながら。
「随分本格的……と言うか、いくらなんでも立てすぎな気がするね?」
「たまにはこういうのもいいだろう」
 既に炎でケーキが見えないレベルだが気にしてはいけない。
「じゃあ俺、儀式の踊りやる!」
 怪しげな音楽と共に、愁也が謎の踊りを開始。見ていた友真がぽつりと。
「なんかこれ、悪魔召喚の儀式みたいやんな……」

 ゆらゆらと燃えさかる蝋燭の炎。

「これから何が起きるの……?」
 好奇心と若干の不安を瞳に映し、旅人が炎を見つめる。一臣は笑いながら。
「いやいや、サバトつーてもな。今回は闇鍋も闇チョコも無いから安心しt」

 直後、唸るような轟音と振動が彼らを襲った。

「うわっ地震!?」
 慌てる愁也に向かって、遥久が眉をひそめ。
「いや……隣の客間から聞こえてきたな」
「まじか、見にいかな!」
 全員で客間へと走る。扉を開けた先にいたのは――!

「え、ミスター……?」

 あり得ない光景に全員が立ち尽くしていた。
 目の前にいるのは道化師姿の子供。過去幾度となく対峙してきた悪魔マッド・ザ・クラウンが、こちらを向いて立っている。
「ど、どういうことだ……?」
 一瞬真顔で光纏しかける一臣の隣では、愁也と旅人が固まっている。
「誰だ、召喚したのは……」
 遥久がため息交じりに漏らす横で、友真が思い切って声を掛ける。
「こんにちは、ミスター。良いクリスマスですね……?」
「ええ、そうですね」
 そう言って微笑んだクラウンは。ゆっくりと周囲を見渡してから、口元をほころばせた。

「こんな夜には、ひとときの夢が見られるのではありませんか」

「夢……そうか、これは夢に違いない」
 一臣の言葉に愁也もうんうんと頷き。
「そうだな、夢なら問題ねえな!」
 友真は「じゃあ」と口元に人差し指を立て皆に告げる。

「今だけは休戦ってことでな?」

●夢だもの

 夢だと言う事で(無理矢理)納得したメンバーは、クラウンと共にパーティ会場へと戻ることにした。
 再度乾杯をし、皆で料理やケーキを楽しむ。切り分けたショートケーキを差し出しながら、愁也が問う。
「あ、ミスター。ケーキの苺は先に食べる派? 残しておく派?」
 クラウンはふわふわクリームに乗っかった苺をじっと見つめ。
「そうですね……」
 袖から出した小さな手で、苺を摘まむ。そしてもう片方の手の人差し指で生クリームをたっぷり掬うと、ふわりと笑む。
「両方一緒に食べたいのです」
 そう言ってぱくりと食べてしまう。愁也は感心したように。
「さすがはミスター贅沢というか何というか」
「ふふ……その方が美味しいでしょう?」
「みみみミスター俺の苺もあげましょうか」
「加倉さんはとりあえず落ち着け」

 その隣では友真がケーキを頬張りながら旅人に問う。
「なあ旅人さん、半蔵ってケーキ食べたりするん?」
「普段は食べないんだけどね。ちょっとだけあげることはあるよ」
 なるほど、と遥久が半蔵に苺を差し出しながら。
「半蔵殿はいちごはお好きですか?」
「クェ」
「なるほど……確かにあの見た目には惹かれるものがありますよね」
「クェクェ」
「ええ。私もこの時期だけは食べる機会が多いです。皆同じですね」
 和やかに談笑する一人と一羽を見て、友真は微笑む。
「おかしいな、俺には何言ってるか全くわからへんな……?」

 ※

 食事もだいぶ、落ち着いた頃。
 愁也がクローゼットから大きなマットを取り出してくる。

「よっし、じゃあみんなでツイスターゲームしようぜ!」

 意気揚々とした提案に一臣が呆れながら。
「待てよ愁也……ツイスターゲームとかミスターがやるわけが」
「いいですよ」
「えっ」
 一臣がクラウンを二度見した所で友真が手を挙げる。
「はいはーい、俺ツイスターゲームって聞いたことあるけどやった事ないー」
「私もですね」
 クラウンの言葉に愁也は腕組みをしながら。
「まあミスターは当然だよな……旅人さんはやったとある?」
「ううん、僕も無いな」
「クェ(私はある)」
「えっ」
 遥久が半蔵を二度見した所で、愁也はゲームのルール説明を始める。聞きながら友真がなるほどと頷き。
「要は体の柔らかさが問われるゲームってことやんな……待ってこれもしかして俺不利な奴?」「お前身体硬かったっけ?」
 一臣の問いに友真はかぶりを振りながら。
「いや、硬くはないんやけど……ほらだって、手足の長さ的な意味でって……」
「まあ友真涙拭けよ」
「愁也さんやかましいわ!」
 笑う愁也に友真は悔しそうに唸る。
「ぐぬぬ……あ、でもミスターおるしな!」
 自分より遥かに小さいクラウンを見て、ほくそ笑む。
 
(これなら勝てる……!)






 そう思っていた時期が、俺にもありました。


●どきどき☆ツイスターゲーム

 そんなわけでゲーム開始。
 各自の戦いの記録を、かいつまんで覗いてみよう。

<一回戦:友真、一臣、旅人 審判:遥久>

 最初に審判となったのは遥久。ルーレットを手に次々と指示を出していく。
「左手、緑」
「くっ……辛い……!」
 既にブリッジ体制になっている一臣が呻きを上げる。
「俺肩は回るけど身体は硬いんだよな……」
「うん……これは結構きついね……!」
 その声になんとか横を見ると、旅人が両手両足クロスのまま、海老反りになっている。
「なあ友真……俺が思うに、タビットがすごいことになってる気がする」
「うん、あんな体制俺には無理かな……」
「それとお前は、俺の上で休むのは止めような……?」
 三人の様子に遥久は頷きながら。
「西橋殿の柔らかさには感心しますね……では次、右手を赤!」

「と、届かな……」
 旅人は狙った円に必死に手を伸ばすが、ぎりぎりの所で手が届かない。このまま崩れるのかと思ったその時、黒い影が視界を横切る。
「あっ半蔵!」
 黒鷹が円の上で翼を広げ旅人にタッチ。どや顔の半蔵に友真も手を伸ばし。
「半蔵頭いいな! 俺も手伝ってもらうーおいでおいで!」
「ちょっ……それ普通に反則だろ!」
「認める」
「遥久ァァァァ!」

<二回戦:遥久、愁也、一臣 審判:クラウン>

「これを回せばいいのですね?」
 初めて触る玩具にクラウンは興味津々の様子。楽しそうにルーレットを回しながら指示を与えていく。
「では左手、青」
「よっし、あそこなら手が届k遥久ァァァ!」
 狙った円を僅差で遥久に取られ、一臣悶絶。
「お前もう少し手加減してくれても!」
「勝負の世界に手心など無用」
「ええ、同感ですよ」
 微笑む遥久とクラウンを見て、愁也が呟く。
「うわぁ……禍々しい笑顔のシンクロ率ぱねえ」

 クラウンの指示は次第に凶悪化の一途を辿った。
「右足、緑」
「ちょ……俺の左手が右足で左足が行方不明になって久しい一体どうすれば」
 一臣がちょっと何言ってるかわからない状況になる中、愁也は進化を果たそうとしていた。
「痛い背中が痛い! 肩も痛い!」
 悲鳴を上げながら、パントマイムのようなカクカクした動きになっている。
「相変わらずお前は身体が硬いな……とりあえず俺の上から退け」
 呆れる遥久の背に乗ったまま、愁也は即答。
「いやだ俺はここが好き」
 だがこのままでは、真っ先に自分が負けてしまう。
 愁也は考えた。
 少しでも親友の背中に居座る為に、自分は何が出来るか。※そう言うゲームではありません
 この戦い、どう生き抜くべきかを――!

「ちょ……愁也さんえええええ」
 成り行きを見守っていた友真が悲鳴を上げる。
 そこにいたのはエク●シストもびっくり、あり得ない角度に手足を曲げた愁也の姿。

「身体硬いなら関節外せばいいじゃん!」

 進化どころかどう見てもホラーだが、親友のためならこれくらい当然。※そう言うゲームではありません
 もはや人間を止めようとしている愁也に恐れるものは無かった。


<三回戦:一臣、愁也、クラウン 審判:友真>

 ついにクラウンの参戦に、一臣と愁也はやる気に満ちていた。
「ふっ……ミスター今までの借り、ここで返させてもらいますよ」
「進化した俺に怖いものはねえからな!」
 対するクラウンは、愉快そうに袖を振ってみせる。
「ふふ……望むところですよ」
 互いに不敵な笑みを浮かべながら、定位置につく。
「じゃあ始めるでー!」
 友真の合図と共に、戦いの幕が上がった。

 しばらくは互角の戦いが続いていた。
 しかしリーチの問題から、次第にクラウンが徐々に不利になっていく。
(これは……いける……!)
 もうだいぶ自分たちもやばいことになっているが、二人は勝利を確信していた。見た目五歳児相手に大人げない気もするが、そこは気にしてはいけない。
「じゃあ、次ー! 右手、黄色!」
 愁也が真っ先に円を取りながら、勝ち誇ったように。
「やーいミスター! 小さいから手ぇ届かn」

 その時、彼らは信じられない光景を目にした。

「み、ミスター……?」
 驚愕の表情を浮かべる視線の先。
 身動きの取れない一臣にからめられた、すらりと細く艶めかしい足。
「え、ちょっと待って明らかに何かおかしいよどういうことこれ」
 背筋に感じる柔らかな感触に、一臣は思わず身震いをする。
「あかん……色んな意味で視覚的にあかん……」
「なるほど……そう来るとは盲点でしたね」
 友真の引きつった声と遥久の冷静な声が室内に響く。何とか首を捻った一臣の目に映ったもは――

 タ コ ……!(戦慄)

 八本足のあれ。紛れもない軟体的フォルム。
 なんかめっちゃ巨大なタコに変身したクラウンは、うねうねと足と吸盤を動かし一臣の背を移動する。
「ふふ……いつ私が人型にしかなれないと言いました?」
「ちょ…ミスター! それは事務所的に色々駄目だと思うな!な! ミ´;ω;」
 号泣する一臣をよそに、愁也と友真は遠い目をする。
「……そう言えば女の子にも変身してたもんな」
「大人姿になるとか一瞬でも思ってた一分前の俺を俺は許せへん」

 軟体動物と化したクラウンに隙は無かった。
 巧みな動きで後のゲームもことごとく勝利を重ねていく。

「ちょっ…ミスター吸盤が顔に張り付いて痛い痛い痛い痛い」

「うわっミスター墨とか卑怯……前が見えnGYAAAA」

「て言うか俺にはその見た目が辛い…!しかもぬるぬるするううううう」

 巨大吸盤のせいで顔がだいぶやばいことになっている一臣の横では、愁也が頭から墨を被っており、その足下では全身鳥肌状態の友真と普通に転んだ旅人が伏している。
 盛大に被害に遭っている四人を見て、遥久が的確なアドバイス。
「愁也、墨で絨毯を汚さないよう気を付けろ」
「見てないで助けろよお前ーーー!」

●プレゼント

 そんなこんなで、ツイスターゲームはクラウンの圧勝で幕を閉じた。
「次は変身禁止ルールでやるべきだな……事務所的にも」
「いやでも他のスキル使われたらそれはそれで、俺ら死ぬんじゃね?」
 そんなことを一臣と愁也が真剣に話し合っている中、友真が(人型に戻った)クラウンに声を掛ける。

「ミスター楽しかったな!」

「そうですね、礼を言いましょう」
 猫のような瞳を細めるクラウンに、友真は腕を組みながら。
「やっぱり大事な人とか友達がおると変わるもんやんなー……」
 いっぱい遊んで、いっぱい笑って。どれだけ過ごしても飽きることの無い、幸福で満ち足りた時間。
 それはやはり、共にいてくれる人達のおかげだから。
「今度はレックスも一緒に遊びます?」
「ええ。それもいいかもしれません」
 ここで二人のやり取りを見ていた旅人が、おもむろに切り出した。
「クラウン、聞いてもいいかな」
「おや、何でしょうか」
 その声にはどこか意外そうな響きが含まれている。
「珍しいですね。あなたが私に質問をしてくるのは」
「え?」
 怪訝な表情になる旅人に向かって、くすりと笑み。
「貴方は常に誰かの影として行動しているように見えますのでね」
 その言葉に旅人は一瞬沈黙をした後。
「……うん。それは否定しないよ」
「ふふ……まあ、いいでしょう。それで貴方は何を聞きたいのですか」
「クラウンにとってのシツジやレックスは、僕にとっての――」
 一臣達に視線をやり。

「彼らとは違うのかな」

 共に過ごし、共に闘い、そして共に未来を見たいと願う。
 過去を失った彼にとって、友人とは全てを投げうってでも失いたくない『生命線』でもある。
 けれど、クラウンはシツジを失うことを選んだ。
 そしてレックスとも――

「同じですよ」

 端的な答え。その表情に変化は無く。
 何と返していいか分からないでいる旅人に代わり、遥久が問う。
「同じならば何故……失うことを選ぶのですか」
「――そうですね」
 クラウンはゆっくりと、視線を窓の外へと馳せる。深淵のまなざしには、恍惚と憂鬱が混在しているようにさえ見え。
「私は思うのですよ。全てを投げうつ覚悟で望む願いは、叶えさせるべきだ――とね」
 例えそのことで、失ったとしても。
「それでも、私は選ぶのです」
「じゃあ……シツジはあの結果を望んでいたってこと?」
 愁也の問いに、道化の悪魔は微笑んだまま。
「ふふ……それはあなた方の想像にお任せしましょう」
「あーずるいな、その言い方!」
 ここで黙って見守っていた一臣が、口を開く。
「ミスター……俺、何となく分かった気がします」
「ほう、何をですか」
「俺たちが互いを想い合うように、ミスターも……同じなんですね?」
 自分たちとやり方は違う。
 けれど根源的に在るモノは多分、変わらないから。

 レックスはあんなにも幸せそうで。
 シツジはあんなにも満足そうだったのだ。

 友真が大きく息を吐き。
「何て言うか……愛って難しいねんな」
 クラウンはその言葉に瞳を細めると告げる。
「では、私はそろそろ行きます」

 その刹那、全員を強い眠気が襲う。
 意識を失う寸前、道化の悪魔の言葉が耳に届いた。

「あなた方に、聖夜の奇跡と甘い夢を」

 ※※

 その時、友真と一臣の視界にはぼんやりとした影が映っていた。周囲に舞うのは――
(花水木の花弁……?)
 思わず、手を伸ばす。
 差しのべられた手にはめられているのは、あの時と同じ純白の手袋。
 二人は苦笑すると、友真が影に向かって話しかける。

(……遅いやないですか。もうちょい早よ来てくれたら一緒に遊べたのにな)

 ――申し訳ございません、小野様。

(久しぶりですね……俺、あの頃から成長したように見えますか? ちゃんと走れてますか)

 ――ええ。もちろんでございます。あんなにも……主が楽しそうですから。

(そっか。なら良かったです……あの、ずっと聞いてみたかったんやけど)

 ――なんでございましょう。

(シツジ殿は、幸せやったんですか)

 ――それは皆さまのご想像にお任せ致します。

(なるほど……ミスターと同じ答えなんですね)

 ――ええ、私は僕でございますから、加倉様。

(……そう言うことにしておきますよ)

 ――それでは小野様、加倉様。主のこと……よろしくお願い致します。


●祝福

 気がつくと、窓から差し込む陽光が室内に穏やかな日だまりを作っていた。
「あ……れ。もう朝……?」
 目覚めた五人は長い夢から醒めたような顔をしている。いつの間にか、雪は止んでいたようだ。
「ミスター……いない?」
 周囲を見渡す一臣の横で、皆の無事を確認した遥久が腕を組む。
「全て夢……だったのか?」
「それにしては随分リアリティのあったような……」
 友真も首を傾げた所で愁也の声が届く。

「あれ、これ……」

 指さしたのは、リビングの中央。
 燃えるように紅く染まったポインセチアが、テーブルの上に置かれている。
「昨日は無かったよな?」
「一体誰が……」
 旅人はそう言いかけて、止める。
 ああ、そうだ。今日が何の日か忘れていた。
 愁也がポインセチアを手にして思い出すように。
「なーんか幸せな夢を見てたような、夢じゃ無いような」
「悪魔が見せた聖夜の夢……ってことでいいんじゃないか」
 微笑む遥久に、友真も頷き。
「うん。楽しかったから、それでええな」
「じゃあ、とりあえず」
 一臣が笑いながら、余っていたクラッカーを皆に手渡す
「改めてお祝いしようか」

 互いに伝え合うのは祝福の言葉。
 これからも、共に過ごせる願いを込めて。

「メリークリスマス!」


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/ジョブ/聖夜の夢】

【ja5823/加倉 一臣/男/27/インフィルトレイター/蛸】
【ja6837/月居 愁也/男/23/阿修羅/幸】
【ja6843/夜来野 遥久/男/27/アストラルヴァンガード/輝】
【ja6901/小野 友真/男/18/インフィルトレイター/嬉】

 参加NPC

【jz0129/西橋旅人/男/25/阿修羅/願】
【jz0145/マッド・ザ・クラウン/男/5/悪魔/贈】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
サバトからの聖夜の奇跡。
そして最後は、ポインセチアの祝福を。
楽しくてちょっぴり切なくて、幸せな夢を見て頂けたでしょうか。
旅人達も誘って頂き、ありがとうございました。

※尚、プレゼントの章は二パターンあります。
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久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年12月30日

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