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『雪とお酒で戯れる、そんな一幕 』
ジャミール・ライル(ic0451)

 雪が舞う。風が躍る。
「はっくし!」
 ジャミール・ライル(ic0451)は駅舎から出るとともにくしゃみを一つ。
 さすがにジプシー《踊り手》とはいえ、今の彼に雪と戯れる余裕などはなかった。
 さらに言うと、砂漠だらけのアル=カマルを出自とする彼は雪自体が珍しい。ぶるぶる、と体を震わせながらジャミールは周囲を見渡した。
 道路の端々にはスノーマンがいくつも立ち並んでいる。その辺で遊んでいる子供達が作っていったのだろう。
「やぁけに冷えると思ったら」
 両手を広げる。手のひらには一片の雪。
 それは肌に触れた瞬間に儚くも溶け、妖精のように消えていった。
「雪なんか降ってきちゃったよ、さむ……」
 ジャミールはどこへ行くともなく歩みを進める。
 はぁ、と口から深い息を漏らす。一瞬だけ目の前を白い帳が覆った。
「へへ、息が白ぇや。怪獣みたいだなぁ、ったく」
 何度も息を吐きだしつつ、彼は目的地を目指した。
 とはいえ、その場所は自由人である彼のみが知っている。それは銀世界を形作る神様ですら知る術を持たないだろう。
 自由を愛するジプシー。その中でもあちこちを旅する彼は一際自由であった。



 ジャミールは雪の積もった場所を避けて歩く。万が一にも足を滑らせたりしないためだ。
 このままとりあえず歩いてみて――。
「はっくし!」
 何度目かとなるくしゃみ。さすがに周囲を支配する冷気には勝てないようだ。
 口から白い息を放ちつつさらにもう一発。そこで彼は思った。
「……どっか暖かい所入ろ」
 ――おにーさんは寒いのは苦手なんだよ。
 そんなことを考えつつ、彼は適当に暖の取れそうな所へ向かった。
 と、
「ひゃっ!?」
 彼の後頭部を突如、衝撃と共に冷たい感覚が走り抜ける。背中を撫でると、白い雪がこびりついていた。
 そして振り向く。
「……あ」
 そこには投擲ポーズのまま固まる庵治 秀影(ic0738)の姿があった。
「……よう」
 秀影は小さく片手を上げた。
「いやぁ、なんだライル君。珍しく一人で歩いてるもんだからなぁ。ちぃと雪でも投げて気付かせてやろうかと……」
「……」
 ジャミールは無言。そして笑顔。
 例えるならこんな顔(^ω^)。
「悪いなぁ、ちぃっとばっか手元が狂ったみたいだ。ぶつける気はなかったんだがねぇ……くく」
「……(^ω^)」
 ジャミールは笑顔のまま近づく。頭にはまだ雪の破片が乗せられていた。
 秀影は慌てて両手を前に突き出した。
「あ、いや、もちろんわざとじゃねぇぞ?わざとなら雪の中に石を入れてだな……いやそうじゃねぇ、そうじゃねんだ」
「……(^ω^)」
 相変わらずの笑みを浮かべながらジャミール。彼は秀影の前に立ちはだかる。それは見ず知らずの者からすれば、人を惑わすような甘い笑み。
 だが、秀影にとってそれは悪魔の微笑みであった。
 目前数センチの距離まで詰め寄る。秀影はくく、と微妙な薄ら笑いを浮かべる。
 そして、ジャミールはいつになく素早い動きで秀影の背後に回り込んだ。
 ばっしーん、と。
「イッテぇ!?」
 寒空に大きな音が響き渡った。
「お前、なん……何なの!何なの!?」
 ばしーん。ばしーん。
 (^ω^)な表情で秀影の背中を叩き続けるジャミール。
 秀影はたまらず駆けだした。
「イテ、痛ぇってよライル君」
「うっさいこの飲んだくれ!いきなり雪ぶつけるとかどういう料簡だ!」
 赤くなった表情で追い回すジャミール。だが、それは霜焼けとは若干違う。
 ははぁ、と一つ唸り声。
「なんだぁライル君」
 何かを悟ったかのように秀影は笑みを浮かべた。
「変な悲鳴あげてぇ、恥ずかしかったのかい?」
「ちょ、そんなわけ……」
 ジャミールは言い淀む。実はその通り――などとは死んでも言えない。
 言いたくない。むしろ言ってたまるかこんちくしょう。
 だから彼は、
「ないだろうが!」
 その辺に積もっていた雪を掴んだ。投げる。投げる。投げる。
 やたらめったら投げられる雪玉。秀影はおぃおぃ、と背を向けた。
 マシンガンのように背中を撃つ雪玉。彼は逃げながらもくく、と笑みを零す。
「図星突かれたからってなぁ、そう怒ることないだろライル君?」
「な、図星じゃないし!」
「くくく……」
 2人は雪道駆ける。降りしきる雪で体中が濡れるのもお構いなし。
 彼らによる鬼ごっこは続いた。
 やがて秀影は振り返る。その背には除雪され道路の脇に置かれた雪の塊があった。
 両手で雪を掴むと、
「くくく、そっちがその気なら俺ぁ負けねぇぜ?そぅりゃ!」
 ジャミールに向かって投げつけた。ヒット。氷の結晶が彼の端正な鼻っ面を叩く。
「うわ冷たっ!」
「くくく、甘ぇなぁライぶぬほぉっ!」
 今度は秀影の顔面に雪玉が当たる。ジャミールは大声で笑いたてた。
「なんだぁ庵治っちゃん?今なんて言ったー?はっきり言ってくれないと、俺わかんないなー」
「ちぃっ、やるじゃねぇかっ……こうなりゃ本格的な雪合戦だ!喰らえ!」
「ぶは、こんの!」
 2人の間を無数の雪玉が行き交う。それはまるで子供同士の戯れのようでもあった。
 周囲では足を止め、彼らの戦いを見物する者まで現れる始末である。
 秀影は飛んでくる雪玉をガードしながら道路を走りぬけた。
「はは、まるでガキの頃に戻った感じだなぁ。ほれ、体動かしてねぇと風邪ひくぜぇ!」
「雪合戦ってなんだよこの……!」
 同じように道路の脇に積まれた雪を掴むジャミール。それも両手で抱え込むほどに。
 ジプシーとしての素早い身のこなしを利用し、彼は秀影の背後まで回り込んだ。
「おぅ!?」
 秀影の服を襟元から引っ張り上げる。そして手に持った雪の塊を彼の服の中へ突っ込んだ。
「よくわかんねぇけどくらえー!」
「つぁっ、冷てぇ!背中に雪を入れるのは卑怯だぜぇ」
「そんなの知るか。もっと入れてやるぜ!」
「ならこっちも……そぅれ!」
「うひゃぁ!」
 今度は秀影が背後に取る形となる。そしてジャミールの背筋に雪をこじ入れた。
 秀影は朗らかに笑った。
「うひゃぁ、だとよぅハハハ!ライル君もかわいいところがあるじゃねぇか」
「この……、うぅ!ぶるぶる……もー……やだ、寒い……死ぬ……」
 ジャミールは体を震わせる。気付けば体中が赤くなっていた。
 今度は恥ずかしさからではない。完全に霜焼けの赤みである。唇までが若干青白い。
「かははっ、雪まみれだなぁ、ライル君。この程度で参ってるようじゃまだまだ――はっくし!」
 今度は秀影まで体を震わせ始めた。
「はっくし!うう、さみぃ。そういえば俺も雪まみれじゃねぇか」
 服の中から雪をかき出す2人。さすがに寒いを通り越し、むしろ熱いとさえ感じるほどだ。
「さすがにやりすぎたか……」
 雪山での死者は裸の状態で見つかることが多いらしい。それは、極限まで体が寒くなると人は逆に熱いと錯覚してしまうからである。
 このままだと風邪をひくどころの話ではない。秀影は「あぁ、すまねぇなぁライル君」ととりあえず雪合戦を中断。
 笑みを浮かべつつジャミールと肩を組んだ。
「悪気は無かったんだが……くくくっ、しかしまぁ、大人げねぇったらありゃしねぇな」
「お、大人げないのはてめぇだろ庵治っちゃん。こうなりゃ当然、暖かいものでも奢ってもらうに決まってるわ」
「くくっ、悪い悪い。そうだな、俺ぁ奢るぜ」
 そう言って秀影はジャミールと肩を組んだままバーの前まで連れてゆく。
 バーの入口には手すりが掛けられている。その上には盆が置かれ、徳利とお猪口が並んで起立していた。
 秀影が中から持ち出した熱燗だ。
「これで一杯、雪見酒と洒落込もうじゃねぇか」
「なぁ」
 ジャミールは徳利を握りしめた。
「これ、冷めてんじゃないの」
「……」
 秀影は黙った。たしかに徳利からは湯気のひとつも上がっていない。
「……なんか言ったらどうよ?」
 じとり。ジャミールは秀影を見つめ続けた。
 そして彼は口を開く。
「奢るぜ?それ」
「……(^ω^)」
 ばしーん、ばしーん。
「イッテェ!?わ、わかった!わかったからその顔で背中を叩くなっての……イタ、イタタ!」
 秀影はしばかれながらもバーの扉を開けた。
「ゆ、雪見酒はもういいだろう、店ん中から月見酒ってぇなぁどうだい?もちろん暖かい酒でな」
「最初からそうしときなさいよ」
 鈴の音が2人を誘う。奥からマスターのいらっしゃい、という声が届いた。
「ただいま親父。悪いがこれ、もう温めなおしてくれや」
「あー、さむ。マスター、とりあえずあれと、これとそれと……」
「おいおい、人の金だからって頼みすぎじゃぁないか?」
「人の金だからこそ遠慮くなく頼むんじゃない。それより、次の宴会いつするー?」
「宴会か……くくく、ライル君は本当に宴会が好きだなぁ」
「とーぜん。この時期は好きなだけ飲んで、好きなだけ食って、好きなだけ遊ぶ。はー、おにーさん幸せだなぁ」
「言ってろ」
 ことり。2人の前に熱燗が並ぶ。それぞれの盃を取り合うと目の高さまで掲げあげた。
「とりあえず今は、これでも飲んで体温めようぜ。何に乾杯するよライル君?」
「そうだな……まぁ、今年も無事に過ぎていった一年にでも」
「あいよ」
 乾杯。
 かちり、という小さな音が彼らを包み込んだ。
 そして彼らは願う。また来年もこんな風に笑いあえる日々が続くように、と――。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ic0451 / ジャミール・ライル / 男 / 外見年齢24 / ジプシー】
【ic0738 / 庵治 秀影    / 男 / 外見年齢27 /  サムライ】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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始めまして。ユウガタノクマです。クマーです。
発注ありがとうございます。雪の中で雪合戦してお酒飲んで……いいですよねぇ。
楽しげなお2人のおかげで、いい感じに話が膨らませることができました。
出だしがそれぞれ個別となっておりますのでどうぞご覧ください。

世界観はふわっとということでしたが、
エリュシオンの世界観にだいぶ近くなっちゃってますが大丈夫でしょうか?
その他口調や性格など間違いなどがございましたら修正致しますので、ご遠慮なくリテイクしてください。
winF☆思い出と共にノベル -
ユウガタノクマ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年12月30日

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