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『Ein Prosit Neujahr! 』
鴉女 絢jb2708


年末年始には、街を歩く人が多くなるような気がする。
クリスマスの売れ残りケーキが格安で市場に流れ出ては、甘党の人の心と舌を潤したり。
また買い物好きの人は年明けの福袋商戦に全力で乗っかってみたりだとか。
大晦日に除夜の鐘を鳴らしに行ったり、年越しデートしてみたり。
正月には友達や家族を連れ立って初詣や挨拶回りに出かけてみたり。
そんな人が街の中、往来を動かしているような気がする。
――だけど、それはあくまで気のせいで、家に篭り冬眠の準備をする者もまた、多いのだ。
人間だって、もとを正せば動物である。
それはさておいて。
女子会というものを知る人は多いと思う。それは女子の楽園。男子禁制の閉鎖空間。固有結界である。
仲の良い女友達を集めて、時にはスイーツ、時にはお酒、時には……と、何かを肴に女子同士きゃっきゃうふふとするのである。
年末年始の嵯峨野家宅でも、それは行われようとしていた。

和風な一軒家の前に立つ少女の名は鴉女絢という。
インターホンを押して、数秒間をおき友人の出迎えを待つこの少女。
年越し女子会するよーと誘われて、Yシャツにスカートと彼女なりに気を許した友人向けのコーデで臨んでいる。
はーいと友達の片割れ、ポラりんことポラリスの声を聞いてがらりと戸を開ける……のだが、絢はその中の様相に目を点にする。
「誰!?」
「誰ってどうみてもポラりんでしょー?!今だけあかりちゃんって呼んでもいいよ」
「あかりちゃんって何ー!?」
「本名に決まってんじゃーん」
ゆるい。非常にゆるい。微妙に散らかった和風の部屋の中、コタツを中心として世界が創られている。唯一神コタツの使徒の一人、ポラリスを例に挙げれば眼鏡にすっぴん、ここはまだまあ。といった範囲である。極めつけは赤ジャージ。
常にお洒落に気を遣っているポラリスがここまでだらーんとしているのは、なかなかに珍しいことだった。
いやまて、これはと絢は一寸考えを巡らせ始める。
そう、これは女子会ではない……これは……
女死会!!

「何で二人ともそんなにゆるいの?」
と、口にした絢の疑問はその場の雰囲気に気圧されて流れていく。
絢が入る前から楓が始めていた生放送もゆるい雰囲気のまま、ホモ絵と一緒に流れていく
むううとぱかぱかゲーム機を開きどう○つの森をやり始めた絢。
「ねえ受けは黒髪優等生系にしてよー」
その横で生放送ゲストということになってるポラリスが、下書き段階のホモ絵に口頭でコメントをつけている。
「ショタでもいいよ」
受けをどうするかというのはなかなかに難しい。人の好みというのはそれぞれであり、
「ショタは攻めだろJKー」
時に楓とポラリスのように、価値観の違いが生まれることもある。
過激派腐女子の間では論争が生まれては消えていっているが、彼女らの間では軽く済まされるような、そんな話。
そんな風にしてゆるゆるとだらだらと大晦日を過ごしていればもう夕飯時である。
正直な腹の虫がぐうぐうなり始めたのを見計らい、楓は一つ命を下す
「うい、絢ちゃんご飯任せた!」
ちょうど、カブトムシ取りへの挑戦を諦めた絢は、少しびっくりしたように楓を見た。
ええっと前置詞付きである。
「料理私任せ?」
「私達炬燵から出たら死ぬ呪い掛かってるから……」
「手伝ってくれな……あっ」
抗議の言葉を口に仕掛けたところで、絢は一つとある事実を思い出した
そういえば楓は料理がボロボロじゃないか!
これは手伝ったところであまり芳しくない結果になる、ということが絢の頭の中で組み立てられていく。
同時に冷静になった絢の口からはごめん、やっぱりという言葉を尖兵として、宥める意が放たれる。
「……楓ちゃんは動かなくていいよ。手際がいいだけの子はコタツで大人しくしててね」
「うぃーす」
さてと、と台所で気合を入れる絢の裏、こっそりと二人の間では絢ちゃんに悪戯しようプロジェクトが企画されていた。
楓は絢がつけっぱなしにして置いていたゲーム機の時間を微妙にずらしておく。
あまりズレが大きすぎるとすぐバレるし、ひどくても30分ぐらいでどう?とアイコンタクトからの提案。
よしそうしよ、と無言のまま楓の悪戯は完了した。

そして二号機、ポラリスの発進。
なににしようかな、やっぱり寒いし鍋がいいよね、野菜たっぷりで……と包丁を握る前の絢の後ろにそそくさと忍び寄る。
その気配にサッと慣れた動きで振り向き、絢は迫り来る使徒に裏返った声を上げた。
「ぽらりすちゃん!?」
ちょうどポラリスの手は絢のスカートに伸びており、これからスカートめくりいきますといった感じ。
「しかし甘い!今日はスパッツ穿いてるから!」
と、安心しきってむふーっとドヤ顔をしている絢にとっては残念な知らせだが、捲り上げられたスカートの下にはスパッツなどなく、ただパンツと生足が広がるのみである。
スパッツ履いてないじゃん……やっぱ絢ちん馬鹿だわ……といった呆れ混じりの心の声は静かに、台所に滲みていった。

あの悪戯以降静かな二人はいつのまにか別のことをやり始めている。
生放送はぐだぐだながらも終了したのか、楓が叩いているのはパソコンのキーではなくコントローラーのボタン。
そんな調子で鍋が運ばれ、それぞれに取り分けられていく。
鍋はあれから楓の介入もなく無事完成したようで、なかなか美味しそうな仕上がり。
「人参はカロテンが多いのよー」
「ポラリスちゃん、ほら人参食べなよ可愛くなるよ」
楓、実は人参があまり好きではない。
丁度いいところにポラリスの言葉があったので、それに便乗して食べてもらうことにしたのだ。
ポラリスはにんじんを分けてもらってもなお変わらずもくもくと食べ続けている。
脅威たる人参もなくなって安心しながら箸を進めるもつかの間、今度は葱にあたる楓。
楓、実は葱が嫌いだ。好きではないという言葉で収まるほど心中穏やかではない。
ポラリスには先ほど人参をあげたばかりで、あまり押し付けるのもどうだろうと思ったところで、絢に白羽の矢が立った。
「絢ちゃんネギあげるよ」
楓はついでにと数本箸でつまみ絢に差し出す。
しかし絢はポラリスほどすんなりいく相手でもなく、少し心を鬼にしながら楓に向かっていく。
「好き嫌いするから小さいままなんだよ!」
小さいまま、というのはそのままの意味である。
どこが小さいままなのかというと……
「アーハン?」
「どこがとは言ってないじゃんー……」
いや、これを記すべきではない。楓の放つオーラは確実にヤバイものになりかけていた。
第一部完にはまだ早い。
結局絢の取り皿には葱が乗せられて、もう…と思いながら絢は葱を口に放り込む。
そのまま人参が来たらポラリスへ、葱がきたら絢へと楓流通が発達しながら、鍋の中身はだんだんと空になっていく。
締めはどーする?なんてこともなしに、それぞれ思うがままの食べ方で終えた。
そのあとはそれぞれだらだらとゲームの音やスマホを弄繰り回す音が鳴り響いて、大晦日の夜もだんだんと更けていく。
年越し蕎麦?そんなのないでーすと言わんばかりにゲームに没頭しつつある三人。
交わる時は対戦、協力要素が出たあたりだろうか。

そんな中、絢が突然カウントダウンを始める。10!9!……と数字が減っていき、それにつれて声も大きくなっていく。
そして、読み上げられる数字が0になった時にハイテンションなままで、
「おめでとー!!」
…と、絢がぴょんぴょん跳ねるのはいいのだが、その様子を見ていた楓が真顔で一言。
「絢ちゃんカウントダウン早いよフライングだよ」
えっと慌てて絢が時計を確認すれば、今はまだその30分前。
「本当だ……まだ30分前……」
しょんぼりした絢の心は知らず、ポラリスは爆笑しだして止まらない。
一度転がり落ちたボールが止まり辛いようなもので、やめてよーと言ってもまだ笑い続けている。
「べ、別に泣いてないもん」
たしかに絢の目に涙はないが、心が泣いているのはその場の全員がなんとなくわかってしまった。
フライングカウントダウンというイベントの後もなにかあるわけでもなく、それぞれゲームだとか、自分のことに没頭したままでいると。
とうとうテレビの司会が新年の挨拶を述べるまでになっていた。
「マジ?」
誰が言ったかは知らないが、その場の全員が似たようなことを思っていた。
えーっと、と女子会計画者の楓が言い出して、
「なんか、いつのまにか越してたね……」
「あーうん……」
うとうとしながらのポラリスは生返事のまま。
「いいもん……年越しなんて知らない……」
そして、先ほどのフライングカウントダウンで沈んだままの絢は不貞寝の準備に入っていた。
なんだか年を越したという実感がないが、そうだなあと今度はまた別の誰かが提案し出す。
「早起きして初詣行く?」
ぐだっとした雰囲気の中でも外向きなその発言。とはいえその言葉の答えといえばもちろん、
「行かなーい」
である。提案者もそれを見越していたようで、
「だよねー」
とゆるい返しをして、コタツに潜り込んだ。
とまあ、終始そんなゆるーいままに突き進んだ年越し女死会も、そろそろ終わりを告げて。
新年あけましておめでとうございます、を言うには、少し時間を置きそうだ。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8257/嵯峨野 楓/女/19/ダアト】
【ja8467/ポラリス/女/18/インフィルトレイター】
【jb2708/鴉女 絢/女/17/ナイトウォーカー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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皆様あけましておめでとうございます。
はじめまして、とありがとうございました。黒木茨です。
じょしりょくのあふれる女子会、書かせていただきました。
アドリブOKのお言葉に甘えて所々セリフの順番を入れ替えたりしてしまいましたが、ご希望に添えるものであったなら幸いです。
winF☆思い出と共にノベル -
黒木茨 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年01月03日

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